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宿泊・温泉施設のM&A・事業承継の動向と事例

旅行、宿泊施設業界では、コロナ禍による経営不振などの影響で、ビジネスモデルの再構築などを目的としたM&Aが活発です。M&Aにより、譲渡企業は「価格競争力の強化」、譲り受け企業は「人材確保」などのメリットを期待できます。

旅行、宿泊施設業界の現況

定義

旅行業界とは、旅行者と観光業者の間に入り、双方の代理業務や旅行案内などを行い、手数料などをもらって収入としている業界です。
一方、宿泊施設業界とは、ホテルや旅館、簡易宿所などの宿泊施設を設け、宿泊料を収入としている業界です。

旅行業は、旅行業法によって定められており、官公庁長官又は都道府県知事による旅行業と旅行業者代理業の登録[1]しなければ事業ができません。
さらに、旅行業又は旅行業者代理業を行うものは業務範囲の違いにより、5種類に区分されています。

旅行業者の仕事内容は、市場のマーケティング、地方自治体と連携しながら商品の企画、旅行者や企業へツアー紹介を行うなど多岐に渡ります。

今回取り扱う旅行、宿泊施設業界には、以下の業種が含まれます。

業種

詳細

宿泊・温泉施設

ホテル・旅館、簡易宿泊施設・民泊、温泉施設

旅行・レジャー

旅行代理業、観光バス、その他旅行業・宿泊施設

上記の業種を含む旅行、宿泊施設業界について、市場規模・動向・課題、M&Aの動向やメリット・デメリットを紹介します。
合わせてM&Aの事例も紹介します。

市場規模・環境

観光庁が発表している宿泊旅行統計調査[2]によると、2022年7月の宿泊者数は3,982万人となっており、前年同月比では+31.9% と大幅増となっているものの、新型コロナウィルスが流行する前の2019年の同月比では-23.1%と依然として大幅な減少となっています。

日本人の宿泊者は2019年同月比-4.5%と小幅減だったものの、外国人の宿泊者が2019年同月比-93.6%と大幅減となっており、その影響で全体も減少しています。

出典:宿泊旅行統計調査(観光庁)を基に弊社作成

また、宿泊施設の重要な指標である客室稼働率は2022年8月時点において、50.1%と厳しい状況となっています。

出典:宿泊旅行統計調査(観光庁)を基に弊社作成

今後の市場は新型コロナウィルスの状況と外国人の受け入れ状況が旅行、宿泊施設業界において重要な影響を与えると考えられます。

業界の課題・展望

旅行、宿泊施設業界の課題は、上述してきた新型コロナウィルスの影響がどこまで続き、その対応がいつまで必要になるかという点です。
新型コロナウィルスの影響で訪日外国人が減少し、また、提供されるサービスも変わりました。

店舗での予約ではなく、ウェブでの予約や、オンラインツアーやオンライン体験などの新たなサービスも始まっています。
新型コロナウイルス収束後もこれらのサービスには一定のニーズがあると考えられており、事業としての確立も図られています。
こういった新たな変化に対応していく必要があります。

旅行、宿泊施設業界においては、以下のような課題を抱えています。

  • パイの減少による競争激化
  • オンライン需要とオフライン需要の差別化
  • 提供するサービスの変化による人手不足
  • 時代に合った人材育成
  • 旅行に対するニーズの多様化への対応
  • 国内旅行者の限界、外国人旅行客への対応

新型コロナウィルスの影響で提供されるサービスが変化しましたが、働き方などライフスタイルにも変化が生じ、余暇に対する考え方も変わりました。

また、日本は少子高齢化で需要が頭打ちの中で外国人旅行客を呼び込むことも必要になってきています。
新型コロナウィルスの影響で訪日外国人が減少していますが、今後新型コロナウィルスの収束により回復していくと考えられるため、これらの対応も必要になってきます。

旅行、宿泊施設業界のM&A動向

M&Aの件数・規模

マールオンラインによると、2000年から2017年における「旅行業界のM&A件数と金額の推移」[3]は、以下のとおり推移しています。

出典:MARRオンライン(レコフデータ)を基に弊社作成

金額が小さく、規模が大きい案件が少ないことが旅行業界における特徴となっています。
規模が大きいものは少ないものの、2012年以降は件数が増加傾向となっています。
そして、国内需要が頭打ちということから国内企業が海外企業を買収するというIN-OUTが増加傾向であるということも特徴となっています。

コロナ禍における旅行者数の減少により、経営環境が厳しくなり、事業を継続することが難しくなる中小企業などが出てくる可能性も高く、また、多様な課題解決のため、M&Aの件数は増加傾向が継続すると見られています。

M&Aが行われている背景

旅行、宿泊施設業界では、以下の背景からM&Aが活用されています。

  • コロナ禍における経営環境の悪化による企業の倒産や廃業の増加
  • 中小企業を含めた市場シェア統合のための業界内再編
  • 国内授業の頭打ちの中での海外企業の買収
  • 新たなサービス提供のための人手不足の解消

M&Aの成功可能性を高めるポイント

M&Aを成功させる可能性を高めるポイントは以下となります。

譲渡企業が重視すべき要素

  • 企業価値の向上のために常連客の獲得など施策を進める
  • 設備投資は適切に行い、老朽化に対して適切に対応する
  • 経営資源やこれまでの実績などを明確にする
  • 譲歩できる条件とできない条件を明確にして交渉に臨む

譲り受け企業が重視すべき要素

  • 立地など顧客の獲得状況を検討する
  • 周辺の旅行代理店などの状況を検討する
  • 設備投資など適切に行われているか確かめる
  • 専門家を利用してデューデリジェンスを実施し、その結果を買収価格・契約条件に反映する
  • 買収によるシナジー効果と実行可能性について事前に検討する
  • 譲渡企業から引き継ぐ従業員や取引先を尊重する
  • M&A後のPMI(統合作業)を事前に準備する

旅行、宿泊施設業界でM&Aを行うメリット・デメリット

メリット

譲渡企業

  • 従業員の雇用及び取引先との関係の維持
  • 販路拡大による販売力強化
  • 宣伝力や価格競争力など企業の競争力強化
  • 後継者問題の解決
  • 不採算部門の売却及び主要事業への経営資源の集中

譲り受け企業

  • 取引先や顧客基盤、ノウハウなどの獲得
  • 人材の確保
  • システム、施設などの獲得
  • 規模の経済の実現
  • 譲渡企業との連携によるシナジー効果の獲得

デメリット

譲渡企業

  • 従業員や取引先からの反発から、離職や取引の解消などの可能性
  • 適切な譲り受け先が見つからない可能性
  • 株主や経営者の立場を失う

譲り受け企業

  • 当初想定していない損失を被る可能性
  • 簿外債務や偶発債務、訴訟などを引き継ぐ可能性

旅行、宿泊施設業界のM&A事例・インタビュー

主な有名事例

M&Aが行われた時期

譲渡企業・譲り受け企業の概要

M&Aの目的・背景

M&Aの手法・成約

2022年8月

譲渡企業:ハウステンボス

譲り受け企業:PAG HTB Holdings

譲渡企業:更なる成長と競争力強化のため

譲り受け企業:テーマパーク事業の拡大、レジャー市場の回復見込み、集客力向上のため

手法:株式譲渡

結果:九州電力、西部ガスホールディングス、九電工、九州旅客鉄道、西日本旅客鉄道から自己株式として取得後、エイチ・アイ・エスからPAG HTB Holdingsへ譲渡

取得価額:66,660百万円[4]

2021年8月

譲渡企業:ロイヤルパークホテル

譲り受け企業:三菱地所

譲り受け企業:新型コロナウィルスの感染拡大や異業種からの参入など競争環境の激化により、必要な構造改革を実施するため

手法:株式交換

結果:三菱地所を完全親会社、ロイヤルパークホテルを完全子会社とする株式交換を実施

交換比率:1:0.025[5]

2019年12月

譲渡企業:西日本日中旅行社

譲り受け企業:第一交通産業

譲り受け企業:旅行業に参入することでインバウンドの取り込み、及び、中国子会社と連携による相乗効果

手法:株式譲渡

結果:第一交通産業が99.8%取得することで子会社化

取得価額:非公表[6]

[1] 政策について(観光庁)
[2] 宿泊旅行統計調査(観光庁)
[3] 第157回 旅行業界 事業再編・M&A件数が増加(MARR Online)
[4] 当社連結子会社の株式譲渡に関する契約締結(エイチ・アイ・エス)
[5] 三菱地所によるロイヤルパークホテルの完全子会社化に係る株式交換契約の締結に関するお知らせ(三菱地所)
[6] 株式会社西日本日中旅行社の株式取得について(第一交通産業)

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