食品加工・製造・販売・卸のM&A・事業承継の動向と事例
食品加工・製造・販売・卸売業では、国内消費量が頭打ちになる中、円安により輸入価格などが高騰しています。また、高齢化や新型コロナウイルスの影響を受け、宅配サービスなど新たな市場が成長しています。これらの課題解決に向けたM&Aが活発です。
食品加工・製造・販売・卸売業の現況
定義
食品加工・製造・販売・卸売業とは食料品を取り扱う業界です。
食料品は、素材供給産業として農畜産物や水産物、また、加工された食料品などを含めて指されます。
上述の通り、産業範囲が極めて広く、また、季節性が強いことが多く、嗜好の変化などにより変化や競争が激しい業界です。
今回取り扱う食品加工・製造・販売・卸売業には、主に以下が含まれます。
業種 | 詳細 |
---|---|
食品加工・製造 | 畜産加工・製造、水産加工・製造、農産加工・製造、調味料製造、菓子・パン製造販売、製粉、その他食料品製造 |
食品卸売 | 米殻卸売、野菜・果実卸売、食肉卸売、魚介卸売、その他食料品卸売 |
市場規模・環境
食品加工・製造・販売・卸売業は大きく分けて、製造に関する国内加工食品市場と卸売業に分けられます。
2021年度の加工食品の市場規模は、矢野経済研究所のプレスリリース[1]によるとメーカー出荷金額ベースで29兆7,860億円(前年度比99.6%)です。
2020年以降新型コロナウィルスの影響を受け、営業時間短縮や休業、移動制限などにより外食産業向けの製品が不調となったことが要因です。
また、2017年度から2021年度における国内加工食品の市場規模は以下の通り推移しています。
一方で、経済産業省の業種別商業販売額及び前年比[2]によれば2021年食品・飲料卸売業の売上高は53兆4,330億円(前年比1.0%増)です。
新型コロナウィルスの影響で飲食店など外食向けが苦戦しているものの、食品スーパーなど自宅での食事向けの販売が増加し、前年比増となっています。
参考:業種別商業販売額及び前年比(経済産業省)を基に弊社作成
業界の課題・展望
食品加工・製造・販売・卸売業の課題は、高齢化や新型コロナウィルスなどの影響により中食など新たなサービスへ変化が起こっている点です。
また、現在は円安などの影響により原材料価格の高騰、食の安全性に対する関心の高まりなど市場の変化がさまざまな点で生じています。
これらの市場の変化に対応していく必要があるという課題が生じています。
食品加工・製造・販売・卸売業については、具体的に以下の課題を抱えています。
- 弁当や惣菜等のテイクアウト、デリバリーなど中食市場の成長
- 円安などによる原材料の高騰
- 最低賃金の上昇などによる人件費の高騰
- 食の安全性に対する関心の高まり、衛生管理の徹底
- 少子高齢化による国内消費量の頭打ち
- 季節性があり、需要供給のバランスへの対処
市場は少子高齢化により、人口減少により国内消費量は頭打ちとなる中で、市場の変化が激しく、需要に対する対応が必要となっています。
今後も市場は大きく変化する可能性が高く、それらの変化に応じた需要の変化に対応していく必要があります。
食品加工・製造・販売・卸売業のM&A動向
M&Aの件数・規模
2013年〜2017年における「食品・農林水産業界のM&A件数」は、以下のとおり推移しています。
参考:第166回 食品・農林水産業界(マールオンライン)を基に弊社作成
※上記データは本記事の対象外となる農林水産業も含んでいる点に注意
以上より、調査対象の一部に含まれる食品製造業のM&A件数は、前述した課題解決に向けて2014年以降より増加傾向であると推測できます。
また、国内消費量が頭打ちになっている状況から、積極的にクロスボーダー案件にも取り組まれている状況です。[3]
また、2021年においては食品製造業のM&Aは過去最多の件数となり、増加傾向の継続が見て取れます。[4]
国内消費の頭打ちや新サービスなどへの対応などが必要となることで、事業を継続することが難しくなる中小企業なども出てくる可能性も高く、今後も増加傾向は継続すると見られています。
M&Aが行われている背景
食品加工・製造・販売・卸売業では、以下の背景からM&Aが活用されています。
- 中小企業を含めた市場シェア統合のための業界内再編
- 競争環境の激化により、中小規模の倒産・廃業の増加
- 国内市場の縮小を想定したクロスボーダーM&A
- 規模の拡大による競争力強化
M&Aの成功可能性を高めるポイント
M&Aを成功させる可能性を高めるポイントは以下となります。
譲渡企業が重視すべき要素
- 経営資源やこれまでの実績などを明確にする
- 譲歩できる条件とできない条件を明確にして交渉に臨む
- 好業績や市場が好調のタイミングで売却する
- 企業価値の向上のための施策を進める
譲り受け企業が重視すべき要素
- 専門家を利用してデューデリジェンスを実施し、その結果を買収価格・契約条件に反映する
- 買収によるシナジー効果と実行可能性について事前に検討する
- 譲渡企業から引き継ぐ従業員や取引先を尊重する
- M&A後のPMI(統合作業)を事前に準備する
- 食品の安全性・衛生管理が徹底されているか確認する
食品加工・製造・販売・卸売業でM&Aを行うメリット・デメリット
メリット
譲渡企業 |
|
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譲り受け企業 |
|
デメリット
譲渡企業 |
|
---|---|
譲り受け企業 |
|
食品加工・製造・販売・卸売業のM&A事例・インタビュー
主な有名事例
M&Aが行われた時期 | 譲渡企業・譲り受け企業の概要 | M&Aの目的・背景 | M&Aの手法・成約 |
---|---|---|---|
2022年6月 | 譲渡企業:熊本製粉 譲り受け企業:日清製粉 | 譲渡企業:持続的な成長と企業価値の向上 譲り受け企業:コスト競争力・市場適応力・事業競争力の強化 | 手法:株式譲渡 結果:永坂産業から発行済株式の85%を取得することで子会社化 取得価額:非開示[5] |
2021年10月 | 譲渡企業:五洋食品産業 譲り受け企業:三井物産 | 譲渡企業:事業拡大に向けて設備投資の拡大 譲り受け企業:生産及び販売の拡大、海外への積極展開 | 手法:TOB[6] 結果:TOBの結果、予定通りに応募され、買付が実施され子会社化 取得価額:1,323百万円[7] |
2020年7月 | 譲渡企業:サンエイ糖化 譲り受け企業:昭和産業 | 譲渡企業:事業間シナジーと成長・発展に寄与するため 譲り受け企業:安定供給体制強化と生産性向上 | 手法:株式譲渡 結果:昭和産業がサンエイ糖化の全株式を取得し、完全子会社化 取得価額:150億円[8] |
[1] 国内加工食品市場に関する調査を実施(2022年)(矢野経済研究所)
[2] 業種別商業販売額及び前年比(経済産業省)
[3] 第166回 食品・農林水産業界(マールオンライン)
[4]【案件特集】食品製造業界のおすすめの譲渡案件をご紹介(マールマッチング)
[5] 日清製粉による熊本製粉の株式取得に関するお知らせ(日清製粉)
[6] 五洋食品産業株券に対する公開買付けの開始に関するお知らせ(三井物産)
[7] 五洋食品産業株券に対する公開買付けの結果に関するお知らせ(三井物産)
[8] サンエイ糖化の株式取得に関するお知らせ(昭和産業)
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