- IT
- ホテル・旅館
- 写真
- 茨城県
- 静岡県
- 東京都
新型コロナウィルス感染症の拡大は、経済やビジネスモデルに大きな影響を与えています。環境が激変するなか、一時はメイン事業の売上高が8割減となったものの、M&Aを通じた成長戦略を打ち出し、その結果、売り上げをコロナ禍前に戻し、利益率を向上させた企業があります。コロナ禍に、何を考え、何を実践したのか、株式会社小野写真館 代表取締役 小野哲人様にお話を聞きました。小野写真館は、1年以内に異業種・異業態の密にならない事業やオンライン事業など3事業をM&Aで譲り受けました。(2022年2月公開)
家業を継いで15年、コロナ禍がもたらした大きな変革期
ー小野様の略歴や御社の事業概要を教えてください。
簡単な自己紹介ですが、元々金融業界にいて家業を継ぐ気が全くなかったのですが、結果として15年前に家業を継いで今に至ります。会社概要は、ブライダル事業、成人振袖事業、フォトスタジオ事業、この一年間でM&Aで譲り受けた旅館とフォトブックアプリの運営を、茨城県、千葉県、東京都、静岡県、神奈川県で行っている会社です。コロナ禍前までは右肩上がりで順調に売り上げも推移してきました。
ーコロナ禍に、御社の事業にはどのような影響がありましたか?
コロナ禍は、弊社にかなり大きな問題を引き起こしました。2020年の4~5月は緊急事態で、全店舗を閉めていたこともあり、月間売上高は昨対比80%減でした。さらに、弊社のメインビジネスであった結婚式や成人式、卒業式が軒並み中止になり、大変な状況に陥りました。あわせて、多くの問題が表面化しました。それは以下の通りです。これらの点は、コロナ禍前は問題ではありませんでしたが、コロナの蔓延に伴い急速に表面化した経営課題です。
私は、2005年に家業を引き継ぎ、2019年までに、店舗展開や新規事業によって順調に事業をスケールしてきました。しかしながら、コロナで今までの社会のルールが全て変わってしまい、会社をゼロから作り直すという決断をしました。具体的には、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)という考えを基本にしています。戦略として、M&Aや出資を通して早急にオンラインビジネスを立ち上げ、弊社自身をテック企業に変化させていくという決断です。まずは事業ポートフォリオの見直し、既存事業の写真回帰、ビジョンの再策定に取りかかりました。
新たなビジョンは「感動体験を創出する企業」です。ビジョンを体現する企業へ生まれ変わるということです。また、それに伴い、既存事業の写真回帰ということで、祖業である「写真」中心の事業モデルに切り替えていっています。
コロナ禍での攻めのM&A、背景と成長する事業
◆2020年10月 桐のかほり 咲楽(さくら)
成功事例詳細:https://ma-succeed.jp/content/agreement/post-2323
事業概要:静岡県伊豆半島河津町にある4部屋しかない全室オーシャンビュー、露天風呂併設の高級旅館
―「咲楽」様との出会いについて教えてください。
そもそも旅館を探していたわけではなかったのですが、M&Aサクシードから案件が流れてきた時に、ふと目が止まりました(2020年5月)。キャッチには「伊豆にある4部屋しかない露天風呂付きの高級旅館」とありました。この規模の旅館であれば、ウィズコロナでも家族や親族だけでの旅館貸し切りの結婚式などができて、今困っている経営課題を解決できるのではとひらめきました。また、伊豆半島はロケーションとして魅力的でした。伊豆の大自然のなかで撮影するフォトウエディング事業としての可能性もあるのではとさらにアイディアが進みました。それをきっかけに「咲楽」さんにアプローチしたというのが流れです。実際に足を運んでみて(同年6月)、旅館の造りもオーナーご夫妻の人柄も素晴らしいと感じました。即断即決で、オファーすることを決めました。そして同年10月に譲り受け、従業員の方はみなさん、引き続き働いていただいています。
―「咲楽」様の現状はいかがですか?
私たちは、この事業を通じて、単なる旅館の運営だけではなく、「祝い」のアップデートを成し遂げたいという思いがあります。旅館では宿泊をして美味しい料理を食べるという基本的な価値があります。それに加え、4部屋しかない小宿だからこそ叶う旅館を貸し切った結婚式や還暦などのプロデュースをしていきたいと考えました。さらに、それを体験だけに終わらせず、写真に残すという提案をしています。
そして、伊豆半島の景色の美しさを生かして、ウエディングロケーションフォト事業も始めることができました(2021年1月)。このビジネスは、コロナ禍だからこそできたビジネスで、約90%超が首都圏のお客様です。ほぼZoomの接客で20万円〜25万円の成約をいただけるような状況になりました。コロナ禍前までは、一旦お客様は店舗に来店していただき、説明を受けて、衣装を試着して、もう一回来ていただくという流れでした。その接客が全てZoomに置き換わったことで、このような田舎でもビジネスが通用するという事例ができました。そして、接客のDX化を一気に推し進めることができました。結果としてこの一年間で、フォトウエディングが93組の受注、また、河津桜のシーズンにはさらに多くのご予約をいただいています。これには私たちも驚いています。
その結果、フォトウエディングと貸し切り結婚式の2つの新事業によって、旅館業以外の売り上げをつくることができました。かたや、蔓延防止や緊急事態宣言があり、旅館業単体ではPLでいうと赤字の状態でした。旅館業にフォトウエディングと貸し切り結婚式の売り上げがプラスされたことで、黒字化できました。
また、グループ全体の売上高は、コロナ禍前の2019年9月期は16.2億円、2020年9月期は11.4億円と落ちてしまいましたが、2021年9月期には15.4億円に回復しています。
―「咲楽」様でのこれからの展望を教えてください。
全館貸し切り結婚式は、北海道や海外の方からもお問い合わせがありますし、ロケーションフォトは、ほとんどが首都圏からのお客様です。2泊3日のスローに過ごす全館貸し切り結婚式や伊豆の美しいロケーションフォトプランは、非常に可能性を秘めていると考えています。
◆2021年6月 赤ちゃん向けフォトブックアプリ「BABY365」、ペットのフォトブックアプリ「UCHINOKO Diary」
成功事例詳細:https://ma-succeed.jp/content/agreement/post-4361
事業概要:パパママのスマートフォンで365日写真を撮り、365日後にアプリ上で送信すると、アナログのアルバムがご自宅に届くというサービス。ペット版の「UCHINOKO Diary」も運営
―「BABY365」に出会ったきっかけや背景を教えてください。
コロナ禍前から、IT(テック)領域に参入したいという思いは持っていたのですが、いいご縁がなく踏み切れないでいました。ずっと検討していた中で、昨年(2021年2月)、M&Aサクシードで「まさしくこれしかない!」というアプリに出会えました。譲り受け候補企業が10社ほどあった中で、うちに事業譲渡していただくことができました。
ー事業譲渡されてから約半年が経過しています。その後の状況はいかがですか?
このサービスも順調に伸びています。一方で、今回私たちもアプリの運営自体が初めてのことで、弊社のメンバーでがんばりながら、外注の方にもお願いして運営を進めています。この半年でさまざまな知見が貯まり、素地が整った状態になりました。ここから、ペット(同時に譲り受けた「UCHINOKO Diary」)や結婚式などへと領域を広げたり、さらにプロダクトを成長させたいと考えています。
コロナ禍のM&Aがもたらす大きな恩恵とチャンス
ー具体的にコロナ禍のこの1年間、M&Aによってどのように売り上げや収益が改善しましたか?
今でも結婚式・披露宴はコロナ禍の影響を受けていて、事業単体としても、その分野のみ赤字でした。一方、ありがたいことに、写真撮影の分野はコロナ禍で大きく伸ばすことができました。写真事業は、キッズも成人式も、もともと貸し切り型の事業モデルで、ウィズコロナ型でした。結果として粗利が高い写真事業の売り上げのポートフォリオが上がり、粗利が低い結婚式の事業が落ちたので、グループ全体の売り上げはコロナ禍前に戻りましたが、収益性はコロナ禍前よりも上がりました。
M&Aで譲り受けた「咲楽」も「BABY365」も、まだ今期はグループ全体の売り上げの7~8%くらいですが、新規事業としての売り上げ貢献はしています。ただ、短期的な売り上げが欲しくてM&Aをしたというよりは、ゲームチェンジをすることが目的なので、既存事業と新規事業を掛け合わせてさらにスケールできる可能性があると考えています。
ー小野様の考える「M&A経営」を具体的に教えてください。
私が考えるM&Aというのは、弊社の既存事業とM&Aで譲り受けた事業を掛け合わせて、参入障壁が高いオンリーワン事業を目指すという概念です。大企業が参入できないような事業をつくることを念頭において、実行しています。それによって、売り上げだけでないメリット、事業ポートフォリオの変革、組織としての変化も生まれています。
私たちは、アプリのM&Aでテックに参入することができました。そして、人に大きく依存しない半自動化ビジネスを手に入れ、非接触型ビジネスであり、オンライン事業へのきっかけも掴むことができました。今後の戦略としても、やはりM&Aは弊社の重要な成長戦略です。
コロナでたくさんのものを失いました。しかしながら、今の社会環境の変化は経営者人生において「最初」で「最後」かつ「最大」のチャンスだと思っています。私たちとしてはリスクを取ってでも、「M&A経営」により、さらに世の中や社会から必要とされる会社を目指して進んでいきたいと考えています。
ーM&Aサクシードはどんなふうに活用しているのですか?
M&Aサクシードのいいところは、事前にM&Aで譲り受けたい希望条件を登録しておくと、毎日のようにかなりの数の案件がメールで届きます。そうすることで、自分では気づかない新しい事業の可能性に、偶然に出会わせてくれます。隙間時間の有効活用もできて、プラットフォーム上ですぐにやりとりできるので、自分にとっては好都合です。
事業を転換・成長させるためのM&A、社会の発展のために
ー現在も積極的にM&Aを検討されているとのことですが、どのような事業を探していますか?
2030年までに全事業の売上高の半数を非対面型事業に変革するという目標を掲げています。そこで、もちろん既存事業の業界も一つの候補ですが、今は会社をオンライン・オフラインのハイブリット企業にするために、エンジニアがいないと自分の頭の中で描いている世界を実現するのがむずかしいと、アプリを譲り受けてわかりました。今は、エンジニアさんがいらっしゃるアプリやシステムの開発会社を中心に探しています。
ー経営される中で、M&Aはどのような役割を果たしているかを教えてください。
何よりも世の中が激変する中で、M&Aを行うことでスピード感を持って事業転換できることが第一です。また、M&Aに対して国も税制改正や助成金を出し、国としても中小企業の合理化などを推進しています。そもそも4~5年前は、M&AサクシードのようなM&Aプラットフォームもなかったですし、非常にゲームチェンジしやすくなりました。異業種から入ることのチャンスもあります。
ー最後にこれからM&Aを検討する経営者の方へのメッセージをお願いします。
M&Aの一番いいところは、譲る企業と譲り受ける企業と社会が、全部ハッピーなことだと思います。いい事業がおきれば、新たな雇用、売り上げが発生して、社会も前進します。もちろんうまくいかないケースもありますし、リスクもありますが、これを成功させることはそれだけでも社会にとって価値があることだと思っています。私は今後もM&Aを活用していきますが、将来はどうなるかわからないですし、ハッピーになるM&Aが増えれば嬉しいです。また、そういうM&Aをしていきたいと思っています。事業の可能性を見つめる意味でもM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。