土木工事・造園のM&A・事業承継の動向と事例
土木工事・造園の分野では業界再編の動きがあり、大小様々なM&Aが行われています。M&Aにより、譲渡企業は財務安定化や後継者不在のなかでの事業承継などを実現でき、譲り受け企業は事業成長・事業ポートフォリオ拡大のスピードを速めることができます。
土木工事・造園の概要
定義
以下の業種が該当します。
- 道路・橋梁・堤防などの土木施設の完成工事を行う「土木工事業」
- 「舗装工事業」や「しゅんせつ工事業」など、特定の土木工事を専門とする事業者
- 公園・緑地などの築造工事を行う「造園工事業」
- 建設コンサルタントなどの「建築設計業」のうち、主に土木工事を扱う事業者
市場規模・環境
土木工事・造園分野の完成工事高は以下のように推移しています。
2020年に推計方法の変更(欠測値補完の追加)があり、2019年度と2018年度の間にデータの段差が生じています。
出典:建設工事施工統計調査結果表(第2表)2019年度・2020年度(e-Stat)をもとに弊社作成
造園業の完成工事高は概ね横ばいで推移してきましたが、2019年・2020年には(欠測値補完を考慮しても)大幅な増加が見られました。背景には、道路・公園などの公共工事や屋上・工場の緑化などの民間工事の増加があるようです。[1]
土木と建築を含む建設コンサルタント業の生産活動を表す指数(2015年を100とした相対値)は、年により増減があるものの概ね横ばいで推移しています。
出典:第3次産業活動指数統計表一覧 時系列データ・原指数(経済産業省)を基に弊社作成
課題・展望
土木工事は公共工事の比率が高く、国・地方自治体の財政状況などに大きく影響されます。
高齢化・人口減少の進展で中長期的に税収減、社会保障費増、公共インフラ利用者減少が見込まれることから、公共インフラの新設や維持管理・更新への投資は縮小していくものと予想されます。[2]
したがって、土木工事・設計分野では従来の事業構造のままでは経営環境が悪化していく事業者が多いことが見込まれ、業界再編が誘発されやすい情勢となっています。
造園業においては、都市や工場の緑化ニーズが今後市場を押し上げていく可能性があります。
建設業全体で就業者の高齢化が進んでおり、技能人材の引退に伴って人材不足が深刻化することが予想されます。
労働環境・働き方の改革を通した若年人材の確保が急務となっており、中長期的にはデジタル化・ロボット導入などの施策も必要になってくるでしょう。[3]
出典:最近の建設業を巡る状況(国土交通省)を基に弊社作成
中小企業においては経営者の高齢化が進み後継者難を抱えているところが少なくありません。
コロナ禍や事業承継支援サービスの拡大により後継者不在率は全体的に低下しつつあるものの、2022年における建設業の後継者不在率は63.4%で、他業種に比べて高めです。[4]
土木工事・造園のM&A動向
M&Aの件数
土木工事・造園を含む建設業全体のM&A件数(上場企業の適時開示情報をもとに集計された件数)は、年20~30件程度で推移しています。
2021年はとくに多く、50件に達しています。[5]また、2017〜2021年における件数の推移は以下のとおりです。[5][6]
出典:「建設業界」M&A取引金額が過去最高に(M&A Online)、M&Aの主役交代!? 「製造業」が「サービス業」にトップの座を譲る(M&A Online)を基に弊社作成
2021年から2022年にかけては土木工事業の大手企業による大規模M&Aが相次いで行われています(事例後述)。
M&Aが行われている背景
- 高齢化・人口減少による需要縮小を見越した業界再編・グループ再編
- 事業構造改革のための協業、選択と集中、新分野進出
- 人材の採用・活用・育成の強化
- 経営者高齢化・後継者不在のなかでの事業承継
- 2019年建設業法改正によるM&A・事業承継推進政策(経営業務管理責任者要件の緩和、M&A・事業承継に伴う建設業許可承継制度の新設)[7]
土木工事・造園でM&Aを行うメリット・デメリット
メリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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デメリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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土木工事・造園のM&Aを成功させるポイント
譲渡企業
- 人材の離職防止、モチベーション向上
- 許認可や労働法などに関するコンプライアンスの確認・強化
- M&A・事業承継の早期検討
- 相性のよい譲り受け企業の選定
譲り受け企業
- M&A成立後を視野に入れた戦略策定・譲渡企業選定・交渉・契約
- 譲渡企業が抱えるリスクの精査と対応の検討
- 建設業許可の承継手続き(事前認可届出)なども含めた、適切なスケジュールの検討
土木工事・造園のM&A事例・インタビュー
主な有名事例
M&Aが行われた時期 | 譲渡企業・譲り受け企業の概要 | M&Aの目的・背景 | M&Aの手法・成約 |
---|---|---|---|
2022年3月[8] | 譲渡企業:日本道路 譲り受け企業:清水建設 | ノウハウ・経営資源・技術力・営業網の共有、人財交流などを通した既存事業強化、新たなビジネスの創出 | 手法:TOB 結果:清水建設が既保有分と合わせて日本道路株式の50.10%を取得 取得価額:約222億円[9] |
2022年3月 | 譲渡企業:佐藤渡辺 譲り受け企業:佐藤工業 | 受注・技術・施工・購買・研究開発・環境対策における協力関係強化と、経営基盤・バリューチェーンの強化[10][11] | 手法:第三者割当増資・資本業務提携 結果:佐藤工業が佐藤渡辺の株式9.07%を取得し、両社が資本業務提携を開始 取得金額:約9億円 |
2021年11月~2022年5月 | 譲渡企業:NIPPO 譲り受け企業:ロードマップ・ホールディングス(ゴールドマン・サックス傘下の特別目的会社で、TOB成立後にNIPPO主要株主ENEOSホールディングスが子会社化) | NIPPOの非公開会社化を通した成長戦略加速、ENEOSホールディングスによる環境対応型事業・次世代エネルギー供給事業のための資金調達 | 手法:TOB[12]・株式併合[13]・株式譲渡[14] 結果:ロードマップ・ホールディングスがNIPPOの全株式を取得 取得価額:約1,700億円(TOBによる取得分)[15] |
[1] 緑化樹木の需給概況2019年度および2020年度(建設物価調査会)
[2] 建設経済レポートNO.72 1.4(建設経済研究所)
[3] 最近の建設業を巡る状況(国土交通省)
[4] 全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)(帝国データバンク)
[5] 「建設業界」M&A取引金額が過去最高に(M&A Online)
[6]M&Aの主役交代!? 「製造業」が「サービス業」にトップの座を譲る(M&A Online)
[7] 建設業法改正概要・参考資料(国土交通省)
[8] 清水建設による公開買付の結果(日本道路)
[9] 公開買付けに関する意見表明(同上)
[10] 佐藤工業との資本業務提携(佐藤渡辺)
[11] 佐藤渡辺との資本業務提携(佐藤工業)
[12] 子会社株式に対する公開買付け(ENEOS HD)
[13] 株式併合及び定款の一部変更に係る承認決議(NIPPO)
[14] NIPPOの自己株式取得(ENEOS HD)
[15] 公開買付の結果(NIPPO)
M&Aサクシードで成約した事例
土木工事・造園に関連する業界でも成約が生まれています。
- 管工事施工管理技士業
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 中部地方
- 売上高
- 1億円~2億5,000万円
- 建設・工事業
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 近畿地方
- 売上高
- 10億円~25億円
- 建設・土木業
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 東北地方
- 売上高
- 5億円~10億円
- 建築・警備業等
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 南関東地方
- 売上高
- 10億円~25億円
- 不動産業・一級建築士事務所・工務店・
- 業種
- 不動産業
- 地域
- 南関東地方
- 売上高
- 2億5,000万円~5億円
- 注文住宅等建築業
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 南関東地方
- 売上高
- 10億円~25億円
- 公共工事中心 建築工事業
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 九州地方
- 売上高
- 1億円~2億5,000万円
- 建設会社
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 九州地方
- 売上高
- 5億円~10億円
- プレハブ等建築業
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 南関東地方
- 売上高
- 2億5,000万円~5億円
- 不動産業
- 業種
- 不動産業
- 地域
- 南関東地方
- 売上高
- 10億円~25億円
- 建機リース業
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 南関東地方
- 売上高
- 1億円~2億5,000万円
- 土木建築等請負業
- 業種
- 建設、土木、工事業
- 地域
- 中部地方
- 売上高
- 10億円~25億円
土木工事・造園のM&A案件一覧
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