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総合病院・病院・クリニックのM&A・事業承継の動向と事例

当分野では経営環境悪化や医療制度改革などを背景としてM&Aが活発化しています。譲渡側には経営安定化や後継者不在問題解消、譲り受け側には医療提供体制拡充、経営効率化、人材確保などのメリットがあります。

総合病院・病院・クリニックの概要

定義

医療法人立・個人立・企業立・大学付属の総合病院、病院、医科クリニック(診療所)、歯科クリニック(診療所)が該当します。

市場規模・環境

一般病院(精神科以外)・一般診療所・歯科診療所の医業・介護事業の損益差額(営業利益に相当)は以下のように推移しています(2020年度はコロナ関連補助金を除いた損益)。
いずれも概ね横ばいで推移し、2020年度には病院および医療法人クリニックで大きな落ち込みが見られました。[1]

出典:医療経済実態調査第21回・22回・23回(e-Stat)を基に弊社作成

赤字の病院の割合が上昇傾向[2]にあり、医療法人クリニックの赤字率(2020年度)もかなり高い数値となっています。[3][4]

図:黒字・赤字病院割合の推移
出典:病院の経営状況について(福祉医療機構)を基に弊社作成

図:診療所の赤字割合(2020年度)
出典:2020年度病院・診療所の経営状況速報医療法人の経営状況(福祉医療機構)を基に弊社作成

課題・展望

当分野には以下のような課題があります。

  • 人口減少、社会保障費最適配分(切り詰め)[5]、コロナ禍などを背景とした経営環境悪化
  • 国が進める社会保障制度・医療制度改革への対応(地域レベルでの医療サービス効率化、病床機能最適化、医療経営大規模化・協働化など)[6]
  • 医師や看護師の不足、地域的な偏在[7]
  • 設備投資の負担(設備投資を積極的に進めている医療機関とほとんど行えていない医療機関に二極化している状況)[8]
  • 経営者高齢化(下図)[9]・後継者不在問題(2022年時点の後継者不在率は68%で、士業など専門サービス業に次いで高い割合)[10]

出典:令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計(e-Gov)を基に弊社作成

上記課題の解決に向けて、M&A・第三者承継の活用が求められています。
国としても、制度改革の一環として医療法人M&Aの推進政策を進めており、2016年医療法改正では合併の規制緩和と分割制度の新設が行われました。[9]

総合病院・病院・クリニックのM&A動向

M&Aの件数

医療法人の合併件数は以下のように増加傾向で推移しています。

出典:社会福祉法人及び医療法人の経営の大規模化・協働化等の推進(厚生労働省)を基に弊社作成

当分野におけるM&A全体の件数を調査した公的統計は今のところ存在しませんが、医療法人・一般中小法人・小規模事業者を対象としたM&A推進政策や、民間のM&A支援サービスの広がりにより、医療機関のM&Aも活発化していると考えられます。

ある民間M&A支援機関のデータによると、2008年から2018年の10年間で医療機関M&Aの成約件数は17倍に伸長しています。[11]

M&Aが行われている背景

以下のような目的でM&Aが行われています。

  • 次世代型地域医療サービス提供体制の構築
  • 経営者高齢化・後継者不在のなかでの事業承継
  • 経営環境悪化・経営難のなかでの廃業回避あるいは事業撤退
  • 事業の選択と集中(不採算・ノンコア事業の売却とコア事業への経営資源集中)
  • 倒産に伴う資産整理

総合病院・病院・クリニックでM&Aを行うメリット・デメリット

メリット

譲渡企業

  • 大きな医療法人グループに加わることで、経営の安定化・効率化や採用力強化などを図ることができる
  • 後継者不在でも事業承継が行え、経営者保証の解除も可能
  • 廃業を回避し雇用と医療サービスを継続することが可能
  • 選択と集中による事業構造改革を通じて中長期的な成長が図れる
  • 事業撤退・倒産時に、優良事業(買い手のつく事業)の売却を通して投資回収・ダメージ軽減を図ることが可能

譲り受け企業

  • 経営の大規模化により、経営資源の最適化とコスト削減が可能
  • グループ内において診療科目やカバーする地域を拡充し、地域医療連携体制を強化することが可能
  • 人材確保・採用力強化が可能
  • 基準病床数制度による病床規制[12]で増床が難しい地域における病床拡大

デメリット

譲渡企業

  • 人員のモチベーション低下や離職、患者の流出が起こる恐れもある
  • 経営の自由度は多かれ少なかれ制限されることになり、診療方針などの変更を余儀なくされることもある

譲り受け企業

  • 譲渡側が抱えているリスク(労務問題や簿外債務など)を引き継いでしまう恐れがある
  • 経営統合が想定通りに進まず、期待していたシナジーが実現されずに、多額のコスト・損失が生じるケースもある

総合病院・病院・クリニックのM&Aを成功させるポイント

譲渡企業

  • 人材の離職防止、モチベーション向上
  • 医療法・薬機法・労働法などに関するコンプライアンスの確認・強化
  • M&A・事業承継の早期検討

譲り受け企業

  • M&A成立後を視野に入れた戦略策定・譲渡元選定・交渉・契約
  • 譲渡元が抱えるリスクの精査と対応の検討
  • スキームごとに必要となる手続き(権利義務の移転手続き、社員総会、合併・分割認可申請など)の確認と、適切なスケジュールの検討

総合病院・病院・クリニックのM&A事例・インタビュー

主な有名事例

M&Aが行われた時期

譲渡企業・譲り受け企業の概要

M&Aの目的・背景

M&Aの手法・成約

2023年3月(行政による承認を経て承継予定)

譲渡企業:東海大学

譲り受け企業:医療法人徳洲会

少子高齢化による経営環境悪化を背景とした経営資源集約

手法:事業譲渡

結果:東海大学が医学部付属大磯病院の事業を徳洲会に譲渡[13]

2022年10月

譲渡企業:日本郵政

譲り受け企業:医療法人生和会

地域医療の発展に資すること

手法:事業譲渡

結果:日本郵政が広島逓信病院の事業を生和会に譲渡[14]

2021年10月

譲渡企業:西日本電信電話(NTT西日本)

譲り受け企業:医療法人桂名会

地域医療へのさらなる貢献

手法:事業譲渡

結果:西日本電信電話がNTT西日本東海病院の事業を桂名会に譲渡[15]

[1]医療経済実態調査第21回・22回・23回(e-Stat)
[2]病院の経営状況について(福祉医療機構)
[3]2020年度病院・診療所の経営状況速報
[4]医療法人の経営状況(福祉医療機構)
[5] 今後の社会保障改革(厚生労働省)
[6] 社会福祉法人及び医療法人の経営の大規模化・協働化等の推進(同上)
[7] 医師の需給に関する背景看護職員の需給に関する基礎資料(同上)
[8] 医療機関等の設備投資に関する調査の概要(同上)
[9] 令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計(e-Gov)
[10] 全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)(帝国データバンク)
[11] 医業承継の現状と課題(日医総研)
[12] 病床規制(非営利用語辞典)
[13] 東海大学医学部付属「大磯病院」事業継承(徳洲会)
[14] 広島逓信病院の事業譲渡(日本郵政)
[15] NTT西日本東海病院の事業の継承(桂名会)

M&Aサクシードで成約した事例

総合病院・病院・クリニックに関連する業界でも成約が生まれています。

譲渡
首都圏エリア 療養型病院
  • 業種
    医療、介護
  • 地域
    南関東地方
  • 売上高
    2億5,000万円~5億円
株式譲渡
譲り受け
病院向けコンサルティング業
  • 業種
    サービス業(法人向け)
  • 地域
    南関東地方
  • 売上高
    10億円~25億円

総合病院・病院・クリニックのM&A案件一覧

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