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アパレル業界のM&A・事業承継の動向と事例

アパレル業界では、事業の選択と集中などを目的としたM&Aが活発です。M&Aによって、譲渡企業は「ブランド力の強化」、譲り受け企業は「企画から販売まで一貫したサプライチェーンの構築」などのメリットを得られます。

アパレル業界の現況

定義

アパレルとは衣服のことを指し、アパレル業界はアパレルの企画から、製造、小売までの一連の業務を含めて構成されています。
衣服や服飾品だけではなく、身の回りの品や家具、インテリアなども含めてファッション業界とされることもあります。

アパレル業界が衣服に関連するものに絞られる一方で、ファッション業界は流行商品という括りから衣服だけに絞られず、広い業界となります。
今回は衣服を中心に、アパレル・ファッション業界の動向などを解説します。

今回取り扱うアパレル・ファッション業界には、以下の業種が含まれます。

業種

詳細

アパレル・ファッション製造

アパレル企画、縫製・編み向上、ファッション小物、ジュエリー、靴・かばん、和装関連、織物・テキスタイル関連、その他アパレル関連事業

アパレル・ファッション小売

アパレル小売(EC・店舗)

市場規模・環境

矢野経済研究所が公表している国内アパレル市場に関する調査[1]によると、2020年の国内アパレル総小売市場規模は前年比81.9%7兆5,158億円となっています。
新型コロナウィルスの影響を大きく受け、百貨店や量販店、専門店などのリアル店舗が苦戦を強いられている一方で、ファッション通販サイトやECモールなど通販が伸びている構図となっています。

参考:国内アパレル市場に関する調査を実施(矢野経済研究所)を基に弊社作成

参考:電子商取引に関する市場調査(経済産業省)を基に弊社作成

また、総務省が公表している家計調査年報によると、2016年から2020年にかけて平均購入単価は下落が継続しており、衣服に関しての購入単価は抑えられている結果となっています[2]。
ファーストリテイリングなどのSPA(製造小売)の台頭により、商品が低価格で提供されるようになったこと、また、普段着やビジネスウェアのカジュアル化が進んだことで消費の落ち込みなどの要因が購入単価の下落につながっています。

参考:家計調査年報 家計収支編 二人以上の世帯(総務省)を基に弊社作成

新型コロナウィルスの影響でテレワークが拡大し、ビジネスウェアの需要が減少していますが、ウィズコロナでテレワークの比率が下がったとしても、働き方の自由度が高まった現代社会においては、需要の回復は厳しい状況が継続すると見込まれています。

業界の課題・展望

アパレル・ファッション業界の課題は、上述してきた消費者の消費志向の変化への対応、新型コロナウィルスの影響がどこまで継続するかがポイントとなってきます。
消費者の志向が変化し、新型コロナウィルスの影響により、市場で求められるアパレルの意味が変わりました。

リアル店舗で実際に商品を見て試着する購入方法から、ECサイトでの購入、また、購入するのではなくレンタルするというようなシェアリングエコノミーの浸透などアパレル・ファッション業界は考え方から変化しています。
それに紐づいたさまざまなサービスが必要となり、変化に対応していく必要があります。

アパレル・ファッション業界においては以下のような課題を抱えています。

  • 低価格志向の消費者の増加
  • 新型コロナウィルス感染症による外出規制やテレワークの浸透
  • 国内市場における需要の限界
  • リアル店舗だけではなく、ECサイトでの購入
  • シェアリングエコノミーの浸透
  • 提供するサービスによる人手不足
  • D2Cの拡大の対応
  • 円安に伴う原材料費の高騰

新型コロナウィルスの影響で、オフィスで働くのではなくテレワークが浸透し、また、購入ではなくレンタルといった意識の変化が起きました。これらの変化は戻ることはなく、今後も拡大していくと見込まれます。

そのため、販売方法などは今後も変化していくことが考えられ、これらの変化に対応していくことが求められることになります。

アパレル・ファッション業界のM&A動向

M&Aの件数・規模

M&A Online[3]によると、2022年上期(1〜6月)の小売業界を対象としたM&A件数は34件と前年比で9件増加しており、その中でもアパレル関連が7件と最多です。
年度において件数の増減はあるものの、継続して30件程度はある中で、現在は「アパレル」関連の件数が増加している傾向にあります。

後継者の不在、業績の悪化などから国内M&Aが増加していますが、アパレル・ファッション業界も同様で、さらには業界再編のためのM&Aや国内市場の限界から、アパレル業界でも海外進出のためのM&Aが増加しています。

今後も多様な課題を解決するため、M&Aの件数は増加傾向が継続すると見込まれています。

M&Aが行われている背景

アパレル・ファッション業界では、以下の背景からM&Aが活用されています。

  • 業績悪化から国内企業の事業の選択と集中
  • 国内市場の限界のため、業界内の再編
  • 国内市場の限界のため、クロスボーダー案件の実施
  • コロナ禍における新たなサービス創出のための人材確保
  • ブランド力強化や事業拡大のため
  • ファストファッションに対抗するための価格競争力の強化

M&Aの成功可能性を高めるポイント

M&Aを成功させる可能性を高めるポイントは以下となります。

譲渡企業が重視すべき要素

  • 企業価値の向上のためにファン(継続購入してくれる顧客)の獲得など施策を進める
  • 企業、商品などのブランド力を高める
  • 経営資源やこれまでの実績などを明確にする
  • 譲歩できる条件とできない条件を明確にして交渉に臨む

譲り受け企業が重視すべき要素

  • 提供している商品の品質が十分であるか確認する
  • 多品種であるため、在庫資金の確保状況を確認する
  • 商品や販売している人などのブランド力を確かめる
  • 専門家を利用してデューデリジェンスを実施し、その結果を買収価格・契約条件に反映する
  • 買収によるシナジー効果と実行可能性について事前に検討する
  • 譲渡企業から引き継ぐ従業員や取引先を尊重する
  • M&A後のPMI(統合作業)を事前に準備する

アパレル・ファッション業界でM&Aを行うメリット・デメリット

メリット

譲渡企業

  • 従業員の雇用及び取引先(得意先、仕入先)との関係の維持
  • リアル店舗だけではなくECサイトなどの販路拡大により、販売力強化
  • 宣伝力や価格競争力などブランドの競争力の強化
  • 譲り受け企業の生産設備等の活用による生産性向上
  • 後継者問題の解決

譲り受け企業

  • 取引先や顧客基盤、ノウハウなどの獲得
  • 人材の確保
  • 企画から販売まで一貫したサプライチェーンの構築
  • 譲渡企業との連携によるシナジー効果の獲得
  • 成功確率の向上、事業立ち上げまでの時間の短縮

デメリット

譲渡企業

  • 従業員や取引先からの反発から、離職や取引の解消などの可能性
  • 適切な譲り受け先が見つからない可能性
  • 株主や経営者の立場を失う

譲り受け企業

  • 当初想定していない損失を被る可能性
  • 簿外債務や偶発債務、訴訟などを引き継ぐ可能性

アパレル・ファッション業界のM&A事例・インタビュー

主な有名事例

M&Aが行われた時期

譲渡企業・譲り受け企業の概要

M&Aの目的・背景

M&Aの手法・成約

2019年11月

譲渡企業:ラクサス・テクノロジーズ

譲り受け企業:ワールド

譲渡企業:事業拡大、サービス認知度向上などのための資金調達

譲り受け企業:シェアード・リユース市場の開拓

手法:株式譲渡

結果:ラクサステクノロジーズの株式62.5%の取得及び100億円規模の資金支援

取得価額:4,342百万円[4]

2020年7月

譲渡企業:3ミニッツ

譲り受け企業:TSIホールディングス

譲渡企業:D2Cビジネスおよびデジタルマーケティングの拡大

譲り受け企業:多様なニーズに応えるブランドポートフォリオの構築

手法:事業譲渡

結果:TSIホールディングスが3ミニッツからETRÉ TOKYOの事業を譲り受け

取得価額:非公表[5]

2019年9月

譲渡企業:ZOZO

譲り受け企業:Zホールディングス

譲渡企業:顧客層の拡大、ファッション領域以外の拡充、販路拡大などのシナジー

譲り受け企業:魅力的な商品ラインナップの強化[6]

手法:公開買付け

結果:議決件割合50.1%を取得してZOZOを子会社化

取得価額:400,736百万円[7]

[1] 国内アパレル市場に関する調査を実施(2021年)(矢野経済研究所)
[2] 家計調査年報 家計収支編 二人以上の世帯(総務省)
[3] 【小売業界】2022年上期のM&Aは34件、「アパレル」関連が7件で最多(M&A Online)
[4] ラクサス・テクノロジーズの株式の取得に関するお知らせ(ワールド)
[5] ETRÉ TOKYO事業の譲受に関するお知らせ(TSIホールディングス)
[6] ZOZO株式に対する公開買付けの開始予定及び資本業務提携契約の締結に関するお知らせ(ヤフー)
[7] ZOZO株式に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ(Zホールディングス)

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