農業におけるM&A・事業承継の動向、メリット、手法、最新事例
農業従事者の減少・高齢化が進むなか、法人による農業経営が増加し、事業承継や農業進出を目的としたM&Aが活発化しています。農業の現状やM&Aの目的・メリット、手法、動向、近年の事例をくわしく解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)
農林水産業界のM&A・事業承継の動向と事例
農林・水産・鉱業業界では後継者不足の解決や既存事業とのシナジーを追求したM&Aが行われています。M&Aにより譲渡企業は「後継者不足の解消」や「事業売却益の獲得」、譲り受け企業は「専門人材や知見、ノウハウの獲得」などのメリットを得られます。
農林業界は農業、育林業、木材業等が該当し、農作物や木材を一次生産し販売する業界です。
水産業界は海や河川などで漁業や養殖を行う業界、鉱業業界は金属類、石や砂利などを発掘する業界です。
詳細な分類は下記のとおりです。
業種 | 詳細 |
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農業 | 米作・穀作・野菜作・果樹作・花き作など |
畜産業 | 酪農・肉用牛生・養豚・養鶏 |
育林業 | 育林・育林サービス・素材生産 |
木材業 | 製材・木製品製造・造作材製造・木製容器製造 |
漁業 | 底びき網・まき網・釣縄漁業・定置網漁業・内水面漁業 |
養殖業 | 海面養殖(魚、貝、藻、真珠、 種苗)・内水面養殖 |
鉱業・採石業・砂利採掘業 | 金属・石炭・亜炭・原油・天然ガス・採石・砂利採取 |
その他農林水産鉱業の関連業 | サービス業・管理事業 |
農林・水産・鉱業業界をまとめた市場データはないため、農林水産省が公表している「農林水産基本データ集」に基づいて市場規模を説明します。
2020年度のGDPは農業4.6兆円[1]、林業0.2兆円[1]、水産業0.7兆円[1]でした。
農業と林業はそれぞれ前年比で▲3.0%[1]、▲5.8%[1]の下落でしたが、水産業は+1.4%[1]の前年比プラス推移となりました。
農林・水産・鉱業業界のうち、農業と漁業にフォーカスして業界の課題・展望を説明します。
2018年度において、米・野菜・果実・畜産・その他の農業総算出額は9.1兆円[2]と前年比から0.2兆円減少[2]しています。
5年間の推移でみますと2014年度から2018年度まで緩やかな上昇曲線[2]となっています。
出典:農業を取り巻く情勢(経済産業省)を基に弊社作成
今後の課題として挙げられるのは、農業従事者が年々高齢化しており、農業の持続可能性が懸念される地域が発生する可能性があることです。
49歳以下の新規就農者数は2015年以降年々減少しており、2018年度は19,300人[2]の就労に留まりました。
一方で、2020年における法人農業経営体は31,000社であり、5年前と比べて4,000社増加しています。
そのため、当業界では事業者の大規模化が進んでいる一面もあると言えるでしょう。[3]
日本の人口減少が予測されており国内消費量のみだと農業市場は縮小するものの、その縮小分を補うため政府は2030年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円[2]まで増やすことを目標としています。
また、今後、農業にロボット・AI・IoTなど最先端技術を活用した「スマート農業」を進めることで、農業全体の生産性向上が期待されています。
漁業の課題は、主に①市場が政治や環境の問題を受けやすいこと、②人材不足の2点が挙げられます。
漁業の生産量は1984年の1,282万トン[4]をピークに2018年では442万トン[4]と1/3程度に減少しています。
2014年度から2018年度までの漁業の内訳別推移は下記のとおりです。
出典:漁業生産の状況の変化(水産庁)を基に弊社作成
遠洋漁業や沖合漁業は、海洋環境や漁業可能地域の変化などによって大きく減少傾向にあり、政治や環境の問題を受けやすい構造になっています。
漁業の就業人数は1988年には39.2万人[4]でしたが、右肩下がりで減少を続けており、2018年には15.2万人[4]まで減少しています。
一方で2003年以降、39歳以下の割合が上昇傾向にあり2018年には漁業就業者のうち17.7%[5]が39歳以下になっています。
また、水産業での外国人労働者の受入が進んでおり、2017年11月1日には外国人への技能実習制度が導入[5]されるなど、政府の対応が進んでいます。
農林・水産・鉱業業界では主に以下の目的・戦略でM&Aが活用されています。
農林業(農業〜木材業まで含む)に関するポイントは下記のとおりです。
水産業に関するポイントは下記のとおりです。
鉱業(採石業など含む)に関するポイントは下記のとおりです。
農林業(農業〜木材業まで含む)におけるメリットは下記のとおりです。
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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水産業におけるメリットは下記のとおりです。
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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鉱業(採石業など含む)におけるメリットは下記のとおりです。
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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農林業(農業〜木材業まで含む)におけるデメリットは下記のとおりです。
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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水産業におけるデメリットは下記のとおりです。
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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鉱業(採石業など含む)におけるデメリットは下記のとおりです。
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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M&Aが行われた時期 | 譲渡企業・譲り受け企業の概要 | M&Aの目的・背景 | M&Aの手法・成約 |
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2021年12月 | 譲渡企業:Russia Forest Products 譲り受け企業:飯田グループホールディングス | 譲り受け企業:ロシアの木材企業を買収することで、ウッドショックの下でも木材の安定供給を目指す | 手法:株式譲渡・第三者割当増資 結果:飯田グループホールディングスがRussia Forest Productsの株式75%を取得 取得価額:600億円[6] |
2021年10月 | 譲渡企業:住友金属鉱山 譲り受け企業:South32 | 譲り受け企業:チリ共和国にあるシエラゴルダ銅鉱山の安定操業・運営のため | 手法:株式譲渡 結果:South32がチリ国シエラゴルダ銅鉱山運営会社の株式100%を取得 取得価額:1,300億円[7] |
2019年5月 | 譲渡企業:森養魚場 譲り受け企業:ヨシムラ・フード・ホールディングス | 譲り受け企業:森養魚場の鮎養殖技術と、中小企業支援プラットフォームを相互に活用するため | 手法:株式譲渡 結果:ヨシムラ・フード・ホールディングス 取得価額:13億円[8] |
[1] 農林水産基本データ(2022年10月1日時点)(農林水産省)
[2] 農業を取り巻く情勢(経済産業省)
[3] 2020年農林業センサス結果の概要(農林水産省)
[4] 漁業生産の状況の変化(水産庁)
[5] 漁業就業構造等の変化(水産庁)
[6] Russia Forest Products社の子会社化に関するお知らせ(飯田グループホールディングス)
[7] チリ国シエラゴルダ銅鉱山の譲渡に関するお知らせ(住友金属鉱山)
[8] 株式会社森養魚場の子会社化に関するお知らせ(ヨシムラ・フード・ホールディングス)
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