ホテル・旅館のM&A事例まとめ33選 【事例ごとの解説付】
- 記事監修: 鈴木 裕太 (中小企業診断士)
2020年以降、コロナ禍の影響でホテル・旅館業界のM&A市場は拡大しています。ホテル・旅館の最新M&A事例や動向、ホテルを買収・売却するメリットをくわしく解説します。
はじめに、ホテル・旅館業界におけるM&A事例を33例紹介します。
過去の事例では、M&Aを行った背景・目的や用いられた手法が分かります。
ホテル・旅館によるM&Aに対する理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
売り手のロイヤルパークホテルは、東京の一等地にあるロイヤルパークホテルの運営を行っている会社です。
なお2021年5月時点で、買い手である三菱地所が54.4%の出資比率を有していたため、同社は三菱地所の子会社として事業を行っていました。
買い手の三菱地所は、「オフィスビル・商業施設などの開発や賃貸、管理事業」、「収益用不動産の開発、資産運用事業」、「住宅用地・工業用地などの開発事業」、「不動産の売買や仲介、コンサルティング事業」を総合的に展開する大手企業です。
2020年以降、三菱地所は全国の大都市圏を中心にホテルの新規出店を進めています。
また、子会社同士の吸収合併によりホテル運営の一元化を行うことで、「ホテルの運営力強化」や「経営資源の効率的な配分」を進めています。
同社が上記のとおりホテル事業の強化を進める中で、新型コロナウイルスの感染拡大や異業種からの参入による競争激化などの影響により、ホテル事業を取り巻く経営環境は急速に変化しています。
このような中で同社は、ロイヤルパークホテルズのチェーン運営においても、必要な構造改革を加速させる必要性を認識したとのことです。
その一環として三菱地所は、株式交換によりロイヤルパークホテルを完全子会社化することを決定しました。
2021年8月1日、両社のM&Aは株式交換のスキームで実施される予定です。
簡易株式交換となるため、株主総会の承認を得ない形で手続きが進められます。
なお株式交換比率は、1:0.025(ロイヤルパークホテルの1株に対して、三菱地所の0.025株が割当交付)です。
比率決定にあたっては、市場株価法によって算出した買い手企業の株式価値、およびDCF法、類似会社比較法、純資産法を用いて算出した売り手企業の株式価値がベースとなりました。[2]
売り手の近鉄グループホールディングスは、ホテル・レジャー事業や不動産事業、運輸事業などを幅広く展開している会社です。[3]
ブラックストーンは、アメリカに拠点を置く大手投資ファンドです。
本件のM&Aでは、同社またはその関連会社が運用・投資アドバイザーを務めるファンドが設立したTrain (Singapore) Holdco Pte. Ltd.が買い手となりました。
※本記事では、内容を簡潔にする目的で買い手企業をブラックストーンとしています。
新型コロナウイルスの流行を受けて近鉄グループは、ホテル事業のコスト削減や運営体制の見直しを余儀なくされました。
上記の構造改革を検討する中で同社は、一部のホテル資産を流動化し、他社と協業しながらホテル事業のさらなる成長を目指すことを決定しました。
以上の理由で、グローバルなホテル経営の知見を有するブラックストーングループに「都ホテル 京都八条」や「ホテル近鉄ユニバーサル・シティ」を含む8つのホテルを売却することを決定しました。
ホテル事業の売却後は、買い手が有するノウハウや資金力を活かして、同ホテル事業のさらなる成長を目指すとしています。
ブラックストーンと近鉄グループのM&Aは、2021年10月1日に実行される予定です。
M&Aおよびその後の事業運営は、以下のスキームで行われるとのことです。[4]
簡単に言うと、ブラックストーンにホテルを売却し、売却したホテルの運営を近鉄側が受託するのです。
ホテルの売却額は約600億円と報道されています。[5]
売り手のウォーターマークホテル長崎は、2011年からHISグループの傘下企業として、ハウステンボス園内に立地するホテルを運営してきた会社です。
買い手のハウステンボスは、長崎県にある人気テーマパークを運営する会社です。
買い手企業は、自社が運営するテーマパーク内にあるホテルを買収することで、「ハウステンボスブランドの強化」や「顧客に対する新たな商品展開」が可能になると考えて、ウォーターマークホテル長崎とのM&Aを実施しました。
ハウステンボスのプレスリリースでは、2021年5月に実施された本件のM&Aについて、「株式の取得による完全子会社化」と説明されています。
したがって、株式譲渡のスキームが活用されたと推測されます。
株式の取得価額は非公表です。[6]
売り手のホテル大佐渡は、佐渡島における有数の景勝地である相川地区春日崎にあり、重厚感ある佇まいと日本海を望む雄大な景観が人気のホテルです。
M&Aを行った当時は、物流会社であるリンコーコーポレーションの子会社として事業を運営していました。
買い手のサンフロンティア不動産は、不動産仲介や土地活用の提案、建設ソリューション事業などを展開する会社です。[7]
また子会社のサンフロンティア佐渡を通じて、ホテル・旅館の運営や観光・旅行事業(地方創生事業)も手がけています。
サンフロンティア不動産は、子会社における地方創生事業をより推進する目的で、ホテル大佐渡とのM&Aを実施しました。
M&A後は、自社グループが運営する「佐渡リゾート ホテル吾妻」と連携し、人事交流や情報共有などの面で協力して事業を進めるとしています。[8]
一方で売り手の親会社であるリンコーコーポレーションは、ホテル大佐渡の安定的な事業運営を実現するために、佐渡島内において宿泊施設および観光関連の経営資源を有する買い手に子会社を売却したとのことです。[9]
2021年4月に行われた本件のM&Aは、株式譲渡のスキームによって実施されました。
リンコーコーポレーションがホテル大佐渡の全株式を売却したことで、売り手企業は買い手の子会社となりました。
会社売却の金額は明らかにされていません。[8]
売り手のKarakami HOTELS&RESORTSは、リゾートホテルやビジネスホテル、貸会議室の運営事業を手がける会社です。
本件のM&Aでは、北海道札幌市にある巨大スパ・リゾート「定山渓ビューホテル」が売却対象となりました。
全647室からなる定山渓ビューホテルは、木の香りが特徴の和室や高級感あふれる洋室など、多様な客室を有しています。
また、レストランやプール、大小さまざまな会議室を有しており、レジャーやビジネスなど、幅広いニーズに対応している点も特徴です。[10]
買い手のベルーナは、通販事業や店舗販売事業、ファイナンス事業などを多角的に展開する会社です。
買い手企業は、将来的に国内外からの宿泊客が増加することを見込んで、定山渓ビューホテルを買収したとのことです。
一方で売り手企業は、「安定した経営基盤の確保」と「経営資源の選択と集中」を実現する目的で、同ホテルを売却しました。[11]
2021年5月に行われたM&Aでは、Karakami HOTELS&RESORTSが定山渓ビューホテルの権利義務をベルーナに売却しました。
ホテルのみの売却であるため、手法としては事業譲渡に該当します。
同ホテルの売却金額は明らかにされていません。[10]
売り手のメゾンドツーリズム京都は、ホテル・旅館の経営、飲食店の経営、日用雑貨等の販売などの事業を多角的に展開する会社です。
買い手の霞ヶ関キャピタルは、不動産コンサルティング事業や自然エネルギー事業を展開する会社です。[12]
霞ヶ関キャピタルは、売り手企業が保有する「ホテル京都木屋町」の取得を目的としてM&Aを行いました。
M&A後は、2021年夏頃にホテルのリブランドを進めるとしています。
2021年4月、両社は株式譲渡のスキームを用いてM&Aを行いました。
売り手側が全ての株式を売却したことで、メゾンドツーリズム京都は霞ヶ関キャピタルの子会社となりました。
会社売却の金額は明らかとなっていません。
ただし買い手側は「当該会社の全株式の取得」、「当該会社における既存借入金の借り換え」を目的に、12億円の資金を金融機関から借り入れたとしています。[13]
したがって、会社売却の金額は12億円未満であったことがわかります。
売り手のアレグロクスホテルマネジメントは、ホテルなどの運営受託を主力事業としていた会社です。
30施設以上のホテル新規開業やリブランディング・トランジションに携わってきたメンバーが運営していたとのことです。
買い手のFRACTALEは、不動産の販売やホテルの開発・リノベーション、メディカル事業などを多角的に展開する会社です。[14]
買い手企業は、「ホテル事業の経営効率化」や「グローバルホテルチェーンブランドの導入」、「ホスピタリティサービスおよびメディカルサービスの拡充によるホテル事業の付加価値向上」を目的に、経験豊富で優秀な人材を有するアレグロクスホテルマネジメントとのM&Aを行いました。
2020年7月、FRACTALEとアレグロクスホテルマネジメントは株式譲渡の手法を用いてM&Aを実施しました。
売り手側は91%の株式を売却し、FRACTALEの子会社となりました。
株式の売却額は2,111万2,000円です。[15]
売り手の祖谷渓温泉観光は、徳島県にある「和の宿 ホテル祖谷温泉」を運営する会社です。
買い手の穴吹興産は、「不動産ソリューション」や「ホテル・テナントビル運営」、「海外での不動産開発」などを手がける会社です。[16]
買い手企業は、四国エリアを中心とした観光事業の拡大を目的に、祖谷渓温泉観光とのM&Aを実施しました。
長年にわたって地域の行政・住民と築いてきた「和の宿 ホテル祖谷温泉」のブランドを取得することで、大きなシナジー効果が期待できるとしています。
M&A後は、引き続き売り手企業の現経営者(植田氏)がホテル運営の実務にあたるとのことです。
2020年7月に行われた両社のM&Aは、株式譲渡の手法を用いて実施されました。
代表取締役である植田氏が同社株式の98.125%を売却したことで、祖谷渓温泉観光は買い手企業の子会社となりました。
株式の売却額は明らかにされていません。
なお本件のM&Aでは、植田氏が運営していた「有限会社祖谷温泉」という会社も、全株式の売却により穴吹興産の子会社となりました。[17]
売り手のエイトワンは、愛媛県松山市にあるホテル「道後やや」を運営していた会社です。
道後ややは、道後温泉街にある宿泊特化型(宴会場や大浴場を有していない)のホテルであり、道後温泉本館や椿の湯などの外湯にアクセスしやすい立地にあるのが特徴です。
買い手のJR四国は、四国エリアで公共輸送事業(電車の運行など)を運営する会社です。[18]
売り手企業は、事業の選択と集中を目的にホテルの売却を行いました。
一方で買い手企業は、宿泊事業の拡大を目的にエイトワンとのM&Aを行いました。
2018年に行われた両社のM&Aでは、売り手企業が有するホテルの物件をJR四国が取得しました。
したがって、M&Aの手法としては事業譲渡が該当します。
M&Aの金額は非公表です。[19]
売り手のファーストキャビンは、カプセルホテルのフランチャイズ本部および運営受託を手がける会社です。
なお同社は、M&Aを行った時点で破産していました。
買い手のNAPは、新日本建物の子会社として不動産関連ビジネスを展開する会社です。
買い手企業は、ホテルのフランチャイズ・運営受託事業に新規参入する目的で、ファーストキャビン社からホテル事業に関するフランチャイズ契約と知的財産権(特許、商標、意匠)を取得しました。
自社が有する「物件の仕入れ力」と、ファーストキャビンが有する「知的財産権」および「フランチャイザーとしての運営能力」を融合することで、新たな収益物件の開発・販売の機会拡大を見込めるとのことです。
2020年7月に公表された両社のM&Aでは、事業譲渡のスキームが活用されました。
事業の売却金額は明らかにされていません。[20]
売却対象となったホテル小田急静岡は、小田急電鉄の子会社として「ホテルセンチュリー静岡」の運営を行っていた会社です。
1997年に開業したこちらのホテルは、バラエティに富んだ宴会場や眺望に優れた客室などを有するシティホテルとして、圏内の顧客を中心に支持を集めていました。
買い手のブリーズベイホテルは、ホテルの運営事業や買収再生業を展開する会社です。[21]
売り手の小田急電鉄は、事業環境の変化と業績低迷により、今後「ホテルセンチュリー静岡」の事業について大きな成長が見込めないと判断し、ホテル小田急静岡の売却を決定しました。[22]
2020年3月、本件のM&Aは株式譲渡の手法によって行われました。
小田急電鉄は、自社が保有するホテル小田急静岡の全株式(94.72%)を売却しました。
これにより、ホテル小田急静岡はブリーズベイホテルの子会社となりました。
株式の売却額は非公表です。[21]
売り手のアトリエブックアンドベッドは、「泊まれる本屋」がコンセプトの宿泊施設を全国6店舗で運営している会社です。
買い手のGFAは、不動産の投資・融資事業やファイナンシャルアドバイザリー事業を展開している会社です。[23]
GFAは、下記2つの理由でアトリエブックアンドベッドとのM&Aを実施しました。
つまり、不動産事業の収益性向上と優秀な人材確保がM&Aの目的であったと言えます。
2020年2月に行われた両社のM&Aは、株式譲渡の手法で行われました。
売り手側が全株式を売却したことで、アトリエブックアンドベッドはGFAの子会社となりました。
会社売却の金額は非公表です。[24]
売り手のヒューリックは、不動産の大手企業です。[25]
本件のM&Aでは、東京・お台場にある大型ホテル「ヒルトン東京お台場」を売却しました。
買い手のジャパン・ホテル・リート投資法人は、国内有数のホテル特化型の不動産投資信託(REIT)です。[26]
当初、売り手企業は当面のあいだ同ホテルを保有する計画でした。
ですが、買い手企業が見つかったことで、売却するに至ったとのことです。[25]
一方でジャパン・ホテル・リート投資法人は、オリンピック・パラリンピックを通じて世界的に注目されることで、さらなる市場成長が期待できるお台場エリアのホテル市場に進出する目的で、ヒルトン東京お台場を取得しました。[27]
2019年4月に行われた本件のM&Aでは、ホテルのみが売却の対象となりました。
したがって、事業譲渡の手法が用いられたと考えられます。
ホテルの売却金額は624億円です。[27]
売り手の難波・ホテル・オペレーションズは、大阪などを中心に賃貸借契約に基づいてホテルの運営を手がけていた会社です。
買い手のアゴーラ・ホスピタリティー・グループは、ホテルアライアンスの構築を主力事業としています。
具体的には、「単体施設では実現困難なスケールメリットの獲得」や「アライアンスホテル間での運営リソースの共有」などを目標としたアライアンスを構築しています。[28]
アゴーラ・ホスピタリティー・グループは、ホテル事業の拡大を目的に、大阪の難波地区でおよそ200室規模のホテルを運営している売り手企業とのM&Aを実施しました。
2019年に行われた両社のM&Aでは、株式譲渡のスキームが活用されました。
すべての株式を売却することで、難波・ホテル・オペレーションズはアゴーラ・ホスピタリティー・グループの子会社となりました。
会社売却の金額は非公表です。[29]
売り手の湘南レーベルは、「8HOTEL」をはじめとしたホテル運営事業を中心に、湘南・鎌倉エリアで複数事業を手がける会社です。
買い手のDDホールディングスは、飲食店の運営やアミューズメント事業、不動産サービス事業などを多角的に展開する会社です。
買い手企業は、グループ全体における事業の多角化を目的に、湘南レーベルとのM&Aを実施しました。
一方で売り手企業は、シナジー効果が期待できる企業を大株主と迎えることで、「収益性の拡大」や「成長スピードの加速」を実現する目的で、DDホールディングスとのM&Aを行いました。
本件のM&Aにより、下記2つのシナジー効果が見込めるとしています。
両社のM&Aは、2019年11月に株式譲渡の手法で行われました。
DDホールディングスが湘南レーベル株式の90.1%を取得し、同社を子会社化しました。
株式の取得価額は非公表です。[30]
売り手となったのは、「庭のホテル 東京」や「東京グリーンホテル後楽園」等を保有する隆文堂と、その子会社でホテル運営を担っているUHMです。
同社が運営する「庭のホテル 東京」は、ミシュランガイドにおいて10年連続で快適なホテルとして紹介されるなど、国内外で高い評価を獲得しています。
買い手の野村不動産は、マンション分譲事業や戸建分譲事業などを手がける不動産会社です。[31]
野村不動産は、新しい事業領域であるホテル事業の拡大・成長加速を実現する目的で、売り手企業とのM&Aを実施しました。
市場からの評価が高いホテルの顧客基盤を活用することで、自社が直営している「NOHGA HOTEL」との相互送客による集客力向上が期待できるとしています。
また、UHM社が有する「ホテル運営のノウハウ・人材」と、自社が有する「用地取得・開発力」を融合させることで、グループ全体でホテル開発・運営力の強化が図れるとしています。
2019年3月に行われた両社のM&Aは、株式譲渡の手法を用いて行われました。
売り手側が全株式を売却したことで、隆文堂とUHMは野村不動産の子会社となりました。
会社売却の金額は明らかにされていません。[32]
売り手の日本ビューホテルは、ホテル事業や遊園地事業、施設運営事業を展開する会社です。
買い手のヒューリックは、連結子会社18 社、非連結子会社2社、その他の関連会社12社で構成されている(2019年6月時点)企業であり、不動産賃貸を主力事業としています。
2015年10月に資本業務提携契約を締結して以来、ヒューリックと日本ビューホテルは提携関係を強化していました。
しかしその間に、「団塊世代の退職による旅行需要の高まり」や「インバウンド観光客の増加」などの影響で、ホテルや観光業界をめぐる環境が大きく変動したことで、当時の提携関係では十分な提携が期待できない状況となっていました。
そこで両社は、ホテル事業の成長スピードをさらに拡大させる目的でM&Aを行い、より密接な協力・資本関係を構築しました。
M&Aを行うことでヒューリックは、時代の変化や顧客のニーズに合うホテルの展開を加速させて、ホテル運営の収益を増やせるとしています。
一方で日本ビューホテルにとっては、新しく開業するホテルの不動産をヒューリックが開発・保有することで、ホテルの運営に経営資源を集中できるとのことです。
2019年9月、ヒューリックを完全親会社、日本ビューホテルを完全子会社とする株式交換が実施されました。
本件のM&Aでは、日本ビューホテル株式1株に対して、ヒューリックの普通株式1.57株が割当交付されました。[33]
売り手のDaisho Asia Development (M) Sdn. Bhd.は、マレーシアのクアラルンプール市でホテルを経営している会社です。
買い手の大東建託は、「アパートやマンション等の建設」、「不動産仲介・管理」を主力事業としている会社です。[34]
なおマレーシアにある孫会社のDaito Asia Development (Malaysia)Sdn. Bhd.は、売り手企業と同様にクアラルンプールでホテルを経営しています。
大東建託は、海外におけるホテル事業を強化する目的でM&Aを実施しました。
売り手企業が経営するホテルと自社の海外子会社が運営するホテルは隣接しています。
隣接する両ホテルを所有することで、共同受注による「集客力強化」や「コストダウン」などのシナジー効果を得られるとしています。
2017年に行われた両社のM&Aでは、株式譲渡のスキームが活用されました。
全株式の取得により、大東建託はDaisho Asia Development (M) Sdn. Bhd.を連結孫会社としました。
取得価額は約137億円です。[35]
売却対象となったのは、TSCホリスティックが運営していた「タラサ志摩ホテル&リゾート」です。
買い手の大江戸温泉物語は、ホテルや旅館、温浴施設を全国的に展開している会社です。
両社が売却や買収に至った詳しい経緯は判明しておりません。
ただし買い手側はホテルや旅館等を主力事業としているため、事業のさらなる拡大が目的であったと考えられます。
2018年、両社は事業譲渡の手法を用いてM&Aを行いました。
本件のM&Aでは、タラサ志摩ホテル&リゾートの事業が売買対象となりました。[36]
報道によると、事業譲渡の金額は15億3,000万円、売却による利益は12億4,000万円とのことです。[37]
売り手のコスモスイニシアは、不動産の販売や賃貸、流通を主力事業としている会社です。[38]
本件のM&Aでは、オーストラリアにある連結子会社の「KBRV Resort Operations Pty Ltd (KBRV RO)」が売却対象となりました。
買い手のSeaLink Fraser Island Pty Ltdは、オーストラリアでホテル・リゾート事業を運営している会社です。
売り手企業は「中期経営計画 2018」において、海外におけるホテル・リゾート運営事業から撤退し、大和ハウスグループと連携してオー ストラリアでの住宅開発の継続・強化を図ることを基本方針として定めました。
その一環として同社は、オーストラリアでホテル・リゾートの運営事業を行っていた子会社(KBRV RO)を売却したのです。
つまりM&Aを行った目的は、主力事業への集中(ホテル事業からの撤退)であると言えます。
2018年に行われた本件のM&Aでは、株式譲渡のスキームが活用されました。
コスモスイニシアが保有する全株式を売却したことで、KBRV ROは買い手企業の子会社となりました。
株式の売却額は7百万豪ドル(およそ5.6億円前後)です。[39]
売り手企業のオムロンは、工場の自動化を中心とした制御機器や電子部品の製造を手がける会社です。[40]
本件のM&Aでは、静岡県御殿場市にあるホテル「ララ御殿場ホテル&リゾート」を売却しました。
買い手のATPは、ホテルの運営事業などを手がけるレンブラントホールディングスの子会社です。
買い手企業は、ホテル・レジャー事業の拡大を目的に、オムロンから「ララ御殿場ホテル&リゾート」を買収しました。
本件のM&Aでは、自社が運営するゴルフ場とのシナジー創出も期待できるとのことです。
2019年に実施された本件のM&Aでは、ホテルの土地および建物が売買対象となりました。
M&Aの手法としては、事業譲渡が該当します。
ホテルの売買価格は明らかにされていません。[41]
売り手の西鉄シティホテルは、西日本電鉄グループにおけるシティホテル事業の経営および資産保有、運営を担っていた会社です。
買い手の西日本電鉄は、主力である運輸業を中心に、不動産業や流通業、物流業などを多角的に展開している企業です。
西日本電鉄は、ホテル事業における経営・資産保有と運営の役割を明確化する目的で、西鉄シティホテルとのM&Aを実施しました。
西鉄シティホテルを吸収することで、「一貫した経営方針に基づく戦略の実施」や「継続的に適切な投資を実施できる体制の整備」を目指すとしています。
2018年10月に両社は、西日本電鉄を存続会社、西鉄シティホテルを消滅会社とする吸収合併を実施しました。
本件のM&Aにより、西鉄シティホテルは解散しました。
また、簡易合併・略式合併に該当したため、株主総会の承認をせずに実施されました。
なお西日本電鉄が西鉄シティホテルの発行済株式の全部を所有していたため、合併に際して株式や金銭等の交付は行われませんでした。[42]
売り手のAB Hotels Ltdは、イギリス・ロンドンにあるラグジュアリーホテル「The Arch London」を運営している会社です。
買い手のプリンスホテルは、西武ホールディングスの子会社として、数多くのホテルを国内外で運営している会社です。
プリンスホテルは、ホテル事業のグローバル化、およびそれに伴う持続的かつ力強い成長を実現する目的で、AB Hotels LtdとのM&Aを行いました。
ロンドンでホテル事業を取得したことで、同社は2019年に海外向けラグジュアリーブランド「The Prince AKATOKI」の1号店を開業することに成功しました。
2018年、両社は株式譲渡の手法を用いてM&Aを行いました。
プリンスホテルは、子会社のSWHD社を通じてAB Hotels Ltdの株式を取得し、同社を子会社化しました。
買収価額は非公表です。[43]
売り手のヴィエント・クリエーションは、JR山手線の主要駅から徒歩3分以内の立地で、2棟のカプセルホテルを運営している会社です。
買い手のビーロットは、収益性や遵法性に改善余地がある不動産を取得し、不動産の再生を行う事業を展開している会社です。
ビーロットは、新しい事業領域への進出を目的に、異業種であるヴィエント・クリエーションとのM&Aを実施しました。
2017年2月、両社は株式譲渡の手法を用いてM&Aを実施しました。
すべての株式を売却したことで、ヴィエント・クリエーションはビーロットの子会社となりました。
会社売却の金額は5億4,100万円(公表ベース)です。[44]
売り手の奈良ホテルは、奈良県奈良市でホテル業を運営している会社です。
買い手のJR西日本は、主力である鉄道事業や飲食、不動産事業などを多角的に展開している会社です。
買い手企業は、歴史的価値が高いホテルの取得により、線区価値の向上による交流人口拡大を図る目的でM&Aを実施しました。
M&A後は、増加するインバウンド需要への対応や客室改装などの施策に努めるとしています。
2018年8月に実施された両社のM&Aでは、株式譲渡のスキームが活用されました。
具体的には、親会社である近鉄グループホールディングスが全株式を売却したことで、奈良ホテルはJR西日本の子会社となりました。
会社売却の金額は明らかにされていません。[45]
売り手のホテルサンルート京都は、京都市下京区に所在しているホテルです。
買い手のウェルス・マネジメントは、投資事業や不動産金融事業、ホテル運営事業を展開している会社です。[46]
M&Aの目的は明らかにされていません。
ただしホテル運営を事業としていることから、買い手企業は「主力事業の拡大」を目的にホテルサンルート京都を取得したと考えられます。
買い手企業の公表資料によると、2017年に同社は売り手のホテルを取得したとのことです。
具体的には、外部投資家と私募形式で組成した特別目的会社を通じて取得しました。
取得価額は明らかにされていません。[47]
売り手のホテル水葉亭は、静岡県熱海市にある1951年設立の老舗ホテルです。
関東随一の広さが自慢の大浴場と、相模湾が見渡せる絶好のロケーションが特徴です。
買い手となったのは、先ほど紹介した大江戸温泉物語です。
大江戸温泉物語は、ホテル・旅館事業の規模を拡大させる目的でホテル水葉亭とのM&Aを実施しました。
2016年9月、大江戸温泉物語はホテル水葉亭を取得しました。
取得価額は明らかにされていません。[48]
売り手の金谷ホテルは、栃木県の名門ホテルである「日光金谷ホテル」と「中禅寺金谷ホテル」を直営している会社です。
買い手の東武鉄道は、鉄道の運営事業や不動産売買事業、自動車運送事業などを多角的に展開している会社です。[49]
東武鉄道は、訪日外国人客が増加している日光地区のホテルを取得し、観光需要を取り込む目的で金谷ホテルとのM&Aを実施しました。
2016年、両社は株式譲渡の手法を用いてM&Aを行いました。
本件のM&Aにより、金谷ホテルは東武鉄道の子会社となりました。
株式の取得価額は非公表です。[50]
売り手のホテル万惣は、北海道函館・湯の川温泉の中でも、最大級の広さである大浴場を有する温泉旅館施設です。
買い手のオリックス不動産は、不動産投資・開発事業や住宅開発事業、施設運営事業などを展開している会社です。[51]
買い手企業は、訪日外国人の増加により、さらなるマーケット拡大が見込めると考え、ホテルホテル万惣を取得しました。
2015年10月、オリックス不動産はホテル万惣を取得し、事業の運営を開始しました。
ホテルの取得であるため、事業譲渡の手法が活用されたと考えられます。
ホテルの取得に要した金額は明らかにされていません。[52]
売り手の浦和ロイヤルパインズは、浦和駅から徒歩6分の立地にある「浦和ロイヤルパインズホテル」を運営している会社です。
当ホテルは、2016年2月時点で全196室の客室や2,800m²の広さを誇る宴会場などを有していました。
買い手のソラーレ ホテルズ アンド リゾーツは、全国でホテルなどの宿泊施設を運営している会社です。
買い手企業は、埼玉県内で高い顧客評価を得ているホテルを取得することで、グループ全体の価値向上、および自社ホテルとのシナジー効果を得る目的でM&Aを行いました。
2016年4月に行われた両社のM&Aでは、株式譲渡の手法が活用されました。
本件のM&Aにより、売り手企業はソラーレ ホテルズ アンド リゾーツの子会社となりました。
M&Aの金額は明らかにされていません。[53]
売り手のホテル東日本は、M&Aを行った当時、買い手企業が所有しているホテルの運営を行っていた会社です。
買い手の東日本ハウスは、住宅の請負建築や住宅・宅地の分譲を主力事業としている会社です。
東日本ハウスは、グループにおける「保有資産の効率的な活用」や「迅速な意思決定の実現」を目的に、ホテル東日本の完全子会社化を実施しました。
公表資料によると、2014年に両社は株式交換のスキームを用いてM&Aを行いました。
本件のM&Aでは、ホテル東日本株式1株に対して、東日本ハウス株式0.16株が割当て交付されました。
これにより、売り手企業は東日本ハウスの完全子会社となりました。[54]
売り手のロテルド倉敷は、JR倉敷駅から徒歩約10分の立地にあるシティホテルである「ホテル日航倉敷」を運営していた会社です。
同ホテルは、旅行やビジネスなどの拠点として利用されていました。
買い手のストライダーズは、ホテル事業や不動産事業を展開している会社です。[55]
ストライダーズは、ホテル事業の拡大を目的にロテルド倉敷とのM&Aを実施しました。
同社は、下記の理由でM&Aを決定したとしています。
2014年6月、両社は株式譲渡によってM&Aを行いました。
売り手企業はすべての株式を売却し、ストライダーズの子会社となりました。
会社売却の金額は、4億4,136万4,000円です。[56]
売り手の桐のかほり 咲楽は、静岡県の伊豆にある高級温泉旅館です。
予約の取れない旅館として人気を集めています。
買い手の小野写真館は、写真館事業と結婚式場の運営事業で業績を着実に伸ばしている会社です。
売り手の旅館は、経営者の高齢化に伴い事業承継のタイミングを迎えていたものの、身近に後継者の候補が見つかりませんでした。
そこで、咲楽の思いや価値観を引き継いでくれる人に旅館を継いでもらいたいと考え、理念に共感してくれた小野写真館とのM&Aを行いました。
一方で買い手小野写真館は、コロナ禍に伴う業態転換を目的に、異業種である旅館をM&Aの対象として選びました。
旅館全体を貸し切って行う挙式を始めるなど、売り手・買い手双方の良さを融合させた事業を生み出すことに成功しました。
両社は事業譲渡の手法でM&Aを行いました。
双方がお互いの理念に共感したこともあり、わずか3ヶ月でM&Aの成約に至りました。[57]
[2] 三菱地所株式会社による株式会社ロイヤルパークホテルの完全子会社化に係る株式交換契約の締結(簡易株式交換)に関するお知らせ(三菱地所)
[3] 近鉄グループ情報(近鉄グループホールディングス)
[4] 当社グループが保有するホテル資産の一部に係る合弁事業に関する基本合意書締結のお知らせ(近鉄グループホールディングス)
[5] ホテル再編の兆し 米ブラックストーン、近鉄から買収(日本経済新聞)
[6] 株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(ハウステンボス)
[7] 事業紹介(サンフロンティア不動産)
[8] 株式会社ホテル大佐渡の株式譲受に関するお知らせ(サンフロンティア不動産)
[9] 連結子会社の異動(株式譲渡)及び特別損失の計上に関するお知らせ(リンコーコーポレーション)
[10] 「定山渓ビューホテル」の取得に関するお知らせ(ベルーナ)
[11] 定山渓ビューホテル譲渡のお知らせ(Karakami HOTELS&RESORTS株式会社のプレスリリース)
[12] 会社概要(霞ヶ関キャピタル)
[13] メゾンドツーリズム京都株式会社の株式取得(子会社化)及び資金の借入に関するお知らせ(霞ヶ関キャピタル)
[14] 会社情報(FRACTALE)
[15] 株式取得(連結子会社化)、連結子会社間の合併及び商号変更に関するお知らせ(FRACTALE)
[16] 事業紹介(あなぶき興産)
[17] 祖谷渓温泉観光株式会社及び有限会社祖谷温泉の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(穴吹興産)
[18] 企業・採用情報(JR四国)
[19] 道後地区でのホテルの取得について(四国旅客鉄道)
[20] 当社非連結子会社による事業譲受に関するお知らせ(新日本建物)
[21] 子会社の異動を伴う株式の譲渡に関するお知らせ(小田急電鉄)
[22] 小田急電鉄、静岡のホテル子会社の保有全株式を売却(日本経済新聞)
[23] 会社情報(GFA)
[24] アトリエブックアンドベッド株式会社の株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ(GFA)
[25] ヒューリック、東京・お台場のホテル売却 624億円で(日本経済新聞)
[26] 投資方針と成長戦略(ジャパン・ホテル・リート投資法人)
[27] ジャパン・ホテル・リート投資法人がヒルトン東京お台場を取得(ジャパン・ホテル・リート投資法人)
[28] About Agora Hospitality Group(Agora HOSPITALITY GROUP)
[29] 難波・ホテル・オペレーションズ株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(アゴーラ・ホスピタリティー・グループ)
[30] 湘南レーベル株式会社の株式取得及び合同会社サニーサイドインの持分取得並びに資産(優先出資証券)の取得に関するお知らせ(DDホールディングス)
[31] 会社概要(野村不動産)
[32] 長きに亘り国内外より高い評価を得る 「庭のホテル 東京」取得のお知らせ ~M&A によりホテル事業の拡大・成長加速を本格化~(野村不動産)
[33] ヒューリック株式会社による日本ビューホテル株式会社の完全子会社化に関する株式交換契約締結のお知らせ(ヒューリック)
[34] 会社概要(大東建託)
[35] 子会社における孫会社の異動を伴う株式取得に関するお知らせ(大東建託)
[36] 当社子会社における事業譲受に係る契約締結のお知らせ(大江戸温泉物語)
[37] タラサ志摩ホテル:東京の会社に売却(毎日新聞)
[38] 会社概要(コスモスイニシア)
[39] 子会社による孫会社株式の譲渡に関するお知らせ(コスモスイニシア)
[40] 会社概要(オムロン)
[41] 「LaLa 御殿場ホテル&リゾート」の運営権取得について 6 月 1 日 新ブランド「レンブラントプレミアム」にて運営開始(予定)(レンブラントホールディングス)
[42] 完全子会社(株式会社西鉄シティホテル)の吸収合併(簡易合併・略式合併)に関するお知らせ(西日本鉄道)
[43] AB Hotels Ltd の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(西武ホールディングス)
[44] 株式会社ヴィエント・クリエーションの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(ビーロット)
[45] 株式会社奈良ホテルの株式取得に関するお知らせ(JR西日本)
[46] 事業案内(ウェルス・マネジメント)
[47] 当社による特別目的会社を通じたホテルサンルート京都の取得に関するお知らせ(ウェルス・マネジメント)
[48] 大江戸温泉物語グループ 静岡県熱海の『ホテル水葉亭』を取得(大江戸温泉物語)
[49] 会社概要(東武鉄道)
[50] 東武鉄道、名門「金谷ホテル」買収 訪日客に的(日本経済新聞)
[51] 事業・サービス(オリックス不動産)
[52] 函館湯の川温泉『ホテル万惣』の取得のお知らせ(オリックス不動産)
[53] 「浦和ロイヤルパインズホテル」の運営会社株式を4月1日取得(ソラーレホテルズアンドリゾーツ)
[54] 簡易株式交換による株式会社ホテル東日本の完全子会社化に関するお知らせ(東日本ハウス)
[55] 事業戦略(ストライダーズ)
[56] ロテルド倉敷株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(ストライダーズ)
[57] 【M&A事例】小野写真館様と旅館咲楽のシナジー効果とは? | 事業承継 M&Aプラットフォーム【M&Aサクシード】
この章では、ホテル・旅館業界の定義と現状を解説します。
厚生労働省は、ホテル業を「日本標準産業分類における宿泊業の中で、宿泊の他に宴会場・レストランなどの付帯設備を持つシティホテルやコミュニティホテル、リゾートホテルなどの関連業務」としています。[57]
日本標準産業分類では、「一般公衆や特定の会員等に対して宿泊を提供する事業所」を宿泊業として定義しています。[58]
つまりホテル業とは、利用者に対してレストランなどの付帯設備を有する宿泊施設(=ホテル)を提供する事業を意味するのです。
矢野経済研究所が公表しているデータによると、2018年度におけるホテルの国内市場規模は前期比5.6%増の2兆291億円だったとのことです。
また、ホテルの市場規模は、2015年度から2018年度にかけて緩やかに拡大しています。[59]
加えて観光庁観光産業課によると、2008年から2018年の10年間で、ホテルの軒数は9,603軒から10,402軒(+8.3%)まで増えています。[60]
出典:観光庁観光産業課「観光や宿泊業を取り巻く現状及び課題等について」(https://www1.mlit.go.jp:8088/common/001271444.pdf)一部抜粋
以上のデータより、近年のホテル業界は活況を見せていると言えます。
ホテル業界が活況である背景には、訪日外国人観光客の増加があると言われています。
ホテル事業者はこれまで、和風の要素を取り入れた改装を行ったり、外国人客から要望が多い無料Wi-Fiの導入などの施策に注力したりしてきました。[59]
その結果、増加する外国人観光客の需要を取り込むことに成功し、業界全体で収益が増加したと考えられます。
ただし2020年〜2021年は、新型コロナウイルスの感染拡大により、首都圏を中心に国内のホテルは苦境に立たされています。[61]
ホテル業界が再び活気を取り戻すには、コロナ禍の終息が必要不可欠と考えられるでしょう。
[57] 02_ホテル業(厚生労働省)
[58] 大分類M-宿泊業,飲食サービス業 日本標準産業分類(総務省)
[59] 国内ホテル市場に関する調査を実施(2019年)(矢野経済研究所)
[60] 観光や宿泊業を取り巻く現状及び課題等について(観光庁観光産業課)
[61] 苦境続く 都内観光業 延べ宿泊数、首都圏最大の減少(日本経済新聞)
近年におけるホテル・旅館業界のM&Aには、主に「市場変化への対応を目的としたM&Aの増加」、「クロスボーダーM&Aの活発化」という2つの特徴があります。
この章では、それぞれの動向についてくわしくご説明します。
ホテル業界では、市場の変化に対応するためにM&Aを行うケースが増加しています。
たとえば前述した「東武鉄道と金谷ホテルのM&A」や「オリックス不動産とホテル万惣のM&A」のように、訪日外国人観光客の増加に備えて、観光地にあるホテルの買収が活発に行われています。
また、経営の先行き不安から大手企業にホテル・旅館を売却したり、Web集客への対応を目的にオンライン施策に強みを持つホテル運営会社を買収したりするケースも見受けられます。
ホテル業界では、海外企業と国内企業によるクロスボーダーM&Aも活発に行われています。
たとえば前述したプリンスホテルや大東建託は、海外進出を目的に国外のホテル運営企業とM&Aを行いました。
また2020年以降は、コロナ禍により業績の悪化したホテル運営企業が、業績を回復させる目的で、海外の宿泊業者やファンドに会社を売却するケースも増えています。
前述した「ブラックストーンと近鉄グループホールディングスのM&A」が一例です。
特に2021年に入って以降は、中国人投資家が苦境に立たされているホテル・旅館を買収するケースが増えています。
宿泊施設の売買を仲介している企業によると、2021年2月に寄せられた中国人による買収相談は240件と、前年同月と比べて2.4倍まで増えたとのことです。[62]
今後もコロナ禍が続くほど、外国企業によるホテル・旅館の買収は活発に行われるでしょう。
最後に、ホテル事業のM&Aを行うメリットについて、売り手と買い手それぞれの視点で解説します。
ホテル・旅館を売却すると、以下4つのメリットを得られます。
各メリットについてくわしくご説明します。
経営者の高齢化で事業承継の時期を迎えているものの、親族や社内に後継者候補がいない状況に悩まされているホテル経営者の方は少なくありません。
後継者不在の状態が続けば、やがて会社をたたむ結果となるおそれもあります。
一方でM&Aを行えば、外部の経営者・会社に自社のホテル事業を譲渡できます。
後継者不在のホテル運営企業にとって、M&Aは事業承継の有効な手段となり得るでしょう。
業績悪化や後継者不在を理由に廃業すると、ホテルの業務に従事していた従業員を解雇することとなります。
一方でホテル・旅館を第三者に売却すれば、引き続き買い手企業のもとで従業員は働き続けることができます。
場合によっては、従来よりも安定的な環境で働けたり、待遇が良くなったりする可能性もあるでしょう。
自社よりも資本力やブランド力がある企業とM&Aを行えば、経営基盤を強化できます。
たとえば買い手企業の資金を活用することで、老朽化した設備などを買い替えたり、Web集客に注力したりできるようになり、収益性や顧客数の増加につながる可能性があります。
ホテル事業や会社を売却すると、事業や株式の売却益を獲得できます。
売却金額の相場は、一般的に「時価純資産+のれん代(2〜5年分の営業利益)」と言われています。[63]
一度にまとまった現金を得ることで、新規事業や主力事業への投資や、アーリーリタイアの実現を目指せるでしょう。
一方で、「ホテル・旅館の買収」や「ホテル・旅館の事業者による他業種の買収」には、以下に挙げた3つのメリットがあります。
以下では、それぞれのメリットを紹介します。
ホテルを運営する企業同士でM&Aを行うと、事業規模の拡大により、売上や利益、顧客数を増やすことができます。
一方で異業種の企業がホテルを買収すれば、新規事業としてホテルの運営を始めることができます。
希少な経営資源や質の高い人材を獲得できる点も、ホテル事業・会社を買収するメリットの1つです。
たとえば人気観光スポットにある土地・建物や、リピート率向上に直結する運営ノウハウなどは、取得に多大な手間やコストを要する経営資源です。
また、語学力や接客力に秀でた質の高い人材も、取得や育成に時間・費用がかかるため、取得することは簡単ではありません。
既存事業の拡大や新規事業の立ち上げ、経営資源の獲得などは、自社のみで進めることも可能です。
しかし、一から上記の戦略を実行しようとなると、軌道に乗るまでに多大な時間がかかります。
一方でM&Aを行えば、自力で行う場合と比べて、より迅速に戦略を遂行できます。
たとえば新しくホテル事業に参入する場合、すでに施設や人材、顧客などが揃った状態で事業を始めることができるため、大幅に収益化までの時間を短縮できるでしょう。
ホテル事業のM&Aにおいて、買い手は「既存事業の拡大」や「経営資源の獲得」、売り手は「経営基盤の強化」や「創業者利益の獲得」などのメリットを得られます。
上記のメリットがあるため、ホテル業界ではM&Aが活発に行われています。
ホテル事業に参入したい経営者の方や、ホテル事業の先行きに不安を抱えている方は、M&Aを検討してみてはいかがでしょうか。
(執筆者:中小企業診断士 鈴木 裕太 横浜国立大学卒業。大学在学中に経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士資格を取得(休止中)。現在は、上場企業が運営するWebメディアでのコンテンツマーケティングや、M&Aやマーケティング分野の記事執筆を手がけている)
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