EC・通販のM&A・事業承継の動向と事例
EC・通販分野では、EC事業の拡大やECへの新規参入などを目的としてM&Aが盛んに行われています。M&Aにより、譲渡企業は財務安定化や資金調達などを実現でき、譲り受け企業は商材・顧客基盤の拡充、EC化推進などを図ることができます。
EC・通販の概要
定義
主にインターネットを介して物販を行うEC(電子商取引による通信販売)業と、カタログやテレビ・ラジオ番組を通して物販を行う通信販売業が該当します。
市場規模・環境
ECを含む通信販売市場全体の規模は近年一貫して拡大しています。2020年にはコロナ禍が追い風となり20%の成長率を示しました。
図:通信販売市場推計値(通信販売協会会員企業の売上+有力非会員358社の売上)
出典:売上高調査(通信販売協会)を基に弊社作成
通販市場の成長を牽引しているのはECです。インターネットモール(Amazon・楽天など)が堅調を維持し、近年ではスマートフォン経由の受注が伸び、動画サイト・SNS・アプリを活用した集客が拡大しています。
テレビやカタログなどの通販チャネルでもECへの送客を図る動きが見られます。[1]
カタログやラジオの通販市場は縮小傾向にあり、テレビ通販市場は横ばいないし微増で推移しています。[2]
現在のところ非EC通販は中高年消費者を中心に底堅く需要が維持されているものと見られます。
課題・展望
EC市場は拡大を続けていますが、EC化率(商取引市場規模全体におけるEC市場規模の比率)は分野によって大きな差があります。[3]
書籍・音楽ソフト・映像ソフト(42.97%)や家電・PC(37.45%)など、比較的EC化が進んでいる分野がある一方で、食品・飲料(3.31%)や化粧品・医薬品(6.72%)など、依然としてEC化率が低い分野もあり、今後の開拓が期待されます。[3]
出典:令和2年度電子商取引に関する市場調査 報告書(経済産業省)を基に弊社作成
EC拡大による宅配便増加、小口・多頻度配送によるトラック積載率低下、ドライバー不足の深刻化などを背景として、運送コストのインフレが生じています。[4]
EC・通販企業にとっても物流効率化につながる取り組み(物流を含めたサプライチェーン最適化、企業間連携による共同配送、EC購入品の店舗受取、「置き配」活用など)の推進が重要な課題と言えます。
また、CtoC-EC(インターネットを介した個人間取引)の市場が急速に拡大しており、分野によってはEC・通販業との競合が懸念される状況です。
EC企業とフリマアプリなどのCtoC-ECプラットフォーマー企業の間で協業を図る動きも見られます(データ連携・相互送客など)。[4]
出典:令和2年度電子商取引に関する市場調査 報告書(経済産業省)を基に弊社作成
EC・通販のM&A動向
M&Aの件数
上場企業の適時開示情報をもとに集計した小売業M&Aの件数(1〜6月)は、25~40件程度で推移しています。
なお2022年上期は、前年同期と比べて9件増加しています。[5]
出典:【小売業界】2022年上期のM&Aは34件(M&A Online)を基に弊社作成
非上場企業同士のM&Aなども含めれば件数はさらに大きくなります。
EC市場が急拡大していることから、小売業M&AのうちでもEC企業の関わるM&Aは相当数に上ると推察されます。
M&Aが行われている背景
以下のような目的でM&Aが行われています。
- EC・通販における取扱商品・分野、顧客層、シェア、海外展開の拡大
- 異業種によるEC参入
- 集客力向上・相互送客
- EC関連のシステム開発力強化、新サービス開発
- 物流効率化
EC・通販でM&Aを行うメリット・デメリット
メリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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デメリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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EC・通販のM&Aを成功させるポイント
譲渡企業
- 人材の離職防止、モチベーション向上
- 財務状況の明確化、オーナー個人の資産と法人資産の明確な分離
- M&A・事業承継の早期検討
- 顧客・会員の引継ぎやサイトで使用しているコンテンツの移転、ECモール店舗の譲渡などに関し、契約・手続き面の問題点がないか確認しておく
譲り受け企業
- 経営統合により大きなシナジーが期待できる譲渡企業の選定
- M&A成立後を視野に入れた戦略策定・譲渡企業選定・交渉・契約
- 譲渡企業が抱えるリスクや事業引継ぎの障害となる事項のチェックと対応策検討
EC・通販のM&A事例・インタビュー
主な有名事例
M&Aが行われた時期 | 譲渡企業・譲り受け企業の概要 | M&Aの目的・背景 | M&Aの手法・成約 |
---|---|---|---|
2022年3月 | 譲渡企業:エクスプライス 譲り受け企業:DCMホールディングス | EC専門企業とリアルに強みを持つ企業グループの協業(相互送客、商材拡充、物流効率化など) | 手法:株式譲渡 結果:DCMホールディングスがエクスプライスの全株式を取得[6] |
2021年12月 | 譲渡企業:ティーエムジー 譲り受け企業:プリマハム | 譲渡企業:更なる事業成長 譲り受け企業:精肉・食肉加工品におけるEC・D2C事業への本格参入 | 手法:株式譲渡 結果:プリマハムがティーエムジーの全株式を取得[7] |
2021年8月 | 譲渡企業:セレクト 譲り受け企業:ベルーナ | 譲渡企業:EC事業の拡大 譲り受け企業:ノウハウ共有、グループ内商品供給、集客連携を通したグループ価値向上 | 手法:株式譲渡 結果:ベルーナがセレクトの全株式を取得[8] |
[1]通販・ECの国内市場を調査(富士経済)
[2]市場の動向(ベルーナ)
[3]令和2年度電子商取引に関する市場調査 報告書(経済産業省)
[4]我が国の物流を取り巻く現状と取組状況(経済産業省)
[5]【小売業界】2022年上期のM&Aは34件(M&A Online)
[6]エクスプライスの株式取得(DCM HD)
[7]ティーエムジーの株式取得(プリマハム)
[8]セレクトの子会社化(ベルーナ)
M&Aサクシードで成約した事例
EC・通販に関連する業界でも成約が生まれています。
- アパレルECサイト
- 業種
- EC 小売業
- 地域
- 南関東地方
- 売上高
- 1億円~2億5,000万円
- 事務機器販売業・EC事業等
- 業種
- EC 小売業
- 地域
- 近畿地方
- 売上高
- 25億円~50億円
- 家具海外製造・WEB販売業
- 業種
- EC 小売業
- 地域
- 中部地方
- 売上高
- 5億円~10億円
- 家具インテリア企画販売
- 業種
- 日用品
- 地域
- 中国地方
- 売上高
- 10億円~25億円
- ギフトECポータルサイト
- 業種
- EC 小売業
- 地域
- 近畿地方
- 売上高
- 1億円~2億5,000万円
- 中小企業向けコンサルティング
- 業種
- サービス業(法人向け)
- 地域
- 近畿地方
- 売上高
- 2億5,000万円~5億円
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