印刷・広告・出版業のM&A・事業承継の動向と事例
印刷、広告、出版業界では営業基盤の補完などを目的としたM&Aが活発です。M&Aによって、譲渡企業は「大手・中堅企業との有力グループの形成」、譲り受け企業は「新媒体獲得」などのメリットを期待できます。
印刷、広告、出版業界の現況
定義
この業界には、以下のように印刷や書籍等の出版、広告に関するサービスを提供する事業所が含まれます。
業種 | 定義 |
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印刷業 | 印刷およびその関連支援活動 |
印刷関連事業(製版・校正等) | オフセット版・とっ版・グラビア版・スクリーン版等の印刷原版又は刷版の製造、校正・版面研磨等の印刷および関連産業に関わる補助作業の提供等 |
広告・販促サービス | 主として広告関連媒体の企画・マーケティング・コンテンツ制作・選定等顧客に対する総合的サービスの提供、新聞・雑誌・ラジオ・テレビ・インターネット・その他の広告媒体のスペースまたは時間を当該媒体企業と契約することによる顧客のための広告の実施等 |
出版業 | 書籍・教科書・辞書・パンフレット・雑誌・定期刊行物等の出版 |
その他印刷・広告・出版関連 | 上記以外で印刷・広告・出版に関連する業務の提供 |
市場規模・環境
出典:一般印刷市場に関する調査を実施(2020年) (矢野経済研究所)を基に弊社作成
2019年の印刷業界の市場規模は、3,439,091(百万円)です。
そして2020年の見込みが3,194,000(百万円)、2021年の予測が3,074,000(百万円)です。[1]
出典:「2021年インターネット広告媒体費」解説(ウェブ電通報)を基に弊社作成
また、2021年の日本の総広告費は67,998(億円)です。
そのうちインターネット広告費の総計は27,052(億円)で、マスコミ四媒体広告費(※)の総計(24,538(億円))を初めて超えました。[2]
四媒体広告費とは新聞・雑誌・ラジオ・テレビ媒体(地上波テレビ+衛星メディア)の媒体費と制作費を合計したものです。
出典:2021年の出版市場(公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所)を基に弊社作成
2021年における出版業界の市場規模は、16,742(億円)です。電子媒体が4,662(億円)、紙媒体が12,080(億円)です。[3]
業界の課題・展望
印刷業界
印刷業界が抱える課題としては、デジタル化による印刷需要の減少と人材開発・採用・雇用等が挙げられます。
印刷・情報用紙の国内需要は既にピークを過ぎており、今後減少していくと言われています。
需要減退の一因としてはデジタル化の普及が挙げられ、紙印刷とデジタル印刷を比較した場合、デジタル印刷の方が費用対効果も高いと判断する企業が増えているとのことです。
また若者の採用・育成の難しさもあります。オフセット印刷機は特殊な技術が必要なため人が集まらず、特に地方では後継者不足に悩まされる傾向があります。
今後、印刷業界の各社においては、付加価値の高い計画の策定・活動領域の拡大・事業領域の確立等が必要となります。
広告業界
広告業界は、2つの背景から大きな変革期を迎えていると言えます。
1つ目は、SNS広告や動画広告の急成長です。
2010年代後半にはインターネット広告が新聞等の四媒体広告を抜き、業界内の主流となりました。
特に近年は、インターネット広告の中でも、従来主流であった検索連動型広告等と比較して、SNSで展開される広告や動画広告が急成長を遂げています。
2つ目は、パーソナライズされた広告(個々人に最適化された広告)に関する急激な変化です。
デジタル化の加速により、2010年代はパーソナライズされた広告の配信が急激に活発となりました。
しかし、2018年以降よりITP(トラッキング防止機能)が普及し始めた影響で、パーソナライズが難しくなっている側面もあります。
今後は、個人情報保護の観点により、パーソナライズ化された広告の配信が困難となる可能性があるため対策が求められます。
以上2つの背景を踏まえ、広告業界では「急速に進む変化に柔軟に対応すること」が重要な課題となるでしょう。
出版業界
紙媒体の書籍や雑誌の市場規模は、デジタルメディアの普及により年々減少しています。
一方で、電子書籍の市場規模は年々拡大しています。書籍・雑誌とアニメ・テレビ・ゲーム・映画などのクロスメディア展開、電子書籍配信なども売上を押し上げていると思われます。
長期的な発展のためには、電子メディアを含む新しいメディアの開拓を続けていくことが重要です。
また、出版業界では海賊版への対応も重要な課題となっています。
具体的には、海賊版サイト・サーバに削除要請や警告文を送付することや、レジストラへのドメイン停止要請を行うことなどが対策となるでしょう。
印刷、広告、出版業界のM&A動向
M&Aの件数・規模
広告業界のみを集計したM&A件数・規模に関するデータはありません。ここでは「出版・印刷業」のM&Aの件数を紹介します。
「出版・印刷業」のM&A件数(2017年)は67件でした[4]。2010〜2018年7月までの件数推移は以下のとおりです。
出典:第162回 出版業界 ― 継続する市場縮小と異業種プレーヤーの参入 (マールオンライン)を基に弊社作成
M&Aが行われている背景
印刷、広告、出版業界では、主に以下等の背景があり、M&Aが活用されています。
- 中小企業は厳しい経営状況にある
- 多くの企業が将来の見通しについて大きな不安を感じている
- 海外への事業拡大を計画している
M&Aの成功可能性を高めるポイント
共通
- 高い企画力
- 差別化要素
- 売上債権の回収期間や、M&A後の必要資金を把握
- 不採算部門からの撤退
印刷業界
- 高い印刷技術
- 工場の立地等が良いこと
- 小規模印刷会社であれば高い地域密着度
広告業界
- 人気・影響力のあるサイトやSNS、アプリ等運営者との充実した取引関係
- 広告を掲載しているサイトやSNS、アプリ等とのネットワーク
- バナー広告や動画広告の配信に加え、動画制作など、関連事業の制作に関する高い技術
出版業
- 高い発行部数
- 数多い取扱商品
- 在庫管理・原価管理等の正確性の担保
- 中小の出版社であれば印税を前払いして制作者に支払うケースへの適切な対応
- 電子出版の運営ノウハウ、ユーザーから人気のあるメディアの確保および育成
印刷、広告、出版業界でM&Aを行うメリット・デメリット
メリット
| 印刷 | 広告 | 出版 |
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譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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デメリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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印刷、広告、出版業界のM&A事例・インタビュー
主な有名事例
M&Aが行われた時期 | 譲渡企業・譲り受け企業の概要 | M&Aの目的・背景 | M&Aの手法・成約 |
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2019年4月 | 譲渡企業:日本創発グループ 譲り受け企業:スマイル | 譲り受け企業:商材ラインナップの充実等 | 手法:株式譲渡 結果:スマイルの完全子会社化[5] |
2018年11月 | 譲渡企業:103R 譲り受け企業:富士山マガジンサービス | 譲り受け企業:雑誌のデジタル化等の加速 | 手法:第三者割当増資 結果:議決権比率が 77.1%に 取得価額:40.5 百万円[6] |
2017年8月 | 譲渡企業:シフトワン 譲り受け企業:GMO アドパートナーズ | 譲り受け企業:動画広告分野におけるクリエイティブ制作の強化 | 手法:株式譲渡 結果:シフトワンの完全子会社化[7] |
[1]一般印刷市場に関する調査を実施(2020年) (矢野経済研究所)
[2]「2021年インターネット広告媒体費」解説 (ウェブ電通報)
[3]2021年の出版市場(公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所)
[4]第162回 出版業界 ― 継続する市場縮小と異業種プレーヤーの参入 (マールオンライン)
[5]スマイルの株式取得 (日本創発グループ)
[6]103Rの株式の取得(子会社化) (富士山マガジンサービス)
[7]シフトワンの株式取得(子会社化)(GMOアドパートナーズ)
M&Aサクシードで成約した事例
印刷・広告・出版業に関連する業界でも成約が生まれています。
- 広告・web制作・コンサル事業
- 業種
- 印刷・広告・出版業
- 地域
- 関東地方
- 売上高
- 1億円~2億5,000万円
- 受託開発・制作業
- 業種
- IT、WEB、通信業
- 地域
- 関東地方
- 売上高
- 2億5,000万円~5億円
印刷・広告・出版業のM&A案件一覧
M&Aサクシードに掲載されている印刷・広告・出版業のM&A売却・事業承継案件のうち、企業様に許可をいただいた一部案件の基本情報のみを掲載しています。会員登録(無料)すると全ての売却案件情報が閲覧できます。
印刷・広告・出版業に関連する記事一覧
印刷・広告・出版業に関連するM&A記事をご紹介しています。
印刷会社のM&Aの動向と事例15選、取引手法【最新版】
印刷需要の低迷により印刷業界は大きな変革期を迎え、印刷会社の間ではM&Aによる事業変革・事業承継の動きが広がっています。印刷業界の現状と印刷会社のM&Aの動向、取引手法、近年の事例を詳しく解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)
印刷会社の売却動向やメリット、近年の事例をくわしく解説
市場規模が縮小するなか、印刷業界ではM&A・会社売却により現状打開を図る動きが活発化しています。印刷業界の課題と現状打開の動き、印刷会社の売却動向、売却のメリット、最新の売却事例を解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)
出版業の売却・M&A動向と事例12選
出版市場が縮小しデジタル化の圧力が高まるなか、中小規模の出版社による売却が活発に行われています。出版業界の現況と出版業売却のメリット、売却動向、近年の売却・M&A事例などをくわしく解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)
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