建設業界(建設、土木、工事など)では主に人材獲得や業界再編を狙ったM&Aが活発です。M&Aにより譲渡企業は「後継者不足の解消」、譲受企業は「専門人材の獲得」などのメリットを得られます。
建設業界のM&A・事業承継の動向と事例
建設、土木、工事業界の現況
定義
この業界はゼネコンや建設工事全般に関する事業所が該当します。主に以下の業種が含まれます。
業種 |
詳細 |
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建設工事・ゼネコン |
建設工事・ゼネコン、建築設計 |
土木工事・造園 |
土木工事・造園、土木設計 |
電気・通信工事 |
電気工事、通信工事 |
管工事 |
管工事 |
設備・職別工事 |
機械器具設置工事、空調設備工事、鉄骨・鉄筋加工・工事、石工・ブロック工事、プラント工事、ガラス・サッシ加工設置 |
塗装・リフォーム |
内装工事・内装リフォーム、塗装工事 |
戸建住宅建設 |
防水工事・屋根工事・外構工事 |
製造・販売・リース |
生コン・コンクリート2次製品製造、建材製造・販売、建機・建設設備・リース |
調査・点検・測量 |
地盤調査・地盤改良、附帯設備の検査・点検、測量 |
その他工事 |
その他工事 |
市場規模・環境
2021年度の建設投資は62兆6,500億円の見通し[1]で、前年度比で2.9%増となりました。
2017年度から2021年度の推移は下記のとおりで、ほぼ横ばいで推移しています。
内訳を見てみますと、建築投資はやや減少傾向、土木投資はやや増加傾向の結果として横ばいになっています。
出典:建設投資見通し(国土交通省)を基に弊社作成
業界の課題・展望
建設、土木、工事業界における課題は主に下記の2点が挙げられます。
- 業界の下請構造
- 人材不足
業界の下請構造
この業界の大きな特徴は巨大な下請構造となっていることです。
ゼネコンが一つの建設案件を受注した際、実際に工事を行う下請業者に仕事を発注していきます。
工事の種類によって下請けする業者が細分化されていき、4次下請け、5次下請けとなることもあります。
建設、土木、工事業界は中小事業者が多く、下請けになればなるほど交渉力を失い、利益率が低下し、仕事が少なくなれば倒産リスクが高まります。
人材不足
建設業における技能者の1/3は55歳以上となっており、他業種と比べて高齢化が進んでいます。[2]
専門人材の不足が他業種よりも深刻で、約70%の建設事業者が専門人材の不足を認識しています。[3]
以上のような課題を解決する一つの方法としてM&Aが挙げられます。
垂直統合による下請構造の解消、人材獲得を目的としたM&Aの実施などが進むことで、より利益率の高い業界になれる可能性があります。
業界の利益率が高まれば、給料やボーナスも増えるなど職業としての魅力も高まります。
建設、土木、工事業界のM&A動向
M&Aの件数・規模
M&A Onlineの集計によると、2021年における建設業全体のM&A件数は50件でした[4]。
2017〜2021年までの件数は以下のとおり推移しています。[4][5]
出典:「建設業界」M&A取引金額が過去最高に(M&A Online)、M&Aの主役交代!? 「製造業」が「サービス業」にトップの座を譲る(M&A Online)を基に弊社作成
2022年は建設業界の大型M&Aが相次いでおり、半年経過時点ですでに過去10年間で過去最高の取引高を更新しています。[4]
M&Aが行われている背景
建設、土木、工事業界では主に以下の目的・戦略でM&Aが活用されています。
- 専門人材の獲得
- 後継者不足の解消
- 垂直統合によるコスト削減メリットの享受
- 多種多様な工事に対応することができるなど自社商材の増加
- 対応可能エリアの拡大
M&Aの成功可能性を高めるポイント
譲渡企業が重視すべき要素
- 有資格者の育成、技術力の向上を図る
- 老朽化している建設機械や車両等を最新のものにしておく
- 元請比率を高める
- 長時間労働や残業代未払いなどの労務問題を解決しておく
- 粉飾決算などの会計上の問題点を解決しておく
- 業績が伸びているタイミングで会社・事業を売却する
- 条件に優先順位をつけた上で交渉に臨む
譲り受け企業が重視すべき要素
- 建設業許可を円滑に引き継ぐために、条件を満たしているかをあらかじめ確認しておく
- 有資格者や優れた技術力を有する譲渡企業を選定する
- 譲渡企業と真摯な態度で交渉し、円滑に取引先や従業員を引き継げるようにする
- 設備や車両等の買い替えコストも踏まえた上で買収する
- 財務状況だけでなく、人材の質やビジネスモデルなども考慮してバリュエーションを行う
- 元請比率を確認する
- 譲渡企業の経営者がM&Aに伴いリタイアする場合、経営管理責任者を確保できるかを検討する
- 粉飾決算や労務問題の有無を精査する
建設、土木、工事業界でM&Aを行うメリット・デメリット
メリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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デメリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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建設、土木、工事業界のM&A事例・インタビュー
主な有名事例
M&Aが行われた時期 |
譲渡企業・譲受企業の概要 |
M&Aの目的・背景 |
M&Aの手法・成約 |
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2022年1月 |
譲渡企業:西武建設 譲り受け企業:ミライト・ホールディングス |
譲り受け企業:通信、建築等を複合的に組み合わせる未来の街づくり事業等の加速 |
手法:株式譲渡 結果:ミライト・ホールディングスが西武建設の株式95%を取得 取得価額:620億円[6] |
2022年3月 |
譲渡企業:日本道路 譲り受け企業:清水建設 |
譲り受け企業:協業による受注拡大、事業競争力アップ、人材の相互交流などのシナジー効果 |
手法:株式譲渡 結果:清水建設が日本道路の株式50.1%を取得 取得価額:222億円[7] |
2022年3月 |
譲渡企業:大豊建設 譲り受け企業:麻生 |
譲り受け企業:既存構造物の維持・修繕事業への進出、減災分野での協業 |
手法:第三者割当増資 結果:麻生が大豊建設の株式50.74%を取得 取得価額:403億円[8] |
[1] 建設投資見通し(国土交通省)
[2] 建設業の人材確保・育成に向けて(国土交通省)
[3] 専門人材の不足(内閣府)
[4] 「建設業界」M&A取引金額が過去最高に(M&A Online)
[5] M&Aの主役交代!? 「製造業」が「サービス業」にトップの座を譲る(M&A Online)
[6] 西武建設の子会社化(ミライト・ホールディングス)
[7] 日本道路への公開買付けの結果(清水建設)
[8] 麻生が大豊建設を子会社化(日経新聞)