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鹿児島市に本社をおく西原商会は、業務用食品卸を中核とした「食」の総合会社です。西原商会は、2020年10月に、管理栄養士・栄養士向け応援サイト「Eatreat」を譲り受けました。コロナ禍の影響もあり、解散の瀬戸際に追い込まれていたEatreatは、M&Aによって息を吹き返します。西原商会のグループに入ったことで、新たな取り組みを開始するなど、西原商会の既存事業とのシナジー効果をすでに出しはじめています。逆境においてスピーディーに変化する企業の姿をたどります。株式会社西原商会 代表取締役社長 西原 一将 氏とEatreat株式会社 COO 近藤 隆 氏に話を聞きます。(2021年8月公開)
コロナ禍の逆境を力に変える
――「Eatreat」は管理栄養士・栄養士のためのプラットフォームですね。
Eatreat 近藤 管理栄養士・栄養士の皆さんと企業を仕事でつなぐためのプラットフォームです。管理栄養士は国家資格ですが、お医者さんのように業務独占ではなく、病院や企業など様々な場所で活動しています。逆に言うと、どこで何をしているかがあまり認知されないままできてしまった、ある意味で不遇な国家資格が管理栄養士なのではないかと思います。
病人への指導や健康な人への予防もできる。そんな重要な人々が十分に活躍できていないのが、今の日本社会だと思います。その課題を解決するために、「管理栄養士・栄養士が活躍できる場を広げる」をミッションに掲げ、管理栄養士・栄養士と食と健康に関連する事業者をつなぐプラットフォーム「Eatreat」を社内ベンチャーとして2016年に立ち上げました。
まず管理栄養士・栄養士と仕事をすると、企業側に多くの付加価値が付くことを知ってもらう。次に企業から仕事依頼をいただく。そこで発生した報酬を管理栄養士・栄養士にお支払いする。「Eatreat」は、管理栄養士・栄養士と企業の「出会いの場」を作り、「出会いの場」を取り持つ仲介者という位置付けです。企業向けサービスとして、管理栄養士・栄養士へのマーケティング調査、管理栄養士・栄養士による企業へのメニュー開発なども実施しています。現在、管理栄養士・栄養士の会員が6,500人。栄養などに関心ある一般の方も含めると21,000人。会員は加速度的に増えています。会員には、栄養価計算ソフトやコラム、セミナーなどを通じて、有益な情報を提供しています。
――西原様はEatreat様のどこに魅力を感じたのですか?
西原 これだけ多くの管理栄養士・栄養士がひとところに集まっているのがまず驚きでした。ビジネスとしての関心よりも、この集団にアクセスできるサイトがあることに惹かれました。一般的に管理栄養士・栄養士は病院や介護施設などの各施設に一人しかいません。集団が実感できない業界なんです。だから、近藤さんとの初めての面談では、シナジー効果といった具体的な話は一切しませんでした。
近藤 「Eatreat」に対する西原さんの第一声が「面白い!」でした。きっと私たちの理念を理解してくださっているのだと感じました。経営的には赤字だったこともあり、他の譲り受け候補企業の質問は、回収の見通しなどのビジネス的なものばかりでした。「社員、管理栄養士・栄養士さん全員を引き受けるよ」の言葉を西原さんから聞いた時、本当にありがたく感じました。
――一緒になるまでのやり取りの中で印象に残ったことを教えてください。
近藤 当時の親会社がコロナの影響を受け、赤字だったEatreatを早く切り離したいと考えていました。そのため面談時に「早めにクロージング(成約の最終手続き)してほしい」と無理なお願いをしたところ、西原さんは快く了解してくれました。「一言二言でも気持ちが伝わる経営者だ。一緒に仕事をしたい」と、その瞬間に思いました。
西原 今回のM&Aはコロナだからこそ出てきた案件と言えます。親会社様の状況も理解できたので、僕たちもできるだけ早く動きました。長々と時間をかけてしまうと気持ちが萎えてしまうので。
M&Aサクシードならではのスピード感、業界を超えた組み合わせ
――「食」と「管理栄養士×IT」。業種、業態の違いを超えたM&Aが実現したのはなぜでしょうか?
西原 一般的なM&A仲介会社は、同じ業界内でのシナジー効果という目線でM&Aを提案してきます。Eatreatへの提案は、ほとんどIT系やWeb系だったようです。そうすると、閲覧数や顧客数といった数量だけの価値判断になってしまいがちです。逆に西原商会だったら、食品メーカーを持ってくるでしょう。それでは「面白い」展開は期待できません。予定調和の範囲内で終わってしまう。利益や売り上げ以上の価値や広がりをEatreatに見出したから、今回のM&Aが成立したのです。
M&AサクシードでEatreatを見つけた時、「管理栄養士×IT」という将来性の高いパートナーだと直感しました。すぐにコンタクトして、その後スピーディーに交渉は進みました。M&AサクシードはM&A業界のAmazonのような存在だと思うんです。多種多様な業種・業態・規模の会社が掲載されていて、興味がある事業や会社の概要をサイト上ですぐに知ることができて、かつ、すぐに連絡できる。本流でない業界や思いつかない業界と出会えるところが大きな魅力です。
――西原商会グループの一員になってどんな変化がありましたか?
近藤 風が変わりました。オーナーが変わるとこんなにも違うのか、と驚いています。何よりも社員の雰囲気が非常によくなったことがうれしいですね。大きな方針は指示されますが、それ以外は自由にやらせてもらっています。一緒になってまだ1年弱ですが、西原商会のこれまでの実績や安心できる企業体質がシナジー効果となって、大手食品会社のマーケティングプロジェクトや地域自治体の案件を任せていただくことができました。1年前倒しで目標達成ができそうです。いいことづくめです(笑)。
西原商会との人の行き来もプラスに働いています。すでに数名が来てくださっていて、当初は西原さんの直感で派遣するメンバーを選んでいるように思ったのですが、数カ月間一緒に働いてみると、きちんと計算された人選だと理解できました。忙しくなってきた頃に一人、そして次の一人というように、様子を見ながら支援してくれています。
我慢せずに、オーナーチェンジ。M&Aは未来への選択肢
――西原様が「M&A経営」を続ける理由を教えてください。
西原 これまで過去10年間で25件、コロナ禍でも5件のM&A実績がありますが、実はM&Aに積極的というわけではないんですよ。でも、M&Aの魅力のひとつは、「仕事に飽きない」ことにあります。既存の事業ばかりだと、やっているうちに煮詰まってしまう。いろいろな方とお会いし、刺激を受け、広がりを作り、新しい目線ややり方を知る。「M&A経営」は新たな事業を生むだけでなく、既存事業を伸ばすことにも役立っています。
――会社や事業を譲渡することを検討中の経営者の方にメッセージをお願いします。
近藤 「我慢せずに、オーナーチェンジ」。今回、コロナで親会社の計画から外れてしまい、事業を閉じないといけない瀬戸際まで追い詰められました。しかし、自分たちの理念を理解してくれるパートナー企業がいれば、まだまだ成長していけることを、西原商会グループに入ってみて実感しました。経営者は資本提携や新しいパートナーを見つける選択肢を持っておくべきだと思います。「思い切ってチャレンジしてほしい」と伝えたいですね。
――西原様は「1,000億よりも目指したい未来がある」と会社案内でおっしゃっています。
西原 「売れるためよりも面白いことを」。経営者のエゴではなく、社員全員が面白いと思うことを実行する会社にしたい。「M&A経営」も同じです。経営層がポンと決めた譲り受けに対しては、経理部や人事部が「またか」「仕事増えていやだな」となりがちかもしれません。でも西原商会では、そうではなくて、関係する部署の皆が新しい会社や事業が増えることを毎回面白がってくれています。フレンドリーに楽しくやれること、それが僕たちのスペシャリティなんです。