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富山県に拠点を置き、各種販促物や書籍等の企画から印刷までを手がけている株式会社アヤト。元社長の綾藤 隆氏が高齢であることから、第三者への事業譲渡を検討されました。金融機関に相談したところ、紹介されたコンサルティング会社経由で出会ったのが、福井県に本社がある一般商業印刷業を主軸に運営されているスキット株式会社です。お互いにどのような魅力を感じたのか、綾藤 隆氏とスキット代表取締役の田村 美津雄氏にお話を伺いました。(2020年11月公開)
3代にわたって家族で継承してきた会社を第三者へ譲渡
――アヤトの事業内容と事業譲渡を検討した背景について教えてください。
綾藤(アヤト) アヤトは1954年に創業した、販促宣伝品や書籍定期刊行物、伝票などの企画から印刷までをトータルで手がけている会社です。創業以来、富山県に根ざし、地元の企業や行政、病院などさまざまなお客様のニーズに応えるためのクリエイティブワークをしています。
会社は私の祖父が創業し、父、私と3代にわたって経営を受け継いできましたが、約2年前に妻から「そろそろ後任を考えたらどうか」と言われたことをきっかけに、後継者を探し始めました。
まず息子に話をすると東京日本橋の金融機関に勤めていることもあって、継ぐ気持ちはないとのこと。次に、社内継承を検討してナンバーツーに「会社を受け継いで欲しい」という打診をし、家族との相談の時間も含めて4ヶ月ほど検討してもらったのですが、結果的に良いお返事をもらえませんでした。
そこで、株主総会や取締役会、社員に「第三者の後継者を考えていきたい」と話し、日頃から取引をしている金融機関に相談したところ、石川県金沢市内にあるコンサルティング会社を紹介いただきました。
その前から、M&Aコンサルティング会社のセミナーに3〜4回参加して勉強をしたり、息子から送られてきたM&Aに関する資料も読んだりして、知識は身につけるようにしていました。
――代々家族で継承してきた会社を第三者に継ぐことに、抵抗や葛藤はありませんでしたか?
綾藤 それはまったくありませんでした。事業承継で一番大切なのは、社員の永続的な雇用です。買い手企業とアヤト、それぞれの強みをコラボレーションさせながら、シナジーを出せたらいいなと思っていたので、今回アヤトとしてはすごく良い買い手企業に選んでもらったと思っています。
初めてスキットの田村社長にお会いしたとき、47歳と若く、バイタリティあふれるイメージを持てたので、新しい発想でアヤトを引き継いで欲しいと素直に思いましたよ。
M&Aでグループ会社を増やすことが成長戦略
――スキットは今回が初めてのM&Aとのことですが、M&Aを検討した理由について教えてください。
田村(スキット) スキットは、福井県を本社に、東京、大阪、福岡に拠点を持つ一般商業印刷会社です。M&Aを意識し始めたのは、2019年の春。
売り上げを今以上に確保しようと思っても、営業のスペシャリストが1人で1億円を稼ぐのは難しいし、ホームページが24時間365日稼働しているものの、そこから1億円の売り上げを見込むのも難しい。だから、M&Aでグループ会社を増やす選択肢は必要だと考えていました。
――M&Aサクシードはどのようなきっかけで使い始めたのでしょうか?
田村 M&A自体が初めてで、どのような専門会社があるのかもわからなかったので、メルマガや広告などで知り得た情報から、手当たり次第に登録しました。そのなかでたまたま見つけたのが、M&Aサクシードです。
いろんなサイトや仲介会社と連絡をとる中で、M&Aサクシードは情報量も多くわかりやすかったので、使っていました。
また、インターネットだけで完結するのではなく、担当営業の方から何度も電話をいただき、東京に出張したときはお会いできたりして、ドライなサービスではなかったのが特徴的でした。インターネットの場合、相手とのやりとりの資料も郵送ではなくネットで完結しますし、デューデリジェンスもデジタル資料だったので、便利でした。
――アヤトのどんな点に魅力を感じましたか?また、会ってみての印象はどうだったでしょうか?
田村 スキットのお客様は同業種がほとんどで、印刷会社やデザイン事務所、広告代理店の仕事が多いのが特徴です。一方アヤトは、地元の公共の仕事をたくさん手がけていました。お客様層が違うからシナジーを出せるのではないかと、お会いする前から魅力を感じていました。
しかも、福井の事務所からアヤトまでは車で1時間半程度なので、県は違っても近い印象がありましたね。
実際にお会いしたときは、アヤトは、ベテラン社員も多く、私が入り新しい環境を受け入れられるかが少し不安に感じつつも、メンター(指導)をされている現場の方が私と近い年齢層だったので、そういう人たちの意識次第で変わるんじゃないかというワクワク感もありました。
平均勤続年数24年のアヤトを受け継ぐ
――M&Aをするにあたって気をつけたことや、大切にしたことはありましたか?
綾藤 私は自然体で進めていきました。社員には最初から第三者にお譲りすることを事業計画にも載せていたし、情報はオープンにしていたから理解は得られていたと思います。
それから、私は富山県の小矢部青年会議所を立ち上げたなかの一人ですが、田村さんも福井青年会議所の会員であったので、その面でも同じ仲間という意識を持てたのは良かったと思っています。
田村 先日ハローワークへ求人登録に行って気づいたのは、アヤトの社員の平均在籍年数が24年ということです。24年もずっと仕事を続けられるのは良い会社である証拠だし、それだけ居心地がいい、働きやすい会社だということを感じました。スキットの社員からは、手堅い社長が動くのであれば勝算あってのことだろうし、自分たちに協力できることなら何でも言ってくださいと言ってもらっているのでありがたいですね。
アヤト式スキットを作って、未来につなげたい
――現在は引き継ぎをされている最中だと伺いました。
田村 週の半分をアヤトで過ごし、アヤト式スキットが作れたらいいなと思っているところです。たとえば、社内組織図を明確にしたり、暗黙の了解だったいろんなルールを明文化したり。アヤトの幹部に私の経営哲学を共有し、私もアヤトを深く理解するなど、アヤトとスキットを融合させています。
先日、アヤトの社員から「スピードが早くてちょっと大変だよ」と言われたのですが、それは変化という成長を本人たちが実感してくれている証拠なので、継続して会社を変化させていきたいと思っています。
綾藤 変革は大切なこと。私は田村新社長のカラーに社員を染めてほしいと思っていますし、田村さんにもお願いしています。もちろん、社員それぞれに不安な気持ちはあるかもしれませんが、新社長に素直についていくことで、双方のいいとこ取りができれば、数年後に良い結果になると信じています。
――今後の展望について教えてください。
田村 今は週の半分をアヤトで過ごしていますが、良い流れができてきたら、アヤトにいる日を週1日、月1日に減らし、次のグループ会社や提携先を探しに行くのが私の役割です。緊急事態があったときに提携できるグループ会社は各地にあったほうがいいので、印刷会社だけでなく、同業種や生産できる設備を太平洋側に広げていきたいです。
アヤトについては、地域に愛される特徴ある会社だということを社員みんなに自覚してもらって、その得意な仕事をもっと増やすことで今以上にお客様に喜ばれる会社にするのが、使命だと感じています。
そして目指すのは「人づくり」です。グループ会社を増やしながら、それぞれの企業を経営できるような経営人材を育てたい。私がいなくなっても自走し続けられるような組織体を作りたいと思っています。
――M&Aを検討されている方へのメッセージをお願いします。
綾藤 M&Aは今日明日でできることではなく、数ヶ月の場合もあれば2〜3年かかるケースもあると思います。だから、後継者に悩んでいたり、事業を譲渡したいと考えていたりするならば、まずは一歩踏み出すことが大切です。
そのためには、家族や友人に相談する、コンサルタントや税理士に相談する、M&Aに関する書籍を読むといったところから始めてもいいと思いますが、とにかく早く動き出した方が良いと思います。
その上で、自力で探すのは難しいと思えたら、私のようにプロの力を借りるのがいいでしょう。会社ごとに環境や思いが違うのは当然で、結婚と同じように自分だけの意思で決めることはできません。本当に相性のいい企業を見つけるためにも、一歩踏み出してプロに相談することをお勧めしたいです。