IT業界における厳選した56例のM&Aについて、「2021年の最新事例」や「システム開発分野」などのジャンルに分けて解説します。
事例では売り手・買い手企業の特徴やM&Aの手法、売買価格を紹介します。(中小企業診断士 鈴木裕太 監修)
はじめに、2021年に実施された最新のM&A事例を11例厳選し、M&Aの目的や用いられた手法を紹介します。
なお今回の記事では、資本提携も広義の意味でのM&Aに含めて各事例を解説します。
楽天は、Eコマースや旅行、金融などを含む70以上のサービスを展開する多角化企業です。
日本郵政は、全国を網羅する郵便局や物流のネットワークを基盤に、郵便や銀行、保険などの事業を運営する会社です。
両社は、物流やDX、モバイルなどさまざまな領域での連携を強化する目的で資本業務提携を実施しています。
日本郵便が有する全国的な物流網や荷量データ、楽天が有する物流領域における受注データの運用ノウハウを相互活用することで、物流、DX、モバイルの領域で大きなシナジー効果を期待できるとのことです。
業務提携の具体的な内容は以下のとおりです。[1]
本件のM&Aは、上記の業務提携に加えて、日本郵政が楽天の第三者割当増資を引き受ける形で行われました。
第三者割当増資の具体的な内容は以下のとおりです。[2]
ビーイングは、建設業向けに土木積算ソフトの販売を行う企業です。
買い手となったトゥルースは、ビーイングの会長である津田氏が代表を務める会社であり、ビーイング社の株式取得および保有を事業内容としています。
本件のM&Aは、MBO(マネジメント・バイアウト)による非公開化を目的に行われました。
同社は、土木積算分野に依存した事業構造を課題としていました。
事業構造の変革には、短期的に財務上の負担となる可能性がある施策への戦略的な投資が必要であり、それにより株価の下落などの悪影響が生じることが懸念されていました。
そこで津田氏は、中長期的な利益につながる戦略を遂行する目的で、TOBによる株式の非公開化を実施しました。[3]
本件のM&Aでは、TOB(公開買付け)の手法が用いられました。
TOBの具体的な概要は以下のとおりです。[4]
Zaif Holdingsは、暗号資産の取引所運営や暗号資産の取引所運営に関するシステム開発・販売などを行う企業です。
CAICAは、金融分野のシステム開発を主力事業とするIT企業です。
M&Aを行う以前から、売り手のZaif HDはCAICAの持分法適用関連会社であり、資金協力を受けていました。
しかし暗号資産市場が活発化している昨今において、持分法適用関連会社の状態では迅速な経営判断やシナジー効果の発揮が困難でした。
そこでCAICAは、迅速な経営判断を可能とする目的で、買収によりZaif HDの子会社化を実行したのです。
本件M&Aにより、CAICAが有するシステム構築能力や金融機能(eワラント証券)を最大限投入し、Zaif HDのポテンシャルを最大限生かすことが期待できるとのことです。
2021年3月15日、株式譲渡と第三者割当増資の手法を活用することでM&Aが行われました。
株式取得の総額は約37億円でした。[5]
マーベリックは、スマートフォン向け広告配信システムの開発・運用を主力事業とする企業です。
駅探は、経路検索サービスなどを提供するIT企業です。
駅探は、以下4つの目的でマーベリックのスマートフォン向け広告事業を買収しました。
本件のM&Aにより、同社サービスである「駅探ドットコム」の収益拡大や、経路検索を行ったユーザーのデータ活用などが期待できるとしています。
今回のM&Aは、新設分割と株式譲渡を組み合わせたスキームで実施されました。
具体的なM&Aの流れは以下のとおりです。
株式譲渡の実行日は2021年4月1日、取得価額は7億8,000万円でした。[6]
レフトキャピタルは、アロートラストシステムズを傘下に抱える持株会社です。
アロートラストシステムズは、金融や流通、製造など幅広い業界に対してシステム開発のサービスを提供してきたIT企業です。
ビーネックスグループは、技術者派遣事業や組込み開発などの事業を展開するIT企業です。
ビーネックスグループは、顧客基盤の開拓を目的にレフトキャピタルの買収を行いました。
アロートラストシステムズがグループ会社になることで、採用したエンジニアに対して、新たなスキルアップの選択肢の提供が可能になることが見込めます。
また、売り手企業はビーネックスグループの採用基盤を活用することで、安定的なエンジニアの採用が可能になるとのことです。
2021年1月6日、レフトキャピタルが全ての株式をビーネックスグループに売却するスキームでM&Aが行われました。
株式の取得価額は13億3,500万円でした。[7]
ヒューマンソフトは、金融や通信、広告など幅広い業界に対してシステム開発のサービスを提供する企業です。
アクシスは、システムインテグレーション事業とクラウドサービス事業を運営するシステム開発会社です。
アクシスは、人員体制の強化を目的にヒューマンソフトの買収を実施しました。
売り手のヒューマンソフトはアクシスの傘下に入ることで、経営基盤の強化や取引先の拡大等により、利益率の向上と事業のさらなる成長を実現できる見込みです。
2021年4月1日に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームが活用されました。
株式の取得価額は4億1,500万円であり、会社売却により売り手は買い手企業の子会社となりました。[8]
売却対象のエイチアイは、アートスパークホールディングスの連結孫会社でした。
事業の内容は、受託のシステム開発が中心でした。
ミックウェアは、カーナビや車載ソフトウェアの開発を行う企業です。
買い手側は、車載ソフトウェア開発事業のさらなる強化・発展を目的に買収を実施しました。
高度な組込系技術開発力を持つエイチアイを買収することで、付加価値の高い新規サービスを提供できるとしています。[9]
一方で売り手のアートスパークホールディングスは、「クリエイターサポート事業」と「UI/UX 事業」において自社製品を中心とした売上獲得に注力する方針を立てていました。
そこで新たな経営方針に注力する目的で、方針と異なる事業(受託開発)を行っていたエイチアイを売却したのです。
2021年3月1日、アートスパークホールディングスがエイチアイの全株式を売却することでM&Aが成立しました。
株式の売却価額は4億5,000万円。
売却価額は、純資産価額方式と収益還元方式により算出した株主価値を基準に決定されました。
モブキャストゲームズは、ゲームやデジタルコンテンツのプロデュース事業を行う会社です。
でらゲーは、スマートフォンゲームの企画や開発・運営、映像制作などを行う企業です。
モブキャストゲームズは、売却対象となったゲームタイトル(キングダム)の損失を解消する目的でM&Aを行いました。
これまで同社は、スポーツ系ゲームタイトルの一部を譲渡するなど選択と集中を進めており、本件もその一環であると言えます。
本件のM&Aでは、モブキャストが有していたゲームタイトルのみが売却対象となりました。
損失の解消が目的であったため、売却価額は0円です。[11]
アドバンスドナレッジ研究所は、熱流体解析ソフトウェアの開発や、気流・温熱環境解析に関するコンサルティングが主力事業である企業です。
土木管理総合試験所は、土質・地質調査試験や非破壊調査試験などのサービスを建設業界向けに提供する企業です。
近年建設業界では、省エネと快適性に関するシミュレーションを設計側に求めるケースが増加しています。
その影響で、設計の早期段階で熱流体シミュレーションを活用した建築環境の検討考察が必須となりつつあります。
建設業界でのシミュレーション技術活用は今後も拡大すると見込まれることから、買い手は企業価値の向上を目的にアドバンスドナレッジ研究所の買収を実行しました。
2021年1月18日に実施されたM&Aでは、売り手が株式の全部を売却するスキームが用いられました。
株式の売却価額は非公表です。[12]
SQA Holdco Pty Ltdは、Planit Test Management Solutions Pty Ltd(Planit社)の持株会社であり、オーストラリアのシドニーに本店所在地があります。
Planit社は、ITテスティングの専⾨家集団として、「ITシステムの品質向上に関するコンサルティング」や「テスト⼯程の実⾏⽀援」、「テスト⾃動化ツールの提供」などのサービスを提供しています。
野村総合研究所は、コンサルティングや金融ITソリューションなどのサービスを提供する企業です。
野村総合研究所は、長期経営ビジョンでグローバル事業の拡大を掲げています。
本件のM&Aも、グローバル事業の拡大を目的に実施されます。
SQA Holdco Pty Ltdを買収することで、野村総合研究所はPlanit社が持っている独⾃のノウハウ・サービス、顧客基盤を獲得する予定です。
Planit社の経営資源を有効活用し、オセアニア地域でのさらなる事業拡大を目指すとのことです。
野村総合研究所は、現地の子会社を通じて2021年4月末までに株式取得によるM&Aを行う予定です。
取得価額は非公開です。[13]
クレシードは、中堅・中小企業の情報システムパートナーとして、情報システム分野における業務支援やwebサイトの運用代行などの事業を行う会社です。
テリロジーは、サイバーセキュリティ対策や脆弱性診断などのサービスや、RPAツールの開発・提供を行うIT企業です。
テリロジーは、企業価値の向上を目的にクレシードの買収を行いました。
クレシードを買収することで、下記のシナジー効果を期待できるとしています。
2021年3月29日、テリロジーはクレシードから90%に相当する議決権(株式)を取得しました。
株式の売買価額は非公表です。[14]
[1] 日本郵政グループと楽天グループ、資本・業務提携に合意(楽天)
[2] 第三者割当による新株式の発行及び自己株式の処分の一部払込完了のお知らせ(楽天)
[3] MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ(ビーイング)
[4] 有限会社トゥルースによる当社株式に対する公開買付けの結果並びに親会社、その他の関係会社及び主要株主の異動に関するお知らせ(ビーイング)
[5] 子会社の異動を伴う株式の取得及びライツ・オファリング(ノンコミットメント型 /上場型新株予約権の無償割当て)により調達した資金の使途変更に関するお知らせ(CAICA)
[6] 株式譲渡契約締結(子会社の取得)に関するお知らせ(駅探)
[7] 株式会社レフトキャピタルの株式取得に関するお知らせ(ビーネックスグループ)
[8] 株式会社ヒューマンソフトの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(アクシス)
[9] ミックウェアが株式会社エイチアイを買収・完全子会社化(ミックウェア)
[10] 連結孫会社(特定孫会社)の異動(孫会社株式の譲渡)及び特別利益の計上に関するお知らせ(アートスパークホールディングス)
[11] 連結子会社のゲームタイトル譲渡に関するお知らせ(モブキャストホールディングス)
[12] 株式会社アドバンスドナレッジ研究所の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(土木管理総合試験所)
[13] Planit Test Management Solutions Pty Ltd の持株会社である SQA Holdco Pty Ltd の株式取得(⼦会社化)に向けた 契約締結のお知らせ(野村総合研究所)
[14] クレシード株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(テリロジー)
この章では、大手のIT企業が当事者となった10例のM&Aについて、目的や手法をご説明します。
NTTドコモは、携帯電話の通信事業を行う企業です。
NTT(日本電信電話)は、NTT東日本やNTTコミュニケーションズ、NTTデータなどから構成されるNTTグループの親会社です。
NTTがNTTドコモを買収した背景には、携帯電話市場における成長が鈍化している現状がありました。
KDDIやソフトバンクから顧客を奪われたことで、市場シェアは37%まで低下しました。
また、5Gの分野では中国のファーウェイが市場を席巻したことで大きく出遅れました。
そこでNTTは、携帯通信市場における世界での主導権を再び確立する目的で、ドコモを完全子会社化したと言われています。[15]
NTTはTOB(公開買付け)のスキームにより、NTTドコモの株式取得比率を66.21%から91.46%(自己株式などを除く)まで高めることに成功しました。
TOBは2020年9月30にちから11月16日まで行われ、買い付け総額は約4兆2500億円にのぼります。
なお残りの株式に関しては、株式売渡請求により強制的に取得しました。
この買収でNTTドコモはNTTの完全子会社となり、上場廃止となりました。[16]
インスタグラムは、写真共有サービス「Instagram」を運営するアメリカの企業です。
フェイスブックは、SNSツール「Facebook」を運営する企業です。
フェイスブックは、モバイル分野での存在感の強化と競合の排除を目的にインスタグラムを買収したと言われています。
当時インスタグラムは、2年弱の期間で3,000万人のユーザーを獲得している大人気サービスでした。
そんなサービスを買収することで、Facebookは将来的に強力な競合となり得る会社を排除することに成功したのです。[17]
フェイスブックは、現金と自社株を対価にインスタグラムの買収を行いました。
買収完了日は2012年9月6日、買収金額は約7億3650万ドルでした。[18]
ソラコムは、通信プラットフォーム「SORACOM」を提供するIT企業です。
SORACOMのウェブコンソールやAPIを活用することで、ユーザーは回線やデバイスを一括操作・管理できます。
KDDIは、携帯電話の通信事業(au)を主力事業とする企業です。
KDDIは、IoTプラットフォームの構築を推進する目的でソラコムを買収しました。
KDDIのIoTビジネス基盤と、ソラコムの通信プラットフォームを連携することで、世界で通用するIoTプラットフォームを作るとしています。[19]
2017年8月、株式譲渡の手法を用いてKDDIがソラコムを連結子会社化しました。
KDDIは「200億円から大きく離れた額ではない」と発表していることから、買収価額は約200億円であったと考えられます。[20]
イーブックイニシアティブジャパンは、電子書籍販売サービスの「ebookjapan」を運営する企業です。
ヤフーは、インターネット広告や検索エンジン、Eコマースなどの事業を多角的に展開するIT企業です。
ヤフーは電子書籍事業の強化を目的に、この業界におけるリーディングカンパニーである売り手企業を買収しました。
2016 年9月、ヤフーはTOB(公開買付け)の手法により、イーブックイニシアティブジャパンの子会社化を果たしました。
また、売り手企業からの第三者割当増資も引き受けました。
TOBと第三者割当増資を合計すると、取得価額は約27.7億円にのぼります。[21]
delyは、レシピ動画をユーザーに届ける「クラシル」というサービスを展開する企業です。
買い手となったのは、先ほどご紹介したヤフーです。
ヤフーは、食やレシピが関係する領域において、両社のシナジー創出を実現する目的でM&Aを行いました。
今回のM&Aで売り手のdelyは、ヤフーが有するメディア・コマース事業におけるリソースを活用し、独自性や競争優位性の強化を実現しました。
2018年7月、delyがヤフーに株式の一部を売却することでM&Aは成立しました。
売り手企業は、直近の事業年度(2017年10月期)まで営業損益が赤字でした。
ですが、DCF法で評価した株式価値を用いてバリュエーションを行った結果、最終的な取得価額は約93億円となりました。
クラシルの利用者数増加や両社のM&Aによるシナジー効果などを加味した結果、高値での売却になったのです。[22]
コインチェックは、仮想通貨の取引所サービスを運営するIT企業です。
マネックスグループは、証券や投資助言などのサービスを展開する金融の大手企業です。
当時マネックスグループは、仮想通貨を「個人とお金の付き合い方を大きく変え得る次世代技術・プラットフォーム」として認識し、仮想通貨交換業への参入準備や仮想通貨研究所の設立などを進めていました。
そこで同社は本格的に仮想通貨事業に参入する目的で、この業界の先駆者であるコインチェックを買収しました。
2018年4月、マネックスグループはコインチェックから全株式を取得しました。
取得価額は36億円であり、売り手企業の純資産額をベースに算出されました。[23]
Incrementsは、プログラマ向けの技術情報共有サービス「Qiita」を運営するIT企業として有名です。
エイチームは、人生のイベントや日常生活に密着した比較サイトや、ゲームの企画・開発事業などを運営するIT企業です。
エイチームは、自社で容易に参入できない、または参入に時間のかかる事業を取得する目的でIncrementsとのM&Aを行いました。
2017年12月、Incrementsが全株式をエイチームに売却することでM&Aが成立しました。
株式の売却価額は14億4,600万円であり、DCF法や類似上場企業比較法が基準となって算出されました。[24]
Arcon Informatica S.A.は、ブラジルに本店を置く情報セキュリティー企業です。
日本電気(NEC)は、生体認証やAI、クラウドなど幅広い分野で製品やサービスを提供するIT企業です。
NECは、ブラジルにおける情報セキュリティ対策サービスのシェアを拡大する目的でM&Aを行いました。
アルコンが有する顧客基盤を活用し、この分野で首位のシェアを持つIBMに対抗する狙いです。
2016年8月、NECは現地法人を通じて創業家などから75%のアルコン株式を取得しました。
買収金額は約20億円です。[25]
ARM Holdings plcは、半導体技術の研究・開発を行う企業です。
同社は半導体技術のライセンスをさまざまな企業に提供することで収益を得ています。
ソフトバンクは、携帯電話の通信事業やインターネット広告事業、ファンド事業などを多角的に展開するIT企業です。
ソフトバンクは、ARM社の買収で以下のメリットを得られると発表しました。[26]
2016年9月に成立したM&Aでは、ソフトバンクがARM社の全株式を取得しました。
買収価額は約240億ポンド(約3.3兆円)でした。[27]
REAN Cloud LLC(リーンクラウド社)は、パブリッククラウド(不特定多数の企業・個人で使用するクラウド環境)のサービスを展開する企業です。
日立製作所は、国内有数の総合電機メーカーです。
家電やパソコンなどの製造事業だけでなく、エネルギーやITなどの領域でも事業を展開しています。
日立製作所は、グローバルにクラウド関連サービス事業を拡大する目的でリーンクラウド社とのM&Aを行いました。
本件のM&Aで日立製作所は、リーンクラウド社が持つパブリッククラウドのサービス提供能力を獲得しました。
獲得した能力と日立ヴァンタラ社(米国子会社)のプライベートクラウドを連携することで、さらなる事業拡大を実現しています。[28]
2018年10月、日立ヴァンタラ社を通じてリーンクラウド社の買収を行いました。[29]
買収価額は非公表です。
[15] ドコモ完全子会社化、NTTの狙いは?(日本経済新聞)
[16] NTT、ドコモのTOB成立 上場廃止へ(日本経済新聞)
[17] FacebookがInstagram買収に大金を投じた理由--両社の狙いと写真共有にもたらす影響(CNET Japan)
[18] フェイスブック、インスタグラムの買収完了 独立事業としてサービス継続(日本経済新聞)
[19] 株式会社ソラコムの子会社化について(KDDI)
[20] KDDI、「ソラコム買収に200億円」の執念と5年前の屈辱(日経クロステック)
[21] ヤフー株式会社による当社株券に対する公開買付けの結果、第三者割当による新株式発行、第三者割当による自己株式の処分、並びに親会社及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ(イーブックイニシアティブジャパン)
[22] dely 株式会社の連結子会社化に関するお知らせ(ヤフー)
[23] 株式取得によるコインチェック株式会社の完全子会社化に関するお知らせ(マネックスグループ)
[24] Increments 株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(エイチーム)
[25] NEC、ブラジルの情報セキュリティー大手を買収 20億円(日本経済新聞)
[26] 当社によるARM買収の提案に関するお知らせ(ソフトバンク)
[27] ARM買収(子会社化)の完了に関するお知らせ(ソフトバンク)
[28] 日立ヴァンタラ社がリーンクラウド社を買収(日立製作所)
[29] HitachiVantaraがREANクラウドの買収を完了(日立ヴァンタラ)
IT業界では、個人開発のサービスを売却するM&Aも盛んに行われています。
この章では、個人開発サービスの売却事例を2例紹介します。
「Peing – 質問箱」は、2017年11月にリリースされたWebサービスです。
匿名で質問できる仕組みがヒットし、リリースから1ヶ月で月間2億PVまで急成長しました。
ジラフは、買取価格比較サイト「ヒカカク」を運営するIT企業です。
売り手が事業の売却を決定した理由は、個人でのサービス開発に限界を感じていたからです。
サービスのさらなる成長を目的に、当時急成長していたジラフへの事業売却を行いました。
2017年12月、事業譲渡のスキームでM&Aが行われました。
サービス公開からわずか1ヶ月での事業売却だったので、インターネット上で大きな注目を集めました。
売却金額は非公表です。[30]
俳句てふてふは、株式会社PoliPoliの伊藤代表が開発したサービスです。
俳句を投稿するSNSサービスであり、俳句の投稿や検索を通じて人々がコミュニケーションする場を提供しています。
毎日新聞は、朝日新聞や読売新聞とならんで日本を代表する新聞社です。
本件のM&Aは、以下2つの理由から実施されました。
2018年6月に実施されたM&Aでは事業譲渡のスキームが用いられました。
具体的には、売り手企業が俳句てふてふを毎日新聞に売却しました。
売却金額は非公表です。[31]
[30] 月間2億PVの匿名質問サービス「Peing – 質問箱」を買収(ジラフ)
[31] 毎日新聞社が俳句のSNSアプリ『俳句てふてふ』をPoliPoliから事業譲渡(毎日新聞)
次に、システム開発事業の分野における10例のM&Aについて、活用された手法や目的を解説します。
ALBERTは、ビッグデータ分析やAIアルゴリズム開発などのデータソリューション事業を運営するIT企業です。
KDDIは、前述したソフトバンクやドコモと並ぶ国内を代表する携帯通信会社です。
KDDIとALBERTは、下記の目的で資本業務提携を実施しました。
要点をまとめると、共同開発・販売と、データソリューション領域におけるKDDIの能力向上が目的であると言えます。
2018年12月、両社は以下の内容で資本業務提携の契約を締結しました。
KDDIが取得したALBERT株は発行済み株式総数の3.09%。
株式取得の手法は相対取引(株式譲渡)、取得価額は約14億700万円でした。[32]
ラグザイアは、Ruby On Railsを使ったアプリケーション開発に特化しているIT企業です。
ビーイングは、前述した土木積算ソフトの販売が主力事業であるIT企業です。
ビーイングは、Webアプリケーションの開発力を強化する目的でラグザイアとのM&Aを行いました。
ラグザイアが得意とするRuby On Railsは、Webアプリケーションの開発で定評のある言語です。
そんなラグザイアを買収することで、ビーイングは「Webアプリケーション開発の加速」や「クラウド環境を活かした新商品の開発」を実現するとしています。
ラグザイア株式2,070株のうち、1,940株を株式譲渡、残りの130株を株式交換のスキームでビーイングが取得することでM&Aが成立しました。
株式譲渡は、2019年5月に取得価額1億7,900万円で行われました。
一方で株式交換は、2019年6月にラグザイア株式1株に対して、ビーイング株式123株を割り当てる方法で行われました。
このM&Aにより、ラグザイアはビーイングの完全子会社となっています。[33]
電緑は、通信業や生命保険業などを中心に各種システム開発を手がけるIT企業です。
また近年は、コンサルティング事業やブロックチェーン技術を用いたシステム開発にも取り組んでいます。
クラウドワークスは、クラウドソーシングの事業を展開する企業です。
クラウドワークスは、電緑が持つブロックチェーン技術を取得する目的でM&Aを実施しました。
2017年11月、クラウドワークスはガイアックスから電緑株式の67%を取得しました。
株式の取得価額は6億4,300万円です。[34]
ホープスは、ITコンサルティングやシステム開発、ERP導入支援などの事業を総合的に展開するIT企業です。
SHIFTは、ソフトウェアの品質保証や品質テストを主力事業とする会社です。
SHIFTは、今後も高い市場成長が見込まれるERP関連サービスの強化を目的に、ホープスとのM&Aを実施しました。
ERPシステムの導入・保守に関して豊富なノウハウを持つSHIFTを迎えることで、サービス体制の強化や顧客ポートフォリオの拡大を図るとしています。
一方でホープスは、SHIFTのグループ傘下に入ることで、営業窓口の拡大による販路強化を実現する見込みです。
2020年9月に実施されたM&Aでは、ホープスが全株式をSHIFTに売却しました。
株式の売却価額は30億5,000万円です。[35]
フュージョンアイは、システム開発やクラウドソリューションサービスなどの事業を運営するIT企業です。
トラスト・テック(現ビーネックスグループ)は、技術者派遣・請負などの製造系事業と、ITコンサルティングやシステム開発等の開発系事業を展開する会社です。[36]
トラスト・テックは、IT・ソフト領域の事業拡大を目的にフュージョンアイとのM&Aを実施しました。
フュージョンアイをグループに迎えることで、技術者や顧客の確保による事業基盤の充実化を目指します。
また、トラスト・テックが強みとする採用力とのシナジーにより、IT・ソフト領域でのさらなる業態拡大も期待できます。
2017年3月に行われたM&Aでは、フュージョンアイが全株式を買い手企業に売却し、トラスト・テックの子会社となりました。
株式の売却額は9億6,200万円です。[37]
ミュートスは、製薬企業に特化した営業支援システムの企画や開発・運用を手がけるIT企業です。
ファーマライズHDは、全国317店舗で調剤薬局事業やドラッグストア・コンビニ等の物販事業を展開する企業です。
買い手企業は、医療用ソフトウェア開発の拡大と効率化を目的に売り手企業とのM&Aを実施しました。
また、ミュートスが有するシステム開発やデータ分析等に関するノウハウと、ファーマライズHDが有する商材・情報を活用することで、健康保険制度外事業の拡大も目指すとしています。
2017年6月、ミュートスは全株式をファーマライズHDに売却し、買い手の子会社となりました。
株式の売却価額は3億200万円であり、ミュートスの中期経営計画をベースとしたDCF法によって算出されました。[38]
ヴィオは、大手SIベンダー・メーカーからの受託開発を主力事業とする企業です。
具体的には、金融や流通、官公庁向けのビジネスアプリケーション開発などを行っています。
SAMURAI&J PARTNERSは、データ通信高速化ミドルウェアの開発を主力事業としているIT企業です。
買い手企業は、「IT分野の事業規模拡大」および「効率的なシステム開発体制の構築」を目的にヴィオとのM&Aを実施しました。
またヴィオが有する技術力を取得することで、仮想通貨関連の事業やクラウドファンディング事業において、大きなシナジー効果の発揮を期待できたことも買収の要因です。
2018年1月、SAMURAI&J PARTNERSがヴィオの全株式を取得し、子会社化しました。
株式の取得価額は1億4,000万円(M&Aにかかった1,200万円の費用も含む)です。[39]
筆まめは、年賀状ソフト「筆まめ」や「パーソナル編集長」などのヒット商品を有する老舗パソコンソフトメーカーです。
ソースネクストは、翻訳機の「POCKETALK(ポケトーク)」やスマホコンテンツの提供・販売を行うIT企業です。[40]
本件のM&Aは、両社事業のさらなる発展を目的に実施されました。
ソースネクストは、筆まめの買収にともない下記の施策に取り組んでいくと発表しました。[41]
筆まめが持つ製品の人気・知名度と、ソースネクストが持つ顧客基盤や企画開発力が組み合わさることで、事業面で大きなシナジー効果が発揮されたと考えられます。
2017年5月、筆まめの親会社であるソフトフロントホールディングスとソースネクストのあいだで、筆まめ株式の譲渡が実施されました。
全ての株式が譲渡され、売却額は7億9,900万円でした。[42]
アクティブは、システム開発の受託や情報処理サービスの提供などを行うIT企業です。
クロスキャットは、金融や通信、製造、流通などの幅広い業界に対してシステムソリューションのサービスを提供する会社です。
クロスキャットは、下記2つの目的でアクティブとのM&Aを実施しました。
2020年11月、アクティブはすべての株式を売却し、クロスキャットの子会社となりました。
株式の売却額は4億8,000万円です。[43]
日揮情報システムは、総合エンジニアリング会社である日揮の子会社です。
日揮グループ各社の基幹情報システムの開発・運用・保守や、建設会社や官公庁向けのシステム開発などを主力事業としていました。
富士通は、ソフトウェア・電子デバイス等の製造や、クラウドやIoTなどのソリューション事業を行う総合ITベンダーです。[44]
売り手側は下記の2点を実現する目的で、ICTソリューションに強みを持つ提供する富士通グループの傘下に入ることを決定しました。
一方で買い手側は、以下の目的で日揮情報システムとのM&Aを行いました。
2016年3月、日揮が日揮情報システムの全株式を富士通に売却することでM&Aが成立しました。
株式の取得価額は非公表です。[45]
[32] KDDI 株式会社との資本業務提携契約締結 及び株式の売出しに関するお知らせ(ALBERT)
[33] 株式会社ラグザイアの株式取得及び簡易株式交換(完全子会社化)に関するお知らせ(ビーイング)
[34] 株式会社電縁の株式の取得(子会社化)及び資金の借入れに関するお知らせ(クラウドワークス)
[35] 株式会社ホープスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(SHIFT)
[36] グループ企業(ビーネックスグループ)
[37] 株式会社フュージョンアイの株式取得(子会社化)及び資金の借入れに関するお知らせ(トラスト・テック)
[38] 株式会社ミュートスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(ファーマライズホールディングス)
[39] 株式会社ヴィオの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(SAMURAI&J PARTNERS)
[40] 製品・サービス(ソースネクスト)
[41] 株式会社筆まめの株式取得(子会社化)に関する基本合意のお知らせ(ソースネクスト)
[42] 株式会社筆まめの株式譲渡契約締結に関するお知らせ(ソースネクスト)
[43] 株式会社アクティブの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(クロスキャット)
[44] サービス(富士通)
[45] 日揮情報システム株式会社株式の富士通株式会社への譲渡について(富士通)
この章では、エンジニア派遣・SES事業のM&A事例を10例紹介します。
ネプラスは、IT機器の販売・レンタルやITエンジニアの派遣などの事業を展開する企業です。
夢真ホールディングスは、建設技術者とエンジニアの派遣事業を行う会社です。
夢真ホールディングスは、「技術力の強化」と「顧客基盤の拡大」を目的にネプラスとのM&Aを行いました。
2018年10月、ネプラスは全株式を売却し、夢真ホールディングスの子会社となりました。
株式の売却額は20億円です。[46]
エニシアスは、アプリケーション開発やSalesforceの開発支援、SESなどの事業を運営するIT企業です。
クレスコは、システム開発および設計やIT分野でのコンサルティングなどを展開する会社です。
買い手企業は、売り手が持つクラウド関連事業を取得する目的でM&Aを行いました。
一方で売り手のエニシアスは、クレスコグループが持つ販売チャネルや技術を活用し、付加価値の高いソリューションサービスを実現する目的でM&Aを実施しました。[47]
2020年4月、クレスコはエニシアスの全株式を取得し、同社を子会社化しました。
買収価額は2億8,000万円にのぼります。[48]
ケンファーストは、金融業界で用いる基幹システムの開発やシステムインテグレーション事業、SES業務などを展開するIT企業です。
FPGは、全国約5,000の会計事務所や約140の証券会社・地方銀行と提携し、リースアレンジメント事業や不動産事業などを行う企業です。
FPGは、最先端のIT技術を取得する目的でケンファーストの子会社化を行いました。
ケンファーストが有する技術を活用し、「顧客に対するITソリューションの提供」や「ITを基軸とした事業戦略の構築」などを目指すとのことです。
2020年4月に実施されたM&Aでは、株式譲渡のスキームが活用されました。
買収金額は5億7,500万円、デューデリジェンス費用は1,900万円です。[49]
アスカ・クリエイションは、通信・IT業界でSES事業を展開する会社です。
アウトソーシングは、技術・製造・サービス業という3つの業界を中心にアウトソーシング事業を展開する会社です。
当時アウトソーシングは、中期経営計画で「IT・通信分野をはじめとした第三次産業のさらなる事業強化」を掲げていました。
本件のM&Aは、上記経営計画の一環として行われました。
2012年1月に実施された本件のM&Aでは、アウトソーシングがアスカ・クリエイションの全株式(自己株式を除く)を取得しました。
買収金額を決める根拠となる株式価値は、時価純資産に営業権を加味する手法で算出されました。
株式価値にシナジー効果などを勘案した結果、買収金額は3億30万円となりました。[50]
ビクタスは、IT技術者派遣サービスを主力事業とする会社であり、IT技術者の教育・育成支援なども行っています。
ナレッジスイートは、クラウドサービスの開発・販売事業や、クラウドインテグレーションなどのソリューション事業を展開するIT企業です。
ナレッジスイートは、以下の項目を達成する目的で優秀なエンジニアを有するビクタスの買収を行いました。
2018年10月に実施された本件のM&Aでは、株式譲渡の手法が活用されました。
ビクタスは全ての株式を売却し、ナレッジスイートの傘下に入りました。
買収価格は3億円です。[51]
コスモエンジニアリングは、ソフトウェア開発に関連した人材派遣事業と、建設工事における設計・積算・施工管理事業を運営する会社です。
ITbookは、ICTに関するコンサルティングやシステム開発・保守運用、ソフト・ハードウェアの販売、人材紹介・派遣などの事業を運営する多角化企業です。[52]
ITbookは、人材派遣事業で大きなシナジー効果を得られるという理由から、コスモエンジニアリングとのM&Aを実施しました。
2018年1月、コスモエンジニアリングがすべての株式を売却し、ITbookの子会社となりました。
株式の売却額は1億1,500万円です。[53]
アムズブレーンは、「システム運用・保守」と「ソフトウェアの受託開発」を主力事業とする岡山県のIT企業です。
TOKAIコミュニケーションズは、ニアショア開発でSES業務を顧客に提供するIT企業です。[54]
また、データセンター事業やシステムインテグレーション事業なども展開しています。
両社は、以下2つの目的でM&Aを実施しました。
今後は両社の経営資源を相互活用することで、顧客によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を支援するとともに、持続的な成長を目指すとしています。
買い手企業は、売り手から99%の株式を取得し、子会社化しました。
買収金額は非公表です。[55]
ヒューマンウェアは、近畿圏の精密機器メーカーに対して技術者派遣事業を展開する会社です。
駅務機器等の設計・開発・検査業務を収益源とすることで、他社との差別化に成功した点が強みです。
スリープログループは、「SES事業」、「IT分野の導入・設置・交換・保守支援」、「コンタクトセンターの運用およびスタッフ支援」、「営業代行・販売支援」という4つのサービスを運営するIT企業です。
スリープログループは、「大阪支店とのシナジー効果」や「紹介事業の拡大」などのメリットを見込めるという理由で、ヒューマンウェアの買収を実施しました。
2016年9月に実施されたM&Aでは株式譲渡の手法が用いられました。
ヒューマンウェアがすべての株式を売却し、スリープログループの子会社となりました。
株式の売却額は4億6,400万円です。[56]
パートナーは、ITエンジニアの派遣事業を行う会社であり、システムインテグレーションの分野を強みとしています。
ウイルテックは、製造業者や建設業者向けの技術者派遣や、電子部品の卸売、制御機器ユニットの受託生産などの事業を展開する会社です。
ウイルテックは、既存顧客および新規顧客に対してシステム開発提案などの新たな営業機会を作り出す目的で、パートナー社とのM&Aを実施しました。
多くの既存顧客がシステム開発に対するニーズを持っていたため、本件の買収により顧客ニーズへの対応力を向上させることに成功しました。
また、採用支援システムなどの経営資源の共有や人材交流によって、シナジー効果の創出も実現しています。
2020年12月に行われた本件のM&Aは、新設分割と株式譲渡を組み合わせたスキームで実施されました。
具体的なスキームの概要は以下のとおりです。
買収金額は非公表です。[57]
スプレッドシステムズは、フロントエンジニアリングやディレクションを主軸に、受託開発・SESサービスを展開するIT企業です。
インフォネットは、「企業のWebサイト構築および運用・保守の代行業務」や「人工知能搭載型チャットボットシステム」の開発などを展開するIT企業です。
買い手は主に2つの目的でスプレッドシステムズとのM&Aを実施しました。
1つ目は、「アプリケーション開発」や「SESによる開発体制」などの安定的な収益が見込める事業の取得です。
2つ目は、「優秀な経営人材」や「高度な技術を有する開発組織」の取得です。
今後買い手企業は、両社が有する技術力を結合することで、事業規模の拡大やサービスの充実化などを目指します。
2020年4月に実施されたM&Aでは、株式譲渡の手法が用いられました。
インフォネットが全株式を取得したことで、スプレッドシステムズは子会社となりました。
買収金額は明らかにされていません。[58]
[46] ネプラス株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(夢真ホールディングス)
[47] 全株式譲渡によるクレスコグループへの参画について(エニシアス)
[48] 株式会社エニシアスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(クレスコ)
[49] 子会社の異動(株式取得)及び新規事業の開始に関するお知らせ(FPG)
[50] アスカ・クリエイション株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(アウトソーシング)
[51] ビクタス株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(ナレッジスイート)
[52] 事業情報(ITbookホールディングス)
[53] 株式会社コスモエンジニアリングの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(ITbook)
[54] ニアショア開発(TOKAIコミュニケーションズ)
[55] 株式会社アムズブレーンの株式取得(連結子会社化)に関するお知らせ(TOKAIホールディングス)
[56] ヒューマンウェア株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(スリープログループ)
[57] 株式会社パートナーの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(ウイルテック)
[58] スプレッドシステムズ株式会社株式取得(子会社化)に関するお知らせ(インフォネット)
この章では、WebサービスのM&A事例についてM&Aの背景や活用手法をご説明します。
LINEは、メッセージのやりとりを行うサービス「LINE」の運営を主力事業とする企業です。
Zホールディングス(ZHD)は、ECサイトや検索エンジン、広告などを含む国内で200を超えるサービスを提供するIT企業です。
ZホールディングスとLINEは、「それぞれが有する事業領域の強化」や「新規事業領域への成長投資」を行う目的で経営統合を実施しました。
本件の経営統合では、下記のシナジー効果が見込まれます。[59]
上記のシナジー効果を発揮することで、経営統合後は世界を牽引するリーディングカンパニーになることが期待されています。
本件の経営統合は、ZホールディングスとLINEだけでなく、各企業の親会社であるソフトバンクとNAVERなどの複数企業が関与する複雑なスキームとなりました。
具体的な統合スキームは以下のとおりです。
上記の経営統合は、2021年3月1日に完了しました。[62]
売り手は、前澤氏が代表を務めていたことで有名なファッションECサイト大手のZOZOです。
買い手となったのは、先ほど紹介したZホールディングス(ZHD)です。
ZHDとZOZOがM&Aを行った目的は、今後大きな市場の成長が期待できるeコマース事業のさらなる拡大です。
当初は資本関係を持たない形での業務提携を検討していましたが、提供できる経営資源や知見に限界があり、円滑な経営資源の相互活用に支障が生じるおそれがありました。
そこで両社は、事業シナジーを最大化するために資本関係を伴うM&A(子会社化)を実施しました。
ZHDは、ZOZOの子会社化により下記の事業シナジーを期待できると述べています。[63]
2019年11月、Zホールディングスは公開買付け(TOB)によりZOZOを子会社化しました。
公開買付けによりZホールディングスは、ZOZOの発行済株式のうち50.1%を取得しました。
買収金額はおよそ4,007億円です。[64]
Origamiは、2016年からスマホ決済サービス「Origami Pay」を提供しているIT企業です。
メルペイは、メルカリの100%子会社としてスマホ決済サービス「メルペイ」の提供を行う企業です。
スマートフォンによる決済市場では、サービスを提供する業者間の競争が激化しています。
そのような市場において両社は、独自の価値を顧客に提供することを目的にM&Aを実施しました。
両社は今後、地域の中小事業者への「メルペイ」導入の推進により、キャッシュレス社会の実現を目指していくと述べています。[65]
2020年2月に行われたM&Aでは、株式譲渡の手法が活用されました。
Origamiがすべての株式を売却し、メルペイの子会社となりました。
買収金額は当初非公表でしたが、日本経済新聞の取材により実質0円だったことが明らかとなっています。
業績悪化により単独での事業運営が困難となっていたことが、会社売却を0円で行った一因であったと考えられます。[66]
3ミニッツは、ファッション動画マガジンの運営や動画マーケティング、インフルエンサーマーケティングなどの事業を運営する会社です。
グリーは、ゲーム事業やメディア事業、広告事業などを多角的に展開するIT企業です。
グリーは、当時急成長を遂げていた動画広告市場での事業拡大を目的に3ミニッツの買収を行いました。
2017年2月、グリーは43億円で3ミニッツの株式を取得し、子会社化しました。[67]
ファイブは、スマートフォン向けの動画広告配信プラットフォームの開発および運営を行う会社です。
買い手のLINEは、先ほど紹介したSNSサービス「LINE」を運営するIT企業です。
LINEは、広告配信事業の成長・拡大を加速させる目的でファイブとのM&Aを実施しました。
本件のM&Aにより、LINEはFIVEが持つ「動画広告の専門技術」や「動画広告プラットフォームの事業基盤」の獲得に成功しました。
2017年12月、ファイブが全株式をLINEに譲渡することでM&Aが成立しました。
買収金額は明らかにされていません。[68]
まぐまぐは、ウェブサイトやメールマガジンを利用した広告メディアの企画・制作および運用を行うIT企業です。
主な収入源は、メルマガなどのコンテンツの有料課金とメディア広告収入の2つです。
エボラブルアジアは、航空券の予約などを行える総合旅行サービスプラットフォーム「AirTrip」を運営する企業です。
エボラブルアジアは、業績向上を目的に将来性がある売り手企業とのM&Aを実施しました。
2017年9月に行われた本件のM&Aでは、「株式譲渡」と「株式交換」のスキームが活用されました。
具体的なM&Aの流れは以下のとおりです。
上記の手法により、エボラブルアジアはまぐまぐ株式(議決権)の85.7%を取得しました。[69]
フリークアウト・ホールディングスは、広告事業やFintech事業などを運営するグループ会社です。
伊藤忠商事は、繊維や金属、機械、エネルギーなど幅広い業界でビジネスを展開する日本有数の総合商社です。
伊藤忠商事とフリークアウト・ホールディングスは、デジタルマーケティングの領域を中心に、経営資源の相互活用による成長実現を目的に資本業務提携を実施しました。
本件の提携を通じて、両社は「新規サービスの共同開発」や「アジアを中心とした海外事業の拡大」に取り組んでいます。
本件の資本業務提携では、「第三者割当増資」と「株式譲渡」の手法が用いられました。
第三者割当増資は、フリークアウト・ホールディングスが伊藤忠商事に対して実施しました。
増資額は約37億9,393万円であり、2019年1月に伊藤忠商事による払い込みが行われました。
一方で株式譲渡は、フリークアウトHDの代表取締役が保有する同社株式を伊藤忠商事に売却する目的で実施されました。
株式の売却額は約4億円であり、市場株価を基準に算出されました。
株式譲渡は2019年1月に実施されました。[70]
アップルワールド・ホールディングスは、アップルワールドの親会社です。
アップルワールドは、世界中のホテル情報を日本国内の旅行代理店や消費者に提供するWebメディアを運営しています。
じげんは、求人や不動産など幅広い領域でWebメディア事業を展開する企業です。
じげんは、旅行領域への本格参入を目的に、旅行に関するWebメディアを運営する売り手企業を買収しました。
2018年2月、株式譲渡の手法によりアップルワールド・ホールディングスは全株式を売却し、じげんの子会社となりました。
DCF法を基準に算出された株式の売却額は14億3,400万円です。[71]
ゴローは、個人の悩みを解決するWebメディアを複数運営していた企業です。
ユナイテッドは、スマホ広告の配信プラットフォーム運営や、スマホアプリの企画・開発などを行うIT企業です。
本件のM&Aは、ユナイテッドが事業ポートフォリオを拡充・強化する目的で行われました。
2016年9月に実施されたM&Aでは、株式譲渡の手法が用いられました。
本件の株式譲渡により、ユナイテッドはゴロー株の60%を取得しました。
ただし、ゴローの代表が保有する株式は議決権を持たない種類株式に転換されたので、ユナイテッドが実質的に100%の議決権を保有することになりました。[72]
アポロ・プロダクションは、月間500本以上のライブ配信実績を行っている映像制作会社です。
Candeeは、メディア事業や広告事業、タレントマネジメント事業などを多角的に展開するIT企業です。
Candeeは、ライブ配信事業を強化する目的でアポロ・プロダクションとのM&Aを実施しました。
Candeeの「コンテンツ制作力」および「キャスティングネットワーク」と、アポロ・プロダクションの「高い技術力」が組み合わせることで、質の高いライブ配信を実現しています。
2017年5月、両社は株式譲渡の手法でM&Aを行いました。
買収金額は明らかにされていません。[73]
[59] 経営統合に関する最終合意の締結について(Zホールディングス)
[60] ソフトバンク・韓ネイバー、LINE株のTOB終了(日本経済新聞)
[61] LINE 株式会社による当社株式に対する公開買付けの結果に関するお知らせ(Zホールディングス)
[62] ZホールディングスとLINEの経営統合が完了(Zホールディングス)
[63] 株式会社ZOZO株式(証券コード 3092)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ(ヤフー)
[64] 株式会社ZOZO株式(証券コード 3092)に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ(Zホールディングス)
[65] 当社子会社による株式会社Origamiの株式の取得(孫会社化)に関するお知らせ(メルカリ)
[66] メルペイ、オリガミ買収額は0円 注目ディールの内幕(日本経済新聞)
[67] 株式会社3ミニッツの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(グリー)
[68] 子会社の異動を伴う株式取得に関するお知らせ(LINE)
[69] 株式の取得及び簡易株式交換による株式会社まぐまぐの子会社化に関するお知らせ(エボラブルアジア)
[70] 伊藤忠商事株式会社との資本業務提携、第三者割当増資による新株式の発行及び主要株主の異動に関するお知らせ(フリークアウト・ホールディングス)
[71] アップルワールド・ホールディングス株式会社の株式取得(子会社化)について(じげん)
[72] ゴロー株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(ユナイテッド)
[73]【RELEASE】月間500本以上のライブ配信実績を誇る「アポロ・プロダクション」を完全子会社化(Candee)
M&Aサクシードでは、IT企業による買収・売却がたくさん成立しています。
この章では、数ある成約事例の中から3つのケースを厳選し、M&Aを行った目的や手法を紹介します。
COMBOは、VR・ARなどのシステム受託開発を展開するIT企業です。
テクノモバイルは、Webシステムやモバイルアプリの開発を主力事業とするIT企業です。
当時売り手企業の経営者(小岩氏)は、新型コロナウイルスの影響で25名いる従業員の生活を守ることに不安を感じていました。
そこで経営の先行き不安を解消する目的で、テクノモバイルとのM&Aを実施しました。
一方で買い手企業は、「優秀なエンジニアの獲得」と「地方への事業拡大」を目的にCOMBOの買収を決断しました。
2020年に行われた本件のM&Aでは、株式譲渡の手法が活用されました。
具体的には、テクノモバイルがCOMBOから90%の株式を取得しました。
M&Aが完了した後は、大阪にあるシステム開発の子会社も含めた3社での連携体制の確立に成功しています。[74]
デジタルクエストは、ECサイトなどのWeb開発や受託でのアプリ開発を展開するIT企業です。
トレジャー・ファクトリーは、首都圏と関西圏を中心に総合リユース業を展開する企業です。
当時買い手企業は、リソースやノウハウの不足が原因で、新しいサービスを生み出せないという課題を持っていました。
そこで、技術力に強みを持つデジタルクエストの買収を行ったのです。
一方で売り手の経営者は、M&Aによって引退するのではなく、経営者として残ってさまざまなサービスを開発したいと考えていました。
買い手も経営者に残って欲しいという要望を持っていたため、お互いのニーズが一致するM&Aとなりました。
M&A後は「リユース×AI」による新しいサービス開発に取り組むなど、双方が強みを最大限に発揮しています。
2019年、デジタルクエストがトレジャー・ファクトリーに株式譲渡しました。[75]
本件のM&Aにより、デジタルクエストはトレジャー・ファクトリーの子会社となっています。
LIGは、自社メディアの運営やWebメディア制作、英会話スクールなどの事業を運営する多角化企業です。
買い手となったのは、埼玉県のIT企業です。
売却対象となったのは、アクティビティ(遊びや観光商品)を提供する人と旅行者をマッチングするプラットフォーム「TRIP」の事業です。
当時売り手は、主力事業が成長していることで、TRIP事業に注力するのが困難な状況でした。
そこでLIGは、同事業を成長させることができる企業への売却を決断しました。
本件のM&Aでは、事業譲渡のスキームが活用されました。
売り手から「マネタイズの方法」や「一定期間売り手のCTOが事業運営を手伝うコンサルティング契約」などを提案したことで、買い手企業にとって安心できるM&Aとなりました。[76]
[74] 【M&A事例】VR/AR開発企業価値が評価されてスピード成約(M&Aサクシード)
[75] 「能動的」に売り手企業を探したい。攻めのM&Aが最適な企業との出会いを創出【M&A事例】(M&Aサクシード)
[76] すぐ譲渡を考えていない企業も"活用しない理由は無い"。M&Aサクシードで事業の価値を把握し、譲渡に成功。【M&A事例】(M&Aサクシード)
買い手は、IT企業を買収することで「成長の加速」や「新規参入のリスク軽減」などのメリットを得られます。
一方で売り手は、IT企業の売却で「主力事業への集中」や「大手グループ企業への参画による安定的な経営の実現」などのメリットを期待できます。
市場が成長期にあるIT業界では、Webサービスやシステム開発など、あらゆる分野でM&Aが活発化しています。
得られるメリットが大きいため、積極的にM&Aを活用した経営戦略をご検討していただけますと幸いです。
(執筆者:中小企業診断士 鈴木 裕太 横浜国立大学卒業。大学在学中に経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士資格を取得(休止中)。現在は、上場企業が運営するWebメディアでのコンテンツマーケティングや、M&Aやマーケティング分野の記事執筆を手がけている)