事業譲渡とは、会社がある事業の全部または一部を譲渡することをいいます。企業全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選べるのが特徴です。M&Aの代表的な手法のひとつです。この記事では、事業譲渡の意義、株式譲渡や会社分割との違い、メリット、手続き、流れを解説します。
事業譲渡とは?
事業譲渡とは、会社(譲渡会社)が事業の全部または一部を他の会社(譲り受け会社)に譲渡することをいいます。
事業譲渡が株式譲渡・会社分割・合併等と比較して特徴的なのは、契約によって譲渡の対象となる事業を選択することが出来、資産や負債についても契約によって比較的自由に選別可能な点です。
一方で、事業譲渡は手続きが煩雑となり、手続きコストが膨らむ可能性があります。
対象となる資産・負債・雇用関係等を移転するために、一つずつ個別に手続きを行う必要があります。
債権者や従業員と個別に同意を得て切り替える必要があり、不動産を含む場合は登記手続きも必要となります。
事業譲渡の方法・種類
事業譲渡には二つの方法があります。
全部譲渡
譲渡企業の事業すべてを譲渡することをいいます。
一部譲渡
譲渡企業の事業のうち、一部門を切り離して譲渡することをいいます。

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事業譲渡のメリット
譲渡(売り手)側のメリット
1. 特定の事業を指定して売却することができる
自社内で継続したい事業は残して、売却したい特定の事業を切り出して売ることができます。
会社に負債がある場合、当面の会社運営に必要な資金分だけ売却して現金化し、それを元手に続けたい事業に投資することが可能になります。

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2. 会社に負債があっても譲り受け先が見つけやすい
事業譲渡では譲渡対象とする事業を選択することができます。売りたい事業を切り出して譲渡して、非承継対象資産(残したい資産・事業)は手元に残すことができます。
会社全体を売却の対象とする株式譲渡では負債も引き継ぐことになるため、引き受け先が二の足を踏んでしまう場合があります。
事業譲渡は引き受け先が見つかる事業のみ譲渡することができるため、株式譲渡ではむずかしい状態でも事業譲渡であれば譲渡できるというパターンがあります。
3. 会社が存続して経営が継続できる
会社を売却するのではなく、特定の事業のみ切り出して譲渡する方法のため、会社は存続することができます。譲渡代金を元手に債務を支払うことで財務を健全化、又は譲渡代金を元に新しい事業を起こすこともできます。
後継者に会社を引き継ぐことは「事業承継」といい、国としても後継者がいない問題を解決するために、様々な支援を開始しています。詳しくは下記のコラムにまとめていますので、ご参照ください。

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譲り受け(買い手)側のメリット
1. 対象事業の範囲を指定できる
譲り受けたい事業の範囲が指定できます。利益が見込める事業や、譲り受けたい人材を選別することができるため、自社にとって必要な部分だけを譲り受けることができます。
また、会社の債務は引き継ぐ義務が無いため、財務面のリスクも負う必要がありません。
必要な事業(ビジネス)のみを譲り受けることができます。
2. 負債・債務を引き継ぐ必要がない
事業譲渡では、債務・負債等を引き継ぐ必要がありません。
株式譲渡では会社全体(債務を含む)が譲渡対象となるため、譲渡企業に債務がある場合、その債務も譲り受け企業が引き継ぐ必要があります。
そのため、買い手にとっては事業譲渡であれば将来性がある事業(ビジネス)のみを選択して、自社内に譲り受けることができます。
※ただし、商号を継続して利用する場合は、承継される事業によって生じた債務を引き継ぐ可能性があることに注意[1]]
3. のれん相当額の償却、有形固定資産の減価償却等の節税ができる
事業譲渡ではのれん相当額の償却や有形固定資産の現箇所客を、譲り受け企業側の損金として計上することができます。以上の計上額については課税対象外となるため、節税することができます。

事業買収(事業譲渡・株式譲渡)とは?メリットや流れを徹底解説
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事業譲渡のデメリット
譲渡(売り手)側のデメリット
1. 事業譲渡は経営者だけでは進められない
事業譲渡では、債務の債権者や従業員と個別に承諾を得る必要があります。
そのため、たとえ譲渡側と譲り受け側で合意に至ったとしても、実際に事業譲渡が行えるかどうかは、その後の債権者や従業員、取引先等の契約が行えるかどうかで左右されます。
2. 事業譲渡は時間がかかる
事業譲渡は株式譲渡等の比較的シンプルな譲渡方法と比べて時間がかかる場合があります。
対象事業が関わる全ての契約(債務・従業員・取引先・業務提携先等)に対して、相手方の同意を得る必要があるため、その契約の数が多いほど手間・時間・コストがかかります。
事前に取引先とからの同意を取り付けておくことで、実務がスムーズに進められるでしょう。
3. 同一市町村区域内において、同じ業界でビジネスができない(競業避止義務)
譲渡側(売り手)は当事者の意思表示がない限り、同一の市町村、隣接する市町村の区域内においては20年間、譲渡した事業と同一の事業を行うことができません。
この義務は会社法21条によって定められているものです。[2]

M&Aの競業避止義務とは?該当するケースや事例を徹底解説
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4. 事業譲渡の売却益に法人税がかかる
事業譲渡により、譲渡代金を受け取った場合には、法人税、住民税等の税金がかかります。
ただし、譲渡(売り手)側に多額の繰越欠損金(繰り越している税務上の赤字)がある場合や、創業者・取締役の退職金を拠出する際に損金として計上できる場合があります。
そのため、事業譲渡して対価を受け取るほうが譲渡全体の税金負担が軽くなり、手取り金額が増える場合もあります。

株式売却の税金|計算方法や確定申告の概要【税理士が解説】
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譲り受け(買い手)側のデメリット
1.譲渡完了までに手間がかかる
株式譲渡では、全ての株式を購入するという分かりやすい手続きですが、事業譲渡では、譲渡対象事業に紐づく契約先全てと、譲り受け(買い手)企業が新たに契約を結び直す必要があります。
2. 譲渡代金の支払いに消費税がかかる
事業譲渡では、対象事業を譲り受けてその対価として譲渡代金を支払う際に消費税がかかります。
株式譲渡では消費税はかかりません。

事業譲渡における消費税の計算方法、課税資産を税理士が徹底解説
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M&Aのメリット・デメリットを買い手・売り手ごとに徹底解説
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事業譲渡が向いているケース
事業譲渡は、売り手の法人格や既存の事業・資産を活かした方が良い場合に多く選択されます。具体的な事業譲渡が向いている3つのケースを紹介します。
1. 企業を存続させたまま再建したいケース
売り手の法人格を存続させたまま企業再建させたい場合、事業譲渡が有効です。事業譲渡により売り手企業は譲渡対価を得ることができ、企業の運転資金に活用できます。その後に事業が好転すれば、廃業を避けられる可能性があります。
2. 自社に残したい資産があるケース
事業譲渡を選択することにより、自社に残したい知識・ノウハウを外部流出させることなく、そのまま活用することができます。事業自体は、買い手にそのまま引き継いでもらうことで後継者問題を解決しながら、自社の土地や有価証券など金銭価値の高い資産を残すなど、事業譲渡のスキームは自由に設計することができます。
3. 同じ企業に好調・不調の部門が混在しているケース
不採算部門を事業譲渡することにより、好調な部門に経営資源を集中させ、企業全体の利益率を高めることができます。赤字部門であったとしても、買い手企業と強いシナジーがあるような場合には事業譲渡できる可能性があります。
事業譲渡とその他M&A手法との違い
事業譲渡と株式譲渡の違い
事業譲渡と株式譲渡の大きな違いは、手続きにかかる手間(コスト)です。
株式譲渡では、株式の移転が基本的なフローで比較的簡易な手続きで手間がかかりません。
事業譲渡は事業に紐づく全ての契約先から同意を得るフローがあり、その契約が多ければ多いほど、手続きにかかるコストは増えていきます。
事業譲渡と株式譲渡にはそれぞれ特徴があり、メリット・デメリットがありますが、一般的な傾向としては、手続きが迅速な株式譲渡で売買取引が進められ、株式譲渡により売買が困難な場合、事業譲渡が選択される場合が多いようです。
一方で、負債の多い会社の売買では、利益の出ている特定の事業を切り出して売ることができる事業譲渡が選ばれる場合も多く見られます。

会社売却のメリット・デメリット 相場や事例、従業員の処遇も解説
会社売却の方法、手続きの流れ、相場の計算方法、株式譲渡と事業譲渡の場合の違いを分かりやすく解説します。また、会社売却が従業員・経営者に与える影響も解説します。会社売却を行いたい経営者様は必見です。 目次会社売却とは?会社 […]

株式譲渡とは?メリット・手続き・契約・税金を税理士が解説
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事業譲渡と会社分割の違い
事業譲渡は、譲渡(売り手)側企業が、譲渡の対象となる事業を特定承継することをいいます。
会社分割とは、譲渡(売り手)側企業が、譲渡の対象となる事業に関する義務の全部又は一部を分割し、他の会社に吸収させる(吸収分割)もしくは、新設した新しい会社に承継させること(新設分割)をいいます。
事業譲渡と会社分割の大きな違いは、承継時に必要な契約の手続きです。
事業譲渡は事業の特定の範囲の承継になります。譲渡の対象となる契約の承継に対して、契約先の同意が必要となります。
会社分割(吸収分割の場合)は包括継承となるため、契約も全て引き継ぐことが出来、個別の同意は不要となります。

会社分割とは?吸収分割・新設分割の違い、手続き、事例を解説
会社分割は事業の一部もしくは全部を、他の会社に承継させることをいいます。新設分割と吸収分割の方法があります。この記事では会社分割の意味、手法の特徴、メリット・デメリット・手続きの流れ・事例を解説します。 目 […]
事業譲渡と合併の違い
合併とは、2つ以上の企業が一つの企業になることです。事業譲渡は売り手企業の法人格は存続しますが、合併では消滅するという点で大きな違いがあります。合併は組織再編行為のため、債権者保護手続等の会社法に定められた手続を厳格に行う必要があります。
事業譲渡の流れ・手続き
事業譲渡の全体的な流れは他のM&A手法と大きく変わりません。
ただし、事業譲渡契約及びクロージング後の手続きについては、株式譲渡等と比較して多くの業務が必要となります。
ニーズの発生・検討
売却側は財務上の都合やコア事業への集中等の理由により、売却ニーズが発生します。
買収側は規模の拡大や新規事業参入といった理由から、買収ニーズが発生します。
事業譲渡の準備
買収側は相手先を探す準備段階として、決算書三期分の準備等を進めます。
売却側は買収先の条件の絞り込み等を行います。
ソーシング・交渉の開始
譲渡側はノンネームシート(事業の概要、売上、従業員数、取引先などを匿名の状態でまとめた資料)をM&A仲介者となる金融機関・仲介業者・税理士・M&Aプラットフォーム等を通じて買収先候補に開示し、交渉相手を募ります。
譲り受け側はロングリスト(買収先となり得る会社のリスト)を作成し、順番にその可能性を検討していきます。

M&Aにおけるソーシングの重要性【業務内容・手順も徹底解説】
M&Aのソーシングとは、M&Aの相手候補を探し出し、交渉を進めるまでのプロセスです。今回は、M&Aの成功に不可欠なソーシングについて、重要性や進め方、業務内容などをくわしく解説します。(公認会計士 […]
秘密保持契約→基礎情報の開示
ソーシングによって見つかった交渉先とNDA(秘密保持契約)を結んだ上で、売却側の基礎情報が開示されます。買収側は基礎情報の分析を行い、譲渡の実現性を検討します。

M&Aのネームクリアとは?意味やメリットを公認会計士が解説
M&Aのネームクリアとは、買い手候補に譲渡対象の企業名を開示することです。ネームクリアの手続きを行うことで、情報の漏えいを防げます。ネームクリアの意味やメリット・デメリットをわかりやすく解説します。(公認会計士監 […]
トップ面談
売却・譲渡側で基礎情報のやり取りが進み、譲渡の実現性が高まれば、経営者同士のトップ面談に進みます。経営者同士の人間関係の構築が行われます。経営理念や人生観など、お互いに協力関係が築けるかを確認します。

M&Aのトップ面談とは?成功のポイントや事前準備、進め方
M&Aのトップ面談とは、売り手と買い手の経営者が直接顔を合わせることです。お互いの人間性や経営理念などを把握する上で重要なプロセスです。トップ面談の目的や重要性、成功のためのポイントを徹底解説します。(公認会計士 […]
基本合意書締結(MOU)
トップ面談後は、実際にM&Aを進めるという基本合意を書面で締結します。独占的交渉権の付与やデュー・ディリジェンスの実施など、これから行うプロセスやスケジュールを明確にします。

M&Aの基本合意書(MOU)とは|記載内容や作成タイミングを解説【雛形】
M&Aの基本合意書は、当事者の認識を揃える目的で作成する文書です。一般的には、デューデリジェンスや独占交渉権などの項目に法的拘束力を持たせます。今回は、基本合意書の記載内容をわかりやすく解説します。 目次M&am […]
デュー・ディリジェンス(DD)
デュー・ディリジェンスでは譲渡対象事業の実態調査が行われます。基礎情報のやり取りだけでは分からない、実態を把握し、正しく価値を算定するためです。
事業譲渡では、単体としての財産以外にも、設備を利用する技術・ノウハウ、取引先関係、従業員、それらが一体となった組織全体を無形財産も含めて一括して譲渡することから、「のれん」の価値を加味するのが一般的です。

M&Aのデューデリジェンスとは?公認会計士が費用や項目を解説
デューデリジェンスは、買い手、売り手の両社にとってM&Aの成否や譲渡価格を左右する重要なプロセスです。 公認会計士がデューデリジェンスの目的(メリット)や費用、注意点をわかりやすく解説します。 目次M&A […]
取締役会による決議
売却側では取締役会による決議が必要になります。
事業譲渡は、取締の業務運営に関する基本的事項です。そのため、取締役会で事業譲渡に関する基本的事項の決議が必要になります。
この決議後、事業譲渡日程表、事業譲渡覚書等を作成し、代表取締役が株主総会の承認を得ることを条件として、事業譲渡契約の締結へ進みます。
事業譲渡契約の締結
事業譲渡契約書には、合併等とは異なり、会社法上の記載事項に関する取り決めはありません。
公序良俗、日本国内の法律に反しない範囲内で定めることができます。
譲渡の内容、対価、支払い方法、譲渡日、競業避止義務等、従業員の引き継ぎ等についてが記載されるのが一般的です。

【ひな型付き】M&Aで使用する契約書をわかりやすく解説
M&Aでは、秘密保持契約書や基本合意契約書、株式譲渡契約書などの契約書を作成します。この記事では、各契約書に記載する内容をご説明します。また、実際のM&Aで使える契約書のひな型も掲載しています。 目次M& […]
クロージング
事業譲渡契約書の締結を持ってクロージングとなりますが、事業譲渡契約は、契約書に明記された手続きを全て完了するもしく所定の期間経過後に有効となります。

M&Aのクロージングとは?流れや手続き、必要書類を詳しく解説
M&Aのクロージングとは、株式等の引き渡しと対価の支払いを行うことです。クロージングは、法的にM&Aの有効性を証明する上で重要な手続きです。公認会計士が、クロージングで重要なポイントを徹底解説します。(公 […]
事業譲渡の手続き
臨時報告書の提出
有価証券報告書の提出義務がある会社は、事業譲渡契約が締結された場合、遅延なく臨時報告書を内閣総理大臣に提出しなければなりません。[3]
株主総会での承認
事業譲渡承認株主総会は取締役会でその招集、株主名簿の閉鎖、株主総会の日程等を決議します。
株主総会では事業譲渡契約書の承認を受けます。
公正取引委員会への届け出
株主総会の承認後、公正取引委員会への事業譲渡届出書提出後、事業譲渡手続きは完了します。

M&Aの流れ・進め方 検討~クロージングまで【図解でわかる】
M&Aの全体的な手続きの流れを売り手・買い手両方の視点で見ていきます。事前準備・検討段階~クロージング・最終契約、経営統合後に必要な業務まで全ての流れを解説します。 目次M&Aの全体的な流れ検討・準備フェ […]
事業譲渡を行う上での注意点
事業譲渡を成功させるためには事前のスケジューリングを行い、全体像を把握しておくことが重要です。特に注意すべき3つの点を説明します。
事業譲渡の準備を早めに行う
事業譲渡を進める際、事前にどの事業を切り分けるのか、対象事業のPLやKPI推移を事前に整理しておくことが大切です。事業譲渡の対象があいまいなままだと、交渉を進めることができず、適切な売却金額も定まりません。
データの整理に時間がかかることで、交渉が長引いてしまえば、その分売却できなくなる可能性も高まります。事業譲渡を行う決断をした際は、早めに事業譲渡の準備を進めておくことがおすすめです。
買い手に嘘をつかない
事業譲渡を進める際、買い手には誠実に対応することが求められます。提出したデータに誤りが見つかった場合には、早めに買い手に報告しなければなりません。事業譲渡のデュー・ディリジェンスの際に、たとえデータの誤り等が見つからなかった場合でも、事業譲渡契約書における表明保証違反で、事後的に損害賠償請求を受けるリスクもあります。
買い手は、信頼のおけない売り手とは重要な契約を締結することはできません。買い手との交渉の前段階から、誠実な対応を心がけましょう。
従業員を解雇する際は労働法に則る
事業譲渡の際、どうしても従業員を解雇しなければならないケースでは、労働法に従い適切な対応をしなければなりません。従業員への事業譲渡の告知が急に行われるなど、コミュニケーション不足が生じた場合、会社全体の組織コンディションが悪化し、更なる大量離職にも繋がりかねません。
従業員を解雇する場合、しない場合のどちらに関しても、事業譲渡時は従業員とのコミュニケーションは慎重に行うことが重要です。
事業譲渡によって課せられる税金
事業譲渡を行う際、買い手、売り手に税金が課せられるケースがあります。法人税、消費税、不動産取得税、登録免許税のそれぞれについて詳細を解説します。
法人税
売り手に対して、事業譲渡益が法人税の課税対象となります。売り手法人の決算時に、下記のステップで法人税額が計算されます。
- 事業譲渡益=売却金額―譲渡した資産・負債の簿価
- 課税所得=その他の益金・損金+事業譲渡益
- 法人税額=課税所得×法人税率
消費税
買い手に対して、事業譲渡の譲渡対象資産に課税対象資産が含まれている場合に、消費税が課されます。譲渡対象資産に土地などの非課税資産が含まれている場合には、その部分には消費税は課されません。
目に見える資産だけでなく、ブランド価値などののれん部分も消費税がかかる点に留意が必要です。消費税額は、課税対象資産にかかる事業譲渡金額に、消費税率を乗じて計算されます。
不動産取得税
事業譲渡の譲渡対象資産に土地や建物が含まれている場合に、買い手に対して、不動産取得税が課されます。不動産取得税は、不動産の評価額に不動産取得税率を乗じて計算されます。
登録免許税
登録免許税とは、不動産等の所有権が移転した場合に課される登記に必要な税金のことです。譲渡対象資産に土地や建物が含まれている場合に、買い手に対して課されます。登録免許税は、課税標準金額に登録免許税率を乗じることで計算することができます。
事業譲渡した際の会計処理
事業譲渡の際、譲渡側と譲受側の会計処理について、簡単な仕訳事例を用いて解説します。
譲渡側の仕訳
事業譲渡金額を1億円、譲渡対象に諸資産6,000万円、諸負債3,000万円が含まれている場合、譲渡側の仕訳は下記のとおりです。
借方 |
貸方 |
現預金 1億円 |
諸資産 6,000万円 |
諸負債 3,000万円 |
事業譲渡益 7,000万円 |
対価となる現預金から、譲渡する資産・負債を差し引いた金額を事業譲渡損益として会計処理します。
譲受側の仕訳
事業譲渡金額を1億円、譲渡対象に諸資産6,000万円、諸負債3,000万円が含まれている場合、譲受側の仕訳は下記のとおりです。
借方 |
貸方 |
諸資産 6,000万円 |
現預金 1億円 |
のれん 7,000万円 |
諸負債 3,000万円 |
事業譲渡対価と諸資産と諸負債の差額をのれんとして会計処理します。
事業譲渡の成功事例7選
繊維メーカー丸井織物様がECサイト「ミチネイル」を事業譲受
譲渡企業の概要
譲渡企業であるミチは、ネイルチップブランドのECサイトを運営している企業です。
譲り受け企業の概要
丸井織物は、石川県の大手合繊織物メーカーです。
M&Aの目的・背景
譲渡企業では、別の事業に経営リソースを配分するため、「ミチネイル」の売却を行いました。
譲り受け企業では、自社有するアセットを活用して、ミチネイルの販路を拡大する目的でM&Aを行いました。譲り受け企業はこの案件以外にも積極的にM&Aを活用することで、経営成長のスピードを加速化させています。
M&Aの手法・成約
ミチの運営する「ミチネイル」事業を、事業譲渡の手法を用いて丸井織物が取得しました。事業譲渡後、コストカット等の経営の効率化により2か月という短期間で利益率の改善がなされました。

シナジーを生むM&Aによって、買い手企業と売り手企業の双方がwin-winの関係に【M&A事例】
1956年に設立し、石川県に本社を置く大手合繊織物メーカーの丸井織物株式会社。 2011年に常務取締役の宮本智行氏がジョインして以降、圧倒的な企業成長のためにM&Aを経営戦略の大事な柱とし、2~3年の間に5社をグ […]

EC業界におけるM&A・売却事例30選【図解で相場も解説】
EC業界では、市場拡大などの影響でM&Aが活発化しています。EC事業のM&Aでは、主力事業への集中などのメリットを得られます。EC事業のM&Aについて、成功させる方法や事例、相場をくわしく解説しま […]
アクティビティ(観光商品等)を売買するCtoC WEBサービスのM&A成約
譲渡企業の概要
譲渡企業であるLIGは、「体験予約販売プラットフォーム運営」など、Webサイトや自社メディアを制作している会社です。
譲り受け企業の概要
譲り受け企業は、埼玉県でIT事業を営んでいる会社です。
M&Aの目的・背景
譲渡企業において、当該事業を牽引する担当者が不在であり、事業に注力するのが難しかったため、アクティビティを売買するCtoC WEBサービスの売却を行いました。
譲り受け企業では、インバウンド事業に興味があったことから新規事業として、当該事業の買収を行いました。
M&Aの手法・成約
LIGの運営するアクティビティのCtoC WEBサービスを、事業譲渡の手法を用いて、埼玉県のIT企業が取得しました。売却後の一定期間、譲渡企業によるコンサルティングと保守運用の契約締結も行ったことで、譲り受け企業としても安心して事業の引き継ぎがなされました。

すぐ譲渡を考えていない企業も“活用しない理由は無い”。M&Aサクシードで事業の価値を把握し、譲渡に成功。【M&A事例】
Webサイト制作をはじめ、自社メディアやコンテンツ制作、地方創生事業、シェアオフィス、英会話スクールなど多角的な事業展開をしている株式会社LIG。 今回、そのなかでアクティビティ(観光商品等)を売買するCtoCサービスを […]

Web制作会社の売却額相場、高値売却の可能性を高めるポイント
Web制作会社の高値による売却可能性を高めるには、時期の見極めや企業価値向上などが重要です。Web制作会社の売却では、資金獲得などのメリットを得られます。売却価格の相場や最新のM&A事例を解説します。(中小企業診 […]
【製造×飲食店】スニタトレーディングによるゴーゴーカレーグループへの事業譲渡
譲渡企業の概要
スニタトレーディングは、国内で7店舗を展開する「本場インド料理店サムラート」の工場を運営していた会社です。
譲り受け企業の概要
ゴーゴーカレーグループは、カレー店のチェーン展開やカレーの商品開発、卸・販売事業を手がけている会社です。
M&Aの目的・背景
譲渡企業では、サムラートの味を楽しんでもらいたいという考えから、手作りの商品をスーパーやデパートなどに卸していました。
しかし中々利益を出せなかったため、工場の売却を決断しました。
一方で譲り受け企業は、インドカレーの商品ブランドを展開していました。
同ブランドを展開する中で、ハラール料理を製造できる工場が欲しいと考えて、スニタトレーディングとのM&Aにより工場を取得しました。
M&Aの手法・成約
スニタトレーディングは、事業譲渡によって自社工場をゴーゴーカレーグループに売却しました。
EC販売やPR活動を強みとしている譲り受け企業に売却したことで、サムラートの味をより多くの人に届けることが可能となりました。
一方でゴーゴーカレーグループは、工場の取得により、ハラール料理の新メニューやブランドの開発が可能となりました。

1+1=100になるM&A。パートナーを組むことで鮮明になった世界展開【M&A事例】
「美味しいカレーを世の中に広め、世界を元気にする事」をミッションに、国内外での店舗拡大や販路拡大、事業譲受によるブランド拡大を精力的に行なっているゴーゴーカレー。 今回は、M&Aサクシードでの公募 をきっかけに、 […]

工場売却の手続きや必要書類、方法、メリット、注意点を徹底解説
工場は不動産として売却することが一般的ですが、M&Aの手法で売却する方法もあります。工場の売却は、事業転換や廃業などを目的に行われます。工場売却のメリットや手続き、事例をくわしく解説します。(執筆者:京都大学文学 […]
【IT】入江テックによるSICシステムへの事業譲渡
譲渡企業の概要
入江テックは、代表の入江氏がひとり社長として、複数のオンラインサービスを運営してきた会社です。
譲り受け企業の概要
SICシステムは、ITコンサルティング、ITシステムの開発を主力事業としている会社です。
M&Aの目的・背景
当時譲渡企業は、自社サービスの運営と受託開発を半々の割合で行っている状態が続いており、中々自社サービスに専念することができませんでした。
そのような中で、自社サービスのひとつである「MENTA」というマッチングサイトが軌道に乗り、そのサービスに集中したいとの考えに至りました。
そこで同社は、軌道に乗っているサービスに集中する目的で、事業譲渡によって「CLOUD PAPER」というサービスを売却しました。
一方で譲り受け企業は、すでにある事業を引継ぎ、会社の成長スピードを加速させる目的で、入江テックから事業を買収しました。
M&Aの手法・成約
両社のM&Aは、Zoomでのオンライン交渉を通じて、約1ヶ月という短期間で成約しました。
譲り受け企業が有する既存システムと類似部分が多かったため、サービスの引き継ぎはスムーズに行われました。
M&Aの完了から3ヶ月で1割以上も売上がアップした点で、自社サービスへの集中を実現した譲渡企業はもちろん、譲り受け企業にとってもメリットの大きいM&Aとなりました。

システム開発・受託開発の最新売却・M&A事例、売却価格の相場
システム開発・受託開発会社の売却は、後継者不足などの課題を背景に増加傾向です。システム開発・受託開発会社の売却・M&A事例やメリット、売却価格の相場、高値での売却可能性を高める方法を徹底解説します。(中小企業診断 […]

「ひとつのサービスに専念したい」――起業時の思いをかなえた、M&Aでの事業譲渡
今回の成約事例では、事業譲渡による選択と集中で起業時の思いを実現させたオンラインサービス事業者と、M&Aを企業規模拡大のための合理的でポジティブな戦略とする企業の素晴らしい出会いを紹介します。入江テック株式会社の […]
【旅館×写真館】桐のかほり咲楽による小野写真館への事業譲渡
譲渡企業の概要
桐のかほり 咲楽は、静岡県の伊豆にある高級温泉旅館です。
譲り受け企業の概要
小野写真館は、フォトスタジオ事業やブライダル事業、成人振袖事業などを運営している会社です。
M&Aの目的・背景
譲渡企業の経営者は、「子供との時間を取れない思いを自分の子供にはさせたくない」という思いから、咲楽の価値観を引き継いでくれる外部の経営者に旅館を任せたいと考えていました。
そこで、「お客様に感動を与えること」という企業理念が一致した小野写真館に旅館事業を譲渡しました。
一方で譲り受け企業は、コロナ禍の影響で主力であるブライダル事業の売上が約4割も減少していました。
そこで同社は、業態転換を目的とした異業種M&Aを決意し、桐のかほり 咲楽とのM&Aを行いました。
M&Aの手法・成約
両社の事業譲渡は、わずか3ヶ月という短期間で成約しました。
M&A後、小野写真館は旅館全巻を貸し切った挙式を始めたり、旅館併設のウエディングフォトスタジオを始めたりするなど、両社のシナジー効果を最大限に発揮したサービス創出することに成功しています。

写真館と予約の取れない小規模旅館のM&A そこにはコロナを乗り越えるシナジーがあった【M&A事例】
茨城県の株式会社小野写真館は、事業の核となるフォトスタジオから始まり、結婚式場運営のブライダル事業などで順調に業績を拡大してきました。しかしそこにコロナが襲い、会社の未来を再検討することを迫られます。その可能性のひとつと […]
【アプリ×写真館】ポーラスタァによる小野写真館への事業譲渡
譲渡企業の概要
ポーラスタァは、フォトブックアプリやネットメディアなどの運営を手がけてきた会社です。
本件のM&Aでは、赤ちゃんの毎日の成長を写真とコメントで簡単に残せるフォトブックアプリ「BABY365」等の事業を譲渡しました。
譲り受け企業の概要
譲り受け企業となったのは、先ほどの事例で紹介した小野写真館です。
M&Aの目的・背景
当時BABY365は、年間約4,000人のお客様がアルバムを購入しており、利益を生む事業となっていました。
しかし、会社のリソースが少なかったことや、譲渡企業の経営者がプライベートで子育てをしていたことなどを理由に、事業の継続が難しくなっていました。
そこで同社は、同アプリのさらなる成長を実現する目的で事業譲渡を行いました。
一方で譲り受け企業は、事業ポートフォリオを「with/after コロナ型」に転換する目的でM&Aを行いました。
「大切な人をスマホで撮影してアルバムに残す」という仕組みをオンラインで可能としていたBABY365に対して、自社の事業をスケールしてくれる将来性を感じたとのことです。
M&Aの手法・成約
両社のM&Aは事業譲渡のスキームで行われました。
事業譲渡により、譲渡企業の経営者は事業の存続を実現し、かつプライベート(子育て)の時間を確保できるようになりました。

「IT」✕「店舗サービス業」の成長企業同士のM&A 事業譲渡をきっかけに企業はもっと強くなる
今回の成功事例は、成長企業同士によるM&Aです。アイディア出しから商品化することを得意とする女性起業家が譲渡したのは、赤ちゃんの毎日の成長を写真とコメントで簡単に残せる人気のフォトブックアプリ。年々利用者数増加中 […]
【Webサービス】GEARによるラグザス・クリエイトへの事業譲渡
譲渡企業の概要
GEARは、ウェブサイト・メディアの運営やSEO事業を展開してきた会社です。
譲り受け企業の概要
ラグザス・クリエイトは、中古車売買のプラットフォーム「カーネクスト」を運営している会社です。
M&Aの目的・背景
譲渡企業が運営していたウェブサイト売買のプラットフォームは、累計の売買取引が200件以上あり、さらに成長するポテンシャルを秘めていました。
しかし、運営人員を十分に確保できず、経営者は「もったいない」という考えを抱えていました。
そこで同社は、「同サイトのさらなる成長」と「好調である金融系の比較サイトへの集中」を目的に事業譲渡を行いました。
一方で譲り受け企業は、M&Aを活用した積極的な事業領域の拡大を続けてきました。
本件のM&Aも、事業領域拡大を目指す一環として行われたものです。
M&Aの手法・成約
GEARは事業譲渡の手法により、ラグザス・クリエイトに対してウェブサイト売買のプラットフォームを売却しました。
双方がスムーズにやりとりを行ったことで、1ヶ月もかけずにM&Aの契約成立に至りました。

M&A成功事例40選 大企業・中小企業・業界別|2021年版
今回は大企業・中小企業別、業界別に厳選したM&A事例40選を紹介します。国内・海外の大企業事例から中小企業事例まで、譲渡・譲り受け企業の概要、M&Aの目的・M&A手法、成約に至るまでを解説します。 […]
事業譲渡はM&Aサクシードにご相談を
「M&Aサクシード」は、譲渡企業と譲り受け企業をオンライン上でつなぐ事業承継M&Aプラットフォームです。
事業譲渡での成約事例も多く、事業譲渡を希望される譲渡企業様と、希望の事業を譲り受けたい企業様が多数マッチングしています。
譲渡企業は、M&Aサクシードに、会社や事業の概要を匿名で登録でき、譲り受け企業は、その情報を検索して閲覧できます。
これにより、譲渡企業は経営の選択肢の一つとして事業承継M&Aを早期から検討できるため、経営者の選択肢が広がります。
譲渡企業は登録無料で利用できるため、コストを気にせず、企業や事業の譲渡を安心して検討できます。
また、譲り受け企業が負担する手数料も一般的な仲介会社などと比べて安価です。
譲り受け企業は興味をもった譲渡企業へ直接アプローチできるため、譲渡企業にとっては、潜在的な資本提携先の存在や、自社の市場価値を把握するきっかけになります。
2017年11月下旬にサービスを開始し、2020年8月現在、全国の譲渡案件は累計6,300件以上(公開中2,600件以上)登録され、累計譲り受け企業は5,600社以上です。事業承継M&Aプラットフォームにおいて日本最大級の譲渡案件数となっています。
まとめ
事業譲渡は、M&Aのスキームの中でも株式譲渡と並んでよく使われる手法です。会社の経営権を渡さずに、不採算部門など特定の事業のみを切り出して売却できる点が特徴です。M&Aマッチングサイトを活用することで、多数の買い手候補にアプローチすることができ、事業譲渡の成功確率を高めることができます。
M&A・事業承継のご相談ならM&Aサクシード
M&A・事業承継のご相談ならM&Aマッチングサイト「M&Aサクシード」にご相談ください。M&Aサクシードが選ばれる4つの特徴をご紹介いたします。
M&Aサクシードが選ばれる4つの特徴
- 完全成功報酬制
→M&Aが成約するまで報酬はいただきません。 - スピード成約
→最短37日、半年以内の成約が57%(2022年実績) - 「ビズリーチ」を運営する東証グロース市場グループ企業が運営
- プラットフォームだから買い手の反応もご自身でわかる
M&Aサクシードは、成約するまで無料の「完全成功報酬制」のM&Aマッチングサイトです。
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