SAP・ERPに関連したM&Aとは|買収・売却の事例も徹底解説
- 法務監修: 前田 樹 (公認会計士)
SAP(ERP)は、M&Aにおいて業務の統一などを図る目的で活用されています。SAP(ERP)を活用する重要性やメリットを詳しく解説します。また、SAP社やSAP(ERP)の関連企業によるM&Aの事例も紹介します。
SAPとは、ドイツ[1]のワルドルフに本部を構える多国籍企業として従業員は105,000名を超える企業です。
SAP独自のエンタープライズリソースプランニング(ERP)をグローバルスタンダードとして確立し、その名は世界でも知られています。
独自のソフトウェアであるSAP R/2やSAP R/3からスタートし、ERPを広めていきました。
SAPの統合アプリケーションでは、ビジネスのあらゆる領域がデジタル化されたプラットフォームで繋がれており、材料や商品などの発注から販売まで網羅され、会計までも一貫したシステムで管理が可能となっています。
[1] 企業情報(SAP)
M&AにおけるSAP・ERP活用の概要について解説していきます。
M&AにおいてもITを活用することが重要になってきます。フェーズごとにそれぞれの重要性が異なります。
交渉段階では買い手は売り手企業の財務情報や業務の流れなどの情報について確認することになります。
その中で、ITを活用することで短時間での情報の準備が可能となります。
ITをうまく活用できなければ、財務情報等のデータを短時間で提出することは難しく、先方からの疑義が生じM&Aを失敗するリスクが出てきます。
また、M&Aは、異なる企業同士が同一のグループとして事業を推進していきます。M&A後、いわゆるPMIの段階では業務などを統一していくことになります。
ITをうまく活用すれば業務の統一も効率的に進めることができ、業務に支障をきたすことなく成功に導くことが可能になります。
M&AでERPを活用するとメリットがあります。
ERPのような統合システムを利用すると、一連の事業を一つのシステムで管理することができます。
一つのシステムで管理することで、一元管理が可能となるというメリットがあります。
販売システムや会計システム、購買システムなど別々のシステムを利用している場合、M&A後に統一していく際は一つ一つシステムを合わせていくことになりますが、その手間や費用も不要になります。
また、ERPのシステムを利用することで業務も統一しやすくなり、社内や別会社でも交流をしやすくなります。
その結果、シナジー効果も生まれやすくなり、M&Aを実施した意義を出すことができます。
ERPシステムの統合に向けては事前の準備が重要になってきます。
M&Aをした場合、異なる会社の業務の統合が必要となりますが、全く異なる会社であるため、業務の進め方などが異なります。
異なるシステムや業務内容を統合するため、受け入れ側ではまずは自社のシステムや業務の標準化を進めることが重要になってきます。自社の整理ができていない状態で受け入れると統合できるものも統合が進みません。
また、標準化を進められることは進め、統合が難しいところに関しては別建てで対応できるように準備することが重要になります。
全てを標準化できることがベストですが、全てが受け入れられるとは限らずある程度柔軟な対応ができるようにしておくことで統合する際に混乱を避けられます。
SAP社のM&A・買収事例について紹介していきます。
Ariba[2]:世界でも大手のクラウドサービスベンダー
SAP:ビジネス向けソフトウェアの開発を手掛ける大手ソフトウェア企業
Aribaが保有するクラウドの知識、技術、ネットワークを活用することで、クラウド上でもSAPを活用することが可能になり、SAPはさらなる成長が見込まれるために実施。
Concur[3]:社員証や交通系ICカード、地図情報など出張・経費精算業務支援
SAP:ビジネス向けソフトウェアの開発を手掛ける大手ソフトウェア企業
Concurが保有する全世界約2万3,000社と約2,700万人の顧客基盤をSAPに取り込むことで、顧客基盤の拡大とクラウド事業の強化を目的に実施。
Sybase[4]:モバイルプラットフォームの提供
SAP:ビジネス向けソフトウェアの開発を手掛ける大手ソフトウェア企業
モバイルプラットフォーム向けソリューションを強化し、インメモリ技術を強化すること、また、モバイルプラットフォームを利用することで、SAPの業務アプリケーション及びデータをモバイル向けに配信することを目的に実施。
[2] SAP to Expand Cloud Presence With Acquisition of Ariba(SAP)
[3] SAP、経費管理の世界大手Concurを9,000億円で買収(ビジネス+IT)
[4] SAPがSybaseを58億ドルで買収(IT media)
上記でみたSAP社によるM&A戦略の特徴について解説していきます。
SAPは自社と同領域の拡大をM&Aで考えるだけではなく、特定の市場における足掛かりとする買収が多く、そこから自社の製品の可能性を高める戦略をとっているケースが多くなっています。
特定の市場への足掛かりとしたM&A実行後は、その製品ラインを強化して自社の領域を拡大していく傾向があります。
上述の案件であれば、Concurは自社の製品ラインナップにはない出張・経費精算サービスを提供しており、自社のソフトウェアと融合させることで自社の成長につなげようとしていることがみえます。
SAPは小規模のM&Aを繰り返し行うのではなく、ある一定規模の大規模なM&Aを中心に実行しています。
上記で見た案件もそれぞれ、40億ドルから80億ドルと数千億円規模のM&Aを実行しています。
小規模案件を数こなすことよりは大規模な投資をすることで特定の市場でポジションを確立していきたいというところがみえてきます。
また、SAPは自社のソフトウェアと相性のよいクラウド関連の企業の買収を進めています。
現在の市場や今後の市場を見据えて、成長の原動力としていくことが狙いとなっています。
上記でみたようなAribaのようなクラウドサービスを提供する企業を買収することでクラウド関連のソリューションを拡大していき、クラウド市場での地位確立を目指していると考えられます。
これからもクラウド市場での大規模M&Aを進めていくのではないでしょうか。
SAP・ERP関連企業によるM&A事例について紹介していきます。
CEGB[6]:SAPの導入及び運用コンサルティング、システム開発支援等
デジタルハーツホールディングス[5]:子会社等の経営管理及びそれに付帯または関連する業務
デジタルハーツグループが有する ERP 領域での自動化ノウハ ウや「Panaya」「Worksoft」といったツールを活用したテストソリューションと CEGB が有する SAP 専門エンジニア及び豊富な知見を融合し、SAP 事業におけるケイパビリティを拡大することで、SAPの2027年問題に課題を持つユーザー企業へのソリューションを提供するため、M&Aを実行。
バート[8]:アプリケーション事業、システム事業
ゼネテック[7]:デジタルソリューション事業、エンジニアリングソリューション事業、ココダヨ事業
バートは、SAPの導入コンサルティング事業を展開しており、SAP導入や人材育成に関するノウハウがゼネテックのデジタルファクトリー推進強化に貢献し、ゼネテックの顧客にリーチすることでSAPコンサルティング事業のさらなる拡大が見込まれることから、M&Aを実行。
ホープス[10]:企業における生産・物流の機能改善、基幹業務システムの分析と改善、情報システム設計・開発・運用業務
SHIFT[9]:ソフトウェアの品質保証・テスト
ERPシステムの導入から保守にいたるまで、多様なノウハウや経験蓄積するホープスをSHIFTグループに取り込むことでサービス体制を強化するため、M&Aを実行。
ヒューマンベース[12]:システムコンサルテーション及びシステム設計・開発
ヒューマンクリエイションホールディングス[11]:グループ事業会社の統括
ヒューマンベースのERP分野でのノウハウや顧客基幹を取り込むとともに、ヒューマンクリエイショングループの顧客基盤の活用やエンジニア採用・教育強化といった相乗効果を実現することで、より利益率の高いシステム開発案件を獲得するため、M&Aを実行。
4BS[14]:SSLサーバ証明書の販売、SAPコンサルティング
GMO GlobalSign Pte.Ltd.[13]:情報セキュリティ及び電子認証業務事業
4BSを子会社化することでブラジル国内エンドユーザーへの直販強化およびサポート強化による売上拡大ならびに現地採用と運用による販売の効率化による利益拡大のため、M&Aを実行。
ジーコムネット[16]:ERPパッケージの導入コンサルティング・設計開発・運用保守、技術者派遣
テクノプロ・ホールディングス[15]:グループ会社の統括および運営
SAP導入コンサルティング及び開発並びにITインフラ構築の上流工程に強みを有するジーコムネットをグループ化することで、ERP事業の開発・人材育成ノウハウを獲得し、エンドユーザーへの提案力強化するため、M&Aを実行。
兼松エレクトロニクス[17]:IT(情報通信技術)を基盤に企業の情報システムに関する設計・構築、運用サービスおよびシステムコンサルティングとITシステム製品およびソフトウェアの販売、賃貸・リース、保守および開発・製造、労働者派遣事業
キーウェアソリューションズ[18]:システム開発事業、総合 IT サービス事業
両社が保有する顧客基盤、技術基盤を効果的に補完し合うことで、今後需要の増加が見込まれる基幹系システム刷新や製造業向けソリューション等のDXに向けた企業の取り組みに対し、インフラ領域から業務システムの構築までトータルなサービス提供が可能になり、両社にとって、事業の拡大・深耕につながるとともに、両社の企業価値向上に繋がることを考慮し、資本業務提携を実行。
[5] 会社概要(デジタルハーツホールディングス)
[6] 株式会社CEGBの株式取得に関するお知らせ(デジタルハーツホールディングス)
[7] ゼネテックの事業内容(ゼネテック)
[8] 株式会社バートの株式の取得に関するお知らせ(ゼネテック)
[9] SHIFT会社概要・グループ会社紹介(SHIFT)
[10] 株式会社ホープスの株式取得に関するお知らせ(SHIFT)
[11] 会社概要(ヒューマンクリエイションホールディングス)
[12] ヒューマンベースの株式取得に関するお知らせ(ヒューマンクリエイションホールディングス)
[13] 会社概要(GMOグローバルサイン)
[14] 当社子会社による事業会社の買収に関するお知らせ(GMOグローバルサイン)
[15] 会社概要(テクノプロ・ホールディングス)
[16] 当社連結子会社によるジーコムネットの普通株式取得等に関するお知らせ(テクノプロ・ホールディングス)
[17] 企業概要(兼松エレクトロニクス)
[18] キーウェアソリューションズ株式会社との資本業務提携に関するお知らせ(兼松エレクトロニクス)
ここまでSAP・ERPに関連したM&Aについてみてきましたが、いかがでしたでしょうか。
SAPのERPですが、M&Aにおいて活用することで効率的に進めることができます。
また、現在、クラウドへの移行が進んでおり、ERPにおいてもクラウド化が進んでいます。
M&Aの効率化や統合の円滑化を実現する手段として、SAP・ERPの活用を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。
(執筆者:公認会計士 前田 樹 大手監査法人、監査法人系のFAS、事業会社で会計監査からM&Aまで幅広く経験。FASではデューデリジェンス、バリュエーションを中心にM&A業務に従事、事業会社では案件のコーディネートからPMIを経験。)