サービス業のM&A・売却動向、件数、事例7選
- 法務監修: 鈴木 裕太 (中小企業診断士)
サービス業のM&A件数は、2016年以降増加傾向であり、2020年には全業種中で最多となりました[1]。サービス業のM&Aは、事業規模の拡大などを目的に行われます。サービス業のM&A・売却動向や件数、近年の事例を詳しく解説します。
はじめに、サービス業の定義と分類を紹介します。
広義のサービス業とは、モノの生産を主とする業種とは異なり、サービスという無体(≒目に見えない)の商品を提供する業種を指します。[2]
具体的には、運輸業や情報通信業、金融業などが当てはまります。
一方で狭義では、総務省の日本標準産業分類における「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」を指すことが一般的です。
「サービス業(他に分類されないもの)」には、主として個人または事業所に対してサービスを提供する事業所のうち、他の大分類に分類されない事業所が該当します。[3]
つまり、運輸や情報通信業、金融業など以外のサービス業が狭義のサービス業となります。
今回の記事では、基本的に「サービス業(他に分類されないもの)」を前提に、サービス業のM&A動向や事例を紹介します。
日本標準産業分類では、以下6種類の業種を「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」として定義しています。[3]
一口にサービス業と言っても、サービスの内容によって「サービス業(他に分類されないもの)」に該当するのか、もしくはそれ以外の大分類に該当するのかが変わってきます。
この項では、分類を判断することが難しいサービス内容について、どの大分類に該当するかを解説します。[3]
この章では、サービス業のM&A動向(M&A件数の推移)を解説します。
M&A Onlineによると、2020年におけるサービス業のM&A件数は223件であり、それまで件数でトップであり続けた製造業を上回り、全業種中で最多となりました。[1]
前年(2019年)と比較すると24件増えており、個別で見ると人材サービス業が27件、教育・コンサルタント業が25件と、それぞれ前年と比べて1.7倍までに増えたとのことです。[1]
なお、2016年から2020年におけるサービス業のM&A件数は、以下のとおり推移しました。[1]
年号 | 件数 |
---|---|
2016年 | 156 |
2017年 | 163 |
2018年 | 202 |
2019年 | 199 |
2020年 | 223 |
2016年以降、M&Aの件数が増加傾向にあることから、サービス業界ではM&Aが活発化していると言えます。
また、M&A Onlineが公表した別のデータによると、2021年上期におけるサービス業のM&A件数は119件であり、前年上期と比べて10件増加したとのことです。[4]
以上より、サービス業界では現在進行形でM&Aの活発化が進んでおり、今後もM&A(会社の買収・売却)が活発に実施されると考えられます。
最後に、サービス業の最新M&A事例を7例紹介します。
各事例からは、サービス業を運営する会社がM&Aを行った目的や用いられた手法、売却価格の目安などが分かります。
サービス業のM&Aを検討しており、M&Aに関する理解を深めたい経営者の方はぜひ参考にしてください。
セノン:常駐警備業務や機械警備業務、航空保安業務、車両運行管理業務などを運営[5]
セコム:防犯や警備、ホームセキュリティ事業を展開[6]
譲り受け企業:「譲渡企業が有する総合セキュリティ企業としての経験」と「自社が有する技術力・ノウハウ」の融合によるサービスの品質向上
ディンプル:人材派遣・紹介予定派遣事業、人材紹介事業、教育研修事業などを展開[7]
ワールドホールディングス:人材・教育ビジネス(人材派遣など)を展開[8]
譲り受け企業:高付加価値の人材サービスを提供することの実現、人材サービス分野のさらなる拡大
AIGATEキャリア:医療人材紹介事業、コールセンター事業を展開
ジェイフロンティア:ECによるオリジナル医薬品等の販売事業、ヘルスケアメーカーの販促支援事業を展開
譲り受け企業:メディカルケアセールス事業の新たな収益源創出、コールセンターの内製化による収益基盤強化、法人顧客に対するコールセンターサービスの提供
FLP:トラックの整備工場、中古車販売事業を運営
富士運輸:大型トラックを用いた長距離輸送事業を展開
譲渡企業:後継者の不在にともなう事業承継
譲り受け企業:売上と市場シェアの拡大
木村工務店:北海道の道東(釧路、北見、網走)エリアで、産業廃棄物処理業や解体工事業を展開
鈴木商会:資源リサイクル業やアルミ製錬業などを展開
譲渡企業:後継者不在に伴う事業承継、営業力の強化、雇用の安定化など
譲り受け企業:道東エリアにおける事業強化、解体から廃棄物処理までのプロセスを自社内で完結できる体制の確立
ライフ・コーポレーション:施設常駐警備事業を展開
日輪:人材派遣事業を展開
譲渡企業:後継者不在にともなう事業承継
譲り受け企業:警備事業への進出、シナジー効果の創出
マルコビジネスサポート:サービス業向けの人材派遣事業、人材紹介事業、人材コンサルティング事業などを運営
碧海スタッフ:製造業・物流業に向けた外国人の人材派遣事業、人材紹介事業、紹介予定派遣事業などを運営
譲渡企業:後継者不在にともなう事業承継
譲り受け企業:取引先や人材のタイプ、拠点などが異なる同業他社とのM&Aによる「市場シェア・業態の拡大」
[5] セノンの株式取得(セコム)
[6] 個人向けサービス・商品一覧(セコム)
[7] ディンプルの株式取得(ワールドホールディングス)
[8] 人材・教育ビジネス(ワールドホールディングス)
[9] AIGATEキャリアの子会社化(ジェイフロンティア)