サービス業のM&A件数は、2016年以降増加傾向であり、2020年には全業種中で最多となりました[1]。サービス業のM&Aは、事業規模の拡大などを目的に行われます。サービス業のM&A・売却動向や件数、近年の事例を詳しく解説します。
[1] M&Aの主役交代⁉ 「製造業」が「サービス業」にトップの座を譲る(M&A Online)
サービス業とは
はじめに、サービス業の定義と分類を紹介します。
サービス業の定義
広義のサービス業とは、モノの生産を主とする業種とは異なり、サービスという無体(≒目に見えない)の商品を提供する業種を指します。[2]
具体的には、運輸業や情報通信業、金融業などが当てはまります。
一方で狭義では、総務省の日本標準産業分類における「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」を指すことが一般的です。
「サービス業(他に分類されないもの)」には、主として個人または事業所に対してサービスを提供する事業所のうち、他の大分類に分類されない事業所が該当します。[3]
つまり、運輸や情報通信業、金融業など以外のサービス業が狭義のサービス業となります。
今回の記事では、基本的に「サービス業(他に分類されないもの)」を前提に、サービス業のM&A動向や事例を紹介します。
サービス業の分類
日本標準産業分類では、以下6種類の業種を「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」として定義しています。[3]
- 廃棄物処理業:廃棄物の処理に関する技能や技術等を提供するサービス
- 自動車整備業、機械等修理業:物品の整備・修理に関する技能や技術を提供するサービス
- 職業紹介・労働者派遣業:労働者に職業をあっせんするサービスや労働者を派遣するサービス
- その他の事業サービス業:企業経営に対して提供される他の分類に属さないサービス
- 政治・経済・文化団体、宗教:会員のために情報等を提供するサービス
- その他のサービス業、外国公務:上記以外のサービス
サービス業と他産業との関係性
一口にサービス業と言っても、サービスの内容によって「サービス業(他に分類されないもの)」に該当するのか、もしくはそれ以外の大分類に該当するのかが変わってきます。
この項では、分類を判断することが難しいサービス内容について、どの大分類に該当するかを解説します。[3]
農林漁業
- 請負または委託により、耕種、畜産に直接関係する農業サービスを提供する事業所:「大分類A-農業、林業」に分類
- 請負または委託により、植木の刈り込みのような園芸サービスを提供する事業所:「大分類A-農業、林業」に分類
- 山林の下刈りや林木の枝下しのような林業に直接関係するサービスを提供する事業所:「大分類A-農業、林業」に分類
- 請負または委託により、漁業に直接関係するサービスを提供する事業所:「大分類B-漁業」に分類
鉱業
- 鉱物の探査を目的とした地質調査などの探鉱作業を行う事業所:「大分類C-鉱業、採石業、砂利採取業」に分類
- 開坑や掘削、排土などの鉱山開発作業を行う事業所:「大分類C-鉱業、採石業、砂利採取業」に分類
製造業
- 新たな製品を製造加工し、かつ同種の製品に関する修理を行う事業所:「大分類E-製造業」に分類
- 製品の修理を専業としている事業所:「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」に分類
- 修理のために補修品を製造している事業所:「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」に分類
- 船舶や鉄道車両の修理、改造(自家用を除く)、航空機のオーバーホールを行う事業所:「大分類E-製造業」に分類
- 主として自己または他人の所有する原材料を機械処理して、多種類の機械及び部分品の製造加工や修理を行っている事業所:「大分類E-製造業」に分類
- 賃加工業(他業者が所有している原材料に加工処理を行って加工賃を受け取る事業):「大分類E-製造業」に分類
運輸業
- 財貨の運搬や保管を行う事業所:「大分類H-運輸業、郵便業」に分類
- 運輸の斡旋や運輸施設の提供などの運輸に附帯するサービスを提供する事業所:「大分類H-運輸業、郵便業」に分類
卸売業、小売業
- 商品を販売し、かつ同種商品の修理を行う事業所:「大分類I-卸売業、小売業」に分類
- 修理を専業としている事業所:「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」に分類
- 修理のために部分品などを取り替える事業所:「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」に分類
金融業、保険業、不動産業
- 保険業を行う事業所:「大分類J-金融業、保険業」に分類
- 保険会社や保険契約者に対して保険サービスを提供する事業所:「大分類J-金融業、保険業」に分類
- 不動産の運用および仲介を行う事業所:「大分類K-不動産業、物品賃貸業」に分類
専門・技術サービス業
- 石油精製や化学等のプラントを対象に、機能の維持・改善等に必要なサービスを総合的に提供する事業所:「大分類L-学術研究、専門・技術サービス業」に分類
- 依頼を受けて看板書きを行う事業所:「大分類R-サービス業(他に分類されないもの)」に分類
- 依頼人のために広告に関する総合的なサービスを提供する事業所:「大分類L-学術研究、専門・技術サービス業」に分類
[2] サービス業とは(コトバンク)
[3] 日本標準産業分類 大分類R-サービス業(他に分類されないもの)(総務省)
サービス業のM&A動向
この章では、サービス業のM&A動向(M&A件数の推移)を解説します。
M&A Onlineによると、2020年におけるサービス業のM&A件数は223件であり、それまで件数でトップであり続けた製造業を上回り、全業種中で最多となりました。[1]
前年(2019年)と比較すると24件増えており、個別で見ると人材サービス業が27件、教育・コンサルタント業が25件と、それぞれ前年と比べて1.7倍までに増えたとのことです。[1]
なお、2016年から2020年におけるサービス業のM&A件数は、以下のとおり推移しました。[1]
年号 |
件数 |
---|---|
2016年 |
156 |
2017年 |
163 |
2018年 |
202 |
2019年 |
199 |
2020年 |
223 |
2016年以降、M&Aの件数が増加傾向にあることから、サービス業界ではM&Aが活発化していると言えます。
また、M&A Onlineが公表した別のデータによると、2021年上期におけるサービス業のM&A件数は119件であり、前年上期と比べて10件増加したとのことです。[4]
以上より、サービス業界では現在進行形でM&Aの活発化が進んでおり、今後もM&A(会社の買収・売却)が活発に実施されると考えられます。
[4] M&Aの多い業種は?|サービス業 2年連続首位、製造業は持ち直し(M&A Online)
サービス業の最新M&A事例7例
最後に、サービス業の最新M&A事例を7例紹介します。
各事例からは、サービス業を運営する会社がM&Aを行った目的や用いられた手法、売却価格の目安などが分かります。
サービス業のM&Aを検討しており、M&Aに関する理解を深めたい経営者の方はぜひ参考にしてください。
【警備×警備】セコムとセノンのM&A
譲渡企業の概要
セノン:常駐警備業務や機械警備業務、航空保安業務、車両運行管理業務などを運営[5]
譲り受け企業の概要
セコム:防犯や警備、ホームセキュリティ事業を展開[6]
M&Aの目的・背景
譲り受け企業:「譲渡企業が有する総合セキュリティ企業としての経験」と「自社が有する技術力・ノウハウ」の融合によるサービスの品質向上
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2022年7月(予定)
- 手法:株式譲渡
- 結果:セコムがセノン株式(議決権割合)の55.1%を取得し、同社を子会社化
- 取得価額:269億9,900万円[5]

警備業界のM&A動向や事例10選を徹底解説
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【人材派遣×人材派遣】ワールドホールディングスとディンプルのM&A
譲渡企業の概要
ディンプル:人材派遣・紹介予定派遣事業、人材紹介事業、教育研修事業などを展開[7]
譲り受け企業の概要
ワールドホールディングス:人材・教育ビジネス(人材派遣など)を展開[8]
M&Aの目的・背景
譲り受け企業:高付加価値の人材サービスを提供することの実現、人材サービス分野のさらなる拡大
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2022年2月
- 手法:株式譲渡
- 結果:ワールドホールディングスがディンプル株式(議決権割合)の90%を取得し、同社を子会社化
- 取得価額:37億8,000万円[7]

人材派遣会社の売却・M&A事例11選【2021年最新版】
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【ヘルスケア×コールセンター】ジェイフロンティアとAIGATEキャリアのM&A
譲渡企業の概要
AIGATEキャリア:医療人材紹介事業、コールセンター事業を展開
譲り受け企業の概要
ジェイフロンティア:ECによるオリジナル医薬品等の販売事業、ヘルスケアメーカーの販促支援事業を展開
M&Aの目的・背景
譲り受け企業:メディカルケアセールス事業の新たな収益源創出、コールセンターの内製化による収益基盤強化、法人顧客に対するコールセンターサービスの提供
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2021年12月
- 手法:株式譲渡
- 結果:ジェイフロンティアがAIGATEキャリアの全株式を取得し、同社を子会社化
- 取得価額:株式譲渡の実行時点で4億円、その後の業績達成度合いに応じて最大4億円[9]

EC業界におけるM&A・売却事例30選【図解で相場も解説】
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【運送×自動車整備】富士運輸とFLPのM&A
譲渡企業の概要
FLP:トラックの整備工場、中古車販売事業を運営
譲り受け企業の概要
富士運輸:大型トラックを用いた長距離輸送事業を展開
M&Aの目的・背景
譲渡企業:後継者の不在にともなう事業承継
譲り受け企業:売上と市場シェアの拡大
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2021年2月
- 手法:株式譲渡
- 結果:富士運輸がFLPを子会社化。会社売却により、譲渡企業の経営者は新規事業の準備を行えるようになった。

長距離輸送の物流グループが整備工場をM&A 従業員ファーストで業務効率化・高収益を実現
全国に100拠点以上、トラック2,000台以上保有する物流グループであるフジトランスポート株式会社(旧・富士運輸株式会社)は、「M&Aサクシード」を通じて、後継者不在だったトラックの整備工場を運営する株式会社 F […]
【廃棄物処理×リサイクル】鈴木商会と木村工務店のM&A
譲渡企業の概要
木村工務店:北海道の道東(釧路、北見、網走)エリアで、産業廃棄物処理業や解体工事業を展開
譲り受け企業の概要
鈴木商会:資源リサイクル業やアルミ製錬業などを展開
M&Aの目的・背景
譲渡企業:後継者不在に伴う事業承継、営業力の強化、雇用の安定化など
譲り受け企業:道東エリアにおける事業強化、解体から廃棄物処理までのプロセスを自社内で完結できる体制の確立
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2021年7月
- 手法:株式譲渡
- 結果:鈴木商会が木村工務店を子会社化。M&A後、譲渡企業と譲り受け企業において、役員・従業員のモチベーションが向上した。

「リサイクル業×解体業」 川上から川下までを統合させたM&A
建設業界のM&Aが今、増加傾向にあります。事業エリアの拡大や人材不足の解消を狙ったM&A、そして業界の枠を超えた再編の動きが目立つようになってきました。建設そのものだけでなく、隣接する業種が豊富であるため […]
【人材派遣×警備】日輪とライフ・コーポレーションのM&A
譲渡企業の概要
ライフ・コーポレーション:施設常駐警備事業を展開
譲り受け企業の概要
日輪:人材派遣事業を展開
M&Aの目的・背景
譲渡企業:後継者不在にともなう事業承継
譲り受け企業:警備事業への進出、シナジー効果の創出
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2019年
- 手法:株式譲渡
- 結果:日輪がライフ・コーポレーションを子会社化。M&Aにより、譲渡企業では「人材面の不安解消」や「事業運営への集中」などのメリットを得ることができた。

インターネットだからこそ実現したスピードマッチング。最初のメッセージから1ヶ月でM&Aが実現【M&A事例】
株式会社ライフ・コーポレーション様は、愛知県にて主に施設常駐警備事業を展開し、多くの顧客に高品質のサービスを提供している会社です。 しかし、後継者不足などの理由による事業承継の課題は同社にとって大きくなっていました。 そ […]
【人材紹介×人材紹介】碧海スタッフとマルコビジネスサポートのM&A
譲渡企業の概要
マルコビジネスサポート:サービス業向けの人材派遣事業、人材紹介事業、人材コンサルティング事業などを運営
譲り受け企業の概要
碧海スタッフ:製造業・物流業に向けた外国人の人材派遣事業、人材紹介事業、紹介予定派遣事業などを運営
M&Aの目的・背景
譲渡企業:後継者不在にともなう事業承継
譲り受け企業:取引先や人材のタイプ、拠点などが異なる同業他社とのM&Aによる「市場シェア・業態の拡大」
M&Aの手法・成約
- 手法:株式譲渡
- 結果:碧海スタッフがマルコビジネスサポートを子会社化。会社売却に伴い譲渡企業の経営者は、借入金の連帯保証人を譲り受け企業の経営者に書き換えてもらうことを実現。

製造業とサービス業に特化した人材サービス業同士。隣県で取引先の拡大を期待できるM&A
製造業や物流業界などへの人材派遣・人材紹介業を手がける碧海スタッフ(愛知県)が、サービス業などへの人材派遣・人材紹介を手がけるマルコビジネスサポート(静岡県)を譲り受けることで、事業拡大を目指す同業同士のM&A事 […]

M&A成功事例40選 大企業・中小企業・業界別|2021年版
今回は大企業・中小企業別、業界別に厳選したM&A事例40選を紹介します。国内・海外の大企業事例から中小企業事例まで、譲渡・譲り受け企業の概要、M&Aの目的・M&A手法、成約に至るまでを解説します。 […]
[5] セノンの株式取得(セコム)
[6] 個人向けサービス・商品一覧(セコム)
[7] ディンプルの株式取得(ワールドホールディングス)
[8] 人材・教育ビジネス(ワールドホールディングス)
[9] AIGATEキャリアの子会社化(ジェイフロンティア)
まとめ
M&Aの件数が全業種中最多であることから分かる通り、サービス業界ではM&Aが活発化しています。
実際に、M&A(売却・買収)によって事業拡大や人材獲得などのメリットを実現したサービス業の事業者は少なくありません。
以上より、後継者不足や業績低迷などの課題を抱えている経営者の方にとって、サービス業のM&Aは有効な戦略となり得るでしょう。
(執筆者:中小企業診断士 鈴木 裕太 横浜国立大学卒業。大学在学中に経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士資格を取得(休止中)。現在は、上場企業が運営するWebメディアでのコンテンツマーケティングや、M&Aやマーケティング分野の記事執筆を手がけている)