英会話教室のM&Aの動向とメリット・デメリット【事例10選】
- 法務監修: 相良 義勝 (京都大学文学部卒 / 専業ライター)
英会話教室・英会話スクール・語学学校のM&Aの動向やメリット・デメリットを、業界の現状と絡めて解説します。近年市場が拡大しているオンライン英会話や幼児・子供向け教室のM&Aもくわしく取り上げます。
2007年の英会話大手NOVAの経営破綻や2008年のリーマンショックの影響により、英会話を初めとする外国語会話教室の売上高・受講生数は大きく減少したものの、徐々に回復して、近年は上昇基調にありました。[1]
矢野経済研究所が毎年実施している語学ビジネス市場調査によると、近年とくに市場が伸びているのはオンライン英会話などのeラーニングと、幼児・子供向けのサービス(外国語教室・プリスクール・保育施設への英語講師派遣・英会話教材)です。
eラーニング市場は2014年に前年度比115.4%となり[2]、その後も順調に成長を続けています。
幼児・子供向けサービスは、小学校の英語必修化や早期教育への意識の高まりを背景として堅調に推移しています。
ただし、学習塾においても小学校英語の授業が広まったことで競争が激化し、経営環境は厳しさを増しています。[3]
そのほか、語学試験・留学斡旋関係の市場もコロナ禍以前においては好調に推移していました。
2020年にはコロナ禍による休校や定員縮小などの影響で店舗型の外国語教室の市場規模は前年割れとなり、語学試験・留学斡旋関係市場も試験開催中止や国間移動の制限、将来的な見通しの悪さなどから市場が縮小しました。[4]
一方、eラーニング市場にとってはコロナ禍がプラスに作用し、2020年度の市場規模は前年度比22.4%増と大きく拡大しました。[5]
また、AIなどを組み込んだ学習支援アプリ(理解度・習熟度分析、学習コースのパーソナライズ、モチベーション管理など)の活用が拡大しています。
今後の英会話教室業界においては、デジタル技術をべースとした教育サービス(EdTech)の推進が成長の大きな鍵を握ると考えられます。
[1]外国語会話教室の動向(経済産業省)
[2]語学ビジネス市場に関する調査2015(矢野経済研究所)
[3]同調査2019(同上)
[4]同調査2021(同上)
[5]eラーニング市場に関する調査(同上)
市場拡大中のオンライン英会話、幼児・子供向け英会話関連のM&Aがとくに盛況です。
小学校の英語必修化などを背景として、学習塾による英会話教室買収も活発化しています。
買い手・売り手の主な組み合わせと買い手側の目的・メリットをまとめると以下のようになります。
買い手 | 売り手 | 目的・メリット |
---|---|---|
英会話教室(店舗型) | 英会話教室(店舗型) |
|
英会話教室(オンライン) | 英会話教室(オンライン) |
|
英会話教室 | ALT(小中高向け外国語指導助手)などの人材派遣 |
|
英会話教室 | 学習塾 |
|
学習塾 | 英会話教室 |
|
英会話教室・学習塾 | 海外語学学校 |
|
異業種企業 | 英会話教室 |
|
ファンド | 英会話教室(オンライン、幼児・子供向け) |
|
売り手側の英会話教室にとっては、M&Aには以下のような目的・メリットがあります。
M&Aにより労働環境や企業文化が大きく変化した結果、講師や経営陣のモチベーション低下や人材流出が起こる場合があります(とくに売り手側)。集客力のある講師の離職や大量離職が起こるとM&Aの成否に関わります。
その他、M&Aにおいて一般的に見られるデメリットには以下のようなものがあります。
全研本社:コンテンツマーケティング、Webメディア運営、海外IT人材マッチング、法人向け語学研修、英会話教室、留学斡旋、日本語教育などの事業を展開[6]
NOVA ホールディングス:傘下企業を通して、直営・FCによる英会話教室の全国展開、英語学習コンテンツ企画開発、教育関係出版、個別指導塾・保育園運営、留学プログラム企画、スポーツチーム運営、通訳・翻訳、語学研修などの事業を展開[7]
譲渡企業:コロナ禍で収益性が悪化した英会話スクール事業を切り離し、成長戦略の柱となる事業に経営資源を集中[8]
譲り受け企業:主力事業である英会話スクール事業のシェア拡大[9]
ボーダーリンク:関東・中部・関西圏の学校に対するALT(ネイティブ外国語指導助手)派遣事業と東京都内での英会話スクール運営事業を展開[11]
レアジョブ:個人・法人・子供向け向けオンライン英会話や英語スピーキングテストなどのサービスを展開[12]
譲渡企業:レアジョブとの協業により事業領域を拡大することで、ALT派遣というニッチ市場に依拠した事業構造を改革し、さらなる成長を目指す[13]
譲渡企業・譲り受け企業:
Globish:タイでオンライン語学サービスを展開(2019年6月にレアジョブが出資を実施)[14]
Multibhashi:インドでオンライン英語学習サービスを展開(2019年11月にレアジョブが出資を実施)[15]
レアジョブ:個人・法人・子供向け向けオンライン英会話や英語スピーキングテストなどのサービスを展開[12]
譲渡企業:事業成長のための資金調達
譲り受け企業:英語スピーキングテスト「PROGOS」を軸に事業のグローバル展開を目指す戦略の一環として、タイ・インド市場で「PROGOS」およびオンライン英会話サービスの販売拡大を図る
ブレンディングジャパン:教職免許を持つフィリピン人講師などを活用した子供向けオンライン英会話スクールを運営[16]
ビジネス・ブレークスルー:社会人向けの各種オンライン講座や、通信制大学・MBA課程大学院、優秀なビジネスバックグランドを持つフィリピン人講師などを活用したオンライン英会話のサービスを展開[17]
譲渡企業:英語サービスの向上
譲り受け企業:拡大中の子供向けオンライン英会話市場への新規参入、フィリピンにおける英会話講師のマネジメント効率化、新規事業創出[16]
SELC Australia:オーストラリアのシドニーで海外からの留学生を対象とした語学学校・専門学校を運営(2012年2月に医療・介護・保育事業などを展開するニチイ学館により完全子会社化)[19]
京進:幼児~高校生向け学習塾、海外(ドイツ・中国・アメリカ)在住子女向け学習塾、幼児~小学生向け英会話教室、日本語教育、資格試験対策・スキルアップ講座、保育園、介護などの事業を展開[20]
譲渡企業:京進への株式譲渡に先立ち、オーストラリア会社法に基づく会社更生手続きを実施
譲り受け企業:オーストラリア子会社English Language Company Australia(シドニーで留学生向け語学学校を運営、2018年9月に子会社化[21])と譲渡企業の連携により、オーストラリアでの英会話事業を拡大
Trester:神奈川県川崎市で小学生を対象にネイティブ英語環境を提供する学童保育施設を複数教室運営[22]
城南進学研究社:乳幼児から社会人までを対象とする総合教育ソリューション事業(学習塾・進学塾・早期教育教室・英語学童保育・英語指導スクールなど)を展開[23]
譲り受け企業:英語学童保育事業のサービス向上・規模拡大[22]
[6]事業内容(全研本社)
[7]事業内容(NOVA HD)
[8]英会話スクール事業の事業譲渡(全研本社)
[9]英会話リンゲージを事業譲受(NOVA HD)
[10]沿革(同上)
[11]ボーダーリンク株式49%を取得決定(レアジョブ)
[12]事業紹介(同上)
[13]当社連結子会社の資本業務提携(ウィルグループ)
[14]Globish社に追加出資(レアジョブ)
[15]Multibhashi社に追加出資(同上)
[16]ブレンディングジャパンの株式取得(ビジネス・ブレークスルー)
[17]講座・プログラム(同上)
[18]ビジネス・ブレークスルーへのグループジョイン(ブレンディングジャパン)
[19]SELC Australiaの株式取得(京進)
[20]サービス・事業紹介(同上)
[21]子会社の異動を伴う株式取得(京進)
[22]Tresterの株式取得(城南進学研究社)
[23]事業案内(同上)
[24]会社沿革(同上)
Bresto&Company:不動産売買仲介・買取・宅地開発、建築・土木工事の設計施工・管理、小学~高校生を対象とした個別指導塾(FC加盟店)などの事業を展開[25]
ブルーフレイム:英会話教材開発・販売、オンライン英会話、英語講師育成、英語学習セミナー・合宿・旅行の企画・開催などの事業を展開
譲渡企業:経営資源を主力事業に集中するため
譲り受け企業:英会話指導ノウハウを活用した事業拡大、学校英語教育分野への参入
ハグカム:学習モチベーションの維持・強化に焦点を置き、日英バイリンガル講師や独自の学習アプリ、ゲーミフィケーション(ゲーム形式での学習)などを活用した子供向けオンライン英会話サービスを展開[26]
日本郵政キャピタル:日本郵政グループのネットワークをベースに投資事業を展開[27]
VOYAGE VENTURES(現 CARTA VENTURES):インターネットビジネスに特化した投資事業を展開[28]
グロービス:社会人向けMBA大学院、企業向け研修、ベンチャーキャピタルなどの事業を展開[29]
譲り受け企業:レッスン継続率のさらなる向上や、学習塾などをターゲットとしたBtoB領域の営業強化、採用強化のための資金調達[26]
T.Sコーポレーション:男性向け育毛剤・シャンプー・サプリメントのブランドを展開し[30]、薄毛・頭皮に関する医師・専門家監修Webメディア「ヨムトニック」を運営[31]
ウェブリオ:オンライン辞書・オンライン英会話のサービスを中心とする事業を展開[31]
譲り受け企業:英語関連メディア運営で培ったコンテンツマーケティング・アフィリエイト・SEOのノウハウをもとにした事業拡大[31]
イーオンホールディングス:傘下企業を通して、幼児~社会人向け英会話教室、英会話教材の制作・販売、留学情報提供・手続代行、中国語教室、日本語教室などの事業を展開[32]
KDDI:「au」ブランドによるモバイル通信・固定通信を中心とする消費者向けサービス事業、DXソリューション事業、ベンチャーキャピタル事業、国際通信事業などを展開するグループの中核企業[33]
譲渡企業・譲り受け企業:小学校の英語必修化などを背景として外国語学習ニーズが高まるなか、KDDIが教育事業に新規参入し、イーオングループとの協働によりEdTechを推進[32]
[25]事業案内(Bresto&Company)
[26]資金調達を実施し事業拡大(ハグカム)
[27]トップ(日本郵政キャピタル)
[28]トップ(CARTA VENTURES)
[29]サービス(グロービス)
[30]COMPANY(BUBKA)
[31]T.Sコーポレーションの事業譲り受け(ウェブリオ)
[32]イーオンHDの株主異動(KDDI)
[33]事業概要(同上)
[34]沿革(同上)
近年の英会話教室業界においては、オンライン英会話と幼児・子供向けサービスが成長を牽引しており、コロナ禍によりオンライン化の動きは一層加速しました。
M&Aにおいてもオンライン化・デジタル化や低年齢層向けサービスの強化が大きな焦点となっており、こうした流れは今後も拡大していくことが予想されます。
(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)
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