小規模M&Aとは?案件を探す方法や流れ、事例をくわしく解説
- 執筆: 鈴木 裕太 (中小企業診断士)
小規模M&Aは、一般的に「年間売上が1億円未満である会社のM&A」を指します。インターネットの普及等の影響で、小規模M&Aは近年増加傾向です。小規模M&Aの流れや案件の探し方を公認会計士が解説します。(公認会計士監修記事)
小規模M&Aとは、小規模会社または小規模事業のM&Aのことであり、一般的に年間売上1億円未満の対象会社・事業のM&Aと定義されています。
小規模M&Aは対象会社の規模が小さいことから、案件金額も小規模なものとなります。
また、上場企業が小規模会社を買収するようなケースも多々ありますが、小規模M&Aに該当します。
小規模M&Aが増えている背景として挙げられるのは、以下の3つの事項です。
中小企業の経営者年齢の分布において、1995年は年齢のピークが47歳であったのに対し、2015年は66歳と20歳近く上がっています[1]。
経営者の高齢化が進む一方、中小企業経営者の引退時期は68歳~69歳と推定[1]されています。
しかし、60歳以上の経営者のうち48%以上[1]が後継者不在の状況であり、結果として小規模M&Aが事業承継の手法として利用されることが増えたのです。
M&Aは成約まで長い時間が必要で仲介業者などの専門家もある程度のコミットを必要とします。
そのため、小規模M&Aでは手数料とコストのバランスが合わず、仲介会社も取り扱いが難しい状況でした。
現在は、M&Aマッチングサービスなど、インターネットを活用したM&Aサービスが台頭したことで、より低コストでM&Aサービスを受けられるようになりました。
結果として、小規模な案件でも、M&Aマッチングサービス等を利用することで、親族への承継や廃業以外にも小規模M&Aという選択が可能になったのです。
買い手はM&Aを成長戦略の一つと考えている場合、一度だけのM&Aだけでなく、複数回実施することでより成長を加速させることができます。
上場企業でも複数回のM&Aにより、急角度で成長してきた企業がいくつもあります。
また、個人でもM&Aマッチングサービスを利用して、以前よりも気軽に買収を検討することが可能となりました。
「サラリーマンは300万円で会社を買いなさい」、「起業するより会社は買いなさい」といった書籍も出版されるなど、個人がM&Aすることが珍しいことではなくなりつつあります。
仲介会社のビジネスモデルは、売り手と買い手を仲介することで買い手と売り手の両者から手数料を徴収することです。コンサルタントが間に入り、売り手と買い手に対してアドバイスを提供し、M&Aプロジェクトを進めていきます。
M&Aプラットフォーム・マッチングサイトは、インターネットを通じて売り手と買い手をマッチングさせることにより手数料を得るビジネスモデルです。
以下の図は、M&Aサクシードの例です。
公認会計士、税理士、弁護士といった士業は、顧問先や金融機関など様々なネットワークを有しています。
士業にM&Aの相談をすることで案件を紹介してもらえることがあります。
事業引継ぎ支援センターは、国が運営している公的な事業承継サービスです。
各地の商工会議所も事業承継サービスを展開しており、無料で相談に応じてくれます。
小規模M&Aを始めるにあたり、目標や戦略を明確にしておくことが重要です。
目標・戦略があいまいなままだと、経営統合の段階で期待していたシナジーを創出することが出来ない可能性が高まります。
売り手としても単なるエグジットだけでなく、事業承継、選択と集中、企業再生などの目標設定・戦略策定を行い、積極的により良い買い手候補を探し出すアクションが必要となります。
M&Aにおいて、以下のようなM&A専門業者からの支援を受けてM&Aを進めることが一般的です。
FAはM&Aプロセス全般に対して、アドバイスを提供していますが、大規模M&AやクロスボーダーM&Aを対象としている場合が多くなります。
そのため、小規模M&Aにおいては、仲介会社かマッチングサイトを利用するのが一般的です。
仲介会社とマッチングサイトは、業務範囲、契約関係、コストが異なっているので、それぞれのメリデメをよく検討したうえで選定する必要があります。
仲介会社がマッチングサイトを使って買い手や売り手を探す場合、反対にマッチングサイトが仲介会社を紹介するケースもあり、両者と関わるM&Aプロジェクト例もあります。
買い手、売り手ともに最初は匿名でM&A相手を探すことが一般的です。
売り手企業は、ノンネームシートと呼ばれる案件概要書を作成し、買い手はノンネームシートをもとに初期的検討を行います。
業種、事業規模、希望価格、売却理由などを確認したうえで、買い手に初期的関心がある場合は、秘密保持契約(NDA)を締結し、より本格的な検討へと進みます。
仲介会社が間に入っている場合は、ノンネームシート作成やノンネームシートの買い手候補への送付、NDAの調整などを行います。
買い手は仲介会社やマッチングサイトのノンネームシートを複数検討することになります。
トップ面談とは、売り手と買い手の経営者同士が面談することであり、お互いの価値観に共有できるかどうかがM&Aの成否を分けるポイントの一つです。
トップ面談において、業界の将来見通し、経営ビジョンに共感できるかなどの意思疎通を行います。
トップ面談の場、またはその後のやり取りを通して、基本的な条件交渉を行います。
トップ同士がお互いに納得し、基本的な条件が合意できれば、M&Aは先に進みやすくなります。
基本合意書とは、M&Aにおいて基本的な事項で両者が合意できた事項を書面で確認するものです。
英語名でLOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of understanding)とも呼ばれています。
基本合意書に記載することが多い事項は以下のとおりです。
上記のうち、買い手にとって重要なのは買収価格を記載することにより取引上限価格が定まることが多い事と、独占交渉権の獲得です。
基本合意書は取引条件に関する事項は法的拘束力を付けないことが多いですが、売り手と買い手の両者に取引成立に向けた心理的拘束力が期待できるため、実務上締結する場合が一般的です。
デューデリジェンス(DD)とは、対象会社の価値やリスクを把握するために行う調査のことです。
具体的な主なデューデリジェンスの種類は以下のとおりです。
M&Aプロジェクトで必ず上記デューデリジェンスの全てを実施するということではありません。
また、デューデリジェンスの中でも、財務・税務デューデリジェンスはFASや会計税理士事務所、法務デューデリジェンスは弁護士事務所に依頼することが一般的です。
ビジネスデューデリジェンスについては、買収後のシナジーを見通すことに大きく関連があり、買い手にとって投資回収できるか否かの重要な意思決定材料となります。
そのため、社内メンバーを参画させて重点的に実施することが望ましいデューデリジェンスと言えます。
デューデリジェンスの結果、把握したリスクに対して、買い手には以下の7つの選択肢があります。
減額交渉を行う際は、デューデリジェンスの結果を売り手に示し、合理的に交渉を行う必要があります。
一方で必ずしも、売り手が減額交渉に応じるかどうかは分かりません。ブレークするリスクを踏まえて、交渉しなければなりません。
最終契約書は、買い手もしくは売り手からドラフトを作成し、お互いが何度か修正を繰り返して完成することが一般的な流れです。
お互いの顧問弁護士同士が契約書のやり取りを直接担当する場合もあります。
株式譲渡の場合、売り手は株券を引き渡し、買い手は譲渡代金の支払を行うことで取引は完了します。
株券廃止会社の場合、株式名簿の書き換えによって、クロージングが完了します。
通常の中小企業のM&Aの場合、株式譲渡制限会社である場合がほとんどですが、株式譲渡承認手続きが必要となる点は留意しておきましょう。
事業譲渡の場合、対象資産・負債の移転手続を個々に行っていく必要があります。
事業譲渡契約書締結の段階で、いつ承継手続が完了するかの見込を立て、その日をクロージング日とします。
クロージング日に、売り手と買い手が譲渡資産・負債の移転手続を完了させ、買い手は譲渡代金を支払うことにより、事業譲渡のクロージングが完了します。
PMIとは、Post Merger Integrationの略でM&A後の経営統合のことです。PMIの主な流れは以下のとおりです。
M&Aの成否は、経営統合後にシナジーを創出できるかどうかに大きく関わっており、PMIが成功するかどうかに大きく関わってきます。
DDの直後から、上記のPMIプロセスを意識して、クロージングよりも前にPMIの準備を進めておくことが大切です。
株式譲渡とは、対象会社の発行する株式を買い手が買い取ることにより、経営権を取得する方法です。
発行済み株式総数の過半数(50.1%以上)を得ることで、役員選任など会社運営に関する株主総会決議を買い手単独で意思決定できるようになります。
株式譲渡のメリットは以下のとおりです。
株式譲渡のデメリットは以下のとおりです。
事業譲渡とは、営利目的のため組織化されており、有機的一体として機能する対象会社の財産を、買い手が取得する方法です。
事業譲渡の中身は、ビジネス上必要な資産、負債、従業員、ノウハウなど有形無形に関わらず広く対象に含まれます。
事業譲渡のメリットは以下のとおりです。
事業譲渡のデメリットは以下のとおりです。
買い手、売り手の双方にとって、案件の規模に見合う業者・サービスを利用することは重要です。
手数料は業者・サービスによって計算方法はさまざまですが、シンプルに表現すると、「案件金額×手数料率」で計算されることが通常です。
ただし、「最低手数料」が定められている場合があり、大規模案件向けのサービスは最低手数料が1,000万円以上といった業者もあります。
例えば、最低手数料1,000万円、手数料率5%の業者に依頼した場合を考えてみましょう。
5,000万円の案件だった場合、手数料は5,000万円×5% = 250万円 < 1,000万円であるため、最低手数料の1,000万円となります。
この場合、5,000万円に対する手数料率は20%となってしまい割高です。
M&Aは成功したものの、売却金額のうち20%も手数料を取られてしまえば手取が少なく、本当の意味で成功したとは言えないでしょう。
業者・サービスの利用前に必ず手数料体系を確認し、案件規模に見合うサービスを利用するようにしましょう。
売り手にとって、なるべく高い金額で売却するためには、M&Aの前にあらかじめ企業価値を高めておくことが重要です。
企業価値は一朝一夕で高められるわけではありませんが、具体的なアクションは以下のようなものになります。
買い手にとって、対象会社のことを良く知らないままM&Aを進めてしまうと、M&A失敗の確率が高まります。
小規模M&Aであったとしても、財務、税務、法務デューデリジェンスは外部専門家に依頼することがお勧めです。
譲渡企業である「桐のかほり 咲楽」は、静岡県加茂郡河津町にある高級温泉旅館[2]です。
1日4組限定の宿泊で、毎年2月初旬~3月初旬あたりは有名な河津桜も楽しめるロケーションです。
譲り受け企業である小野写真館は1976年創業、茨城県ひたちなか市に拠点を置く写真館事業を中心とするグループ企業です。
2018年9月の売上高は16億円超[3]、2019年1月時点の従業員数は170名[3]です。
M&Aの目的は、旅館と写真を掛け合わせることでシナジー効果を創出することです。
具体的には、旅館の通常営業に、全館貸し切りにした挙式、還暦祝いなど祝いの席を設けカメラマンが1日密着してアルバムを制作するという新しいサービスが生み出されています。
2020年10月、小野写真館は「桐のかほり 咲楽」を「事業譲渡」により取得しています。
売り手である「桐のかほり 咲楽」のオーナーは事業承継の手法としてM&Aを選択し、M&A仲介会社がM&Aサクシード経由で小野写真館が紹介され成約に至りました。
譲渡企業であるライフ・コーポレーションは、愛知県を拠点とする施設常駐警備事業を展開している企業です。
設立は2003年1月、2020年10月現在の従業員数は41名[4]、資本金は300万円です。
譲り受け企業である日輪は、愛知県を拠点とする人材サービス業を展開している企業です。
創業は1996年3月、資本金は1億円[5]です。
M&Aの目的・背景は、譲渡企業にとっては後継者不在のためM&Aを活用、譲り受け企業にとっては事業拡大です。
日輪は既存事業として人材サービス業がありますが、高齢人材の新たな働き方としてグループ内の警備業を紹介できるというシナジー創出がこのM&Aの狙いです。
譲渡企業にとっても、警備業界は人材が集まりづらい業界ですが、人材サービス業と組むことで、人材確保の不安がなくなるといったメリットが生じます。
2019年7月、日輪はライフ・コーポレーションを「株式譲渡」の手法を用いて買収しています。
取得比率は100%です。
M&AマッチングサービスのM&Aサクシードにより両者の関係が始まり、最初のメッセージ送信から約1カ月で成約に至っています。
譲渡企業であるCOMBOは、宮城県仙台市が本社のVR/ARなど受託開発事業を営んでいる企業です。
2017年3月設立、宮城県以外にも北海道と大阪にもオフィスを構えています。
2021年5月時点の従業員数は34名[6]、資本金は1,000万円[6]です。
譲り受け企業であるテクノモバイルは、コンシューマ向けのWEBサイト開発、スマホ・タブレット向けアプリの開発などを手掛ける企業です。
2006年11月設立、従業員数180名[7]、資本金は4,000万円[7]です。
テクノモバイルは重要な経営戦略の一つとしてM&Aを掲げており、既存事業のバリューチェーン拡大と優秀なエンジニアの獲得の2軸を目的としています。
COMBOは多彩な技術力を持ったエンジニアが多数在籍しており、テクノモバイルとCOMBOで開発案件を共同で進めるといったシナジーを得ることが狙いです。
テクノモバイルは、COMBOを「株式譲渡」の手法により買収しています。
取得比率は90%で既存株主の持株比率を10%残す形です。
M&Aサクシードを利用することで、2カ月というスピード成約に至っています。
[2] 伊豆今井浜温泉 桐のかほり 咲楽
[3] 小野写真館グループ 企業情報
[4] ライフ・コーポレーション 会社概要
[5] 日輪 会社概要
[6] COMBO(コンボ) 会社概要
[7] テクノモバイル 会社概要
近年増加傾向にある小規模M&Aについて、案件の探し方、M&Aの進め方、スキーム、成功させるコツ、実際の事例を解説してきました。
M&Aマッチングサービスなど、インターネットを上手に活用することで誰もがM&Aできるようになってきました。
自分の会社は売上・利益がともに小さく高い金額では売れないだろう、一度大手仲介会社に売却の相談をしたが断られてしまった、などを理由にM&Aを諦める必要はありません。
買い手もM&Aは初めての経験なので、金額の小さいM&Aから始めたいといった場合にも小規模M&Aを活用するメリットがあります。
日本は、高齢化社会という構造的な課題から、今後も小規模M&Aの重要性は増していき、案件数自体も増加することが想定されます。
売り手にとっても買い手にとっても、小規模M&Aに少しでも興味がある場合には、適切なM&A専門家やサービスを選択し、チャンスを逃さないようまずは気軽に相談してみることが大切です。
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