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医療法人のM&Aとは?手法・持分の扱い・事例をわかりやすく解説

更新日:2026年09月03日twitterfacebook
M&A・事業承継
  • 執筆: 相良 義勝 (京都大学文学部卒 / 専業ライター)
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後継者不足や医療費削減の動きを背景に、医療法人のM&Aが注目されています。医療法人同士のM&Aや営利企業による医療法人のM&Aについて、動向や手法、流れ、メリット、事例などをくわしく解説します。

医療法人 M&A(FV)

医療法人のM&A動向

医療法人理事長の高齢化と後継者不足、超高齢化社会を前にした医療費削減の流れなどにより、医療法人のM&A(とくに外部の第三者への事業承継)のニーズは着実に高まっていると言われています。

近年では中小企業全般で後継者不在問題が進行していますが、医療法人の理事長は医師・歯科医師である必要があることから、一般企業の承継よりもハードルが高く、後継者問題はやや深刻です。

帝国バンクの調査[1]によると、「病院・医療」関係の法人の後継者不在率は73.6%(2020年)で、全業種の平均値65.1%よりも高くなっています。

また、2025年には団塊の世代(1947年~1948年生まれの約800万人)が後期高齢者となるなど、高齢化がますます進展するなか、診療報酬のマイナス改定や病床削減などの動きが目立つようになってきています。

2018年~2020年に行われた事業承継(全業種)について先代経営者との関係を見ると、同族承継(血縁関係のある後継者への承継)の割合は急速に低下しています(42.7%→34.2%)。
一方で、内部の人材への承継が31.4%から34.1%、社外第三者への承継が6.9%から8.3%となり、上昇傾向にあります。

医療法人に限定した事業承継の実態調査はまだ十分に行われていませんが、M&A仲介会社が扱う医療法人の第三者承継の件数が大きく伸びているという報告もあり[2]、今後M&Aが活発化することは確実視されています。

[1] 全国企業「後継者不在率」動向調査(2020 年)(帝国データバンク)
[2] 医業承継の現状と課題(日本医師会総合政策研究機構)

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医療法人の概要|M&Aにおける重要なポイント

医療法人は医療法に基づいて設立される法人です。
会社法に基づいて設立される一般企業とは様々な違いがあり、M&Aにおいても取引手法などに差異が生じます。

医療法には医療法人の「非営利性」が規定されており、M&Aにおいては(とくに営利企業によるM&Aの場合には)議決権や役員選任などの関係でこれが大きなポイントとなります。

医療法人は設立にあたり都道府県知事の認可が必要です。
許認可の問題もM&Aに大きく関わります。
医療法人には様々なタイプがありますが、M&Aにとってとくに重要なのは「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」の区別です。

以上のようなポイントに重点を置いて医療法人の概要を解説します。

医療法人の非営利性

病院や診療所(クリニック)を開設することができるのは(国立・公立の施設を除けば)医師・歯科医師個人または法人です[3]。

病院を開設しようとする医師・歯科医個人および法人と、診療所を開設しようとする法人は、自治体の許可を申請する必要があり、営利目的による開設と判断されれば許可は下りません(医療法第7条第6項[4])。

つまり、営利企業は開設者となることができず、医療法人や公益法人、学校法人、厚生農業協同組合連合会など、法令により非営利性が規定されている法人だけが病院・診療所を開設できます(ただし、営利企業が従業員の福利厚生のために病院を開設することは認められています)。

実際のところ、病院の大半は医療法人により開設され、診療所の大半は医療法人または個人により開設されています[5]。

医療法人を設立するには都道府県知事の認可を受ける必要があります(医療法第44条[6])。
医療法では「医療法人は剰余金の配当をしてはならない」と明記されており(同法第54条[7])、その他の点に関しても法令により営利性が制限されています。

医療法人の定義と種類

医療法人の定義

病院または医師・歯科医師が常時勤務する診療所(クリニック)・介護老人保健施設・介護医療院のうち、社団ないし財団として組織されているものを医療法人といいます(医療法39条1項[8])。

社団医療法人と財団医療法人

社団とは、一定の人々(=社員)が原資を持ち寄って設立・運営する法人を指し、財団とは寄附された原資をもとにして設立・運営される法人を指します。
社団の「社員」とは社団の構成員を指す言葉で、職員・従業員を意味するわけではありません

社団医療法人

社団医療法人では、設立時の出資者や基金拠出者が社員となり、社員総会において1人につき1票の議決権を行使します。
社員総会は株式会社の株主総会に相当する最高意思決定機関で、役員の選任・解任や新たな社員の加入(入社)の承認などを行います。[9]

出資者は持分の比率に応じた払い戻しを受ける権利を有し、基金拠出者は拠出金の返還を受ける権利を有します(詳しくは後述)。

医療法には社員の人数についての規定はありませんが、多くの自治体では社団医療法人の設立には3人以上の社員が必要としています。
法人が社員となることも許されていますが、医療法人の非営利性のため、営利法人が社員となることはできません。[9]

社団医療法人の役員は理事(原則として3名以上)と監事(1名以上)からなり、理事全員により理事会が組織され、理事のうち医師・歯科医医師である人のなかから理事長が選ばれます。
一般企業で言えば理事は取締役、理事長は代表取締役、理事会は取締役会、監事は監査役などに相当します。[9]

法人が役員となることはできません。
また、医療法人と関係のある特定の営利法人の役員が理事・監事となることは非営利性の観点から望ましくない(原則として認められない)とされています。[9]

財団医療法人

財団医療法人は原資の寄附によって成り立つもので、持分出資・基金拠出という概念はありません。

財団医療法人でも社団医療法人と同様の役員が置かれます。
また、医療従事者、医療機関経営に関して見識を有する者、医療を受ける者、その他特に必要と認められる者のなかから評議員が選ばれ、社団医療法人の社員に相当する役目を果たします。

評議員の人数は理事の人数を上回っていなければなりません。[9]

財団医療法人の数は少なく、医療法人の大半は社団医療法人が占めます。

持分あり医療法人と持分なし医療法人

従来、社団医療法人は定款に持分(出資持分)の定めを置き、持分の出資によって原資を調達するのが主流でした。
こうした社団医療法人は持分あり医療法人と呼ばれます。

2007年の医療法改正で持分あり医療法人の新設はできなくなり、持分なし社会医療法人向けに基金制度が創設されました。
財団医療法人は寄附により原資を調達するためこれらの制度は関係がありません。

持分あり医療法人(社団)

持分あり医療法人に出資を行い社員となった人は、社員をやめる(退社する)際や医療法人が解散した際に出資割合(持分)に応じた払い戻しを請求する権利を持ちます。

例えば、A・B・Cという3人の社員がいて、出資額の比率が1:1:2だったとすると、Aさんは退社時・解散時に法人財産(その時点の時価)の4分の1を受け取ることができます。Aさんから持分を相続した人も同様の権利を有します。

出資時点と出資割合が変わらず、法人の財産規模が10倍になっていたとすると、Aさん(の相続人)は出資額の10倍の払い戻しを受け取ることになります。

持分の所有者・相続者により払い戻しが請求されると、医療法人は一度に多額の支払が必要になるため、経営が不安定化する要因となります。
また、株式ほどではないにしても、持分の払い戻しには一種の営利性が認められます。

地域医療の安定化と医療法人の非営利性徹底のため、2007年の医療法改正により持分あり医療法人の新設はできなくなりました。
既存の持分あり医療法人は当分の間は存続可能とされ、持分なし医療法人への移行は自主的な判断に任されています。国は移行を促進するための免税・融資などの政策を打ち出しています。[10]

なお、出資額を超える金額の払い戻しはしないという旨を定款に定めている社団医療法人もあり、出資額限度法人と呼ばれます。
出資額限度法人も医療法改正で新設ができなくなりました。

持分なし医療法人(基金拠出型社団医療法人)

医療法改正で持分制度が廃止されたのに伴い新たに設けられたのが基金拠出の制度です。
基金拠出型社団医療法人では、出資ではなく基金の拠出によって活動原資を調達します。

基金を拠出した人は、社員総会に決議により基金の返還(拠出額そのままの返還)を受けることができます。
ただし、医療法人の純資産額が基金総額を超過していなければ返還はできません。
純資産額が超過している場合にも、超過額の範囲内でのみ返還が行われます。[11]

特定医療法人と社会医療法人

特定医療法人は租税特別措置法第67条の2[12]、社会医療法人は医療法第42条の2[13]により規定されている医療法人の類型で、一定の厳格な要件を満たした財団医療法人または持分なし社団医療法人がなることができます。

特定医療法人は法人税軽減などの優遇措置を受けることができます。

社会医療法人は通常の医療に加えて救急医療や災害時の医療、へき地医療、周産期医療など、従来公的病院が行ってきた公益性の高い医療を担い、医療法人としての本来の業務に資する範囲内で収益業務を営んだり法人債を発行したりすることができ、税制優遇措置を受けることもできます。

医療法人の種類まとめ

 

持分あり

持分なし

社団

持分あり医療法人
出資額限度医療法人

基金拠出型医療法人
特定医療法人
社会医療法人

財団

-

財団医療法人(下記以外)
特定医療法人
社会医療法人

[3] 医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について(厚生労働省)
[4] 医療法第7条(e-gov法令検索)
[5] 令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 調査の概要Ⅰ医療施設調査(厚生労働省)
[6] 医療法第44条(e-gov法令検索)
[7] 医療法第54条(e-gov法令検索)
[8] 医療法第39条(e-gov法令検索)
[9] 医療法人の機関について(本文および別添9)(厚生労働省)
[10] 持分によるリスクと持分なし医療法人の移行事例に関する調査研究 報告書(持分なし医療法人への円滑な移行マニュアル改訂版)(厚生労働省)
[11] 医療法施行規則第30条の37(e-gov法令検索)
[12] 租税特別措置法第67条の2(e-gov法令検索)
[13]医療法第42条の2(e-gov法令検索)

医療法人M&Aの手法(スキーム)・流れ

医療法人同士のM&Aの手法と流れ

持分譲渡による経営権取得

売り手法人の社員の持分を買い手側が買い取る手法です。
持分ありの社団医療法人のM&Aでのみ用いることができます。

社団医療法人の役員選任・解任は、総社員の過半数が社員総会に出席し、出席者の過半数が賛成することで決議できます(医療法第46条の3の3[14])。
したがって、社員の過半数を買い手側が占めれば、役員をすべて入れ換えて新体制に移行し、経営権を取得することができます。

定款の変更、役員の除名、解散の決議は、総社員の3分の2以上の出席と出席者の3分の2以上の賛成が必要です。
医療法人の名称を変更する場合には定款変更が必要であるため、3分の2以上の議決権を得なければなりません。

定款変更には都道府県知事による認可を受ける必要があります。
また、法人の名称や理事長の変更については登記が必要です[15]。

社員・評議員の入れ換えによる経営権取得

持分なし社団医療法人と財団医療法人で用いられる手法です。
売り手法人の社員・評議員に辞めてもらい、代わりに買い手側の社員・評議員がその地位に就くことで、過半数の議決権を得て経営権を取得します。
これにより持分譲渡と同様の結果となります。

売り手法人の社員・評議員・役員に対しては、退職金という形で対価を支払います。
持分譲渡の場合と同様の認可・変更登記手続きが必要です。

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合併

合併の手法
合併

複数の医療法人が1つの法人に一体化するという手法で、吸収合併と新設合併があります(医療法第57条~59条の5[16])。
医療法人の種別に制限はありません。

吸収合併では、一方の法人が存続し、他方の法人が解散手続きを減ることなく消滅して前者に一体化します。
新設合併では、2つ以上の法人が合わさって新しい法人を設立します。

合併手続きの流れ

合併は以下のような流れで行われます。

  1. 当事者間で合併契約を締結
  2. 社団医療法人の場合は全社員、財団医療法人の場合は理事の3分の2以上による合併契約への同意
  3. 合併について都道府県知事への認可申請
  4. 認可後2週間以内に財産目録・貸借対照表を作成して主たる事務所に備え置き、債権者に開示
  5. 4と同じ期間内に、合併に異議があれば申し出るように債権者に対し公告し、判明している債権者に対しては個別に催告する(申出期間は2か月以上設ける)
  6. 申出期間内に異議が述べられなかった場合は合併が債権者に承認されたものとし、異議が述べられた場合は弁済や担保提供などの対応をとる
  7. 契約書に規定された効力発生日に合併が成立し、消滅する医療法人の権利義務(資産・債務・雇用契約など)が存続する法人(または新設法人)にまとめて承継される
  8. 合併の登記を行う
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分割

分割の手法
会社分割

医療法人が一部の事業を分割し、その部分に含まれる権利義務の一切を他の医療法人(または新設医療法人)にまとめて承継させるという手法です(医療法第60条~第62条[17])。
売りたい部分だけを売り、買いたい部分だけを買うことができるのがメリットです。

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例えば、複数の病院を経営している法人が一部の病院のみ他法人に譲渡するような場合に分割が用いられます。
既存の医療法人に承継させる場合は吸収分割、新設法人に承継させる場合は新設分割と呼ばれます。

社会医療法人、特定医療法人、持分あり医療法人は分割を行うことができません(医療法施行規則第35条の6[18])。

分割手続きの流れ

分割は以下のような流れで行われます。

  1. 当事者間で吸収分割契約を締結(新設分割の場合、新設会社の基本事項や承継に関する事項を定めた新設分割計画書を作成)
  2. 社員・理事による同意(合併と同様)
  3. 都道府県知事への認可申請(合併と同様)
  4. 財産目録・貸借対照表の作成と備え置き(合併と同様)
  5. 労働契約承継法・商法等改正法附則第5条に基づく労働者保護手続き(株式会社の会社分割で求められる手続き[19]と同様)
  6. 債権者への公告など(合併と同様)
  7. 債権者の異議への対応(合併と同様)
  8. 契約書・計画書に規定された効力発生日に分割が成立し、分割される事業に属する権利義務が まとめて相手法人に承継される
  9. 分割の登記を行う

合併の場合と異なるのは5の手続きです。
以下のいずれかに該当する職員が対象となります(これらの職員は分割により労働内容・条件が大きく変化する可能性があるため)。

  1. 分割される事業に主として従事していながら、雇用契約が相手法人に承継されないことになっている職員
  2. 分割される事業とは別の事業に主として従事していながら、雇用契約が相手法人に承継されることになっている職員

分割を行う法人は、該当する職員と個別に協議を行った上で、異議申出の期間を設定し、異議が述べられた場合には職員の意思に従った対応をとる必要があります(上記Aの場合は相手法人への承継、Bの場合はもとの法人での雇用継続)。

また、労働協約を承継する場合には労働組合との合意が必要になる場合があります。

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事業譲渡

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医療法人の事業の一部または全部を譲渡する手法です。
分割や合併では医療法に基づく手続きにより事業に属する権利義務がまとめて承継されるのに対し、事業譲渡では一般的な譲渡取引を通じて権利義務を個別に相手法人に移転します。

事業譲渡は分割よりも細かく承継対象を選別できるという利点がありますが、権利義務の数が多いと移転の手続きが繁雑になります。

また、事業譲渡で病院や診療所が相手法人に移転する場合、法律上は売り手法人がその病院・診療所をいったん廃止し、買い手側で改めて開設するということになるため、許可申請の手続きが必要です。

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営利企業が医療法人を買収する手法と流れ

営利企業が医療法人を買収する場合、買収対象を自社に一体化することは許されませんので、持分譲渡か社員入れ替えにより経営権を取得する手法をとることになります。

また、営利企業は医療法人の社員・役員とはなれないため、医療法人の経営権を直接的に取得することはできません。
したがって、自社の意思を代弁する人物を選任して社員・役員として送り込むという間接的な手法で買収対象の法人の経営をコントロールしていくことになります。

なお、営利企業と医療法人の間で出資を介した業務提携(資本業務提携)が締結されるケースがあります。

資本提携と業務提携

資本業務提携とは、一方の法人が他方の法人に出資して強固な協力体制を築き、互いの経営資源を活用し合う関係を構築して共栄を図る手法で、広い意味ではM&Aに含まれます。

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[14] 医療法第46条の3の3(e-gov法令検索)
[15] 医療法人の適正な運営に関する調査研究 報告書(厚生労働省)
[16] 医療法第57条(e-gov法令検索)
[17] 医療法第60条(e-gov法令検索)
[18] 医療法施行規則第35条の6(e-gov法令検索)
[19] 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)の概要(厚生労働省)

医療法人M&Aのメリット

医療法人同士のM&Aのメリット

基本的には一般企業同士によるM&Aのメリットと共通していますが、医療法人特有の課題を背景とするメリットも見られます。

買い手側のメリット

買い手側としては、事業としてのまとまりのある経営資源を取得することにより、比較的短期間で大きな経営課題の解決を図ることができます。
一言でいえば「時間を買う」ことができるわけです。

より具体的には以下のようなメリットがあります。

  1. 互いの強み・弱みの相互補完によるサービス向上、新価値創造
  2. 共通する経営資源の整理や購買の共同化によるコスト削減
  3. 医師・看護師などの専門職人材の確保
  4. 法人設立・医療施設開設の許認可手続きの省略
  5. 病床増加が困難な地域(病床過剰地域)での病床確保

③~⑤は医療法人特有のメリットと言え、とくに⑤は他に代えがたいメリットとなる場合があります。

病床数は各自治体の医療計画に基づいて適正配置がなされることになっており、病床数が目下の上限に達している地域ではいくら自力で病床の規模を拡大しようとしても難しいため、M&Aが病床拡大の数少ない手段となります。

売り手側のメリット

売り手側にとっては以下のようなメリットがあります。

  1. 後継者不在問題の解決
  2. 職員の雇用維持
  3. 経営難の事業や老朽化した施設の再生
  4. 創業者利益の獲得(医療法人の出資者・基金拠出者が、法人の成長後に出資・拠出額を優に上回る譲渡対価を得ること)

後継者不在問題の深刻さや社員への利益還元の困難さなどの背景を考えると、医療法人をM&Aで売却するメリットはかなり大きいと言えるでしょう。

一般企業・株式会社が医療法人を買収するメリットは?

基本的に医療法人は非営利性が求められる組織です。
地域に適正な医療を提供しながら事業規模を拡大して利益を向上させ、法人財産の価値や役員報酬のレベルを上げていくということは可能ですが、現行の法制度上では営利企業が営利目的で医療法人を買収するメリットは一般的には大きいとは言えません。

また、営利企業による医療法人の経営権の取得は間接的な手法によらざるを得ず、積極的な経営を行いづらいという問題があります。

こうしたことから、株式会社などの一般の営利企業による医療法人のM&Aは現在のところ活発化しているとは言えない状況です。

ただし、資本業務提携であれば経営の独立性を維持したまま協働が行えるため、現行制度上でも有益な展開が望めます。
近年では医療法人とIT企業の間などで資本業務提携の動きが見られます。

M&Aのメリット・デメリット一覧|売り手・買い手別にわかりやすく解説
M&A・事業承継
M&Aのメリット・デメリット一覧|売り手・買い手別にわかりやすく解説

M&Aのメリット・デメリットを売り手(事業承継・創業者利益)と買い手(事業拡大・シナジー)に分けて一覧解説。リスクを抑えるためのポイントも紹介します。

医療法人M&A事例

近年のM&A事例を7件紹介します。

【医療法人×医療法人】一樹会が健祥会グループの青嵐会に介護老人保健施設の事業を譲渡

譲渡企業の概要

一樹会は徳島県でクリニックやグループホームを運営している医療法人です。[20]

譲り受け企業の概要

健祥会グループは徳島県と香川県で高齢者施設運営などを展開している法人グループです。
グループの一員である医療法人青嵐会は徳島市でクリニックの運営などを行っています。[21]

M&Aの目的・背景

一樹会の運営する介護老人保健施設「サンライズ」は施設老朽化や介護職員不足の問題を抱えていました[21]。
そこで、古くから同法人と関係のある健祥会グループが同施設を引き継ぎ再生することを目的として事業を譲り受けることになりました。

健祥会としてはグループの規模を活かして人材交流や経営効率化を推し進める考えです。[22]

M&Aの手法・成約

2018年10月に、一樹会が介護老人保健施設「サンライズ」の事業を青嵐会に譲渡しました[21]。
譲渡対価の額などは公表されていません。

クリニック売却の相場はいくら?個人クリニック・医療法人別の価格目安と売却方法・税金を解説
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クリニック売却の相場はいくら?個人クリニック・医療法人別の価格目安と売却方法・税金を解説

クリニック売却の相場を個人クリニック・医療法人別に解説。営業権の目安、売却方法と進め方のスケジュール、税金まで、承継を検討する院長向けにまとめます。

【社会医療法人×医療法人】木下会が沖縄徳洲会に吸収合併

譲渡企業の概要

木下会は千葉県で複数の総合病院や介護老人保健施設を運営していた社会医療法人です。[23]

譲り受け企業の概要

沖縄徳洲会は全国に病院を展開する徳洲会グループに属する医療法人で、沖縄・鹿児島を中心に多数の病院・クリニックを運営しています。[24][25]

M&Aの目的・背景

沖縄徳洲会は経営の合理化やコンプライアンスおよびガバナンスの強化などを目的として木下会を吸収合併しました。[25]

M&Aの手法・成約

2019年12月、沖縄徳洲会が木下会を吸収合併しました。
合併対価などの詳細は公表されていません。[25]

クリニックM&A・医院承継の動向とメリット、相場、成功事例
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クリニックM&A・医院承継の動向とメリット、相場、成功事例

医師の高齢化や後継者不在問題、地域的な医療システム再編の動きなどを背景として、クリニックのM&Aが活発化しています。クリニックのM&Aの動向、メリット、近年の事例、売却価格相場をくわしく解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)

【医療法人×医療法人】博洋会が藤井病院の事業を竜山会に譲渡

譲渡企業の概要

博洋会は石川県金沢市で藤井病院を運営していた医療法人です。[26]

譲り受け企業の概要

竜山会は石川県金沢市で病院を運営している医療法人です。[27]

M&Aの目的・背景

博洋会が藤井病院において夜勤看護要員の配置要件が満たされていないにもかかわらず満たしているように見せかけ、勤務実態と異なる届出をして診療報酬を不正に請求していたことが明らかとなり、保健医療機関指定取り消しの処分を受けることになりました。[28]

博洋会は医療サービスと雇用の継続のため藤井病院の事業を引き受けるスポンサーを探し、最終的に竜山会に事業を譲渡することになりました。[29]

M&Aの手法・成約

2021年6月に博洋会と竜山会の間で事業譲渡契約が締結されました。
8月1日付で譲渡が実行される予定です。[29]

訪問看護業のM&A|動向や事例、売却額の相場、流れ
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訪問看護業のM&A|動向や事例、売却額の相場、流れ

訪問看護の業界では、関連性の高い業種との買収・売却を中心にM&Aが活発です。訪問看護のM&Aでは、経営資源の獲得や経営の先行き不安解消などのメリットを期待できます。訪問看護業のM&A動向や事例、メリット、流れをくわしく解説します。

【医療法人×公益法人・医療法人】民事再生中の翔洋会がときわ会に医療・介護事業を譲渡

譲渡企業の概要

翔洋会は福島県いわき市で病院やクリニックを運営していた医療法人です。[30]

譲り受け企業の概要

公益財団法人ときわ会・医療法人ときわ会は福島県いわき市で病院・クリニック・保育園・介護老人保健施設などを運営しています。[31]

M&Aの目的・背景

翔洋会は2018年11月に61億6,400万円の負債を抱えて事実上倒産し民事再生法の手続きに入りましたが、社会的影響が大きいことから当局の保全命令・監督命令のもとで病院運営を続けていました。[30]

ときわ会は、グループ内の既存病院との連携による医療提供体制・健診機能の向上などを目的として、民事再生手続中の翔洋会の経営権を取得することを決定しました。[32]

M&Aの手法・成約

2019年8月、公益財団法人ときわ会・医療法人ときわ会が翔洋会債権者集会の承認を得て翔洋会の経営権を取得しました。
報道によると譲渡対価の額は12億4,300万円です。[30]

老人ホームの売却・M&A|相場・許認可・事例をわかりやすく解説
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老人ホームの売却・M&A|相場・許認可・事例をわかりやすく解説

老人ホーム・介護施設の売却相場と評価のポイントを解説。人材・入居率・許認可の価値、M&A動向、実際の売却事例5件と成功のポイントを紹介します。

【厚生連×社会医療法人・社団法人】埼玉県厚生農業協同組合連合会が2病院を北斗と巨樹の会に譲渡

譲渡企業の概要

埼玉県厚生農業協同組合連合会は地域の中核的な病院として熊谷総合病院と久喜総合病院を運営していましたが、2病院譲渡後に破産手続きにより解散しました。[33]

譲り受け企業の概要

北斗は北海道帯広市を中心に病院やリハビリテーションセンターなどを運営する社会医療法人です。[34]
巨樹の会は佐賀県・山口県と関東圏で病院・クリニックを展開している一般社団法人です。[35]

M&Aの目的・背景

熊谷総合病院と久喜総合病院では赤字経営が続き、自主的な改善は難しいことから、埼玉県厚生農業協同組合連合会は医療サービスと雇用の継続のため両病院の譲渡を決定しました。 [34]

M&Aの手法・成約

2016年年1月、埼玉県厚生農業協同組合連合会と北斗、巨樹の会の間で譲渡契約が結ばれ、熊谷総合病院が北斗に、久喜総合病院が巨樹の会に譲渡されました[34]。
譲渡対価などの詳細は公表されていません。

赤字企業は売却できる?売却価格の相場や成功のコツを徹底解説
M&A・事業承継
赤字企業は売却できる?売却価格の相場や成功のコツを徹底解説

赤字企業でも、他社にない強み等があれば売却できる可能性はあります。M&Aの件数は近年増加しており、赤字企業が買収された事例もあります。赤字企業の売却を成功させるコツや買収するメリットを徹底解説します。(公認会計士 前田 樹 監修)

農業におけるM&A・事業承継の動向、メリット、手法、最新事例
M&A・事業承継
農業におけるM&A・事業承継の動向、メリット、手法、最新事例

農業従事者の減少・高齢化が進むなか、法人による農業経営が増加し、事業承継や農業進出を目的としたM&Aが活発化しています。農業の現状やM&Aの目的・メリット、手法、動向、近年の事例をくわしく解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)

【株式会社×社会医療法人】NTT西日本が松山病院の事業を真泉会に譲渡

譲渡企業の概要

NTT西日本は日本電信電話株式会社等に関する法律に基づいて西日本で電気通信業務などを行っている会社です。[36]

NTT西日本松山病院は医療法施行以前に逓信省(現在の総務省、日本郵政、NTTなどの前進)の運営する病院として設立され、民営化後に企業立病院として存続してきました。[37]

譲り受け企業の概要

真泉会は愛媛県今治市で病院を運営している社会医療法人です。[38]

M&Aの目的・背景

NTT西日本松山病院のような企業立病院は様々な規制の対象となり、一般の病院より経営環境が厳しく、最先端の医療機器や医師の確保が難しい状況にあることから、NTT西日本は医療サービスと雇用の継続のため、一般の医療法人への事業譲渡を決断しました。[37]

M&Aの手法・成約

2020年12月、NTT西日本は松山病院の事業を真泉会に譲渡しました[39]。
譲渡対価などの詳細は公表されていません。

情報通信業のM&A動向・メリット、売却価格の相場【成功事例も紹介】
M&A・事業承継
情報通信業のM&A動向・メリット、売却価格の相場【成功事例も紹介】

最新技術領域への適応などを目的に、情報通信業のM&Aは活発に行われています。情報通信業のM&Aでは、優秀な人材確保などのメリットを期待できます。情報通信業のM&A動向や売却・買収のメリット、M&Aの成功事例などをくわしく解説します。

【IT×IT×医療法人】エヌアイデイ、アルム、天太会の3社による業務・資本提携

提携企業の概要

エヌアイデイはAI、IoT、カーエレクトロニクス、クラウド、金融などのソリューションサービスに重点を置いた事業を展開するシステム開発会社です。[40]

アルムは医療・介護向けクラウドソリューションなどを提供している企業です。[41]

天太会はチームメディカルクリニックの名称で診療所や健診センターを運営している医療法人です。[42]

M&Aの目的・背景

アルムと天太会は業務・資本提携のもとで最先端医療ITサービスを活用したクリニック・健診センターを運営してきました。

アルム・天太会が培ってきた医療系事業ノウハウとエヌアイデイのサービス・ソリューション技術を掛けあわせることで、医療データに基づくAIソリューションの開発やオンライン保健指導サービスの提供などを展開する目的で、今回新たに3社間で業務・資本提携を行うことになりました。[43]

M&Aの手法・成約

資本提携の内容(出資者・出資額など)は公表されていません。

IoT企業のM&A(売却・買収)動向、事例、成功のポイント
M&A・事業承継
IoT企業のM&A(売却・買収)動向、事例、成功のポイント

IoT業界は大きな発展が予想される分野であり、M&Aが活発に行われています。IoT業界の市場動向やM&A・売却の動向、近年の事例、成功のポイントについて、図解も交えてわかりやすく解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)

M&Aの成功事例40選|大企業・中小企業・業界別に成功要因を解説【2026年版】
M&A・事業承継
M&Aの成功事例40選|大企業・中小企業・業界別に成功要因を解説【2026年版】

M&Aの成功事例40選を大企業・中小企業・業界別に紹介。各事例の目的とスキーム、成功要因を整理し、自社のM&Aに活かせるポイントを解説します。

[20] HOME(医療法人一樹会)
[21] 健祥会、譲渡受け再生 | 日本経済新聞(健祥会グループ)
[22] 新たな気持ちでスタートを!介護老人保健施設「センターヴィレッジ」脇町にオープン(健祥会グループ)
[23]合併に関するご案内(千葉西総合病院)
[24] 関連施設一覧(中部徳洲会病院)
[25] 社会医療法人木下会 沖徳に吸収合併(徳洲会グループ)
[26] HOME(藤井病院)
[27] 医療法人社団竜山会石野病院(石川県医療・薬局機能情報提供システム)
[28] 保険医療機関の指定の取消について(東海北陸厚生局)
[29] スポンサーの選定及び事業譲渡契約締結のお知らせ(医療法人社団博洋会)
[30] 8月2日に最後の債権者集会「ときわ会グループに経営権の全面譲渡」福島地裁いわき支部認可(いわき経済報)
[31] トップページ(ときわ会)
[32] 翔洋会に関するお知らせ(8月2日現在)(ときわ会)
[33] JA埼玉厚生連が破産 負債65億円…設備投資重く、医師確保が困難(埼玉新聞)
[34] JA県厚生連、熊谷と久喜の2病院売却 「医療機能は維持」(埼玉新聞)
[35] カマチグループ一覧(巨樹の会)
[36]  事業内容(NTT西日本)
[37] 松山病院 事業譲渡へ 医療法人など前提検討(愛媛新聞ONLINE)
[38] TOP(今治第一病院)
[39] NTT西日本松山病院の事業譲渡について(NTT西日本)
[40] サービス・ソリューション(NID)
[41] About us(アルム)
[42] トップページ(チームメディカルクリニック)
[43] 株式会社アルム及び医療法人天太会との医療・ヘルスケアAIソリューション開発に向けた業務・資本提携に関するお知らせ(エヌアイデイ )

医療法人の譲渡価格の相場・決定方法

医療法人の規模や収益性には大きな幅があるため、医療法人の譲渡価格の相場を絶対的な金額で表現することはできません。

一般的に、譲渡価格は企業価値評価額を基準にして交渉により決定されます。
営利企業の企業価値評価においては、事業計画をもとにして将来の収益性を予測しファイナンス理論を用いて現在の価値を割り出すDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法などが主流ですが、医療法人の場合は直近の経営状況をもとに簡易的な手法で評価を行うのが一般的です。

医療法人は非営利性と安定的な経営を求められるため、一般企業に比べれば、過去の情報から買収後の価値を推測することが容易であると言えるでしょう。

具体的には、以下のような方式で医療法人の価値の算定が行われます。

  • 時価純資産(資産と負債の時価を評価し、差し引きした額)に営業利益の1~5年分を上乗せする
  • 時間純資産額をベースに、直近の業績やM&Aにとってのマイナス要素(例:患者による医療訴訟や職員による未払い賃金請求訴訟などのリスク)を加味して決定
  • キャッシュフローの数年分を法人の価値とする
M&Aの価格相場はいくら?企業価値の算定方法と価格を高めるポイント
M&A・事業承継
M&Aの価格相場はいくら?企業価値の算定方法と価格を高めるポイント

中小企業M&Aの価格相場は「時価純資産+営業利益2〜5年分」が目安です。企業価値算定の3つの方法、業種・規模別の相場観、売却価格を高めるポイントを解説します。

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まとめ

後継者不在問題の深刻化や医療費・病床削減の流れを受け、医療法人のM&A(第三者への事業承継)が活発化しつつあります。

現行制度上では営利企業が医療法人経営に進出するのは困難ですが、医療法人同士のM&Aは今後確実に増加していくものと見られます。
また、医療サービスの革新を目的とした異業種との資本業務提携なども、新しい動きとして今後の展開が期待されます。

歯科医院売却の方法や流れ、価格相場、注意点をくわしく解説
M&A・事業承継
歯科医院売却の方法や流れ、価格相場、注意点をくわしく解説

歯科医院の売却価格相場(居抜き)は、数百万円から2,000万円程度です。ただし、運営主体(個人と医療法人)や立地等の条件で実際の売却額は変動します。売却方法や流れ、成功させるポイントを徹底解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)

(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)

医療法人の事業承継や経営の選択肢を広げたい経営者様へ

医療業界における後継者不足や、他業界との連携の必要性が高まるなか、ご自身の法人の将来や次の展開について考え始める経営者の方が増えています。「まだ売却を決めたわけではないけれど、まずは自法人の市場価値や、どのような企業が関心を持つかを知りたい」という情報収集の段階であれば、最初の一歩として簡易的な相場確認をお勧めします。

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