ソフトウェア業に対するニーズがデジタル化などを背景として拡大し、ソフトウェア企業の売却・M&Aも活性化しています。ソフトウェア業の現況とM&A動向・事例、M&Aを行うメリットなどをくわしく解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)
この記事では、ソフトウェア関係の事業を営む企業のうち、パッケージソフトウェアやSaaSなどの自社製品を開発・提供している企業を取り上げます。
ここではまず、ソフトウェア業の定義や事業内容を確認し、近年の業界動向をまとめます。
日本標準産業分類に基づいて行われている経産省の構造実態調査では、下表の①~⑤を「ソフトウェア業」に含めています。[1]
自社開発のソフトウェアをクラウド上のサービス(SaaS)として提供している場合(⑥)は、日本標準産業分類では「ソフトウェア業」ではなく「情報処理・提供サービス業」に該当します。
「情報処理・提供サービス業」には、計算サービスやデータベースサービス、各種調査サービスなどが含まれます。
分類 | 定義・事業内容 |
---|---|
①受託開発ソフトウェア業 | 顧客(ユーザー企業)からの委託でカスタムメイドのソフトウェアを開発。 |
②組込みソフトウェア業 | 情報通信機器や家電機器の特定の機能を実現するために機器に組み込まれるソフトウェアを開発。 |
③パッケージソフトウェア業 | パッケージプログラム(プログラムとマニュアル類がセットになって箱・ケースにパッケージされて販売され、顧客が保有するハードウェアにインストールされて用いられるソフトウェア)またはパソコンなどにプリインストールされるソフトウェアを開発。 |
④ゲームソフトウェア業 | パッケージソフトウェアのうち、ゲーム機・パソコン用のゲームソフトウェアを開発。 |
⑤受託ホームページ作成・SEO業 | 顧客からの委託でホームページの作成やSEOを行う。 |
⑥SaaSプロバイダ・ASP業 | 自社で独自に開発したソフトウェアについて、インターネットを介してクラウド上のサービス(SaaS)としてユーザーに提供。 |
この記事では、②の一部と③④⑥の業種を対象にして業界現況やM&Aの動向・メリット・事例などを解説していきます。
①「受託開発ソフトウェア業」については以下の記事で詳しく取り上げておりますので、興味のある方はぜひご参照ください。
令和3年版情報通信白書によると、民間企業による情報化投資は増加傾向にあり、そのうちソフトウェア(受託開発ソフトウェアとパッケージソフトウェア)への投資が占める割合は2019年時点で約6割を占めるまでになっています(下図)。[2]
出典:総務省「令和3年版情報通信白書第4章第1節ICT産業の動向」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n4100000.pdf)一部抜粋
ただしこれにはクラウドサービスへの投資は含まれていません。
企業によるクラウドサービスの利用率は年々上昇しており(下図)、導入済み企業の87.1%がクラウドサービス導入の効果があったと回答しています。[3]
出典:総務省「令和3年版情報通信白書第4章第2節ICTサービスの利用動向」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n4200000.pdf)一部抜粋
従来は、企業自身が調達したサーバー上に受託開発の業務システムを構築して利用するという方式が一般的でしたが、現在ではパッケージソフトウェアやクラウドサービスへの置き換えが徐々に進んでおり、こうした傾向は今後も継続するものと見られます。
AI・IoTの導入は現在のところはクラウドサービスほどには進んでいませんが、今後確実に進展していくものと見られます。
AIはすでに各種のパッケージソフトウェアやSaaSで用いられていますが、将来的には社会のすみずみにAIを搭載したソフトウェアが広まっていくと予想されます。
IoT(モノのインターネット)を実現するには、つながりあう一つひとつのモノにセンサーやソフトウェアを組み込む必要があるため、IoTの進展に伴い組み込みソフトウェア業が大きく発展する可能性があります。
IT企業とユーザー企業の双方でIT人材の不足が慢性化しています。
情報処理推進機構の調査(2015年度~2019年度)[4]によると、IT人材の量が「大幅に不足している」「やや不足している」と答えたIT企業は9割超を推移しており、質に対する不足感も同じ傾向を示しています。
人材不足を感じているユーザー企業の割合も8割から9割程度を推移しており、「大幅に不足している」と回答する企業の割合は年々増加する傾向にあります。
社内のITスキルを強化・蓄積する目的でIT関係業務の内製化を進めるユーザー企業も少なくなく、2019年時点で「企画・設計などの上流の内製化を進めている」企業は30.2%、「プログラミング工程を含めた全体工程の内製化を進めている」企業は22.7%にのぼります。
少子化や家業継承の文化の衰退が進行するにつれて後継者不在問題を抱える企業の割合が増え、企業の後継者不在率はすべての業種で全国的に高いレベルを推移しています。
とくに情報サービス業(ソフトウェア業および情報処理・提供サービス業)では後継者不在率が73.1%と全業種平均の65.1%よりかなり高く(いずれも2020年時点の数値)、後継者不在問題の深刻さをうかがわせます。[5]
[1] 経済構造実態調査2020年乙調査 「01ソフトウェア業 02情報処理・提供サービス業 03インターネット附随サービス業」記入のしかた(総務省統計局)
[2] 令和3年版情報通信白書第4章第1節ICT産業の動向(総務省)
[3] 企業IT動向調査報告書 2021(日本情報システム・ユーザー協会)
[4] 「IT人材白書2020」概要版(情報処理推進機構)
[5] 全国企業「後継者不在率」動向調査(2020 年)(帝国データバンク)
一般的に、企業や投資家による投資が盛んに行われている分野ではM&Aも活性化し、会社売却価格の相場が上昇するという傾向があります。
ソフトウェア業への投資は高い水準を推移しており、SaaSなどの大きく投資が伸びている分野もあることから、ソフトウェア業のM&Aは今後も活発に行われ、売り手にとって有利な状況が続くものと見られます。
具体的には、以下のようなタイプのM&Aがしばしば行われています。
豊かな経営基盤を有する企業の子会社となり、より大きなグループの一員となることで、自社単独では考えられなかった規模で事業成長を図ったり、より安定的に事業を展開したりするチャンスが得られます。
具体的には、グループの経営基盤の活用や技術・ノウハウの融合により以下のようなシナジーを創出することが可能になります。
会社全体ではなく一部の事業(例えば、販売や開発が停滞している特定のソフトウェア製品シリーズの事業)を切り離して売却し、その対価や浮いたリソースを中核的な事業や新規展開中の事業に差し向けることで、効率的に選択と集中を図ることができます。
後継者候補の範囲を親族や社内の人材に限定せず社外の第三者へと広げることで、事業承継の可能性は飛躍的に広がります。
会社売却に対する否定的なイメージは過去のものとなりつつあり、M&Aによる事業承継が徐々に広がりを見せています。[7]
国が第三者への事業承継を後押しする目的で全国に設置した事業承継・引継ぎ支援センターにおいても、相談件数・成約件数ともに年々増加しているところです。[8]
設立時よりも大きく成長した会社の株式は会社売却時に高く評価され、創業期からの株主(オーナー経営者や会社に投資しているファンドなど)は株式売却によりまとまった利益を得ることができます。
M&Aによる会社売却はIPO(新規上場)に比べてハードルが格段に低く、投資回収(イグジット)の手段として現実的です。
それだけでなく、M&Aが一般化した現在の日本においては会社売却を成功させた経営者は市場から大きな信用を獲得することができます。
会社売却によりまとまった資金と信用を得ることで、より大きなレベルで新事業を展開することも可能になります。
会社や事業の売却とは異なりますが、第三者割当増資などにより議決権比率50%以下の範囲(経営権の移動が起こらない範囲)で他社からの出資を受けるという手法も、広い意味ではM&Aに含まれます。
大企業やベンチャーキャピタルが先端技術の開発を行うスタートアップ企業に資金を提供したり、業務提携を行う2社が協力体制の強化を図ったりする際に、出資という手法がしばしば用いられます。
出資を受けた企業はまとまった資金を得て事業展開を一気に加速することが可能になります。
[7] 2020年版 中小企業白書(中小企業庁)
[8] 2021年版中小企業白書 第3章:事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用(中小企業庁)
アシリレラはビジネスプロセスの自動化や生産性向上をサポートするソフトウェアを開発している企業です。[9]
PKSHA Technologyはソフトウェアや各種ハードウェア端末向けに自社開発の機械学習・深層学習アルゴリズムを活用したソリューションを提供している企業です。[9]
PKSHA Technologyは豊富なユーザー基盤を持つアシリレラのプロダクトと自社開発アルゴリズムとの融合・連携により大きなシナジーが得られると見込んで、今回のM&Aを行いました。[9]
2021年5月、PKSHA Technologyはアシリレラの全株式を取得し同社を子会社化することを決議しました。
公開された情報によると、株式取得は2回に分けて行われ、2023年5月に完了する予定です。
取得対価は50億円です。[9]
譲渡企業の概要
ソフテックはサイバーセキュリティの脆弱性管理ソリューションソフトウェアとWebセキュリティ診断サービスの提供を行っている企業です。[10]
譲り受け企業の概要
サイバーセキュリティクラウドはクラウド型Webセキュリティサービスを提供している企業です。[11]
M&Aの目的・背景
ノウハウ共有による技術力強化や、ビッグデータ活用の拡大、販売チャネル拡大などを目的としています。
M&Aの手法・成約
2020年12月、サイバーセキュリティクラウドはソフテックの全株式を取得し同社を完全子会社化しました。
取得対価は4億2,000万円です。[12]
システム ビィー・アルファは九州地域を拠点とし、健診システムソフトウェアの開発・販売と電子カルテなどの代理店販売を行っている企業です。[13]
メディカル・データ・ビジョンは医療機関向け各種経営支援システムを開発・提供しつつ、システム上に蓄積された医療・健康情報のデータベースをもとにした分析調査サービスを製薬会社・研究機関に向けて提供している企業です。[13]
メディカル・データ・ビジョンとしては、健診システムを有する企業をグループ化することにより健康診断データなどの未病領域のデータを新たに蓄積することが可能になり、ビィー・アルファとしては全国規模のグループ傘下に入ることで健診システムの全国展開が可能になります。
両社にとってシナジーが望めることから、今回のM&Aが行われました。[14]
2020年10月、メディカル・データ・ビジョンはシステム ビィー・アルファの全株式を取得し同社を完全子会社化しました。
取得対価の額は公開されていません。[15]
イーフロンティアは3DグラフィックやAR・VR関係のプロフェッショナル向け制作用ソフトウェアなどを開発・提供している会社です。[16]
クシム(旧:アイスタディ)はeラーニングシステムやラーニングマネジメントシステムの開発・販売を中心とした事業を展開している企業です。[17]
アイスタディはイーフロンティアの3Dグラフィック技術を取り込むことで主力事業の各種システムをグラフィックデザイン・UI/UX設計の面で強化し、次世代のeラーニングプロダクトを開発することを目的として、今回のM&Aを行いました。[16]
2020年5月、クシムはイーフロンティア株式の99.9%を取得し同社を子会社化しました。
取得対価は約8,000万円です。[18]
シンク・アンド・フィールは家庭用ゲーム機とブラウザ向けのゲームソフトウェアの企画・開発・運営を行っている企業です。[19]
Arcはソーシャルゲームとスマートフォン・タブレット向けネイティブアプリゲームの企画・開発・運営を行っている企業です。[19]
形成資源の共有により両社のゲーム事業を飛躍的に成長させることを目的としています。[19]
2020年4月、Arcはシンク・アンド・フィールの全株式を取得し同社を完全子会社化しました。
取得対価の額は公開されていません。[19]
市川ソフトラボラトリーは画像処理ソフトウェア技術をベースにして、一般消費者・教育機関向けソフトウェア事業と企業向けソフトウェア受託開発事業を展開している企業です。[20]
テクノホライゾンは映像技術・IT・ロボティクスをベースにして、教育や医療、車両運行管理、監視・セキュリティなどの分野で各種機器・ソフトウェアを開発している企業です。[21]
両社の重点市場と中核技術には親和性があり、革新的な商品の共同開発とテクノホライゾンの販売網を活かした事業展開が期待できることから、M&Aによる経営統合を行うことが決定されました。[22]
2021年6月、テクノホライゾンは市川ソフトラボラトリーの全株式を取得し同社を完全子会社化することを決議しました。
株式取得の日程や取得対価などは現在のところ公開されていません。[22]
Vantage Healthはかかりつけ医向けに専門機関との連携を支援するソフトウェアを提供している英国企業です。[23]
Northgate Public ServicesはNECが2018年に子会社化したITサービス企業で、英国を中心に公共分野向けの業務支援ソフトウェア事業などを展開している企業です。[24]
NECはNorthgate Public Servicesが有する健診プロセスデジタル化ソフトウェアとVantage Healthのかかりつけ医向けソフトウェアを融合しヘルスケア分野のSaaS事業を拡大する目的で、買収を行うことを決定しました。
NECはさらにこの方向で事業基盤強化を推し進め、行政機関・金融機関に特化したグローバルトップクラスのSaaSベンダを目指すとしています。[24]
2021年6月、Northgate Public ServicesがVantage Healthを買収しました。
M&Aの手法や買収条件などの詳細は公開されていません。[24]
Avaloqはスイスに拠点を置き、世界30カ国の150社を超える顧客を有する大手金融ソフトウェア企業です。
世界トップクラスのシェアを持つ金融資産管理ソフトウェアを中心にSaaS型ソフトウェアの提供などを行っています。[25]
日本電気は日本を代表する大手総合電機メーカーです。
日本電気は社会インフラ向けICTソリューション事業に注力しており、同事業を水平展開可能なSaaS型ビジネスモデルへと転換する戦略を推し進めています。
今回のM&Aは、デジタルファイナンス領域のソフトウェアおよび専門知識を獲得し、同領域のグローバルビジネスに新規参入するとともに、既存技術・ソフトウェアとの融合による新ソリューション創出を通して上記戦略を強化することを目的としています。[25]
2020年12月、日本電気はAvaloqの経営権を得るため、Avaloqを100%所有する持株会社WP/AV CH Holdings I B.Vの全株式を取得し同社を完全子会社化しました。
取得対価は約2,169億円です。[26]
Blue Yonderは世界トップクラスのシェアを誇るサプライチェーン・ソフトウェア専門企業です。[27]
パナソニックは日本を代表する大手総合電機メーカーです。
パナソニックグループが展開する現場プロセスイノベーション事業(DXによる現場変革ソリューション事業)を進化させ、ソフトウェアビジネスを強化する目的で、Blue Yonderの子会化が行われました。[27]
2020年7月にパナソニックはBlue Yonderとの戦略的パートナーシップ構築のために同社株式の20%を取得しました。
さらに2021年4月、パナソニックはBlue Yonderの株式の80%を追加取得し同社を完全子会社化することを決定しました。
株式取得は米国に設立される特別目的子会社とBlue Yonderを合併させる方式で行われ、買収総額は71億米ドルとなる見込みです。[27]
界グラフィックスはゲームソフトウェア開発やスマートフォンアプリケーション開発、3DCG企画制作を行っている会社です。[28]
KINSHAグループはゲームのデバッグ、翻訳、2D・3D画像制作、プロモーション、印刷の事業を展開しています[29]。
KINSHAオプティマスはグループのバックオフィス部門を担当している企業です。[30]
界グラフィックスは業務多様化に向けた経営基盤強化のためにKINSHAグループの一員となりました。[31]
KINSHAは経営資源の有効活用、業務効率化、新事業創出に向けて界グラフィックスの子会社化およびグループ再編を行いました。[32]
2020年11月、界グラフィックスはKINSHAオプティマスの出資を受けて同社の子会社となりました。
出資比率や出資額などの詳細は公開されていません。[32]
[9] 株式会社アシリレラの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(PKSHA Technology)
[10] トップページ(ソフテック)
[11] 株式会社ソフテックの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(サイバーセキュリティクラウド)
[12] 2020年12月期 有価証券報告書(ソフテック)
[13] 事業概要・成長戦略(メディカル・データ・ビジョン)
[14] 健診システムからの未病データで医学・医療の進歩に貢献MDV、Be・α全株式取得し、連結子会社化(メディカル・データ・ビジョン)
[15] 2020年12月期有価証券報告書(メディカル・データ・ビジョン)
[16] 株式会社イーフロンティアの株式の一部取得に関するお知らせ(アイスタディ)
[17] Service(クシム)
[18] 有価証券報告書-第25期(令和1年11月1日-令和2年10月31日)(クシム)
[19] 株式会社シンク・アンド・フィールの完全子会社化に関するお知らせ(Arc)
[20] 事業紹介(市川ソフトラボラトリー)
[21] 事業紹介(テクノホライゾン)
[22] 株式会社市川ソフトラボラトリーの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(テクノホライゾン)
[23] Northgate Public Servicesが英国のヘルスケア向けソフトウェア企業Vantage Healthを買収(NEC)
[24] NEC、英国のITサービス企業Northgate Public Services社を買収(NEC)
[25] スイスの大手金融ソフトウェア企業 Avaloq 社を傘下におく WP/AV CH Holdings I 社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(日本電気)
[26] 2020年度有価証券報告書(日本電気)
[27] サプライチェーン・ソフトウェアの専門企業であるBlue Yonder(ブルーヨンダー)の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(パナソニック)
[28] ABOUT KAI(界グラフィックス)
[29] SERVICE(KINSHA)
[30] CORPORATE(KINSHAオプティマス)
[31] KINSHAグループ化に関するお知らせ(界グラフィックス)
[32] グループ化のお知らせ(KINSHA)
AMP3D(Advanced Medical Predictive Devices, Diagnostics and Displays, Inc.)は米国バージニア州に拠点を置き、医療現場向けに患者の容態をリアルタイムで把握・表示するSaaS型ソフトウェアの開発を行っている企業です。[33]
日本光電デジタルヘルスソリューションズは日本光電工業の米国現地開発法人です。
日本光電工業のデジタルヘルスソリューション新規開拓構想に基づき2021年3月に現在の社名に変更されました。[34]
日本光電工業はヒューマンマシンインターフェース(人と機械をつなぐインターフェース)の技術を核として、医療計測機器・治療機器や医療支援システムなどの開発・製造・販売・保守・コンサルテーションを行っている企業です。[35]
日本光電工業は中期経営計画において医療向けデジタルソリューションの新規開拓を構想しており、自社のコア技術であるヒューマンマシンインターフェース技術とAMP3Dのソフトウェア技術の融合によりデジタルソリューション分野での技術開発力を強化できるとの考えから、今回のM&Aを行うことを決定しました。[34]
2021年7月、AMP3Dが日本光電デジタルヘルスソリューションズに全株式を譲渡する旨の契約が締結されました。
公表された予定によると、同年8月6日に株式の譲渡が実行されています。
取得対価の額は公開されていません。[34]
GP Strategies Corporationは産業・ビジネスの様々な領域においてソリューションコンサルティングサービスを展開し、ソリューションソフトウェア製品の開発・提供を行っている企業です。[36]
東芝エネルギーシステムズはエネルギー関連の製品・システム・サービスの開発・製造・販売を行っている企業です。[37]
東芝グループは中期経営計画において保守点検・機器更新・運用受託などのインフラサービスの強化を打ち出しており、その一環として今回のM&Aが行われました。
GP Strategies Corporationは発電事業者向けにプラント監視ソフトウェア「EtaPRO」をグローバル展開しています。
東芝エネルギーシステムズは「EtaPRO」の事業を買収し既存のサービスと組み合わせることにより、効率的なワンストップサービスを実現していく計画です。[36]
2021年5月、GP Strategies Corporationの「EtaPRO」事業を東芝エネルギーシステムズが譲り受ける旨の契約書が両社間で取り交わされました。
同年第2四半期中に譲渡が完了する予定となっています。
譲渡対価の額は公開されていません。[37]
アドバンスドナレッジ研究所は熱流体解析ソフトウェアの開発と気流・温熱環境解析に関するコンサルティングの事業を展開している企業です。[38]
土木管理総合試験所は土質・地質調査試験、非破壊調査試験、環境調査試験などの調査試験をベースにして建設コンサルティング事業を展開している企業です。[38]
近年の建設業界においては省エネ・快適性に関するシミュレーションをもとにした設計が求められ、熱流体シミュレーションは必須のプロセスとなっています。
土木管理総合試験所は、アドバンスドナレッジ研究所のシミュレーション技術によりワンストップサービスを拡充し、両社間の技術交流により持続的成長を図る目的で、今回のM&Aを行いました。[38]
2021年1月、土木管理総合試験所はアドバンスドナレッジ研究所の全株式を取得し同社を完全子会社化しました。
取得対価は約8億8,000万円です。[39]
ジシバリはWeb制作、Webサービス開発、アプリ開発、Webサイト向けソフトウェア製品の開発などを行っている企業です。[40]
マクアケはクラウドファンディングを中心とするWebサービスを展開している企業です。[41]
マクアケは事業成長に必要なシステム開発を強化するとともに、生産性向上、管理コスト削減、業務効率化を実現することを目的として今回のM&Aを行いました。[40]
2020年12月、マクアケはジシバリの全株式を取得し同社を子会社化した上で吸収合併を行うことを決議しました。
取得対価の額は公開されていません。[41]
公表された予定によると、2021年2月に吸収合併が成立しています。[42]
ジェイティエンジニアリングは日本たばこ産業の子会社で、生産設備・各種機械器具の開発・設計・建設・保全や、工場を初めとする各種施設向けにIoT実現のための計画・実行・監視・制御パッケージソフトウェア「JOYシリーズ」の事業を展開している企業です。[43]
東京ガスは首都圏での都市ガス供給事業、発電・電力供給事業、不動産事業と、海外での天然ガス関連事業を展開している企業です。[44]
東京ガスはDXソリューション市場という新規分野において事業展開を図る目的で「JOYシリーズ」の事業を譲り受けることを決定しました。[45]
2021年7月、東京ガスと日本たばこ産業・ジェイティエンジニアリングの間で「JOYシリーズ」事業の譲渡に関する基本合意が締結されました。
2022年3月末までに東京ガスへの同事業譲渡が完了する見通しです。[45]
ミックウェアはカーナビソフトウェア・自動運転支援ソフトウェアの開発などを行っている企業です。[46]
トヨタ自動車は日本を代表する大手自動車メーカーです。
次世代モビリティ社会の形成へ向け、車載ソフトウェアの新規技術・サービスの創出を加速することを目的として、ミックウェアはトヨタ自動車と資本提携を行うことを決定しました。[47]
2020年12月、ミックウェアはトヨタ自動車からの出資を受ける形で同社と資本提携を行うことを決定しました。
出資比率や出資額などの詳細は公開されていません。[47]
ゼネリックソリューションはAI・ビッグデータ解析技術をベースとして、情報検索・機械学習ソフトウェア製品「GS8」の開発・販売や分散コンピューティングサービスの提供などを行っている企業です。[48]
宮崎銀行は宮崎市に本店を置き宮崎県を中心に事業を展開している金融機関です。[49]
宮崎銀行では2019年10月よりゼネリックソリューションの「GS8」を導入しており、AI・ビッグデータ解析技術の活用によるDXと新たな情報システムやビジネスモデルの創出を推し進める目的で同社と資本業務提携契約を締結しました。[50]
2021年3月、宮崎銀行によるゼネリックソリューションへの出資と両社による業務提携を定めた契約書が締結されました。
出資比率や出資額などの詳細は公開されていません。[50]
エクスメディオは現場医師向けに知見共有・論文検索・ニュース収集配信・専門医コンサルティングの機能を備えた臨床互助ソフトウェア「ヒポクラ×マイナビ」を開発・提供している企業です。 [51]
アルフレッサホールディングスは医薬品製造・卸売、調剤薬局運営などの事業を展開している企業グループの持株会社です。[52]
アルフレッサホールディングス傘下企業の顧客基盤を通した「ヒポクラ×マイナビ」の会員拡大と、地域包括ケアシステム時代へ向けた情報共有プラットフォームの共同開発を目的として、資本業務提携が結ばれました。[53]
2020年3月、エクスメディオとアルフレッサホールディングスの間で資本業務提携契約が締結されました。
アルフレッサホールディングスは出資によりエクスメディオの発行済み株式の15%を取得しています。
取得対価の額は公開されていません。[53]
team Sはスマートフォンとの双方向連携を可能にする外部ディスプレイ向け組み込みソフトウェア「SSE」(Smart Streaming Engine:特許出願済)を開発している企業です。[54]
Monozukuri Venturesはハードウェア関連スタートアップ企業を支援する投資ファンド事業などを展開している企業です。[54]
team Sは「SSE」の組み込み対象を外部ディスプレイからAIスピーカーやスマート家電、車載ディスプレイ、クラウド上の仮想ディスプレイへと拡大しつつ、5G時代をリードする技術の開発を目指して事業を展開しています。
Monozukuri Venturesはファンド事業の一環としてそうしたteam Sの事業を支援する目的で出資を行いました。[54]
2021年8月、Monozukuri Venturesはteam Sに出資を行いました。
出資比率や出資額などの詳細は公開されていません。[54]
LegalForceは一般企業・法律事務所向けAI契約書レビュー支援ソフトウェア「LegalForce」とクラウド契約書管理システム「Marshall」を開発・提供している企業です。[55]
今回出資を行ったのは、米WiL、ジャフコグループ、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、DIMENSIONなどのベンチャーキャピタルです。[55]
LegalForceの開発体制・営業体制・認知度を強化するための資金調達を目的として今回の出資が行われました。
この資金調達は、シードラウンド、シリーズAラウンド、シリーズBラウンドに続く4段階目の投資ラウンドです。[55]
2021年2月、LegalForceは各ベンチャーキャピタルを引き受け先とする第三者割当増資を行い、合計約27億円の出資を受けました。
これにより、シードラウンド(会社設立前後の初期成長ステージに対する投資ラウンド)からの資金調達累計額は出資・銀行融資を合わせて約45億円となりました。[55]
[33] 米国 Advanced Medical Predictive Devices, Diagnostics and Displays, Inc.の株式取得に関するお知らせ(日本光電工業)
[34] NKUSラボ社名変更のお知らせ(日本光電工業)
[35] 事業内容(日本光電工業)
[36] 発電事業者向けプラント監視ソフトウェア「EtaPRO™」事業の買収について(東芝エネルギーシステムズ)
[37] 会社概要(東芝エネルギーシステムズ)
[38] 株式会社アドバンスドナレッジ研究所の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(土木管理総合試験所)
[39] 四半期報告書-第37期第1四半期(令和3年1月1日-令和3年3月31日)(社土木管理総合試験所)
[40] サービス(ジシバリ)株式会社ジシバリの株式の取得(子会社化)及び吸収合併(簡易合併・略式合併)について(マクアケ)
[41] サービス(マクアケ)
[42] 吸収合併の効力発生日変更に関するお知らせ(マクアケ)
[43] 会社概要(ジェイティエンジニアリング)
[44] 事業紹介(東京ガス)
[45] 国内トップシェアのソフトウェア事業の譲受について日本たばこ産業グループと基本合意(東京ガス)
[46] トップページ(ミックウェア)
[47] トヨタ自動車株式会社との資本提携に関するお知らせ(ミックウェア)
[48 ]COMPANY(ゼネリックソリューション)
[49] 宮崎銀行について(宮崎銀行)
[50] ゼネリックソリューション、株式会社宮崎銀行との業務資本提携契約の締結(ゼネリックソリューション)
[51] トップページ(ヒポクラ×マイナビ)
[52] 事業紹介(アルフレッサホールディングス)
[53] 株式会社エクスメディオとの資本業務提携について(アルフレッサホールディングス)
[54] Monozukuri Ventures、スマホと外部ディスプレイを双方向連携できる技術を開発したteam Sに出資(PR TIMES)
[55] 株式会社LegalForce、シリーズCラウンドにおいて総額30億円調達(LegalForce)
DXやクラウド化を背景としてソフトウェア業のニーズは増加傾向にあり、今後はAIやIoTの進展に伴ってソフトウェア業の新分野が拡大していくものと見られます。
そうした動向を反映して様々なタイプのM&Aが活発に行われてきており、ソフトウェア業において会社売却という選択肢が主要な経営戦略として一般化していくことは間違いないと言えるでしょう。
(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)