ビジネスデューデリジェンスとは?目的、進め方、手法を徹底解説
- 法務監修: 前田 樹 (公認会計士)
ビジネスデューデリジェンスとは、買収先の将来性やシナジー効果を分析するプロセスです。ビジネスDDを行うことで、精度が高い事業計画の策定などが可能です。目的や進め方、分析手法を公認会計士が解説します。
ビジネスデューデリジェンスはビジネスモデルを整理し、外部環境や内部環境からマーケットにおける競争力を分析し、将来における買収先の競争優位性や収益の源泉の調査することをいいます。[1]
財務・税務デューデリジェンスと実施されることで過去の業績から将来の収益力を予測し、精度の高い事業計画を策定することができます。
ビジネスデューデリジェンスでは買収先の競争優位性、強みや弱みなどを分析することで買収先の将来性を把握した上で、自社とのシナジーなどを分析します。
また、市場の分析など外部環境の分析することで買収先に与える影響を分析するのもビジネスデューデリジェンスの範囲となります。
財務・税務デューデリジェンスが過去の業績から買収先の実態を把握することが目的であるのに対して、ビジネスデューデリジェンスは将来の収益性などを把握し、事業計画の蓋然性を検討することが目的となります。
ビジネスデューデリジェンスは英語でBusiness Due Diligenceとなります。
Due Diligenceは当然の努力という言葉を組み合わせた言葉となっています。
M&Aの意思決定の際に当然の努力として問題点などを把握するために調査することがデューデリジェンスと呼ばれるようになりました。
そして、事業を意味するBusinessを組み合わせることで事業関連の調査がビジネスデューデリジェンスとなりました。
ビジネスデューデリジェンスの目的について解説していきます。
ビジネスデューデリジェンスでは買収先の会社の事業内容や市場の状況など内部・外部の事業環境を分析します。
買収先の取り巻く環境を分析することで対象会社の将来性などを把握することができ、さらにはM&A後のシナジー効果の見込みや実行可能性、リスクの把握などができます。
買収先の競争力の源泉などをもとに競合他社との比較をすることで市場におけるポジションや戦略などを検討し、自社とのシナジー効果の見極めを行うことでM&A後の進め方を考えます。
また、自社とのシナジー効果などを把握することでM&Aの必要度合いも把握し、エグゼキューションの進め方を考える必要があります。
買収先の内部や外部の状況を把握することで当初考えていたバリュエーションの金額、すなわち、買収金額が妥当な金額であるのかを検討します。
当初想定した買収金額の元となった計画から内部や外部の状況に照らし合わせることで、計画から上振れするのか、あるいは下振れをするのかを把握していきます。
また、上述した自社とのシナジー効果の内容や可能性なども把握することで買収金額が妥当かどうか判断できます。
当初のバリュエーション金額が妥当でなければ修正した上で、交渉に進むことになります。
買収会社の収益性をビジネスデューデリジェンスで調査することで、M&A後に影響する事業戦略や事業計画の修正を行います。
買収をすることで自社の販路や製造などさまざまな影響があります。
買収により自社の販路などが拡大するのであれば、新しい販路に対してどのような戦略をとるのか、また、製造設備などを獲得できるのであれば、生産体制をどのように構築するのかなどを修正し戦略を練り直す必要があります。
その結果、収益性などが変わり事業計画も修正することになります。
ビジネスデューデリジェンスを実施することで事業戦略や事業計画の修正や立案に用いられます。
ビジネスデューデリジェンスの種類や項目について解説していきます。
コマーシャルデューデリジェンスでは、買収先の取り巻く市場環境や競争環境、顧客動向などからビジネス面での強みや弱み、機会や脅威を把握し、将来の収益力や売上に対するリスク、買収後に期待できるシナジー効果や実効性などを分析します。
買収先が属する業界における市場推移や動向、成長ドライバーなどが買収先に与える影響を検討する市場環境、競合他社の顔ぶれやシェア動向、ビジネスモデル、新規参入の状況から買収先のポジショニングなどを検討する競争環境、顧客が買収先の商品やサービス等を購買する動機などを把握し顧客ニーズに応えることができているかを検討する顧客動向が主な分析内容となります。
オペレーショナルデューデリジェンスでは、事業価値評価や交渉などに影響を及ぼすリスクや買収後や統合後に想定されるコスト削減やコスト削減に対する阻害要因やリスクを洗い出すことで将来のコスト計画の妥当性を分析します。
買収先の商流やバリューチェーンなどの業務の全体像を把握し、経営資源の配分の妥当性の検討や業績管理指標であるKPIの設定の適切性やKPIの管理状況、また、KPIの結果からの改善状況などの検討、人員体制や生産能力、設備投資の妥当性などの検討をすることが主な分析内容となります。
ビジネスデューデリジェンスの進め方について解説していきます。
外部環境分析では、買収先が取り巻く事業環境や市場環境、競争環境など外部環境について分析します。
外部要因は自社だけでは解決することが難しいため、デューデリジェンスにより得られた情報が買収先にどのような影響を与えるのかを考察することが重要になります。
外部環境分析の代表的なフレームワークとして、5フォース分析やPEST分析があります。
詳細は後述します。
内部環境分析では、事業価値評価や交渉に及ぼす影響など買収先の評価に関連する買収先の内部環境について分析します。
自社で提供できる商品やサービスなど貢献できる内容を分析した上で、競合他社に負けていない点などを分析することが内部環境分析で重要になります。
内部環境分析の代表的なフレームワークとして、VRIO分析やバリューチェーン分析があります。
こちらも詳細は後述します。
ビジネスデューデリジェンスで外部環境分析や内部環境分析を進めることで買収先の市場環境など外部要因を把握し、さらにその影響が買収先にどのように与えるかを分析した上で、買収先と自社のシナジー効果やディスシナジー効果を抽出していきます。
シナジー効果だけではなく、ディスシナジー効果も抽出することがポイントとなります。
シナジー効果やディスシナジー効果の項目を抽出したら、各項目の定量化と実現可能性を検証していきます。
買収先の売上シナジーやコストシナジーなど可能性高い領域を分析・内容の把握を進めるとともに、シナジー効果を定量化し実現可能性を把握していきます。
また、実現可能性を上げるための施策などはこのタイミングで把握を行い、買収後のPMI計画などに反映していきます。
シナジー効果やディスシナジー効果を定量化し、実現可能性まで評価できたら事業計画の修正を行い、バリュエーションへ反映していきます。
ただし、ここで注意が必要なのが、シナジー効果によって事業計画が改善した効果を買収金額に加えてはならないという点です。
シナジー効果を全て入れるということは自社で受け取るメリットを全てお金で払ってしまうと言うことになってしまい、シナジーが発揮されなかった場合、損してしまいます。
ビジネスデューデリジェンスを成功させるためには、外部専門家の活用、重点調査項目の絞り込み、情報管理体制の構築などがポイントとなります。
同業者の買収を検討している場合には、買い手企業自身がビジネスデューデリジェンスを行うケースもあります。
しかし、ビジネスデューデリジェンスを的確に遂行するためには、買収対象の事業分野に関する知識に加え、外部環境に関する幅広い知見や、ビジネスデューデリジェンス・M&A全般に関する知識・経験も重要になります。
したがって、コンサルティングファームを初めとする専門家の協力を得た方が、成功につながりやすいと言えます。とくに、異業種買収による新分野進出を考えている場合、外部専門家の活用は不可欠でしょう。
また、ビジネスデューデリジェンスはM&A後の事業戦略・事業計画に大きく関わるため、デューデリジェンスを外部の専門家に任せきりにするのではなく、社内人材(とくにM&A後に対象事業の経営に関わる予定の人材)も深く関与させて、社内外協働体制のもとで遂行することが重要です。
ビジネスのあらゆる側面についてデューデリジェンスを実施することは、かかるコストと時間を考慮すると現実的ではないため、重点的に調査・検証する項目を絞る必要があります。
買収対象企業の事業の特性や成長ステージ、業界構造などをもとに重要な調査項目をリストアップし、優先順位をつけて、範囲を絞り込みます。さらに、調査のためにどのような資料を売り手企業に請求すべきかについて項目ごとに検討します。
重点項目・必要資料を適切に選択するためには、買収対象のビジネスに関する知識だけでなくビジネスデューデリジェンスやM&A全般に関する知見・経験も必要になる場合が多いため、専門家との協働で項目・資料の選別を行うのが望ましいと言えます。
一般的に、デューデリジェンスでは売り手企業の内部情報を扱うため、関係者以外に漏えいすることがないよう、厳重な管理が求められます。
通例、売り手企業から提供される資料を保管し机上調査を行うための特別な部屋(データルーム)を、売り手企業内もしくは外部の会議室、インターネット上の仮想空間などに設置します。
個人情報を含むデータ(個人データ)については、個人情報保護法に則った扱いが必要です。
個人データを第三者に提供する際には原則として本人の同意が必要とされています(本人・個人情報委員会への事前通知・届出を行うことで個別の同意取り付けが不要になる「オプトアウト」という手段もあります)。
ただし、合併・会社分割・事業譲渡により買収対象が買い手企業と一体化することになるケースでは、本人の同意やオプトアウト手続きを経なくても買い手企業に個人データを承継することができ、最終契約締結前の交渉段階(デューデリジェンス時など)においても個人データの提供が可能とされています。[2]
交渉段階で個人データを提供する場合には、データの利用目的、取扱方法、漏えい発生時の措置、事業承継の交渉が不調となった場合の措置など、データの安全管理に関わる事項を契約(基本合意など)で取り決めておく必要があります。
株式譲渡・株式交換など、売り手企業がM&A後も別法人(子会社)として存続するケースでは、原則通り本人の同意またはオプトアウト手続きが必要です。
デューデリジェンスは関係者内で秘密裏に遂行する必要があり、本人同意の取り付けやオプトアウト手続きを行うことは現実的ではないため、個人データを含む資料を提供する場合、個人データの部分を削除・加工して匿名化するなどの対応が求められます。
ビジネスデューデリジェンスにおいて役立つ分析手法について紹介していきます。
分析手法 | 分析の概要 | 分析の効果 |
---|---|---|
5フォース分析 | 「新規参入」、「競合」、「代替品」、「供給者」、「購入者」を分析 | 競争の脅威となり得る5つの要因が、買収企業に及ぼす影響を把握できる |
PEST分析 | 「政治的要因」、「経済的要因」、「社会的要因」、「技術的要因」を分析 | 買収企業が属する市場に影響を及ぼす4つの要因を把握できる ※5フォースよりも広い視点で分析 |
VRIO分析 | 「経済価値」、「希少性」、「模倣困難性」、「組織」を分析 | 買収先が有する強み、競合と比較した商品・サービスの優位性を把握できる |
バリューチェーン分析 | 加工・販売あるいは企画・考案・提供などの価値を生み出している一連の流れを分析 | 各部門の役割や貢献度、ビジネス全体の流れを把握できる |
5フォース分析の5は「Entry(新規参入)」、「Rivalry(競合)」、「Substitutes(代替品)」、「 Suppliers(供給者)」、「Buyers(購入者)」を指しています。
競争において脅威となる5つの要素について分類を行い、分析することを指します。
5フォース分析ではこれらの項目について、買収先にどのような影響が出る可能性があるのかを分析します。
仕入先や販売先とのパワーバランス、代替品が出てくる可能性、新規参入されることにより自社のシェアが減少する可能性など自社だけで解決しにくい内容を把握していきます。
PEST分析は、「Politics(政治的要因)」、「Economics(経済的要因)」、「Social(社会的要因)」、「Technology(技術的要因)」の頭文字をとった分析となっています。
それぞれの要因が買収先の属する市場においてどのような影響があるのかを分析していきます。
これらの要因について分析するのがPEST分析です。
PEST分析では5フォース分析よりも広い視点での分析を行うことになります。
5フォース分析と同様、買収先だけでは解決しにくい内容を把握していきます。
VRIO分析は、「Value(経済価値)」、「Rarity(希少性)」、「Inimitability(模倣困難性)」、「Organization(組織)」の頭文字をとった分析となっています。
5フォース分析やPEST分析などの外部環境分析とは異なり、買収先の特徴について分析することが目的となります。
これらの買収先の内部要因について分析をすることで、買収先が競合に負けないような商品やサービスを提供できているかなど買収先の強みを明確にすることができます。
バリューチェーンとは仕入・加工・販売あるいは企画・考案・提供など価値を生み出している一連の流れのことを指します。
バリューチェーン分析では上述の事業プロセスの中でそれぞれの役割やコスト、貢献度などを分析することになります。
バリューチェーン分析では買収先の内部における価値の生み出し方について分析することが目的となっています。
そのため、それぞれの活動の役割や貢献、それぞれの流れなどを分析することになります。
ビジネスデューデリジェンスにおけるコンサルティングファームの役割について解説していきます。
ビジネスデューデリジェンスは買収先が行なっている事業について調査することになります。
業界特有の特徴や環境、また、買収先の内部分析など専門的な知見が必要となる場面も多く、コンサルティングファームは専門家としてビジネスデューデリジェンスを担うことになります。
買収先と同じ業界に属していれば、自社でビジネスデューデリジェンスを実施することも考えられますが、業界だけではなく社会的な影響などの広い視点で分析を行ってもらえるため、そのような場合においてもコンサルティングファームに依頼して実施することで違う視点を得られるでしょう。
ビジネスデューデリジェンスをコンサルティングファームに依頼した場合、依頼する内容や買収先の規模感などにより違いは出てきますが、数十万円から200万円程度で依頼することができます。
依頼内容などを工夫することで費用を抑えることができますが、結果的に必要な情報を得ることができなければ意味がなくなるので専門家に相談しながら業務範囲は決めていきましょう。
ビジネスデューデリジェンスを学べるおすすめの本について紹介します。
[2] M&Aを成功に導く ビジネスデューデリジェンスの実務(Amazon)
[3] 事業デューデリジェンスの実務入門(Amazon)
ここまでビジネスデューデリジェンスについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
ビジネスデューデリジェンスをすることで買収先が属している市場の状況などの把握ができるほか、法令等の変更による影響など広い範囲の分析、また買収先の提供している商品やサービスの価値などを把握することができます。
買収後に与える影響を事前に把握をした上で、PMIの計画も策定し、買収先の強みを活かせるよう進めていきましょう。
(執筆者:公認会計士 前田 樹 大手監査法人、監査法人系のFAS、事業会社で会計監査からM&Aまで幅広く経験。FASではデューデリジェンス、バリュエーションを中心にM&A業務に従事、事業会社では案件のコーディネートからPMIを経験。)
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