PMI(買収後の経営統合作業)とは?手法や重要性、事例を解説
- 記事監修: 前田 樹 (公認会計士)
M&Aにおいて効果を早期に得るためには、M&Aの当事者同士の戦略、販売体制など有機的に機能させるPMIが重要であるといわれています。
PMIの概要、プロセス、成功させるポイント、PMIの成功・失敗事例を解説していきます。
M&AにおけるPMIの概要、重要性について解説していきます。
PMIとはPost Merger Integrationの略で、買収後の経営統合作業のことを言います。
M&Aが成功するかどうかはこのPMIが成功するかにかかっています。
買収前に期待していた経営効果を実現するかどうかはこのPMIがうまくいくかにより効果の発現範囲が異なります。
M&Aにおいて何を統合するかは案件ごとで異なるので一概には言えませんが、グループ方針の統一、企業文化の融合、取引先の共有、コスト削減などがあげられます。
これらを経営統合によるシナジーとよく言われます。
M&Aでは買収された企業との統合合意を得るために時間を使い、PMIの準備ができず、PMIに関してうまく進まないケースが多くあります。
本来PMIでは明確なビジョンや計画、方針などを持って行われます。
PMIにおいて重要なポイントはさまざまですが、ここでは主なものについて解説していきます。
M&Aにおいては実行前にシナジーを想定しているケースがほとんどです。
そのシナジー効果をうまく発現させるには、経営統合をうまく進め、早急に完了させることが重要になります。
早めに統合させることで効果を早い段階から得ることができますので、経営統合後すぐに動ける形に準備を進める必要があります。
M&Aは異なる会社同士の統合のため、企業風土や方針などが異なるケースがほとんどです。
そのため、従業員の中で買収されたことがよいと思わない人も出てきます。
そのような人が会社に残れば軋轢が生じるケースが生じる可能性もありますし、一方で退職した場合には業務に支障が出てくるケースもあります。
キーマン条項などで会社の重要な業務を行う人は引き止めが可能ではありますが、M&Aなどよしと思ってないケースは業務に支障が生じないよう事前に説明などを実施して理解を得ておきましょう。
もちろんその他の従業員についてもちゃんと説明等を行い、理解して進めなければ、買収された企業のもともとの利益すらうまず、損失を被る可能性があるのでPMIは慎重に進める必要があります。
買収された会社が中小企業であれば、上場会社に耐えうる内部統制を構築する必要があります。
中小企業の場合、内部統制が構築されていないケースがほとんどで、意思決定なども適切な決裁ルートなく実施されている場合がほとんどです。
内部統制の整備が十分でなければ業務での失敗や、システムが適切に入れることができなければ業務も効率的に進みません。
業務にも影響が出るところであるため、構築は慎重、かつ、迅速に進める必要があります。
また、内部統制やシステム、業績報告などはグループの方針に合わせていく必要があります。
そもそもこれまで実施したことないこともやっていく必要があるので買収された会社には負担が大きくなります。
では、具体的にPMIのプロセスをみていきましょう。
以下のステップで進めていきます。ステップごとに内容を解説していきます。
PMIを進めていくに第1段階で統合方針を固める必要があります。
買収された会社において期待される統合効果を実現するために、どのような手順を踏んでどのような方法で進めていくかという統合方針を検討します。
PMIを検討するにあたっては、M&Aの過程で実施するデューデリジェンス(DD)において発見された問題点などを考慮する必要があります。
発見された問題点の中で優先的に進めるべき事項を決めて進めていきます。
DDで発見された問題点はクロージングまでに契約書などに織り込むことが前提ですが、織り込めなかったものについてはPMIで補完していきます。
統合にあたっては統合方針の枠組みによっても方向性等が異なるため、それぞれの枠組みを解説します。
連邦型統合とは、買収された会社を独立した会社として存続させ、自主性を維持する統合方針をいいます。
役員構成に関しても大きな変更はなく、数名派遣する程度で代表取締役の変更もないケースです。
買収側の会社と同業ではなく、かつ、業績が良いケースにこの枠組みが利用されます。
関与割合が低く、買収された会社の独立性も維持されるため、従業員からの抵抗感は少なくなります。
一方、シナジー効果は発揮されにくいというデメリットがあります。
支配型統合とは、買収された会社を残すが、買い手企業が経営に積極的に関与していく統合方針をいいます。
役員構成も、買い手企業から過半数派遣され、代表取締役も買い手企業から派遣して経営をコントロールします。
買収側の会社と同業で、買収側の会社側が優位にある場合や業績が不振である場合に利用されます。
買い手企業が実質的にコントロールするため、早期にシナジー効果を得やすい方針となっております。
一方で、役員などが派遣され、買収された会社では乗っ取られているという印象があるため、従業員などの離職される可能性には注意が必要となります。
買収された会社を買収側の会社に吸収する、すなわち法人格レベルで一体化する統合方針をいいます。
スキームは吸収合併、吸収分割や事業譲渡などが用いられます。
買収側の会社に吸収されることになるため、全てが買収側の方針になります。
この枠組みでは統合のスピードが速く、シナジー効果も早期に得ることができます。
一方で、統合スピードが速いため、現場レベルでは負担がかなり大きくなります。
ランディング・プランは買収後、3ヶ月から6ヶ月の間に優先的に実行すべき課題についてスケジューリングされた計画をいいます。
先述の通りでDDの過程において発見された課題が対象となるため、DDの検出事項を元に検討していくことになります。
具体的には、組織・規定類の見直し、人事・労務の見直し、経営管理の見直し、財務・経理の見直しなどが挙げられます。
ランディング・プランに基づき、短期的な課題は解決に向けて進めていきますが、一方で中長期的な課題についても進めていく必要があります。
中長期的な課題解決に向けて作成されるものが100日プランとなります。
100日プランとは、クロージング後100日間で実施される課題に対しての解決策をスケジューリングされた計画をいいます。
一般的に一つの区切りとして100日(3ヶ月程度)で実施する経営改革プランや中期経営計画を策定していきます。
ここで100日プランですが、プロジェクトチームを組成し現場レベルも巻き込んで実施されます。
また、M&Aで外部の異なった風が入ってくることで抜本的な変革をすることができます。
そのため、100日プランではこれまでできなかった改革を現場レベルから行うことができます。会社にとって大きなチャンスとなります。
100日プランは以下の流れで進めていきます。
100日プランを進めるにあたってはプロジェクトチームの組成が必要となります。
プロジェクトチームは買収側の会社から派遣された人と買収された会社のプロパーの人の混成チームで編成することが望ましいと言われています。
買収側の会社から派遣された人だけでチームを編成した場合、買収された会社の人は面白くないことや買収された会社の実態がわからない状態で進めることになるため、効率的にプロジェクトは進みません。
一方、買収された会社のプロパーの人だけでチームを編成した場合、従来のやり方と変わらず、効果が得られません。
100日プランでは内容が多岐に渡り、チームも多数編成されることになるため、それを取りまとめるPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を設置しておくと効率的に進めることができます。
プロジェクトの全体像や課題を把握している人いることで波及する影響なども把握できます。
遅れなどが生じた場合にはPMOがコントロールして全体進捗に影響を与えないようにもっていく必要があります。
100日プランを実行するにあたっては現状の課題を適切に把握して、その課題に対してどのような対策が必要かということを検討していきます。
課題を把握するには現状の会社の分析をする必要があります。
ここで先述のプロジェクトチームが混成チームで編成された利点が生かされます。
現状の会社のことを理解しているのは買収された会社の人ですが、それに対して何が課題かということは第三者的な視点で買収側の会社の人が出した方が適切に抜き出すことができます。
出てきた課題に対して対応策を打ち、どのように進めるか具体的に作成することをアクションプランといいます。
出てきた課題に対して具体的にどのように進めるか、担当者は誰か、いつまでに進めるかなどを決めていきます。
それぞれの課題に対してアクションプランを策定することがこの先進めていくにあたって肝になります。
アクションプランが適切に作成できていない場合、課題に適切に対応できず、思った通りの効果、シナジーなども出て可能性があります。
そのため、課題の洗い出し、アクションプランの策定は丁寧に進めていきましょう。
ここまでの通り、課題を出しそれに対してのアクションプランを作成すれば、100日プランを実行していくことになります。
ランディング・プランや100日プランは作成して終わりではありません。
これらの計画は進めていくにつれて、進捗に遅れがないか、効果はちゃんと出ているのかなど、計画とのズレなど適切に把握する必要があります。
計画の進捗などは週次や月次などで把握していくことになります。
全体の会議は月次で問題ないかもしれませんが、それぞれの分科会は週次で実施して計画との進捗比較や新たな課題が出てきたものに対して対応していく必要があります。
分科会で把握された課題が他の分科会にも影響が出そうであれば他の分科会に共有するなどして、全体で問題なく進めるようにしていきましょう。
ここまではPMIの全体像や進め方について解説してきました。
次にPMIにおいて整備することになる項目について具体的に解説していきます。
PMIにおいてまず整備しなければ経営の管理体制となります。
オーナー企業だと経営の管理体制というものがあってないような状態がほとんどであるため、まず初めに手をつける必要があります。
経営管理体制を強化するにあたってはまず会議体の設定が必要となります。
組織的な経営管理体制が構築されておらず、会議体も設定されていないことがほとんどです。
業績の把握、各事業部の動き、責任者の動きなどを把握するために1週間の予定あるいは1ヶ月の予定を組んで運用していくことになります。
また、取締役会など会社法上求められている会議体も運用する必要があります。
業績管理自体も業績の把握をするタイミング、業績の把握する単位、重要視している業績指標など会社によってさまざまです。
オーナー企業や中小企業であれば、売上高などは管理をしているかもしれませんが、利益段階での把握はできてない会社も多数あります。
会社としては売上を伸ばすことも重要ですが利益を出して事業を継続していくということの方が重要となります。
そのため、業績管理といえば利益段階まで管理をする必要があります。
また、タイミングについても決算になってしまうと1年に1回しか把握することができず、打ち手を打てなくなります。
そのため、極力月次での業績管理が必要でそれに基づき、打ち手を打っていく必要があります。
M&Aにおいては一般的に買収側の会社から役員が派遣され、役員構成が変更されます。
手続きとしてはクロージング日当日に臨時株主総会を開催して役員選任決議を行います。
さらに代表取締役も変更する場合には取締役会も合わせて開催して、代表取締役決議も行います。
派遣する役員に関しては買収された会社の今後の運営に影響するため、早めの段階で選定を行い、PMIを主導的に実施してもらうことになります。
派遣するのは役員だけでなく、場合によっては従業員も派遣されます。
従業員を派遣する際にも各従業員に役割を渡してPMIを実行してもらう必要があります。
また、派遣にあたっては買収された会社の受け入れ体制も整えてもらう必要があります。
貸与のPCなどはもちろんのこと、名刺や電子メールアドレスなど業務にあたって必要な準備が必要となります。
中小企業の場合、人事制度が適切に構築されてないケースもほとんどです。
買収されたタイミングで整備されてない人事制度を逆手にとって訴えられるリスクや人事制度が整備されてないことで未払賃金などがあるリスクなどがあるので早めに人事制度を整備する必要があります。
なお、人事制度についてはDDの段階で発見されているため、PMIの準備の段階で整備について方向性を決めておく方がいいでしょう。
買収された会社の業績が良くないケースは人員整理や労働条件の変更により、人件費の削減を実施するケースもあります。
ただし、実施する場合にはかなり慎重な対応が必要となります。
解雇による人員整理をするには、厳格な整理解雇の法的要件を満たす必要があります。
なお、整理解雇の要件は以下の4要件となります。
これ等の要件を満たし、労働者との合意に基づき、円満に雇用関係を解消する必要があります。
労働者にとって不利益になる変更の場合は、労働者との合意が必要になります。
労働者との合意においては各労働者から個別の同意書を取ることが確実な方法になります。
労働組合がある場合には労働組合との労働協約に不利益変更の合意を取ることも可能なので、こちらで合意をとることも可能です。
中小企業の場合、組織が適切に整備されておらず、各部署に対して人員数が多い場合も多くあります。
先述の人員整理する場合には、特に組織の見直しが重要となります。
また、各部署に適切な人員が配置されているか、適切な組織構造になっているかなど見直す必要があります。
見直した結果、より効率的な組織運営が可能になります。
組織の変更とともに各部署や各責任者の役割を明確にするために職務分掌や決裁権限を見直す必要があります。
もともと中小企業の場合、決裁権限などが明確になっていないケースがほとんどだと思うので一から整備することになるでしょう。
その他、一定規模以上の投資をする場合には親会社の意思決定が必要など重要な意思決定については親会社が介入できるように整備しておきましょう。
定款についても会社法に準拠していないケースや実態にそぐわないケースなど変更が必要な場合もよくあります。
また、グループの会社と内容を合わせることや、新たな事業展開などを見込んでいる場合には変更のタイミングで合わせて追加しておく必要があります。
実務的には先述の役員変更の決議とともに、定款変更決議も行なってしまうことで効率的に進めることが一般的です。
就業規則、給与規則などの労務関連規程、稟議規程、与信管理規程など実務上使われる規程についても見直す必要があります。
上場会社であれば当然整備されているものですが、中小企業などはこれらの規程は整備されていないことがほとんどなので、これらもPMI時に整備していく必要があります。
上場企業であれば四半期決算を開示する必要があります。
また、上場会社であれば月次で簡易ででも決算を締めているケースがほとんどです。
一方で、中小企業であればこれらが必要ではないため、実施していない、あるいは、締めていても1ヶ月後に締まるなど上場企業で耐えうるスピード感で締めている会社はほとんどありません。
そのため、月次決算や四半期決算に間に合うように経理体制を構築する必要があります。
買収された会社に借入金があれば、グループに入ることでグループファイナンスに切り替えることでグループでの支出を抑えることができます。
そのため、グループに入ったタイミングでグループファイナンスに切り替える必要があります。
グループの方針にもよりますが、遊休資産や事業外資産は資産の有効活用をするという観点から保有しないというグループもあります。
そのため、買収された会社に遊休資産などがあり、グループ方針で遊休資産などは保有しない方針であれば、それらの資産は売却が必要となります。
遊休資産や事業外資産はDDの段階で事前に把握ができるため、事前に準備をしてスムーズに売却を進めていきましょう。
買収された会社が同業種であれば、グループで利用している業務システムを導入することが一般的です。
グループで統一することでポイントなどが利用できるようになることと、業績の把握などが簡単になります。
新たにシステムを入れ直すことで買収された会社にとっては負担が大きくなりますが、導入した結果得られる効果があります。
従業員などにも得られる効果を丁寧に説明して、システム導入に理解してもらい進める必要があります。
業種が異なる場合には、グループのシステムを導入する方が良いのか、それとも利用しているシステムのままにした方が良いのか、慎重に検討する必要があります。
利用しているシステムをそのまま利用するのであれば、親会社の監査に耐えうるかは留意が必要です。
インフラに関しても買収前に利用していたインフラがありますが、これに関してもグループに入ることで入れ直すことが検討されるものの一つです。
業務システムよりもハードルは低く、入れることで得られるコスト削減効果などが大きくなるため、こちらの方が導入しやすいでしょう。
決算システムに関してもグループで統一する方が良いものとなります。
少なくとも四半期に一度開示が必要な上場会社のグループに入るのであれば、タイムリーに集計ができる方が良いのでシステムを統一する方が良いでしょう。
データが連動されることで経理担当者の負担は大幅に軽減されることになります。
企業風土というのは会社の経営陣によって構築されるものですが、中小企業の場合、オーナーにより形成されていることがほとんどです。
新卒でその会社に入り、そのまま会社にいればそれが当たり前になっていますが、その風土が適切かはわかりません。
買収されることで買収側の企業風土に合わせていき、方向性を統一していくことが必要ですが、一気に変えてしまうと従業員からの反発が出ますし、買収された会社の良いところもあるので、その辺はうまく統一していく必要があります。
経営方針についてはグループで統一されることが一般的です。
中小企業であれば経営方針ということはあまりないかもしれませんが、上場会社となると当然経営方針も明確にしてそれに基づき、経営が行われています。
買収された会社としては経営方針が統一されることでやりにくい部分も出てきますが、統一しなければ会社の方向性などが異なってしまい、PMIの効果も半減してしまうため、統一をしていく必要があります。
ここまで具体的なPMIの内容を解説してきました。
PMIが成功しなければM&Aは成功とは言えないと言われており、PMIを成功させるポイントを解説していきます。
M&Aでは案件がスタートしてDD、契約交渉などを進めていくと、PMIの準備は疎かになりがちですが、M&Aを成功させる、すなわち、PMIを成功させるには事前の準備は確実に必要になります。
PMIの準備をするにあたっては、まずクロージング日までにランディング・プランや100日プランといった統合計画を作成しておく必要があります。
先述した通り、DDが終われば買収される会社の課題など把握ができるため、そのタイミングで課題に対しての対応策などを洗い出しブランの枠組みを作成していくことでスムーズにPMIの準備に進めるよう準備しておきましょう。
PMIを進めるにあたっては実行する目標の設定、また、進めるにあたってはスケジュールも明確にしておく必要があります。
目標を設定にすることで向かうべき方向性などが明確になり、従業員などがやるべきことが理解されやすくなります。
また、PMIにおけるスケジュールを明確にすることで作業の漏れや漏れていた課題、さらにはスケジュールの進捗管理などが可能となります。
これらが明確になっていなければPMIの全体像が見えず、結果当初想定している効果が得られない可能性があります。
PMIを進めていく際には進捗管理などを行い、当初想定しているシナジーの効果や想定している、していない課題について解決して、買収の効果を最大化していきましょう。
PMIというのは難しい作業で、経験がなければ進めることすら難しいものとなります。
そのため、買収側の会社は買収された会社に派遣する人材を事前に検討して確保する必要があります。
過去にPMIを経験している人は多くはいないと思いますが、できる限りそのような人材がいればその人を派遣する方がいいでしょう。
また、買収された会社は買収されたことでモチベーションが下がっているケースも多く、これらの従業員などを引っ張っていく必要があります。
苦しい状況でもうまくPMIを進めることができる人を探す必要があるでしょう。
買収された会社でも会社の事業や業務内容を把握している人をPMIの実行者として選定する必要があります。
会社のことが正確に把握していれば、課題を適切に把握し解決に向けて動かすことができます。
買収された会社では買収に対してマイナスに考える人も多数いることも想定されます。
先述した通り、買収側の会社だけではPMIを成功させることは難しく、買収された会社の従業員も巻き込む必要があります。
そのため、買収された会社でM&Aを反対している従業員も理解してもらう必要があります。
そのためには買収された会社の従業員ともコミュニケーションを徹底して、お互いを理解してPMIを進めていきましょう。
PMIを進めていくにあたっては、経営陣はリーダーシップを発揮する必要があります。
通常、人は変化することを嫌います。
そのため、買収された会社の従業員は変化することを嫌がり、現状を維持したがります。
PMIを進めるにあたっては、従業員に対して変革を求め、引っ張っていかなければ、うまくPMIも進みません。
その結果、PMIは思った通りに進まず、想定して効果が得られないでしょう。
そのため、経営陣はリーダーシップを発揮し、従業員などを引っ張っていくことでPMIを成功に持っていきましょう。
では、具体的にPMIにおいて失敗と言われている事例と成功と言われている事例をみていきましょう。
まずは失敗した事例を紹介します。
2014年4月に実施したマイクロソフトによるノキア携帯端末事業を買収した事例です。
ノキアの携帯開発力を取得して携帯端末の開発を加速させること、また、ノキアブランドのユーザーを取り込むことが目的でした。
ところが、現時点でも携帯端末市場において、マイクロソフト社の携帯端末のシェアは拡大しておらず、iPhoneやアンドロンド端末が市場を席巻しています。
ノキアブランドにも一定数のユーザーはいたのでノキアブランドを残してハードウェア事業を続けていればコアなファンが残せたと考えられます。[1]
ウォルマートは2002年に業務提携を行なった後、2008年に西友を買収した事例です。
ウォルマートは西友の買収を足掛かりに日本国内でのM&Aを進め、シェア広げることが目的でした。
ところが、思ったよりも業績の改善は進まず、累積赤字に陥りました。
PMIにおいて価格設定の変更行い、低価格で商品を売る戦略としていましたが、消費者は安い価格に慣れてしまい、他店に顧客を奪われることとなりました。
思った通りに業績が伸ばせず、2020年にウォルマートはKKRおよび楽天に西友の株式を売却しました。[2]
パナソニックは2009年に三洋電機の株式を取得して子会社化した事例です。
本件は両社のノウハウを共有することで生じるシナジーを目的として実施されたものでした。
ブランドや商品の統合、また、ショップの統合なども進められましたが、民生用リチウム電池市場における競争の激化や円高・ウォン安による価格競争により、思ったシナジー効果が得られませんでした。
その結果、2012年3月期にパナソニックは三洋電機ののれんを減損しています。
また、当初両社のノウハウである技術力を共有することでシナジーを見込んでいましたが、こちらも結果的には思った通りのシナジーは得られず、逆に人材の流出につながってしまいました。[3] [4]
2002年に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が合併し、みずほ銀行が設立された事例です。
銀行業界はデータのビジネスであり、データを集約することで販売コストなども下げることができる業界になります。
また、店舗なども同じ地域に出店しているケースも多く存在するため、固定コストの削減も用意となります。
本件もこれらのコスト削減を目的に実施されました。
しかし、統合した2002年4月1日に大規模なシステム障害が発生し、銀行に多大な損害を起こしてしまいました。
事前にシステムの移行の準備はなれたものの、東庭よりもスケジュールは遅れ、また、直前に必要なテストも行えないまま、移行された結果行なったものでした。[5]
2014年にDeNAが実施したiemo社およびペロリ社を買収した事例です。
DeNAはiemo社の買収を足掛かりにキュレーション事業の拡大、短期間で収益を見込める事業に拡大することを目的として買収されました。
その後ペロリ社も買収することで新規事業の構想を具体化して進められました。
しかし、ペロリ社が運営するMERYについて盗用疑惑があると批判が出ており、DeNAの法務部門も警告をしていましたが、その問題を解決せず、M&Aは進められました。
2016年にはDeNAが運営するキュレーションサイトを閉鎖し、先述のMERYについても公開を停止しました。
急いで案件を進め、高いKPIが設定されていた結果、失敗につながりました。[6]
[1] マイクロソフト、ノキアのモバイル事業買収を完了(CNET Japan)
[2] 米ウォルマートの誤算 西友から「手を引くに引けない」?(J-CAST ニュース)
[3] パナソニック株式会社および三洋電機株式会社の 資本・業務提携に関する協議開始のお知らせ(パナソニック)
[4] パナソニック傘下で解体進む三洋電機 優秀な人材は次々と去っていった… (SankeiBiz)
[5] みずほ銀行発足初日に大障害、「必然」だった2002年の二重引き落とし(日経クロステック)
[6] 第三者委員会調査報告書の全文開示公表のお知らせ(ディー・エヌ・エー)
ここまで失敗した事例をみてきましたが、ここからは成功した事例もみていきましょう。
JTが1999年にRJRIを、2007年にGallaherを買収した事例です。
少子化や高齢化が進む日本では人口がピークアウトして、タバコ市場の限界を迎えることが目に見えており、グローバルに展開する必要がありました。
国際的な競争力を高めるためにこれらの買収は行われました。
これらの買収により困難である海外のM&Aにおける知見を深め、経験を積むことでスケールの拡大も可能にしました。
また、経験により事前準備も行うことができ、短期間でのPMIが実行されることでシナジー効果も早期に得ることができました。
その結果、現在では海外市場向けの販売本数が8割近い水準までなりました。[7]
日本電産は、技術力はあるが経営が悪化した会社を買収して、経営改善をして立て直すことで事業拡大をしてきました。
2019年11月時点で66件のM&Aを実施しています。
日本電産は以下の3つを重視してM&Aを進めている。
日本電産ではM&Aを進めるにあたり、入りの段階では値段を抑えることで失敗する確率を抑えています。
また、先述した通りでPMIに積極的に関与することで失敗する確率を下げ、さらには買収によるシナジーを早期に発現させ、買収額を回収しています。
その結果、これまでのれんについては減損をせず、確実に成功につなげています。[8] [9]
2014年におけるサントリーホールディングスによるビーム社の買収の事例です。
本件は世界の様々なエリアにおいて、両社の強力なブランド展開に加え、販売網や技術交流などを通してシナジー効果を目的として進められました。
その結果、サントリーはウイスキーの販路は世界に広がり、業績は拡大しています。
トップが衝突を恐れず、徹底的に現場レベルでのコミュニケーションをとったことが成功につながりました。
ファンクション同士の話し合いを通じ、お互いの理解が進んだことで、シナジーも発揮することができました。
また、ビーム社の独立性を保ちながら、放任せず進めたことが成功のポイントと言えるでしょう。[10] [11]
他社がまだ積極的にM&Aをしていなかった2000年代から楽天はM&Aをスタートさせ、楽天トラベルや楽天証券などの前身の会社を買収した事例です。
インターネット基盤と証券、アパレル、旅行など幅広い分野を結びつけ、売上高の拡大につなげました。
売上面、コスト面それぞれで大きなシナジーを生み出し、楽天は各分野において成功を収めました。
楽天が成功したポイントは、各分野のシナジーをうまく発現させ、業務範囲を拡大させたことだと言えるでしょう。
楽天市場や楽天ブックス、楽天トラベルなどの日常分野から楽天証券や楽天銀行など金融分野などの専門分野まで幅広く事業範囲を拡大させています。[12]
KDDIも積極的にM&Aを実施してきた会社の一つです。
買収によるインフラを整えるクロスセル、スマホのコンテンツの強化などの観点からM&Aを進めてきました。
KDDIは基本的には既存事業との間でのシナジーを生むことを前提として実行しています。
M&Aにより、CATV、固定電話、携帯電話、インターネットを一気通貫したサービスを提供し、これらをまとめることで割引となるプランを打ち出し、業績を拡大させました。
自社のサービスに幅を持たせ、通信とライフデザインを融合させ事業を拡大しました。
また、ここからの新たな価値に向けての投資を進めています。
KDDIの成功のポイントは既存事業とのシナジー、また、既存事業とのサービスの融合を進めたことだと言えるでしょう。[13]
[7] クロスボーダー M&A統合成功の秘訣 ―日本たばこ産業の事例(大和総研グループ)
[8] 日本電産について M&Aの歴史(日本電産)
[9] 日本電産、買収53件目 永守流に3つの秘訣(日本経済新聞)
[10] サントリーホールディングス(株)によるビーム社買収について(サントリーホールディングス)
[11] サントリー、買収後のビームを制した3つの改革(日経ビジネス)
[12] 楽天市場のビジネスモデルと情報システム-楽天市場はどうして成功したか?-(早稲田大学IT戦略研究所)
[13] 【保存版】KDDIによるM&Aの歴史(ソフトバンクに隠れがちだけど着実に結果を出している)(Strainer)
ここまでM&AにおけるPMIの役割について具体的な流れ、内容、成功事例、失敗事例などを交えてみてきましたが、いかがでしたでしょうか。
M&Aを成功させるにはPMIが重要と言われますが、成功事例や失敗事例でみてきた通りでまさにその通りだと考えられます。
つまり、統合後のシナジー効果や既存事業との親和性を発揮させることが成功のポイントとなります。
事前検討でどこまで把握できているかが重要となります。
また、PMIにおいては短期間で終了させ、効果を早期に発現させる必要があります。
そのためには事前にどこまで準備ができているか、経験が豊富な人を派遣することができるか、統合計画についても早期に作成できているかなどがポイントとなります。
いずれにしてもM&Aを成功させるには早期の準備、シナジー効果の検討・発揮がポイントとなるので早めの準備を進めましょう。
(執筆者:公認会計士 前田 樹 大手監査法人、監査法人系のFAS、事業会社で会計監査からM&Aまで幅広く経験。FASではデューデリジェンス、バリュエーションを中心にM&A業務に従事、事業会社では案件のコーディネートからPMIを経験。)
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