企業再生とは、企業が存続の危機にある際に、その原因を排除し企業を再生することです。法的再生と私的再生という2種類の方法があります。各方法のメリットやM&Aによる企業再生の事例をくわしく解説します。(公認会計士 前田 樹 監修)
企業再生の概要を解説していきます。
企業再生とは、企業が債務超過を起こしている場合や継続して赤字である場合などの理由で企業の存続が危ぶまれている時に、その原因を排除し企業を再生することをいいます。
企業の存続自体も危ぶまれている場合もあるので企業再生を進めるには債権者などの協力が必須になります。
企業再生は、まさに企業を立て直すことで経営が危ぶまれている状況から脱する状況にすることが目的です。
銀行などの債権者にとっては貸付を行なった資金を少しでも多く回収できるようにするため、企業が復活することを望みます。
債権者にとっても債権の回収のため、企業再生が必要と考えます。
企業再生のメリットは主に3つあります。
従業員の観点、債権者の観点、経営者の観点からあげられます。
企業再生ができない、すなわち倒産を意味しますが、企業が倒産した場合、従業員は職を失ってしまいます。
もちろん、企業再生が中途半端な状態で終わってしまうと給料が下がってしまう可能性もありますが職を失ってしまうよりもまだいい方です。
債権者の観点は先述しましたが、1円でも多く回収することが大切です。
倒産してしまうと回収できなくなってしまう債権も企業再生することで回収できる可能性が出てきます。
一部の債権を放棄しても回収ができるのであれば、企業再生に協力してくれるのです。
倒産をしてしまうと経営者も収入を失うほか、破産手続きなどが必要となってしまう可能性があります。
個人で経営をしている場合には個人保証をしていることが多く、経営者自身も破産手続きが必要になってしまうのです。
そのため、経営者にとっても企業再生にメリットがあります。
企業再生と近い単語で事業再生があります。
企業再生と事業再生の違いを解説します。
事業再生とは、企業の中で経営状態が悪化している事業の立て直しのことをいいます。
事業を抜本的に見直すことで収益をあげることができるように再構築することです。
企業再生も事業再生も同じような単語で、経営状況が悪化しているものを立て直すことをいいますが、対象となる範囲が企業再生の場合は企業全体、事業再生の場合は事業となります。
企業再生の方が、対象とする範囲が広くなります。
企業再生を行うことができる条件を解説していきます。
企業再生が必要な状況になっている場合、借入金などの負債の返済により資金繰りが悪化していることがほとんどです。
そのため、企業再生を進める中で債務免除など負債を削減することで資金繰りが正常化できないのであれば、再度資金繰りで躓いてしまい、企業再生がうまく進みません。
資金繰りを正常化させるために費用の見直しなどを行い、営業キャッシュフローの黒字化が求められます。
コスト削減した上で、スポンサーなどからの資金投入を行なってもらうとともに、一部負債を圧縮してもらい、資金繰りを正常化します。
負債の削減も行ってもらうことで資金繰りを正常化できることが企業再生の条件となります。
企業再生には債権者の協力が必須となります。
先述した通り、資金繰りの正常化のため、負債の圧縮は企業再生において必要であり、債権者の協力がなければ達成することができません。
後述しますが、私的再生においても法的再生においても債権者の同意が必要であるため、債権者の協力は必須であるといえます。
債権者の協力を得られれば、企業再生をスムーズに進めることができます。
企業再生においては、収益を回復、拡大を見込むことができる、また、コスト削減ができるということが必須となります。
企業を再生するためには、収益を拡大させることが必要でさらには事業に需要が必要となります。
需要がなければ、収益は回復せず企業再生につなげることができないため、企業再生を進めることができません。
事業内容に需要があることを確認した上で、企業再生を進めていきましょう。
企業再生を進めるためには、企業再生の中心となる経営者に意欲がなければ進めることができません。
企業のリーダーとしての覚悟ややる気がなければ、債権者の協力も得られにくいでしょう。
また、経営者に覚悟がなければ従業員もついてきてくれません。
そして、企業再生においては従業員も重要な役割を果たすことになります。
従業員に意欲がなければ、債権者などが協力してくれたとしても実務を進める人がおらず、うまく進まないでしょう。
企業再生には経営者や従業員の再生意欲が必要となります。
企業再生を進めるにあたって事業計画を策定する必要があります。
もちろんその計画はこれまで解説してきた内容が加味されたものでなければなりません。
資金繰りが正常化することができ、収益拡大のため、需要がある事業であることが必須で、これらを満たした上で実現ができなければ意味がありません。
そうしなければ債権者などの協力も得られないでしょう。
企業再生を進めるにあたっては、実現可能性が高い改善計画を策定して実行していく必要があります。
上述の企業再生の条件を満たせば企業再生を進めることができます。
企業再生には大きく分けて法的再生と私的再生の2種類があります。
これらについて解説していきます。
法的再生とは、裁判所の関与のもと手続きが進められる再生の方法となります。
メリットやデメリット、効果的な手法を解説していきます。
法的再生のメリットは、法律で定められているため明確で、裁判所が関与することから当事者間の公平性が確保されている点です。
また、再生可能な事業計画でなければ認可されることがないため、金融機関などの債権者の理解も得られやすいです。
そのほか、債権者の一部に反対する人がいたとしても債権額に応じた多数決で進めることができるため、企業再生を進めやすいことも法的再生のメリットです。
法的再生で手続きを進めた場合、信用調査会社などが公表することになるため、企業イメージなどの毀損が起こります。
また、法的再生を進めていることは取引先から不安視されてしまい、取引が停止になってしまう場合や取引量を減少させられる場合など再生手続きを進めるにあたり、影響が出てしまう可能性があります。
法的再生の場合、書類の作成や手続きの履行には時間がかかり、専門家の知見やノウハウも必要となります。
そのため、専門家に業務を委託することとなり、費用がかかってしまう点もデメリットとなります。
法的再生の効果的な手法として3種類あります。
それぞれについて解説していきます。
会社更生は比較的大規模な会社が利用することを想定した方法で、規模の大きな会社が利用することが想定されている手法となります。
会社更生は再建型の倒産制度です。
会社の再生・再建を図ることができ、更生計画案に反対する債権者がいても多数決で進めることができます。
一方、旧経営陣が会社の経営権を失ってしまうというデメリットも存在します。
予納金の納付など相当額の出費も必要となります。
民事再生は法的再生でもっとも一般的な手法で、個人、会社問わず利用することができます。
会社更生と同様で再建型の倒産制度です。
民事再生の場合、現経営陣の退陣が求められることがないため、継続して経営に関与することができます。
そのため、経営陣が主体的に進めることができます。
また、民事再生は裁判所の関与のもと再建を進められることになります。
会社更生との違いは、会社更生では多数決で再建計画を成立させることができる点などです。
特定調停は、会社更生や民事再生とは異なり、当事者間の話し合いであるため、裁判所は調停委員として仲介するものとなります。
私的再生とは、債権者と債務者の話し合いにより行われる再生であり、裁判所が関与する法的再生とは異なります。
メリットやデメリット、効果的な手法を解説していきます。
私的再生のメリットは法的再生のデメリットの逆で裁判所が関与しないため、非公開で進められることになります。
そのため、法的再生と比較すると企業のイメージの毀損が起こりません。
信用不安を回避することで取引などに影響が出ません。
また、法的再生のように書類の作成がないため、早期に手続きが進めることができる点や弁護士への委託が必ずしも必要ではないこともメリットとなります。
私的再生のデメリットは、法律による明確な手続きなどはなく、支払停止などの効力もないので、各債権者との話し合いにより決めていくこととなります。
そのため、債権者側に有利な内容になってしまう可能性がある点や合意ができない債権者からの協力が得られない可能性があります。
私的再生の具体的な手法として5種類あります。
それぞれの概要について解説していきます。
私的整理ガイドラインとは、一般社団法人全国銀行協会が事務局となっている中小企業の事業再生等に関する研究会が策定した「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」[1]であり、中小企業者を対象に私的整理の考え方、進め方などがまとめられています。
私的整理の場合、明確な手続きがなく、債権者の理解も得にくいため、当該ガイドラインに則り私的整理を遂行することで債権者の理解も得やすくなります。
なお、私的整理ガイドラインでは、再建計画として3年以内に実質的な債務超過を解消することが求められています。
中小企業再生支援スキーム[2]とは、中小企業再生支援協議会等が債務免除等を含む再生計画の策定支援を実施する際の手順や要件を定めたものです。
上述の私的整理ガイドラインを踏まえ、中小企業の特性などを考慮した策定されたものとなっています。
私的整理ガイドラインとの大きな違いは第三者である認定支援機関に設置される支援業務部門が手続きを遂行する点と再建計画の債務超過の解消が5年以内を目処にしている点です。
REVIC[3]とは、株式会社企業再生支援機構法に基づき、設立された株式会社企業再生支援機構が前身である官民のファンドです。
地域の中堅・中小企業を対象に、経営資源を投入し、事業再生を支援しています。
具体的には特定専門家を派遣することやファンド運営を通じ事業再生することなどで、これまで蓄積されたノウハウや知見、人材などを送り込むことで事業再生を進めていきます。
特定認証ADRとは、産業競争力強化法に基づく制度であり、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律や産業競争力強化法等の根拠法令に基づき制度化された手続きの一つです。
なお、ADRとは上述のうち裁判外紛争解決手続のことで、訴訟手続きによらずに紛争解決する方法を指します。
当該手続きの実施は公表をする必要がなく、債権者との取引を継続することができ、上場会社であれば上場の維持も可能となっています。
債務免除に伴う税制上の優遇措置があることやメインバンク以外の金融機関との調整も促進しやすいなどの特徴があります。
企業再生ファンドとは、投資家から集めた資金を元手に金融機関から再建を買取り、企業への出資を行い、専門家を派遣して企業の再生を行います。
具体的には、企業再建の専門家の派遣や資金調達方法の見直し、また、不採算事業の売却などを進めることで対象会社の収益性を上げ、株式公開や株式譲渡により収益を上げ、投資家に還元します。
[1] 中小企業の事業再生等に関するガイドライン(中小企業の事業再生等に関する研究会)
[2] 中小企業再生支援スキーム(中小企業庁)
[3] 会社概要(地域経済活性化支援機構)
ここまで見てきた企業再生を踏まえ、企業再生の注意点やポイントを解説していきます。
企業再生においては、経営改善のため、収益性を上げるかコストを削減することがまずすべきことです。
特にコスト削減は効果を上げやすく、従業員のリストラも選択肢の一つとなります。
まずやるべきは業務プロセスの改善などを行い、コストを削減することですが、それだけでは改善が難しい場合には従業員のリストラに手をつけることになります。
従業員のリストラを行う際に、整理解雇となりますが、その場合には以下の4つの要件を満たす必要があります。
これらの要件を満たさなければ、解雇権の濫用となってしまうため、注意が必要となります。
企業再生においては専門的な知識が必要となります。
法的整理であれば、特に法律面の知識が必要となり、また、私的整理においては金融機関などとの調整などが必要となるため、弁護士や税理士、会計士など企業再生の専門家の力を借りる方がいいでしょう。
専門家の助力を得た上で、債権者等と円滑に交渉を行い、企業再生を進めることで失敗しないようにしましょう。
企業再生の方法の中でもM&Aを活用した企業再生の方法があります。
M&Aによる企業再生について解説していきます。
M&Aというと企業を売却するなどがイメージされやすいですが、企業再生においても第三者の協力を得ながら、M&Aにより企業再生を進めることが可能です。
不採算部門を切り離すことで、経営資源を主要事業に集中させ、企業再生を図ることになります。
企業再生においては事業譲渡や会社分割などが主な選択肢となります。
M&Aによる企業再生の手法は主に3つあります。
事業譲渡は、事業あるいは事業の一部を他社に譲渡する手法です。
基本的には個別に承継する資産・負債を決定するため、引き継いだ側は簿外債務などを引き継ぐことがないというメリットがあります。
また、事業譲渡の対価は現金で支払われることになるため、事業資金にも回しやすいというメリットがあります。
会社分割は、事業あるいは事業の一部を、既存の会社か新設の会社に移転する手法です。
会社分割の場合、事業を引き継ぐことになるため、従業員と個別に転籍手続き等をする必要がありません。
ただし、新設分割の場合は対価が原則株式となるため、その点は注意が必要です。
第二会社方式は事業譲渡や会社分割により、コアとなる事業を第二会社に移転させておき、旧会社の特別清算手続きをとって法人格を消滅させる手法です。
旧会社が抱えていた債務や不採算事業は旧会社に残すことで旧会社の法人格の消滅とともに整理でき、主要事業だけを残すことができるというメリットがあります。
M&Aによる企業再生のメリットやデメリットについて解説していきます。
M&Aによる企業再生のメリットは以下があります。
M&Aによる企業再生を選択した場合、第三者の支援が前提となるため、自分達だけで進めるのではなく、アドバイス等をもらいながら進めることができます。
また、上述の通り、選択肢は複数あり、スキームを選択すればコア事業に注力でき、経営の効率化を進めることができます。
M&Aによる企業再生のデメリットは以下があります。
企業再生自体も専門的な知識が必要となりますが、M&Aによる企業再生で進めるとさらにM&Aの知識も必要となります。
そのため、専門家の依頼も必要になります。
また、M&Aで進める場合、相手先の選定も難しくなります。
そもそも相手が見つからなかったり、条件を満たさなかったりするので注意が必要です。
企業再生で成功した事例と失敗した事例を紹介していきます。
成功した例として日本航空、失敗した事例としてダイエーを紹介します。
日本航空:日本を代表する航空会社で、2021年度の国内線、国際線ともに旅客数第1位
会社更生法に基づき更生手続きを実施された日本航空ですが、手続き開始から約2年半で再上場を果たしています。
ダイエー:全国チェーンの一大企業で総合スーパーおよびスーパーマーケットを展開しているイオングループの企業
イオンの完全子会社となることで事実上ダイエーの消滅が決まり、2004年からスタートした企業再生は実質的に失敗に終わってしまいました。
[4] 日本航空の再生(国土交通省)
[5] ダイエー(内閣府保管情報)
[6] イオンによる公開買い付けの結果(ダイエー)
[7] ダイエーの株式交換(イオン)
ここまで企業再生について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
企業再生には法的再生と私的再生があり、それぞれメリットやデメリットがあります。
また、M&Aによる企業再生ということも選択肢としてあります。
それぞれの手法で選択できる状況や条件があるので事前に検討した上で、進めていくことで再生できるように進めていきましょう。
(執筆者:公認会計士 前田 樹 大手監査法人、監査法人系のFAS、事業会社で会計監査からM&Aまで幅広く経験。FASではデューデリジェンス、バリュエーションを中心にM&A業務に従事、事業会社では案件のコーディネートからPMIを経験。)