M&Aのサポート内容や依頼先の専門家を選ぶコツ【徹底解説】
- 法務監修: 西田 綱一 (公認会計士)
M&Aには専門的な知識が求められるため、専門家によるサポートが不可欠です。具体的なサポート内容には、マッチングや契約の立ち会いなどがあります。M&Aのサポート内容や仲介会社を選ぶ際のコツをくわしく解説します。
M&A専門家・仲介会社が行うサポートの種類 | サポートの内容 |
---|---|
事前相談・契約後の助言 | 専門的な知見に基づいた実戦的な提案を行う |
マッチング(相手探し) | ロングリストやショートリストを活用して、M&Aの相手候補を選定する |
交渉や契約の立ち合い | トップ面談の段取りや、契約の全体像等に関する分かりやすい説明などを行う |
契約書や各種資料の作成 | 弁護士が基本合意書や最終契約書等の書類を作成する。仲介会社は、条項の具体的内容について助言を行う。 |
デューデリジェンス | デューデリジェンスで必要となる書類やデータの整備に関してサポートする |
PMIのサポート | 売上シナジー等の各種シナジーを発揮するための支援を行う |
中小企業庁によると、日本全体において平均の引退年齢である70歳を超える中小企業の経営者は2025年までに約245万人です。
そしてそのうち、約127万人が後継者未定であると見込まれています。[1]
このような状況の中で、M&Aは中小企業にとって重要な事業承継の手法の1つであるとの認識が広がり始めています。
また、M&Aは大企業にとっても重要な事柄です。
例えば今後の新しいビジネスを創造するため、オープンイノベーションの手段の一つとして大企業等とスタートアップのM&Aに注目が集まっています。
イノベーションそのものは基本的にスタートアップ(革新的な技術やアイデアで新たなビジネスを展開する非上場の企業)によってなされると期待されています。
近年、オープンイノベーションが推進され、スタートアップと大企業との連携が図られているところです。
しかし、日本の大企業は一般的に自前主義の傾向が強いとの見方がなされていて、多くの大企業は自社の成長戦略の中にオープンイノベーションの活用を組み込めていないと指摘されています。
こういった理由からも大企業のM&Aの重要性が増大しています。
M&Aに対する各方面からの期待が集まる中で、専門家や仲介会社によるM&Aのサポートはますます重要なものとなっています。
M&Aを実行する上では高度かつ専門的な知識が要求されます。
通常はM&A当事者のスタッフだけによる対応は困難であり、外部の専門家・仲介会社のサポートが必要です。
特に中小企業はM&A未経験であることがほとんどで、M&Aに関する経験・知見が乏しいケースも少なくありません。
その上中小企業のM&Aにおいては、その対象となる事業が中小企業の経営者個人の信用・人柄などその経営者ならではの要素により大きな影響を受ける傾向にあります。
こういった背景もあり、専門知識を持つ専門家・仲介会社のサポートが強く必要とされています。
M&Aのサポートは通常、金融機関・商工団体・士業(税理士・公認会計士・中小企業診断士・弁護士)・仲介会社等によって行われます。
また個々の手続においては、許認可関係の手続等をサポートする行政書士、登記関係の手続等をサポートする司法書士、労働及び社会保険関係の手続等をサポートする社会保険労務士等、各種の資格の保有者が関わることも少なくありません。
専門家・仲介会社は基本的にはどの業界や分野でもある程度対応できることが想定されます。
しかしそれぞれに得意とする業界や得意な分野(法務・税務・労務等)があります。
その専門家・仲介会社を利用するメリットを最大化させるためには、M&A当事者が属する業界や特に力を入れたい分野にあったところを選ぶ必要があります。
M&Aを実行していく中で、多くの場合は予期せぬ出来事が連続して起こります。
何の障害もなくスムーズにM&Aが進行していくケースは多くありません。
予期せぬ出来事が発生した時や困難な状況に陥った時こそ、専門家・仲介会社の真価が問われます。
今回のM&Aと規模・分野が同じ案件に関する実績を持っていることが専門家・仲介会社にとっては大きなアドバンテージとなります。
そしてそうした経験値の差が助言のクオリティの差に繋がっていきます。
今までに、M&Aのサポートが進んでいく過程でM&A当事者が想定していなかった手数料が発生し、トラブルになったケースもあります。
手数料の体系が明確に示されていることは、大きなポイントです。
手数料としては、例えば、次のような体系が考えられます。
ただしこれらはあくまで例示に過ぎません。
実際の手数料の金額や体系は専門家・仲介会社によって異なります。
また成功報酬を算定する際には一定の価額(例えば譲渡額・純資産額等)に一定の方式に則った計算を施すことが通常です。
その場合でも最低手数料が定められているケースが少なくありません。
いくら大手の仲介会社や専門家の集う法人であったとしても、実際に案件を担当するのは数名の担当者のみです。
知名度だけでなく担当者のこれまでの能力・経験・人間性等を総合的に判断して、専門家・仲介会社を選択したいところです。
サポート側の担当者とM&A当事者側の担当者の深い信頼関係があってこそM&Aが成功する面は否めません。
担当者とのコミュニケーションがとりやすい・相性が良いどうかで専門家・仲介会社を選ぶことも必要です。
1社単独では情報量に限界があります。
ネットワークを活用して多くの情報を持つ専門家・仲介会社の支援を受けることはM&Aにおける選択肢を増やすことに繋がります。
M&A当事者は専門家・仲介会社からサポート契約締結前に、その契約に関わる重要な事項について説明を受けることが通常です。
説明される重要事項の内、主なものは以下の通りです。
またM&A当事者が十分な知見を有していない場合、自身のみではM&Aの手続についての意思決定が簡単ではありません。
専門家・仲介会社は自らの専門的な知見に基づき、M&A当事者に対して実践的に提案し、意思決定をサポートすることになります。
M&Aにおいて想定される重要なメリット・デメリットの当事者に対する明示的な説明が専門家・仲介会社に期待される役割の一つです。
マッチングにおいて、専門家・仲介会社は譲渡側の希望を取り入れた候補先リスト(ロングリスト)を作成して打診の順番や方法を決めることが通常です。
そしてノンネーム・シート(ティーザー)で打診した後、関心を示した候補先をリスト(ショートリスト)にします。
その後これら候補先との間で秘密保持契約を締結し、企業概要書等の詳細資料を開示するという流れで手続が進むことが通常です。
譲渡側・譲り受け側のマッチングには当初の想定以上に長い期間がかかる場合があります。
月額報酬制を採用しているとケースによっては、必要に応じて月額報酬の適正な金額への減免等がなされます。
専門家・仲介会社には、当事者に対するM&Aの交渉や契約の全体像等の分かりやすい説明等により、寄り添ったサポートが期待されています。
特に譲渡側・譲り受け側の経営者同士の面談(トップ面談)はM&A成約の可否を左右するほど重要です。
円滑に進められるよう、当日の段取りを含めて丁寧なサポートが望まれています。
また最終契約は当事者の権利義務を規定する大きな事柄です。
可能な限りM&Aに関する知見と実務経験を有する弁護士の関与の下での締結が望ましいと考えられます。
基本合意書や最終契約書等の書類は基本的に弁護士が作成します。
また基本合意書や最終契約書に盛り込まれる条項の内容に対しては、案件全体を通じて発覚したリスクなどを踏まえて、M&Aをリードしてきた専門家・仲介会社が助言するのが理想的です。
デューデリジェンス(以下DDと記載)は主に譲り受け側により実施されます。
その際譲り受け側は譲渡側に対して、大量の資料を要求するのが一般的です。
中小企業の場合は会計帳簿や各種規程類等が整備されていないケースもあるのが現状です。
専門家・仲介会社はDDで求められることが想定される書類やデータ等の整備についてのサポートを提供するのが通常です。
また必要に応じて、各分野の士業等の意見を求めるべきである旨を伝えることも少なくありません。
可能であれば相手側に過大な負担が生じないよう、DDの調査対象を適切な範囲内としてDDの結果をお互いに開示して情報共有を可能とする対応も、専門家・仲介会社によるサポートの一部として期待されています。
通常、下記の項目においてPMIのサポートが提供されます。
PMIのサポートを行う主な支援機関(専門家)は以下のとおりです。
グリーンアース:美容室へのリネンレンタル事業
ダイオーズ ジャパン:飲料サービス・環境衛生サービス等
西商店:石油製品販売事業
SAKAEホールディングス:石油製品販売事業・自動車整備事業・新車・中古車販売事業等
日向商運:原乳、タイヤ、肥料、雑貨、医薬品などの中長距離配送
フジトランスポート:大型トラックによる長距離輸送
トラック保有台数:グループ総数2,350台(2021年7月)
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:売上・市場シェア拡大
ここまでM&Aのサポートについて説明しました。
サポートが必要である理由や実際に提供されるサポートの内容について解説しM&Aの実例も挙げたため、しっかりとイメージできた方もいらっしゃることでしょう。
実際にM&Aのサポート契約を結ぶ場合は今回の記事を是非ご参考にしてください。
(執筆者:公認会計士 西田綱一 慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、一般企業で経理関連業務を行い、公認会計士登録を行う。その後、都内大手監査法人に入所し会計監査などに従事。これまでの経験を活かし、現在は独立している。)