- 奈良県
- 運送
- 宮崎県
宮崎県で40台トラックを保有し、地域密着で運営を続けてきた有限会社日向商運は、「M&Aサクシード」を通じて、全国に108拠点、トラック2,350台以上保有する物流グループであるフジトランスポート株式会社(旧・富士運輸株式会社)に、2021年7月に株式譲渡しました(最初のやりとりから約3カ月)。譲渡オーナーからの視点では、中小の運送業に重くのしかかる2024年問題の解決策となり、譲り受け企業であるフジグループとしては、宮崎県で新拠点新設・事業領域の拡大になりました。そこで、第三者承継の経緯やメリットについて、譲渡オーナーである有限会社日向商運 会長(元・代表取締役社長) 廣島 嘉彦 様に伺いました。(2022年2月公開)
地域密着の運送業として歴史を重ねる
――御社の事業概要を教えてください。
廣島 宮崎県日向市にある運送業です。昭和41年(1966年)に日向市から1時間ほど山の方に行った場所で運送会社を始めました。その時は、ほぼ100%木材を日向市に運んでいて、運んだ木材は、柱や板などの製品に加工されていました。昭和54年(1979年)に、日向市に移転し、屋号も今のものに変更しました。そこからは、木材だけにとどまらず、工場の製品、例えば砂糖などを中国・四国方面に運送したりもしますし、飼料なども輸送を始めました。それらを基本に運営し、ここ4~5年では飲料関係も増え、徐々に広げてきました。
――トラックの台数を教えてください。
廣島 車両台数は、10年ほど前までは50台を超え、一番多い時は81台まで増えました。5年ほど前から徐々に減って令和に入ってからは41台まで減車しました。普通10トントラック(15台)、トラクタヘッド(11台)、トレーラー(14台)、小型車(1台)の合計41台です。ドライバーのなり手がいなくて、それに応じて台数も減ってきた形です。さらに追い討ちをかけるように1年半もコロナ禍があり、ここ一年半は3割ほど荷物も減ってしまいました。それもあり厳しい経営環境になりました。
将来のことを真剣に考えたとき第三者承継(M&A)が選択肢に
――譲渡を検討することになった経緯を教えてください。
廣島 コロナ禍が一番うちの会社としては影響しましたし、ドライバー不足も続いていて、売り上げも落ちてしまっていました。一方、運送収入が徐々に減ってはいたものの、銀行の融資などはうまく受けて、銀行と取引先という関係においては良好でした。コロナ対策助成金なども給付を受けました。ただ、立ち止まって考えた時に、コロナ後に5年前と同じ状況に戻れるかなと不安がありました。
事業承継については、約一年前から真剣に考えはじめました。自分自身も体調が良くなく、検査入院などを経験したため、まだ61歳と若いですが、体力的に少し自信がなくなったというところも正直なところです。
――社内の方に譲るという選択肢はありましたか?
廣島 私と姉である常務が経営を二人でやってきました。あとは、ドライバーさんと優秀な事務方二人で、みんな頑張ってくれているのですが、社内で承継しようとは考えていませんでした。
長距離輸送の物流大手への事業承継で高い安心感
――第三者承継を考えるにあたり大切にしたい譲渡条件はどのようなものでしたか?
廣島 私は、第一に雇用の継続が一番の条件だったので、フジトランスポートの松岡社長に、各ドライバーさんがフジグループの中で頑張ってもらいたいと申し伝えました。少しでもうちの特色を活かして継続していただければと思っています。また、荷主様との関係も継続してほしいと伝えました。
――フジトランスポート運輸様に出会う前に他の企業も検討されましたか?
廣島 M&Aアドバイザーのキャプラスの金子さんに依頼し、フジトランスポート以外も2社ほど紹介がありましたが、運輸業務は経験がなく業種違いの会社の提案でした。一方、フジトランスポートは、陸運業のプロで大手なので、変な先入観もなく、松岡社長と会う決断ができました。松岡社長がドライバー経験のある経歴なども拝見し、お話しする中でフジグループの魅力に惹かれ、傾いていきました。
――具体的にはどのようなところに魅力を感じましたか?
廣島 一番は、全国的なネットワークを持っていらっしゃるということです。全国100カ所以上の拠点をお持ちです。しかしながら、宮崎県にはグループ会社や支店を含めて、まだフジグループとしての拠点がありませんでした。そこも目に留まり、日向商運が加わることで、フジトランスポートのグループの新たな拠点ができたらいいのかもしれないとも思いました。これから運輸業としては、ネットワークを持ってやらないと難しい時代だと考えています。労務・業務管理など2024年問題が迫っているなど、問題も山積です。そのような時代に、元々の経営では持ち堪えられないかもしれないと考えている中、フジトランスポートという大手企業に出会えたので心が決まりました。
また、宮崎県から首都圏に運送した復路の運賃が、フジグループに入ることで、これまでより約10~15%高い運賃での運送が可能になりました。このほか、東京に拠点がなかったため、これまではガソリンスタンドで給油していましたが、フジグループのインタンクを利用することで、コスト削減(1リットルあたり約10円)できたり、これまで外部に委託していた車検を内製化することで、年間数百万円の経費削減できたりという点もあります。
――フジトランスポートの松岡社長に御社に魅力を感じた点について伺ったところ、以下とのことです。
松岡 フジグループは、宮崎県に初拠点を新設し、九州全域を網羅し、拠点の新設により、宮崎県への長距離運送における復路の空車回送などを解決できるようになりました。また、日向商運が手がける海上コンテナや原乳の運送はフジグループにとって初領域であり、事業拡大につながります。法律を順守し、従業員ファーストを掲げる当グループの方針に共感していただき、うれしく思います。
――両社が出会われて、ご一緒になられるまでのストーリーを教えてください。
廣島 M&Aアドバイザーのキャプラスの金子さん経由で、M&Aサクシードに2021年3月末に譲渡を希望していることを掲載し、4月に入って、フジトランスポートの紹介をいただきました。そこから調べさせていただいたり、M&Aアドバイザーさんからも聞いたりして、5月のゴールデンウイークくらいに一度お会いしたい気持ちになり、6月に松岡社長に初めてお会いしてと、とんとん拍子に話が進みました。その際には、わざわざ宮崎の当社まできてくださいました。
松岡社長の熱意も感じましたし、気さくでお話ししやすいお人柄です。また、古い言い方になりますが、たたき上げの現場を知っていらっしゃる。今フジトランスポートは大企業ですが、昔の話をされた時に、いろいろなことを乗り越えていらっしゃるので、すごく頼もしく感じました。
――フジグループから吉村 卓司 氏(大型長距離ドライバー、本社勤務、熊本支店長を経て現職。40代)が代表取締役に就任されたということですが、引き継ぎはされましたか?
廣島 私は、ほとんど何もしていません。会長になり、今も会社には出てきていますが、ほとんど吉村社長のリードで、吉村さんの考えで進んでいます。これまでの会社のやり方とは違うので、もう吉村さんに任せっきりで。吉村さんが疑問に思ったときに答えるくらいです。吉村さんの軌道に乗っていると感じています。
――現在は会長職とのこと、社内の様子はいかがですか?
廣島 多少の従業員数の増減がありましたが、フジグループで働きたい方もすでに2名採用できています。運行やテリトリーが違うので、長年うちでやっていたドライバーさんが新しいやり方にすぐになれるのは難しいところもありますが、努力して前向きに頑張ろうとしてくださっていると思います。
――大きな変化があるのは大変なご苦労だと思いますが、グループに入ってよかったということでしょうか?
廣島 はい。一人ひとりの気持ちを確認しているわけではありませんが、吉村さんが元からいるドライバーさんや内勤者も、一人ひとりと対面して会話を重視して、丁寧に説明をしてくれています。そして、一緒に頑張りましょうと声がけしてくれている。そのような姿勢に感謝しています。
「運送業界の2024年問題」解決策の選択肢としての第三者承継
――2024年問題を抱えていらっしゃる運送会社の経営者様、また後継者不在の方へのメッセージをお願いします。
廣島 2024年問題というのはもう2年を切って待ったなしです。特にトラック50台から100台くらいの中小の規模の運輸業としては大変厳しい時期を迎えます。コストとして、燃料費や人件費なども重いので、第三者承継(M&A)を選択肢として考えるのは当然です。私どもはご縁あって、フジトランスポートさんという素晴らしい会社に出会えてよかったです。これからは、コロナが収束し、運送業として荷物が増えていく中で、人材確保という面が厳しくなっていくことも予想されます。タイミングもあると思いますが、3年先を考えた時に、今の経営のあり方でいいのかというところをよく考えるとM&Aが一つの選択肢になってくると思います。