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M&Aの税務|節税できる要件や税制改正を税理士が徹底解説

更新日:2023年11月08日twitterfacebook
M&A・事業承継

M&Aの税務は、手法や適格要件などによって異なります。専門知識を要する税務は、M&Aをスムーズに進める上で非常に重要です。税理士がM&Aの税務手続きや適格要件、税務リスクについてくわしく解説します。(公認会計士・税理士 河野 雅人 監修)

M&A 税務(FV)

M&A手法別の税務

ここでは、M&A手法別に税金の計算方法などを見ていきます。

M&A 税務 手法別

株式譲渡の税務

株式譲渡によりM&Aを行う場合、売り手側の法人株主又は個人株主に譲渡所得が生じ、法人株主の場合は法人税等が、個人株主の場合は所得税が発生します。

株式譲渡

個人株主にかかる税金の計算方法

個人株主にかかる譲渡所得の税金は以下のように計算します。

  • 譲渡所得の金額=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)
  • 株式譲渡による譲渡所得税の金額=譲渡所得の金額×20.315%(所得税15.315%+住民税5%)

例えば、譲渡価格1億円、取得費と譲渡費用の合計が2,000万円の場合の譲渡所得税は以下のようになります。

(1億円-2,000万円)×20.315% = 1,625万2,000円

個人株主に係る譲渡所得税は分離課税ですので、その他の所得として事業所得や給与所得などがあったとしても税額が変わることはありません。

法人株主にかかる税金の計算方法

法人株主の株式譲渡による損益(営業外損益)は、本来の事業にかかる損益(営業損益)や特別損益と合算され、最終損益(税引前当期純利益)を計算し、これに一定の税務調整を加味した金額に対して、法人税率(実効税率は約30%)を乗じて計算します。

例えば、営業利益が1億円とし、株式を譲渡したことによる利益が2,000万円とした場合には、おおよそ以下の法人税額がかかります。

(1億円+2,000万円)×30% = 3,600万円

法人株主にかかる税金は、営業損失(赤字)であれば株式の譲渡益と相殺される形となり、また、株式の譲渡により損失が出た場合であっても、営業利益と相殺される点で、個人株主の株式譲渡とは大きく異なっています。

株式譲渡とは?メリット・手続き・契約・税金を税理士が解説
M&A・事業承継
株式譲渡とは?メリット・手続き・契約・税金を税理士が解説

株式譲渡とは、売却会社の株主が持つ株式を、買収会社に譲渡し、会社を売買する方法です。 中小企業のM&Aの多くは株式譲渡によって行われています。 株式譲渡のメリット・手続き、契約書、税金・価値算定方法を解説します。(監修者:税理士法人山田&パートナーズ  税理士 小池俊)

株式売却の税金|計算方法や確定申告の概要【税理士が解説】
M&A・事業承継
株式売却の税金|計算方法や確定申告の概要【税理士が解説】

株式の売却では、上場・非上場株式の売却益に対して20.315%の税金が課税されます。株式売却の税率や税金の計算方法、損失の扱い、時価と乖離した金額で売却する際の注意点、確定申告の条件・必要書類を税理士が詳しく解説します。

買い手側に対して法人税や贈与税が発生するケースに注意

適正な価格より著しく低い譲渡価格で株式譲渡が行われた場合、買い手に対して法人税や贈与税が発生するケースがあります。

贈与税が発生するケース

売り手側の個人株主から買い手側の個人株主に対して、著しく低い価格で株式譲渡が行われた場合、買い手側に対して以下の算式で計算された贈与税がかかります。

  • 贈与税の金額=(適正価格―譲渡価格)×贈与税率

贈与税率は、贈与した額に応じて、10%(200万円以下の場合)~55%(3,000万円超の場合)となります。
株式譲渡の際の税率20.315%と異なり、贈与税率は贈与した額が多額になればなるほど、高い税率となってしまう点に注意しなければなりません。

法人税が発生するケース

売り手側である個人株主、法人株主から買い手側の法人株主に対して、著しく低い価格で株式譲渡が行われた場合、買い手側の法人に対して法人税がかかります。
この場合の法人税の計算方法は以下のとおりです。

  • 法人税の金額=(適正価格-譲渡価格)×法人税実効税率

適正価格と譲渡価格の差額の金額が「株式受贈益」として営業外利益に計上されるため、その分、法人の課税所得が増加する形となります。

会社売却が株主に与える影響とは?株主が行う手続きも詳しく解説
M&A・事業承継
会社売却が株主に与える影響とは?株主が行う手続きも詳しく解説

会社売却(株式譲渡)で株主は、保有する株式を買い手企業に譲渡します。会社売却が株主に与える影響やメリット、株主が行う手続き、税金を徹底解説します。また、事業譲渡が株主に与える影響も説明します。(公認会計士 西田綱一 監修)

事業譲渡の税務

事業譲渡で発生する税金として、法人税及び消費税があります。

事業譲渡

法人税等の計算方法

事業譲渡で発生する税金は、株式の譲渡損益と同じように、事業による譲渡損益を計算し、営業損益など他の損益と合算したうえで計算されます。
事業譲渡損益は、原則として事業の売却金額から譲渡する事業に係る資産・負債の簿価を差し引いて計算されます。

例えば、事業売却の金額が1億円、譲渡する事業の資産・負債の簿価が6,000万円の場合、事業売却益4,000万円が営業外損益に計上されます。
仮に営業損益など他の損益がなく、税務上の調整もない場合、事業売却益4,000万円に法人税実効税率(約30%)を乗じて法人税等が計算されます。

消費税の計算方法

事業譲渡の場合、売り手側が消費税課税事業者で、譲渡した資産の中に消費税課税対象のものが含まれていた場合には、その資産にかかる消費税を納める義務があります。

ここで、消費税が課税対象になる資産とは、例えば棚卸資産や有形固定資産、営業権などが該当します。
一方、課税対象とはならない資産としては土地や有価証券などがあります。

事業譲渡にかかる消費税の金額は、事業の売却金額に消費税率10%を乗じて計算されます。

事業譲渡とは?メリット・手続き・流れ・注意点を徹底解説【図解で分かる】
M&A・事業承継
事業譲渡とは?メリット・手続き・流れ・注意点を徹底解説【図解で分かる】

事業譲渡とは、会社がある事業の全部または一部を譲渡することをいいます。企業全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選べるのが特徴です。M&Aの代表的な手法のひとつです。この記事では、事業譲渡の意義、株式譲渡や会社分割との違い、メリット、手続き、流れを解説します。

事業譲渡における消費税の計算方法、課税資産を税理士が徹底解説
M&A・事業承継
事業譲渡における消費税の計算方法、課税資産を税理士が徹底解説

事業譲渡の消費税は、「課税資産×消費税率」で計算します。課税資産が1億円の場合、消費税額は1億円×10%=1,000万円です。税理士が、課税資産と非課税資産の分類や消費税の計算方法を詳しく解説します。(公認会計士・税理士 河野 雅人 監修)

譲渡対象に不動産がある場合

譲渡した資産の中に土地や建物といった不動産がある場合、買い手側に対して「登録免許税」や「不動産取得税」が課されます。

登録免許税とは

登録免許税は、土地や建物の所有権移転登記を申請する際に課税される税金です。
譲渡対象に土地や建物が含まれていた場合、それらの名義変更のため所有権移転登記を行う必要があります。

不動産の売買に伴う所有権移転登記にかかる登録免許税は、不動産の課税標準額に1.5%(2023年(令和5年)3月31日まで)を乗じた金額となります。

不動産取得税とは

不動産取得税は、土地や建物などの不動産を取得した際に課される税金です。
有償・無償を問わず発生しますが、相続など一定の場合には非課税となります。

不動産取得税は、取得した不動産の課税標準額に3%(2024年(令和6年)3月31日まで)を乗じた金額となります。

不動産M&Aとは?手法や節税メリット、最新事例を図解で解説
M&A・事業承継
不動産M&Aとは?手法や節税メリット、最新事例を図解で解説

不動産M&Aは不動産の取得を目的として行われるM&Aで、とくに課税面のメリットが大きい取引手法です。不動産M&Aの仕組みと流れ、税務、メリット・デメリットを図解で解説し、近年の事例を紹介します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)

合併、株式交換・移転、会社分割の税務

合併株式交換株式移転会社分割によるM&Aを実行する場合、税制適格か否かによって税務上の取り扱いが異なります。

税制適格要件を満たす場合、税務上、資産・負債を「帳簿価格」で引き継ぐことができるため、売却損益が発生せず、従って税金を課されることもありません。
一方、税制適格要件を満たさない場合は税制非適格となり、この場合、税務上、資産・負債を「時価」で引き継ぐ処理となるため、譲渡損益が発生し税金が発生します。

組織再編税制とは?適格要件や欠損金の扱いを税理士が図解で解説
M&A・事業承継
組織再編税制とは?適格要件や欠損金の扱いを税理士が図解で解説

組織再編税制とは?適格要件や欠損金の扱いを税理士が図解で解説 組織再編税制とは、合併などの組織再編行為に関する課税関係を定めた制度です。組織再編税制では、適格要件を満たすかどうかで税務が異なります。適格要件や繰越欠損金の取り扱いなどを税理士がくわしく解説します。(公認会計士・税理士 河野 雅人 監修)

M&Aにかかる税金、節税方法を詳しく解説
M&A・事業承継
M&Aにかかる税金、節税方法を詳しく解説

株式譲渡によるM&Aでは、株主個人の譲渡所得に所得税、住民税、復興特別所得税が課税されます。 税率は、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%です。 M&Aの手法ごとの税金や税金対策を実例を挙げて解説します。(公認会計士監修)

税制適格・非適格とは

上で述べたようにM&Aを含む組織再編税制には、「税制適格」と「税制非適格」に分かれます。
M&Aを進める際は、この税制適格と非適格を理解しておくことは、税務処理や税金対策がスムーズに行えるかどうかに関わってきます。

ここでは税制適格・非適格の意味について見ていきます。

税制適格・非適格の意味

「税制適格」は、M&Aを進める上で税金対策にもつながるので、理解しておくことは非常に重要です。
また、認識誤りにより処理を誤る可能性もあるため、税制適格要件を満たすM&Aを実施する場合には、事前に要件を満たすかどうかを慎重に検討する必要があります。

「税制適格」とは

「税制適格」とは、組織自体の統合や分割を主な目的とし、組織変更の前後において経済的実態の変更がないような組織再編をいいます。
税制適格要件を満たす場合、資産・負債を帳簿価額で移転することができるため、移転時に課税関係が発生せず、課税は将来に繰り延べられるため、税金対策として有効です。

税制適格として認められる条件

「税制適格」は、M&Aなどの組織再編を実行する際、資産・負債を移転する前後で経済的実態に変更がないと認められ、課税関係を継続させることが適当だと見なされた場合に適用することができます。

「税制適格」が認められる条件は以下のとおりとなります。

  • 100%支配関係のあるグループ内での組織再編・M&A

100%支配関係にあるグループ内での組織再編行為で、以下の要件すべて満たしていれば税制適格となります。

  1. 金銭等の授受がないこと
  2. 組織再編後も100%支配関係が続くこと

例えば、株式交換により100%完全子会社とするような場合では、交換の対価は株式などの金銭以外であること、株式交換後の子会社株式を継続して保有することが要件となります。

  • 50%を超える支配関係があるグループ内での組織再編・M&A

50%を超える支配関係にある企業が合併や分割などの組織再編行為を行う場合、以下の要件をすべて満たしていれば税制適格となります。

  1. 金銭等の授受がないこと
  2. 組織再編後も50%を超える支配関係が続くこと
  3. 主要な資産や負債を引き継ぐこと
  4. おおむね80%の従業員を引き継ぐこと
  5. 移転事業を継続すること

50%超のグループ内組織再編では株主以外の第三者が組織再編後において自社や関連会社の株主になります。
従って、税制適格の要件を満たすことが不明確な場合には非適格となる可能性があります。

  • 共同事業を行っている企業同士の組織再編・M&A

支配関係がない場合でも共同事業を行う企業同士が組織再編を実行する場合は、税制適格の要件はグループ内企業の場合と比べ要件が厳しくなります。
税制適格の組織再編と認められるためは、以下の要件をすべて満たさなければなりません。

  1. 金銭等の授受がないこと
  2. 主要な資産・負債を引き継ぐこと
  3. おおむね80%の従業員を引き継ぐこと
  4. 移転事業を継続すること
  5. 移転事業に関連性があること
  6. 事業規模と売上がおおむね5倍以内であること又は双方役員が組織再編後も継続して就任すること
  7. 発行株式総数の80%以上を継続保有することが見込まれること

また、共同事業を行う場合には、組織再編行為に合理的な理由があるかどうかもチェックされます。

以上の通り上記3つの再編形態によって、それぞれ適格要件は異なります。
形態ごとの主な要件は以下の表のとおりです。○の部分をすべて満たせば税制適格となります。

要件

100%グループ内再編

50%超グループ内再編

共同事業再編

金銭その他の資産の支払いがない

移転事業の主要な資産・負債の引継ぎがある

 

概ね80%以上の従業員の引継ぎがある

 

事業の継続が見込まれる

 

事業に関連性がある

 

 

関連事業の売上・従業員数等が概ね5倍を超えない

 

 

再編当時法人双方の役員が再編後も事業運営に参画する

 

 

発行済株式総数の80%以上を継続保有することが見込まれる

 

 

※△はいずれかを満たすこと。

税制適格要件を満たす例
  • 企業グループ内での組織再編

グループ内の組織再編では、金銭などのやりとりがないこと、100%完全支配関係が継続されること、80%以上の従業員の引き継ぎ、移転事業の継続が見込まれることなどの要件があります。

グループ内でのM&Aであれば、税務当局から税制適格と認められる可能性が高いといえます。
なぜなら、連結グループ内であれば組織再編の前後でビジネスモデルが大きく変わるということは考えられないため、上記要件を満たすことは容易だからです。

  • グループ外でもビジネス上の合理性がある組織再編

共同事業などの場合は、グループ内組織再編の要件を満たすとともに、さらに事業の関連性や規模、事業参画、株式継続保有などの要件をクリアする必要があります。
グループ外での組織再編は税務当局も厳しく見ることが多く、グループ内組織再編よりも厳しい要件となっています。

この要件はグループ外でも租税回避が目的などではなく、ビジネス上の合理性があれば税制適格と認められることになります。

M&Aにおける組織再編とは 各手法のメリットと事例【図解付き】
M&A・事業承継
M&Aにおける組織再編とは 各手法のメリットと事例【図解付き】

M&Aにおける組織再編とは、会社の組織を編成し直すことです。主な手法は、合併や会社分割、株式交換、株式移転、株式交付の5つです。組織再編の概要や各手法のメリット・デメリットをくわしく説明します。(公認会計士 西田綱一 監修)

税制適格のメリット

M&Aにて合併により組織再編をした際、税制適格と認められた場合は合併により消滅する会社の資産・負債を時価評価する必要がなく、また、消滅会社における青色欠損金を存続会社に引き継ぐことも可能となり、税金面で大きなメリットがあります。

また、消滅会社の株主においても、存続会社の株式が交付されれば、簿価を引き継ぐため課税されず、株主についても税金面でのメリットがあります。

このように税制適格となるM&Aは、税金対策として多くのメリットを受けることができます。

M&Aで繰越欠損金は節税に使える?引継ぎの要件を会計士が解説
M&A・事業承継
M&Aで繰越欠損金は節税に使える?引継ぎの要件を会計士が解説

M&Aで繰越欠損金を引き継げるケースは、事業上の目的で行う合併等に限られます。そのため、単なる節税目的では繰越欠損金を活用できません。公認会計士が、繰越欠損金の概要やM&Aで引き継ぐ要件を解説します。

M&Aのメリット・デメリットを買い手・売り手ごとにわかりやすく徹底解説
M&A・事業承継
M&Aのメリット・デメリットを買い手・売り手ごとにわかりやすく徹底解説

M&Aをする最大のメリットは時間を買えることです。買い手は新規事業や既存事業の拡大にかかる時間を買えます。売り手は投資回収・現金化の時間を短くできます。今回はM&Aのメリット・デメリットを解説します。

税制非適格とは

M&Aの税務における税制非適格とは、適格要件を満たさないM&Aの株式譲渡や合併、会社分割、株式交換、株式移転、現物出資などによる組織再編行為をいいます。
M&Aなど組織再編行為は税制非適格が原則として定められているため、税制非適格がどのようなものかを理解しておくと組織再編税制の理解にもつながります。

税制非適格は、M&Aなどの組織再編行為では、原則どおりに譲渡損益が認識されるため課税対象となるものが多く、税金対策として有効とはいえません。

組織再編では税制非適格が原則

M&Aなどの組織再編行為においては、租税回避を避けるため原則として税制非適格とされ、一定要件を満たす場合に限り税制適格とされます。

例えば、簿価200の土地を保有するA社がこの土地をグループ会社でないC社に250で売却した場合、A社において売却益50が発生し、これに対して課税されます。

同じ例で、A社のグループ会社であるB社に当該土地を簿価200で売却、さらにB社からグループ会社でないC社に当該土地を時価250で売却した場合は、A社では売却益は発生せず、B社に売却益50が発生します。
ここで、B社において多額の欠損金がある場合、売却益と欠損金が相殺され、売却益に対して課税されないという結果となります。

つまり、A社からC社に直接売却すると税金が発生するのに対して、間にグループ会社を挟むことによって、課税を避けることができます。

このため、合併などのM&Aに関しては、合併する際、原則として合併により消滅する会社の資産や負債を時価評価した上で合併する処理規定を設けています。
この税務処理規定を「非適格組織再編」といい、M&Aにおいては税務の原則的な処理となっています。

M&Aとは?目的・手法・メリット・流れを解説【図解でわかる】
M&A・事業承継
M&Aとは?目的・手法・メリット・流れを解説【図解でわかる】

M&A(エムアンドエー)とは、Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略で「会社あるいは経営権の取得」を意味します。今回はM&Aの意味・種類・目的・メリット・基本的な流れ・税金・手数料など、全般的にわかりやすく解説します。

クロスボーダーM&Aの税務

クロスボーダーM&Aとは、海外企業とのM&Aのことをいいます。
一般的には、M&Aの当事者のうち、売り手企業又は買い手企業のいずれか一方が外国企業である場合を指します。

M&Aにより海外にグループ会社を有することとなった場合、税務リスクは大幅に広がります。
特に注意すべき税務リスクとして、「移転価格税制」及び「タックスヘイブン対策税制」があげられます。
また、子会社の所在国の税制に係る税務リスクも関わってきますので、日本の専門家だけでなく、海外の専門家との連携による検討が必要となります。

移転価格税制と注意点

移転価格税制とは、日本の企業が、海外子会社との取引価格を意図的に操作して税率が低い海外へ所得を移転し、日本の課税所得を減らすことを防止するための制度をいいます。
移転価格税制については、グローバル企業にとっては影響が大きく、意図的な所得移転でなかったとしても、税務調査で否認された場合の追加税負担が多額になりやすいという特徴があります。

税務DDを慎重に行い、移転価格税制への対応状況や取引規模、グループ各社の利益水準などから、効果的かつ効率的な調査を行い、重要な税務リスクを抱えていないか慎重な対応が必要となります。

M&Aで実施する調査とは?デューデリジェンスの内容も徹底解説
M&A・事業承継
M&Aで実施する調査とは?デューデリジェンスの内容も徹底解説

M&Aでは、デューデリジェンスなどの調査を行い、売り手企業が抱えるリスクを入念に調査し、価格算定や契約に反映することが重要です。公認会計士が、M&Aで行う調査の種類や項目、ポイントを解説します。(公認会計士 伊藤嘉朗 監修)

タックスヘイブン対策税制と注意点

タックスヘイブン対策税制とは、日本国内の法人・個人が、租税負担の軽い国(タックスヘイブン)にある会社を利用して日本の租税負担を軽減しようとする行為を規制する日本の税務制度の通称をいいます。

タックスヘイブン対策税制については、税負担割合が20%未満の国に所在する海外子会社が多額の利益を計上している場合には、慎重な検討が必要となります。
当該海外子会社がペーパーカンパニーではなく事業実態のともなった海外子会社であっても、資産性所得(利息、ロイヤリティなど)を多く有する場合には合算課税を受ける可能性があります。

海外子会社の所在する国の税制に係る税務リスク

海外子会社の所在国の税制に係る税務リスクについては、自社のみならず海外子会社についても詳細な税務DDを行う必要があります。
しかし、すべての海外子会社について詳細な税務DDを実施することは現実的ではありません。

重要性のある海外子会社は詳細な税務DDを実施するとしても、他の海外子会社については日本の親会社を通じて得られる情報を用いた調査や、重要な項目に限定して詳細な調査を行うといった対応があります。

また、重要性がないとされる海外子会社についても、想定外の税務リスクを抱えている場合があることに留意しなければなりません。

クロスボーダーM&Aとは?メリットや手法、有名事例を徹底解説
M&A・事業承継
クロスボーダーM&Aとは?メリットや手法、有名事例を徹底解説

クロスボーダーM&Aとは、譲渡企業か譲受企業のいずれかが海外の企業であるM&Aです。近年増加傾向にあるクロスボーダーM&Aの目的や手法、有名事例、成功に導くための注意点をわかりやすく解説します。(公認会計士 伊藤嘉朗 監修)

平成31年の税制改正におけるM&Aの重要論点

2018年(平成31年)に税制改正が行われ、M&Aに関係する組織再編税制にかかる点に変更があります。
内容は「逆さ合併」や「三角合併」が行われた際、社会のニーズにより柔軟に応えるものとなっています。
ここでは、その概要を見ていきます。

逆さ合併とは

親会社が子会社の少数株主をスクイーズアウトした後に、当該子会社を合併するケースはよく見られます。
スクイーズアウトとは少数株主の株式を買い取り、100%子会社化することをいい、そのための手法として株式交換などが活用されます。

ところが、株式交換などの組織再編をした後に逆さ合併を実施する場合、改正前の制度ではこの組織再編行為は非適格とされました。
そうなると資産について時価評価などの問題が発生し、機動的な組織再編が困難になってしまいます。

なお、逆さ合併とは、子会社が存続会社、親会社が消滅会社となって行う合併をいいます。
子会社がビジネス上で必要な許認可を持っているなどの事情から、子会社を存続させたいというニーズがある場合に利用されます。

平成31年改正後では逆さ合併が行われる場合でも、適格要件は合併の直前までの関係で判断されることとなりました。
これにより、最初に完全子会社化を行い、次にさらなる組織再編を行うといった合わせ技がより柔軟に行えるようになりました。

三角合併とは

合併において、消滅会社の株主へ存続会社の株式を交付する方法が一般的です。
しかし、会社法上、合併の対価の交付にはさまざまな方法が認められており、例えば存続会社の親会社の株式を交付することもできます。
そして、この方法による合併が三角合併と呼ばれるものです。

改正前の制度においても、存続会社と100%支配関係にある親会社の株式を交付する場合は、その三角合併は適格要件を満たすものとされ、旧株式を簿価で評価することができました。
しかし、対価として直接完全支配関係にある親会社のそのまた親会社の株式を交付するようなケースでは適格要件を満たさないことになります。

例えば、完全親会社が上場企業で、その子会社や孫会社は非上場である場合、当該孫会社の株主としては流動性の高い上場企業の株式が欲しいということも考えられます。
そのようなニーズもあり、平成31年の税制改正では、間接保有の完全親会社の株式を対価とした三角合併においても、適格要件を満たすものとされました。

M&Aスキーム(手法)の種類・特徴・メリット・税金を図で解説
M&A・事業承継
M&Aスキーム(手法)の種類・特徴・メリット・税金を図で解説

M&Aのスキーム(手法)には多くの種類があります。目的にあわせた方法を選ぶことで、利益を最大化することができます。今回は各スキームごとの特徴・メリット・デメリット・かかる税金・成功事例を解説します。(中小企業診断士 鈴木裕太 監修)

M&Aで注意すべき税務リスク

売り手企業における過去の税務処理に誤りがある

M&Aには税務リスクがつきものです。
税務リスクとは、将来、税務調査が行われた際に、取引が否認されて追徴課税を受けるリスクをいいます。

株式譲渡で会社を買収する場合、買い手企業側は売り手側の会社を事業承継し、その会社を経営していくことになり、従って、売り手企業の税務リスクも引き継ぐことになります。
売り手側において、税務処理に誤りがあると買収後に多額の追徴課税が発生することもあります。

そのため買い手側は、事前に売り手側の税務リスクをしっかりと調査しておかなければなりません。
また、売り手側としてもM&Aをスムーズに進めるために自社の税務リスクをしっかりと把握しておくべきでしょう。

税務調査で受贈益や寄附金が認定される

買い手企業が売り手企業の資産・負債を適正な価格よりも低い金額で買収した場合、売り手企業で寄附金が認定され、 一方の買い手企業には受贈益とされる可能性があります。
また、反対に、適正な価格よりも高額で譲渡した場合、買い手企業で寄附金があったとされる可能性があるので注意が必要です。

税務リスクを減らすには専門家に依頼

売却価格が数億円から数十億円にもなるM&Aでは、上で述べたとおり大幅な節税も可能ですが、節税対策も税務リスクの観点から慎重に行う必要があります。
万が一、節税対策を誤り税務調査で否認されると、節税したにもかかわらず多額の追徴課税が発生することもあります。

引退した経営者にとっては、多額の追徴課税は酷です。
M&A・会社売却を進める場合、節税対策は税理士弁護士など専門家に依頼するなど、慎重に行うべきでしょう。

M&Aのリスク|買い手・売り手のリスクや対処法を解説
M&A・事業承継
M&Aのリスク|買い手・売り手のリスクや対処法を解説

M&Aのリスクを事前に認識することで、トラブルや損失を回避しやすくなります。M&Aで注意すべきリスクの種類やリスクマネジメント手法などについて、公認会計士が具体的な事例を交えてわかりやすく解説します。(公認会計士監修記事)

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まとめ

M&Aにおける税務は、その仕組みを理解したうえで活用すれば節税対策にもなり、M&A後の企業の運用に役立つケースが多いため、税務の知識を持つことは重要です。
M&Aの手法やそれにともなう税務リスクを把握し、M&Aをスムーズに行うためにも税理士などの専門家への相談がおすすめです。

 

河野 雅人

 

(執筆者:公認会計士・税理士 河野 雅人 大手監査法人勤務後、独立。新宿区神楽坂駅近くに事務所を構え、高品質・低価格のサービスを提供している。主に中小企業、個人事業主を中心に会計、税務の面から支援している)
公式HP:河野公認会計士税理士事務所

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