M&Aによるイグジットとは、株式売買によって投資資金の回収を図ることです。IPOよりも短期間でイグジットしやすい点が魅力です。M&Aイグジットのメリット・デメリット、成功のポイントを詳しく解説します。(公認会計士監修記事)
イグジットとは、起業した資金を回収(株式の売却利益を獲得)することです。
株式会社を設立した際は、資本金を拠出しますが、エグジットすることで資本金分のお金を手にすることができます。
資本金よりも多いお金を回収できれば売却益が計上されますが、安くしかエグジットできなければ売却損になる場合もあります。
例えば、資本金1,000万円で起業した会社を、1億円でイグジットすることができれば、9,000万円の売却益を得ることができます。
日本において、M&Aによるイグジットは増加傾向にあり、情報が公開されているM&Aだけで、2019年は4,000件超[1]のM&Aが成立しています。
また、近年では積極的にM&Aを目指す経営者も増えてきており、M&Aによるイグジットを達成した後に、再度新しい事業を起業するという連続起業家も注目されてきています。
フィンテックなど規制の厳しい分野でも連続起業家が起業[2]しており、成長を続けています。
一度、M&Aによるイグジットを経験した起業家は、経営者としての手腕を評価され、次に起業した企業において、ベンチャーキャピタルなどから資金調達しやすいというメリットがあります。
M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの略であり、合併と買収を意味します。
経営している企業が第三者に買収されることで、イグジットすることができます。
M&Aによるイグジットは、「第三者への株式譲渡・事業譲渡」、「MBO」の2つの手法がありますので、それぞれ解説していきます。
第三者へ保有している自社の株式を譲渡する代わりに譲渡対価を受け取ることができます。
また、会社の事業のうち特定の事業だけを切り出して、第三者に売却することでイグジットを達成することが可能です。
例えば、A事業とB事業の2事業を行っている場合、A事業、B事業、それぞれ別の第三者に事業譲渡することもできます。
A事業とB事業の相関関係が薄く、想定する買い手が大きく異なる場合に効果的なイグジット手法です。
MBOとは、Management Buyoutの略で企業の経営者による買収です。
自らがオーナーで、経営者を別の者に任せている場合、経営者がオーナーの株式を買い取る形でイグジットが成立します。
規模が大きいMBOの場合には、投資ファンドなどから経営者が資金調達することもあります。
IPOとは、Initial Public Offeringの略で、未上場企業が証券取引所に上場し、投資家が自由に株式を売買できるようになることです。
IPO後、オーナー経営者は、証券取引所で自分の保有する株式をいつでも売却できるようになるため、インサイダー規制に留意する必要はありますが、好きなタイミングでイグジットすることが可能になります。
M&Aの場合、IPOに比べてイグジットできる可能性が高い点がメリットです。
ある程度の事業規模や成長性といった買い手にとっての魅力は必要となりますが、上場審査基準のように財務状況の基準はなく、買い手と交渉がまとまってしまえば、M&Aによるイグジットが達成できてしまいます。
また、一度M&Aに挑戦してみたがイグジットできなかったケースでも、1年後、2年後など期間を空けて再度、M&Aを進めてみると簡単にイグジットできてしまうこともあります。
IPOのように審査基準がないこと、何度も挑戦できることから、M&Aによるイグジットできる可能性は高くなります。
M&Aの場合、起業してから何年経過していなければイグジットすることができないといったルールはありません。
起業後、数か月だったとしても買い手さえ見つかってしまえば、イグジットできることになります。
M&Aマッチングプラットフォームなど、個人・法人問わずに多数の買い手候補がいるサービスを利用することで、潜在的な買い手候補に数多くアプローチをすることができ、イグジットまでの期間をより短くできることもあります。
イグジットまでの期間が短いことから、イグジット後に再度起業し、再びM&Aによるイグジットを目指すこともできます。
また、複数の会社を経営している場合には、同時並行で複数の会社のM&Aを進められる点もM&Aの魅力の一つです。
経営者が保有する株式を買い手へ譲渡することで、会社経営からリタイアできる可能性がある点がM&Aによるイグジットのメリットに挙げられます。
会社経営をリタイアする方法として、M&A以外には廃業がありますが、廃業の場合には従業員の雇用を守ることができず、経営者にも金銭的なリターンがありません。
経営者交代のタイミングは、買い手との話し合いによって決まります。
買い手としては、M&A後の経営を安定させ、PMIをスムーズに実行すること等を目的として、売り手の経営者に一定期間、社外取締役などに就任してもらいたいという要望を持っているケースがあります。
買い手としっかりとコミュニケーションを取り、スムーズに引継ぎを行う点が、M&Aによる早期リタイアを実現するためのポイントとなります。
赤字や債務超過のように業績が悪かったとしても、M&Aであればイグジットできる可能性があります。
買い手は売り手企業の財務情報に加えて、買い手企業とのシナジー効果を見込んで、買収金額を決定します。
そのため、売り手企業とシナジーの大きい買い手候補であれば、現状の経営状況と比べて高い評価をしてもらえることがあります。
また、一時的な理由で業績が落ち込んだものの、将来の業績回復が見込まれる場合にも、買い手が見つかりやすくなります。
M&AはIPOよりもイグジットまでの期間が短くできる分、企業価値を高める時間も短くなります。
企業価値が低ければ、M&Aによる株式売却の際、得られる利益は少なくなってしまいます。
ただし、独自の技術を持っており大手企業が参入することができない、高い成長率を誇り今後の成長率も早いなどの特徴がある場合には、高い金額でイグジットできることもあります。
M&Aによるイグジット後は、経営者や株主としての権限や地位を失うことには留意が必要です。
株式を手放しているため、経営者として残りたい場合でも、買い手の株主総会だけで会社の経営者を選任することができるため、役員人事は買い手の意思決定に委ねられることになります。
M&Aを行う際は、デメリットにも留意しながら、プロセスの途中で心変わりすることのないよう、しっかりと決断してM&Aによるイグジットを目指すことが重要です。
IPOできるまで時間がかかり、その分、企業が成長することができるため、イグジット時に得られる利益は大きくなります。
数十億円、数百億円、ユニコーン上場の場合には、1,000億円超の利益を手にする場合もあります。
IPO後、経営者はIPO時点で全ての保有株式を売却する必要はなく、一部の保有株式または株式を売却しないことが一般的です。
IPO時に全ての株式を売却してしまえば、「上場ゴール」となってしまうため、投資家から評価されづらくなってしまうためです。
M&Aはイグジット時点で経営権を手放すことになるのが通常ですが、IPOは会社経営に携わり続けることが可能で、タイミングを見計らって徐々に株式市場で売却していくことが可能になります。
IPOできた後は、上場企業として見られるため、会社の信用力が高くなります。
会社の信用力が高まれば、銀行からの借入、新卒や中途の採用、取引先との条件交渉など様々な面で経営を有利に進めることもできます。
会計監査や投資家への情報開示に関連した上場維持コストは必要ですが、IPOにより、会社の信用力を高めることができます。
2020年の1年間で東証一部、東証二部、マザーズ、JASDAQ、TOKYO PRO MARKETに上場できた会社は102社[3]でした。
IT系のスタートアップはIPOを目指して経営を続けていきますが、実際に上場できるのは、年間にわずか100社程度にとどまります。
上場を目指している企業の多くは、どこかの段階で成長が止まってしまう、業績の悪化などを背景にIPOを諦めざるを得なくなります。
M&Aと比べてIPOの成功可能性は低い点が大きなデメリットの一つです。
IPOの場合、下記の3つの理由により、イグジットまでに時間がかかってしまいます。
IPOから方向転換する場合には、イグジットの準備にかけてきた時間の多くが無駄になってしまう点に注意しなければなりません。
IPO準備のためには、証券会社、監査法人と契約し、証券会社や監査法人からの様々な質問や指摘事項に対応していくことが求められます。
CFOや社外監査役など、IPO準備のために外部からプロフェッショナル人材を登用することもあり、証券会社・監査法人との契約・対応、採用費用など、多大な時間やコストが必要となります。
IPO後は、上場会社として経営していくため、会社経営において一定の事象が発生した場合[4]には適時開示を行う必要があります。
また、個人投資家を含め、数多くの株主が会社経営に参画することになるため、株主の分散化が進んだ場合には、株主総会決議事項をオーナー経営者だけの票では決議することができず、少数株主の意見をくみ取った経営を行わなければなりません。
[3] 日本取引所グループ IPO推移数(日本取引所グループ)
[4] 日本取引所グループ 適時開示が求められる会社情報(日本取引所グループ)
最初からイグジットの出口戦略を明確にしておき、逆算で経営目標を定めておくとM&Aを成功させやすくなります。
例えば、3年後にM&Aにより1億円のイグジットを目指すのであれば、3年後にその事業規模に到達するよう、1年目、2年目の目標も設定していきます。
イグジットというゴールを設定することで、事業の将来性や収益性、ブランド力など、経営の足腰を鍛えておくことがイグジット達成ための近道となります。
M&Aは不動産や株式市場のように、タイミングによって高く売れる時と安くしか売れない時があります。
経済状況によって買い手の投資意欲が変動するため、基本的には良い経済状況の時の方が、高値で売却できる機会が多くなります。
現在、日本国内では過去最多のM&A数を更新[5]しており、数多くのM&Aが成立しているので、タイミングとしては悪くないと考えられます。
通常、デューデリジェンスは買い手が買収前に実施するものですが、売り手側が実施することもあります。
売り手側が実施するデューデリジェンスを、セルサイド・デューデリジェンスと言います。
セルサイド・デューデリジェンスを実施することで、M&Aに必要な情報を整理しまとめることで、買い手との交渉を有利に進められる場合があります。
M&Aによるイグジットは、IPOよりも成功確率が高く、イグジットにかかる期間も短いといったメリットがあります。
業績が悪い場合でも、良い買い手と巡り合えれば、イグジットできることもあります。
最初から出口戦略を明確にしながら、タイミングを見計らってM&Aによるイグジットに挑戦すると、高値で売却できる可能性を高めることができます。