店舗売却するには?居抜きの方法から相場、費用、税金まで解説【事例付】
- 執筆者: 相良 義勝 (京都大学文学部卒 / 専業ライター)
店舗売却には居抜きやM&Aなどの方法があり、それぞれに注意すべきポイントがあります。店舗売却の相場・売却価格・諸費用、かかる税金、基本的な流れまで、全てわかりやすく解説します。
店舗売却といえば典型的には造作・建物・土地などの有形資産の売却を指し、現在では「居抜き」と呼ばれる方法で売却が行われるのが一般的です。自己所有物件であれば造作をすべて解体した「スケルトン」状態にして建物・土地を売却する方法もあります。
居抜きとは、内装・設備・什器などの造作を残したままの状態で次の利用者に店舗を引き渡すことを指します。こうした状態の店舗を居抜き物件と呼びます。
賃貸店舗であれば、次の借主に造作譲渡(店舗造作一式の譲渡)を行った上で物件を立ち退くのが居抜きです。自己所有店舗の場合は、造作とともに建物・土地を売却(または賃貸し)するのが居抜きに当たります。
居抜きのメリットは、原状回復費用が不要であることと、店舗資産の資金化も期待できることです。
造作のなかには中古品としてある程度の値段で個別に売却できるものもあるかもしれませんが、値段がつかないものや二束三文のもの、かえって処分費用がかかってしまうもののほうが多く、解体費用との差し引きで大きなマイナスになる場合が大半でしょう。
造作一式をそのまま(あるいは不要な部分だけ処分して)譲渡すれば資産を有効に資金化でき、仮に値がまったくつかず無償譲渡になったとしても、解体コストなしで撤退できます。
ただし、賃貸借契約書には原状回復義務(造作譲渡禁止)が記載されていることが多く、そう明記されていない場合にも民法の規定(第622条)により造作の除去が求められます。したがって、契約書に造作譲渡を認める条項が存在しない限り、居抜きを行うためには貸主との交渉が必要になります。近年では交渉に応じてくれる貸主が増えているようです。
内装や各種設備などすべての造作を解体して取り払った状態の物件を「スケルトン(=骨格)」物件と呼びます。スケルトン化するための解体コストは業態や物件の状態、立地などに応じて異なり、当然ながら撤去物が多いほど割高になります。1坪あたり15,000円~40,000円程度が相場とされます。
スケルトン物件にして売却するにはこの解体コストが必要な上に、売値は居抜きの場合よりも低くなりがちです。買主や借主にとっても、スケルトン物件でいちから造作を仕上げるよりも、居抜き物件を利用したほうが開店コストは安く済むケースが大半です。
ただし、スケルトン物件は思い通りの店づくりがしやすいというメリットがあります。居抜き物件の造作をもとにリフォームするとかえってコストがかさんでしまうというケースもあります。
また、居抜き物件を借りる場合は店舗に残された造作と自分の業態とのマッチングを検討する必要がありますが、スケルトン物件であれば立地や広さなどを気にすれば済むため、探しやすくなります。売り手の立場で言えば、立地がよくて程よいスペースを提供できるような物件であれば購入希望者が集まりやすく、高値でかつ短期間に売却できるということになります。
多様な業種に適した好立地の物件であれば、スケルトン物件にして売却することも検討に値すると言えるでしょう。
なお、賃貸店舗を利用していた経営者にとっては当然ながらスケルトン化するメリットはとくにありませんので、まずは居抜きでの売却を検討するのが得策です。
少子高齢化や後継者不足、ビジネスのグローバル化・流動化などを背景にして、M&Aにより第三者に事業承継を行う中小企業・小規模事業者が増加しています[1]。国としても各種の政策を打ち出してM&Aによる事業承継を後押ししているところです[2]。
M&Aにはさまざまな手法がありますが、中小企業・小規模事業者の間で選択されることが多いのは株式譲渡(株式とともに会社の経営権・支配権をそっくり譲り渡す手法)と事業譲渡(ひとまとまりの事業を譲渡する手法)です[3]。
M&Aの場合、店舗の設備や建物などの有形固定資産(居抜きにより譲渡されるもの)に加え、事業のノウハウや商号・ブランド、取引先や顧客、雇用している人材など、事業を構成する無形の資産も譲渡することが可能です。
会社・事業のブランド力が高く、将来にわたって収益を生み続ける力があると評価されるほど、譲渡の対価は高く査定されることになります。
[1]2018年版 中小企業白書(中小企業庁)
[2]第三者承継支援総合パッケージ(経済産業省・中小企業庁)
[3]中小M&Aガイドライン(中小企業庁)
一口に店舗といっても実にさまざまな規模・状態のものがありますので、居抜きの売却価格には大きな幅があります。平均的な小規模店舗(10~15坪程度)の場合、100万円~250万円程度が目安と言われています。もちろん同規模の店舗でもっと高い金額で売れるケースもあります。
高額査定につながりやすいポイントには次のようなものがあります。
M&Aでは無形の資産の評価がポイントとなります。大きな黒字を生む力があり、それが長続きすると考えられるほど、無形の資産の価値は大きいと言えます。評価額は店舗ごとに異なるため、M&Aによる店舗売却について一般的な相場を挙げることは困難です。
会社や事業の価値を評価する方法は大きく分けて次の3つがあります。
ここでは売却価格の目安を簡易的に算出するため、コストアプローチに近い計算方法を紹介します。売却価格の目安としてご活用ください。
評価額=造作にかかった費用+直近3年間の営業利益の平均値×3
実際に店を作るのにかかった費用と、店舗の売上を元に計算するため、ある程度客観的な売却価格の目安となります。
この計算方法では、ブランド名やノウハウ等の無形財産の評価については営業利益に含めています。営業利益はその店の現在発揮している市場価値の結果であるため、有名店のブランド価値や営業ノウハウがある結果としてその営業利益があると評価しています。
居抜きの場合とM&Aの場合に分けて店舗売却の流れを見ていきます。賃貸店舗については賃貸借契約の解約予告を出す時期が重要なポイントになりますので、これについて最初にまとめておきます。
賃貸借契約では退去日の一定期間前(通例は3か月前か6か月前)に解約予告を出すことが求められますが、買い手が決まる前に解約を予告するのは一般的には得策とは言えません。買い手探しの期間が限定されてしまい、退去日に近づくにつれて「解体工事が必要になるよりは格安で造作を譲渡したほうがましだ」という状況に追い込まれる恐れがあるからです。
また、解約予告を受けた貸主は次のテナントを探すため店舗の情報を公開します。その情報が買主候補の目に留まれば、売り手の弱みが伝わってしまい、売買交渉で劣勢に立たされることにつながります。
かといって、解約時期を引き延ばせばその分だけ家賃がかかり、閉店コストが高くなってしまいます。
原則として、解約予告を出す前に店舗売却へ向けた動きを開始し、居抜き仲介業者やM&A専門会社などと相談しながら、適切な時期を見計らって解約予告を行うのが望ましいと言えます
知り合いや取引先などを通じて経営者自らが買い手を探しだし店舗を売却するケースもありますが、最も一般的なのは売主と買主を仲介する業者やM&Aマッチングプラットフォームを利用する方法です。業者が家主から借り上げて転貸している物件(サブリース物件)を借りて営業していた場合には、その業者に造作を譲渡するという方法もあります。
居抜きの仲介は基本的に不動産売買の仲介と同様のプロセスで進みます。仲介業者は売却希望者と購入希望者をマッチングして造作譲渡契約を仲介します。
昨今ではウェブ上のマッチングプラットフォームを介した仲介が盛んです。売主側が店舗情報や売却条件をプラットフォーム上に掲載して買い手を募り、買主側はそれを閲覧し気になる物件があれば仲介業者に問い合わせる、といったプロセスでマッチングが図られます。
仲介業者には大きく分けてマッチングプラットフォーム運営業者と不動産仲介業者とがあり、両者は互いに連携しながら仲介を遂行しています。売り手としてはいずれかのタイプの仲介業者と契約して買い手を探すことになります。売り手の立場から売却の流れを概観してみましょう。
まずは仲介業者に問い合わせ、ヒアリングを通して売却希望店舗の情報や現状を伝え、売却の進め方や売却希望条件、疑問点などについて相談します。
仲介業者が必要に応じて店舗を訪問し、立地や周辺の環境、物件の状態などを視察した上で店舗価格を査定し、募集条件などをつめていきます。
仲介業者と契約を結び、仲介を依頼します。マッチングプラットフォームを利用したい場合は売却希望情報を登録します。
その際、賃貸契約書のコピーや店舗平面図(レイアウト図面)などの資料の提出が求められることがあります。
なお、料金体系は業者ごとに異なりますが、相談・査定までは無料で行われるのが一般的で、完全成功報酬という業者が多いようです。
仲介業者はマッチングプラットフォームや協力業者(税理士、内装業者、卸業者など)のネットワークを通して売却案件に合う購入希望者を探したり、購入の可能性のある相手に営業をかけたりしながら、買主候補を見つけ出します。
買主候補が現れたら、仲介業者の担当者を交えて内見が行われ、売主との間で売買条件の交渉が行われます。
話がまとまれば造作譲渡契約の締結に進みます。譲渡対価の受け取りと物件の引き渡しにより造作譲渡契約が履行され、成功報酬を支払って仲介契約も完了となります。
サブリースとは転貸・又貸しのことです。不動産業では、家主から転貸の許可を得た上で物件を借り受け(通例は複数の物件を一括して借り上げ)入居者に転貸することをサブリースと言います。
サブリースの店舗の場合、賃貸借契約に関する交渉の相手はサブリース業者ですので、造作譲渡が可能かどうかは業者次第ということになります。
実際には、造作譲渡ありきで運営し、造作の買取も行っている業者が多いようです。サブリース業者に売却する場合は売主と業者の間での直接の売買となり、仲介よりも簡単なプロセスで済みます。相談・査定から交渉、造作譲渡契約締結、対価支払いまで即日で完了するケースもあります。
M&Aではビジネスや組織の多様な側面が関わってくるため、居抜きに比べて進め方が複雑です。実際にM&Aを行う際には専門の業者・機関に支援を依頼することになるでしょう。
ここではM&Aの一般的な工程をかいつまんで解説し、利用できる業者・機関についても簡単に紹介します。
M&Aをどの手法(株式譲渡・事業譲渡など)で行うか、事業譲渡であれば事業のどの範囲を譲渡するか、譲渡金額や譲渡時期などの基本条件をどう設定するかいったことを検討します。
自社や売却事業、M&Aの条件などについて、支障がない範囲で情報を公開し、買い手候補を探します。
有望な買い手候補が現れれば、秘密保持契約を結んだ上でより詳細な情報を交換し、M&Aの基本的な条件やスケジュールなどについて交渉します。M&A実行後の事業の見通しや役員選任、雇用などについても話し合われます。早い段階で経営者どうしの会談が行われるのが通例です。
基本的な条件や方針について合意が成立したら、基本合意書を締結します。これはM&A契約そのものを確約するものではなく、M&Aの方向性や最終合意へ向けたスケジュールなどについての約束を取り決めるものです。
相手が他の買い手・売り手と交渉することを規制するため、期限付きの独占交渉権に関する事項を盛り込むのが通例です。また、次のプロセスであるデュー・ディリジェンスについての協力義務なども規定されます。
デュー・ディリジェンスとは、売り手側の財務、労務、法務などに関する実態を買い手側が調査するプロセスを指します。
ここまでの交渉や基本合意によって売り手は買い手にさまざまな情報を開示していますが、最終的な条件交渉のための準備として、そうした情報が実態と合っているのか、未開示の事項でM&Aに影響するものがないかといったことを綿密に調査します。売り手側にも誠実な対応が求められます。
賃貸借契約や取引先との売買契約などのなかには、会社・事業の経営権の移動が生じた場合には契約を解除するという旨の条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が含まれていることがあります。これは譲渡後の経営に深く関わる問題であり、調査で重視される事項のひとつです。店舗の賃貸借契約にこの条項が含まれていればM&A成立そのものに関わります。
デュー・ディリジェンスの結果などをもとに、最終的な条件についての交渉が行われ、話がまとまれば最終契約の締結となります。
最終契約では、株式・事業の譲渡対価や譲渡日を明記するとともに、M&A契約の履行の前提となる事実関係について相互に表明し、その内容が事実であることを保証しあい、契約解除や補償の条件などを定めます。
最終契約の前提条件がすべて満たされた状態で株式・事業の授受が行われ、M&A取引が完了となります。
M&Aの検討・実行を支援するサービスには、大きく分けて、M&A仲介、FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)、M&Aプラットフォームの3タイプがあります。
M&A仲介では業者が売り手と買い手の間に入り、両者の利益を調整して取りまとめる役割を果たします。FA業者は売り手または買い手の一方とだけ契約し、その利益を代弁して相手方のFA業者などと交渉して、利益の最大化を図ります。
M&Aプラットフォームは売り手と買い手の出会いの場を提供することに主眼を置いたサービスです。インターネット上のシステムを通したマッチングにより、プロセスを効率化するとともに、幅広い相手との出会いを可能にしています。マッチングに加え、売却価格査定サービスやM&Aの進め方についてのサポートなども提供される場合があります。
一般的にFAよりもM&A仲介やM&Aプラットフォームのほうが低料金で、短期間でのM&A成立を得意としている傾向があり、店舗売却などの小規模M&Aや中小企業のM&Aでよく利用されます。
なお、M&Aについての相談や専門業者への紹介などは、全国の事業引継ぎ支援センターが無償で行っています[4]。
売却対象となる物品については、とくに以下の点に注意が必要です。
リースやレンタルの契約を満了せずに店舗売却を行う場合は、それぞれの契約内容に応じて慎重な検討が求められます。
リース契約には下図の3種類があります。単にリースと言えば通常は所有権移転外ファイナンス・リースを指すことが多いようです。対比しながらそれぞれの特徴を押さえておきましょう。
契約形式 | 所有権移転外ファイナンス・リース | 所有権移転ファイナンス・リース | オペレーティング・リース | レンタル |
---|---|---|---|---|
契約期間 | 中長期 | 中長期 | 短期 | 短期 |
対象物品 | ユーザーの希望で業者が購入した物品 | ユーザーの希望で業者が購入した物品 | ユーザーの希望で業者が購入した物品 | 業者がすでに所有している物品 |
中途解約 | 不可(残債一括返済による契約満了は可能) | 不可(残債一括返済による契約満了は可能) | 不可(残債一括返済による契約満了は可能) | 場合による(通常は解約手数料の支払いまたは残期間の料金の一括支払いが求められる) |
所有権 | 業者 | 業者契約満了後または契約途中で業者からユーザーへ移転 | 業者 | 業者 |
対処方法は大きく分けて2つあります。
①の場合、残債や解約手数料というコストがかかりますので、その影響を加味して売却額を検討することになります。所有権移転ファイナンス・リースの場合は結果的に物品が買主の所有物となるため、残債の金額をその物品の売却金額として計算することも考えられます。それ以外の場合は売主側が負担するコストとして考えることになるでしょう。
一般的に②の方法のほうが売主にとっては有利ですが、買主の承諾、リース業者・レンタル業者との契約の変更(名義変更)、そして買主が契約審査に通ることが必要です。契約内容によっては名義変更は許されません。
譲渡する設備や什器などの物品は不具合がないか事前に十分確認しておくことが重要です。また、買い主に店舗を引き渡すまでは物品を慎重に管理することが売主の義務とされます(民法第400条)。
売主が意図的に隠蔽したりおざなりな確認しかしなかったりしたせいで後になって不具合が発覚し、その果買主の営業に支障が生じたり出店が遅れたりした場合、損害賠償責任を問われる恐れがあります(民法第415条)。譲渡契約締結後に売主の管理がずさんであったために生じた譲渡物品の不具合についても同様のことが言えます。
店舗売却にかかる主な費用は、居抜き仲介業者やM&A仲介業者に支払う手数料と、居抜きに関して貸主に支払う承諾料です。
土地・建物の仲介の場合は、宅地建物取引業法などの規定に従って仲介手数料を定める必要があります[5]。仲介手数料は売買契約成立時に発生する成功報酬に限られ、取引額に応じた上限があります(例えば取引額が200万円以下なら報酬額は取引額の5%以内)。
造作譲渡の仲介についてはそうした法律は存在せず、それぞれの業者が業界の慣行や相場を勘案しながら料金を設定しています。どのような料金体系になっているか事前に十分に確認しておくことが肝要です。
サービスのタイプ(M&A仲介・FA・M&Aプラットフォーム)により、業者により、さらには案件により、利用料金は異なります。
料金は着手金、リテイナーフィー(定額顧問料・月額報酬)、中間報酬(基本合意締結時などに支払う料金)、成功報酬(最終契約締結時やクロージング時に支払う料金)などに分けられますが、必ずしもすべてが設定されるわけではなく、料金体系はさまざまです。M&Aプラットフォームでは売り手側は完全無料で利用できる場合もあります。
賃貸店舗で造作譲渡が許されていないケースでは、貸主と交渉するなかで造作譲渡を承諾する代わりに承諾料の支払いを求められる場合があります。金額については交渉次第ということになります。
賃貸借契約書に造作譲渡を許す代わりに承諾料の支払いを課すという条項が含まれているケースも存在します。その場合は契約条項に従った支払いが必要です。
M&Aで事業譲渡を行う場合には、賃借権が買い手に譲渡することになるため、民法の規定(第612条)によりは貸主の承諾が必要になります。その承諾を得るための交渉のなかで、貸主が承諾料を請求してくることもあるでしょう。
また、貸主が新たな借主(事業譲受人)との間でより有利な条件で賃貸借契約を結ぼうとする(例えば賃料や保証金を増額しようとする)可能性もあり、そうなれば譲渡対価の交渉にも影響が及ぶことになります
賃貸借契約にチェンジ・オブ・コントロール条項が含まれている場合にも、承諾料などが発生する可能性があります。
居抜きでの店舗売却にかかる主な税金は所得税・法人税です。事業税や住民税も関わってきますが、相対的に金額が小さいため、ここでは割愛します。他には印紙税がかかる場合があります。これも少額ですが、必要か不要かの判断が微妙なため、解説を加えることにします。
個人事業主が造作譲渡を行った際の所得金額は、「譲渡価格-取得費-譲渡にかかった費用(仲介手数料など)」で計算されます。取得費は「物品の簿価(購入代金-原価償却累計額)」に「購入手数料」や「設備費・改良費など」を加えた金額です。造作譲渡の所得は事業で得た他の所得と合算された上で課税されます(総合課税)[6]。
合算された総所得金額から所得控除などの各種控除を差し引いた金額が、実際に課税される所得金額です。この金額に対し、累進課税方式により所得税額が算出されます(令和19年までは所得税額の2.1%に当たる額が復興特別所得税として合わせて徴収されることになっています)[7]。
ただし、実際には譲渡される物品の種類により課税の扱いが異なります。居抜きでは造作一式いくらという形で売買されるのが一般的ですが、税金計算では造作1点1点が以下のA・Bに分類され、Aについての所得は事業所得、Bについての所得は譲渡所得という扱いになります。
譲渡所得となる分(Bの物品の分)については特別控除50万円の対象となり、その年に生じた譲渡所得の合計額に対して50万円までが控除されます。さらに、所有期間が5年を超える物品については2分の1の金額しか課税対象になりません[8]。
土地・建物の譲渡による所得は譲渡所得となります。そして、他の所得とは別にして課税されることになっています(申告分離課税)。
課税対象となる所得金額は「譲渡金額-取得費-譲渡にかかった費用(仲介手数料など)-特別控除額」で計算されます。取得費については造作譲渡の場合と同様です。
特別控除にはいくつか種類がありますが、店舗売却に関係してくるのは「平成21年(または平成22年)に取得した土地を平成27年以降(または平成28年以降)に譲渡した場合」の特別控除1,000万円です(この制度はリーマンショックへの対策として創設されました)。
上記の式で算出された所得金額の15%(所有期間が5年を超える場合)または30%(所有期間が5年以下の場合)が所得税額となります。復興特別所得税(所得税額の2.1%)も合わせて徴収されます。
法人の場合は所得区分(事業所得・譲渡所得など)や総合課税・分離課税といった区別はなく、その事業年度のすべての収益(益金)と経費(損金)を差し引きして利益を出し、これに法人の種類と資本金などに応じて定められた税率をかけて法人税が算出されます[10]。
居抜きの譲渡対価は一律で収益(益金)に算入され、譲渡する資産の簿価と仲介手数料などの費用が経費(損金)に算入されます。
印紙が必要な契約書の種類は法令により定められています[11]。不動産(土地・建物)の譲渡に関する契約書には印紙が必要となるため、居抜きで土地・建物も譲渡する場合には、少なくとも土地・建物については印紙税がかかります。
一方、動産の売買契約書については1回限りの取引であれば(売買取引基本契約書など継続的な取引の基本となる契約でない限りは)印紙は不要です。したがって造作譲渡契約でも印紙はいらないはずですが、居抜き仲介会社のなかには不動産に類する取引ということで(念のために)印紙を貼るように求めるところもあるようです。
なお、電子契約の場合は印紙税法紙の適用外となるため、印紙は不要です。
M&Aの際にかかる税金は手法により異なります。ここでは株式譲渡と事業譲渡の場合をかいつまんで説明します。
株式譲渡では、会社の株主(個人)が買い手に株式を譲渡し、その対価を受け取ります。この対価は譲渡所得として所得税の対象となります。株式の譲渡所得は他の所得とは別にし、さらに上場企業の株式と一般の株式に分けて申告する必要があります(申告分離課税)。
譲渡所得の計算式は「譲渡価格-取得費(出資金額や株式購入金額)-譲渡にかかった経費(M&A仲介手数料や株式売買委託手数料)」です。上場株式と一般株式それぞれの譲渡所得に対して20%の所得税が課され、所得税額の2.1%に当たる復興特別所得税も同時に徴収されます。[12]
居抜き譲渡の場合と同様の仕方で所得税・法人税が計算されます。
店舗の造作は固定資産税の対象となる償却資産に当たります。固定資産税は毎年1月1日時点でその資産を所有していた個人・法人に納税義務が発生します。したがって、年の途中で資産を譲渡しても1年分の税金の納税義務は売主に残ります。[13]
そこで、店舗売買契約では固定資産税を日割りにして譲渡日以降の分を買主が売主に支払うように取り決めるのが通例です。
その場合、売主が受け取った固定資産税の日割り額は譲渡対価の一部見なされるため、その分だけ所得ないし利益が増え、所得税や法人税の額に影響することになります[14]。
[6] 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)(国税庁)
[7] 所得税の税率(国税庁)
[8] 譲渡所得の対象となる資産と課税方法(国税庁)
[9] 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)(国税庁)
[10] 法人課税に関する基本的な資料(財務省)
[11] 印紙税額(国税庁)
[12] 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(国税庁)
[13] 固定資産税(償却資産)(東京都主税局)
[14] 未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合(国税庁)
居抜きによる店舗売却は全国的に数え切れないほどの事例がありますが、情報が公開される例はあまりないため、ここではおもにM&Aによる売却の事例を取り上げます。
地域の支援組織を仲介にして成立した小規模事業者の居抜き・M&Aの事例を紹介します。
郊外店舗のため売上が伸びず、移転を模索していたパン店経営者が、島根県中小企業団体中央会の仲介により、交通量の多い道路に面した好立地のパン店とのマッチングを果たした事例です。造作一式が200万円で譲渡され、従業員6名も引き継がれることになりました。[15]
経営者・従業員の高齢化と後継者不足のためM&Aによる第三者承継を検討していた精肉店が、岩手県事業引継ぎ支援センターによるマッチングを介して個人に事業を譲渡した事例です。屋号と従業員の雇用を維持し名物のローストチキンの味を守るという条件で譲渡が成立しました。旧経営者が顧問としてサポートを提供したこともあり、1年半後には法人成りを達成しています。[16]
コロナ禍を受けM&Aが加速すると見られている業種のなかから、多店舗展開企業のM&A事例を紹介します。
福島県福島市でデリバリー専門レストランの運営やEコマース事業を展開する株式会社アミュゼホールディングスが、コロナ禍により営業自粛が続き収益化の見込みのつかないビュッフェ事業の切り離しを決断。同市を拠点に多数の飲食店と食肉卸事業を展開する株式会社ブランシェ・エムズに対し2020年8月1日付でビュッフェ事業の譲渡を行いました。[17]
大阪市を拠点に大阪府・京都府・愛知県・岐阜県にスーパーマーケットを展開する株式会社コノミヤが、奈良県北部に6店舗のスーパーマーケットを展開する株式会社スーパーおくやまを2020年4月16日付で株式取得により子会社化しました。コノミヤはこれを足がかりに奈良県内へのさらなる進出を目指すとしています。[18]
ドラッグストア大手のココカラファインは、全国各地の調剤薬局の譲受・子会社化を次々と進めてきました[19]。こうした動向はドラッグストアチェーン業界で一般的に見られるものです。
さらに、2020年1月には同社とマツモトキヨシホールディングスとの経営統合が発表されました。統合時期は2021年10月とされ、これにより売上高・店舗数ともに業界随一のグループが誕生することになります。[20]
[15] 廃業する企業から経営資源を引き継ぎ、成長する個人事業者(ミラサポplus)
[16] 事業引継ぎ支援センターを介し、独立を希望する個人に事業を引き継いだ企業(ミラサポplus)
[17] 事業譲渡に関するお知らせ(株式会社アミュゼホールディングス)
[18] 株式会社スーパーおくやまの株式取得(子会社化)に関するお知らせ
[19] 沿革(株式会社ココカラファイン)
[20] マツキヨとココカラファイン、21年10月に経営統合、売上高1兆円規模に(DIAMOND Chain Store Online)
(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)
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