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今回の成功事例は、成長企業同士によるM&Aです。アイディア出しから商品化することを得意とする女性起業家が譲渡したのは、赤ちゃんの毎日の成長を写真とコメントで簡単に残せる人気のフォトブックアプリ。年々利用者数増加中のそのサービスを譲り受けたのは、両親から引き継いだ写真館1店舗から多角化し、15年間で年商を約8倍へと拡大させた2代目経営者です。事業を生み出すことが得意な会社から事業を成長させることに長けた会社へとバトンが渡されたことで、両社ともに新たな成長の道筋が開けました。会社にはそれぞれ個性があります。そしてそれに応じたM&Aもまた存在します。これからのM&A経営のあり方のひとつを指し示す事業譲渡には、どんなハッピーな出会いがあったのでしょうか。株式会社小野写真館 代表取締役 小野 哲人 氏と株式会社ポーラスタァ 代表取締役社長 高沖 清乃 氏に話を聞きます。
次代に向けてM&A経営を中核に
――ポーラスタァ様から『BABY365』等の事業を譲り受けることになりました。今回のM&Aはどのような経営計画に基づくものなのでしょうか?
小野写真館 小野 小野写真館が次代に向けて掲げる理念が「感動体験創出」です。現在のビジネスモデルは店舗でお客様と直接対面することを基本としていますが、今後は時代の流れに合わせて、テクノロジーやITを駆使して理念を実現していこうと考えています。そのひとつが、私が「フォトテック」と呼ぶ「写真×テクノロジー」構想です。けれども自社でサービスを創り出せないままできてしまいました。さらにコロナ禍で、昨年4、5月はグループのメイン事業の一つであるブライダル事業が7〜8割売り上げ減という危機的な状況に陥りました。
そのようななか、会社をゼロからつくり直すという覚悟をもって、事業ポートフォリオを「with/after コロナ型」に変化させるべく、M&A経営を戦略の中核とすることに決めたのです。そして、今回、M&Aサクシードでポーラスタァ様の案件を見つけた時*(2021年1月後半)、「まさしくこのテックだ!」とすぐにメッセージ機能を通じてメッセージを送りました。
(*譲渡企業様はM&Aサクシードご登録時には企業名を伏せて事業概要などが掲載されます)
――『BABY365』のどこに魅力を感じられたのですか?
小野 ひとつには小野写真館の現業と『BABY365』のコンセプトが同じだったことです。『BABY365』は赤ちゃんが生まれて1年間、ママや近親者が日常を撮りためて写真集を作成するアプリです。当社でも赤ちゃんが1歳になる間に当写真館で4回撮影をして1冊のアルバムにする会員制プランが人気を集めています。プロによる写真と近親者の撮影という違いはありますが、私たちが目指すことをオンライン上で可能にしていたのが『BABY365』なんです。大切な人をスマホで撮影してアルバムに残すという仕組みは他の分野にも応用できます。さまざまな現業をスケールしてくれる将来性を感じました。
事業を創るのが得意な社長、既存事業を成長させる社長
――順調に『BABY365』が成長するなか、高沖社長はなぜ譲渡しようと考えたのでしょう?
ポーラスタァ 高沖 社長のタイプにはいくつかのパターンがあると思います。私の場合は、アイディアを出してそれを少しずつ改善していくことが得意。0から1は踏ん張れるのですが、1を百や千にすることは無理です。会社を大きくするには別の能力が必要です。小野社長が町の写真館から事業を広げていったようなことは、おそらく私が500年経営者をやってもできないでしょう(笑)。
『BABY365』はうまく回るようになり、年間約4,000人のお客様がアルバムを購入してくださり、利益を生む事業に育ちました。うれしいことにリピートしてくださるお客様も多くいらっしゃいます。しかし一方では、小さな会社のため時間的にもキャパ的にも限界となり、プライベートでは3人の子どもの子育てもありました。「もっとたくさんの方に使っていただきたい」「もっと内容を拡充させたい」。お客様のために『BABY365』をもっと成長させてくれる会社に託したいという気持ちが、いつの頃からか頭の隅から離れなくなりました。今回、小野写真館さんに事業譲渡できることで深い安堵感を覚えました。サービスが成功している状態だからこそ、事業譲渡の交渉をテーブルに乗せられるようになったのだと思います。
――中小企業にとってM&Aはどんなイメージに映っているのでしょうか?
高沖 今回の事業譲渡について、周りの人に少しずつ伝えているのですが、反応はさまざまです。なかには、事業譲渡したのは事業がうまくいっていないためだと思う人が何人もいました。事業譲渡や事業売却は困った時にするイメージをもっている経営者が多いのかなと。スモールビジネスをされている方は、「いい形で売却する」という発想がまだないのかもしれませんね。私もかつてはそうでした。M&Aのポジティブな面を知るには、リレーで例えるのがいいかもしれません。第一走者の私が限界まで頑張り、「ここから先はよろしくお願いします」と次走者の小野社長にバトンを手渡したわけです。
最後まで自分でやり続けることだけが正解ではありません。役割や分担もあるし、得手不得手もあるでしょう。私のまわりには、妊娠、出産、子育てを経て気づいたことを大切に事業化する女性経営者が大勢います。彼女たちには、子どもの成長やパートナーの海外転勤など、事業の存続を考えるタイミングが何度か訪れます。でもそんな時、事業を閉じずに「引き継いでくれる方がいたらお願いしよう」となれば、気持ち的に随分と楽になるのではないでしょうか。
――女性の感性や経験を生かしたビジネスが生まれ、世の中を変えている中、それが生活環境の変化でなくなることは非常に残念です。しかし今回のようなM&Aが広がれば継続発展できます。
高沖 私たちのビジネスはママさんが趣味でやっていると捉えられがちですが、需要の多い領域の場合が多いんです。しかし資金や時間がなかったりスタッフの教育ができなかったりで、ビジネスを大きく展開できていないことも多いんです。そこに新たなビジネスが眠っているとM&Aを検討する企業さんにも思っていただけるといい関係が結べるかもしれませんね。
希望する案件に出会えることがM&Aサクシードの最大の魅力
――ポーラスタァ様がIT領域に特化したM&Aアドバイザリー会社のAIGATE(アイガテ)様に相談したことから、M&Aサクシードでの出会いが生まれました。
高沖 「どなたかが事業を継いでくれたら」と何気なくAIGATE様にお話したところ、すぐに対応してくださり、M&Aサクシードでの掲載へとつながりました。相談したのが昨年末(2020年12月)のことで、小野社長と初めてお会いしたのが(2021年)2月24日、契約したのが4月末ですから、あっという間でした。
――譲渡にあたってどんな条件を出されたのですか?
高沖 何よりも、赤ちゃん、お母さん、お客様を大事に思ってくれる方にお譲りしたかった。赤ちゃんと家族の大事な時期の大事な思い出を預かっているので、そこをご理解いただける方にお願いしたかったのです。贅沢な希望とは思いながら、一方で事業も拡大して欲しいとも考えていました。
小野社長の4人の子育ての話には特に強く共鳴しました。「仕事に集中するあまり、子どもと過ごす時間をとれずに、あっという間に1歳になってしまった」とおっしゃるのを聞いて、「ああ私と同じだ」と思えたのです。私も仕事ばかりしてしまって、こどもが歯を生えたのを見逃して結構へこんだことがありました。それで、子どもをおざなりにしないために、自分の手帳に「1日1言」をしたためていました。1日3分あればできると思って。その延長で商品化したのが『BABY365』です。
こんなことを言うのはおこがましいかもしれないのですが、子どもが成長していく時のうれしさとはかなさ、あの戻っていけない感じを男性がわかってくれるとは思ってもいなかったのですが、小野社長はそれを体感されていて。ありがたいことに10社前後からお声がけがあり、5社様とお会いし、他に技術力や資金力のある会社様もありましたが、「小野社長しかいない」と心は決まりました。ビジネスの拡張という点でも、小野社長は大変な実績をお持ちです。私の二つの希望を満たしてくれただけでなく、ほかの事業へと展開もしたいとおっしゃってくださいました。
――小野写真館様にとって今回は、M&Aサクシードを通じた2度目のM&Aです。
小野 「まさしくこれだ!」という案件に出会えるのがM&Aサクシードです(1度目は2020年10月に高級温泉旅館「咲楽(さくら)」をM&A)。そして、メッセージのやりとりや履歴の閲覧においても使いやすい。それとスピード感。M&Aサクシードはクラウドサインも使えるので、さまざまな重要資料を郵送ではなくオンラインでやりとりできます。そして、やはり手数料の安さは中小企業にとってはありがたいですね。あらゆるM&Aプラットフォームを利用しているのですが、最も使いやすいM&Aプラットフォームとして、M&AサクシードはM&A経営戦略の中核になっています。
成長企業同士のM&Aはさらに企業を成長させる
――無事に契約を終えました。高沖様の今後の見通しをお聞かせください。
高沖 一番上の子どもが中学生、2番目が小学校高学年になり、私が寄り添ってあげたほうがいいというシーンが増えてきました。私がお母さんでいられるのは10年ほどしか残されていません。去年の正月、仕事ばかりでお母さん業が中途半端だったという後悔が溢れて来て、一人で泣いてしまいました。その時にはこの出来事が事業譲渡につながろうとは思いもよりませんでしたが。
私に何かあったら『BABY365』は止まってしまう・・・。毎日が薄氷を踏むような思いでした。小野社長に「ぜひ」とおっしゃっていただけて、ようやく肩の荷が下りました。働いている時間は物理的に同じかもしれませんが、気持ち的にはまったく違います。金銭的な余裕もできたし、緊張感からの解放もあります。自分のライフステージに応じてアクセルをゆるめたり踏んだりしていいんだと思うと、人生のあり方が違って見えてきました。15年間、会社のことばかりしか頭にありませんでした。でも今、「世界を広げよう」「子どもと関わる時間が増やそう」とすごくわくわくしています。
――今回は成長企業同士のM&Aですが、質と規模の両面でさらに企業を成長させることを証明しているように思います。
高沖 M&Aという方法に興味を抱いた方は、まずM&AサクシードへのエントリーやM&A仲介会社に相談することをおすすめします。想定外の展開があり、ある意味楽しいと思います。私の場合もIT系や同業種からお声がけがかかるものだとばかり思っていましたが、小野写真館様の出会いというビッグサプライズがありました。
小野 コロナで日本企業は悪戦苦闘中ですが、経営者は今、アクセルをベタ踏みするべきだと思います。『BABY365』という素晴らしい事業をバトンタッチしてもらえたことは、成長戦略としてM&Aを積極的に取り入れ、私のようにコロナをチャンスにとらえ、事業拡大を目指す経営者にとって、大きなチャンスです。選択肢があればひらめきも生まれます。M&A経営は単に事業承継だけを意味するものではありません。経営者が自分の心をリセットして次に向かう場合や、女性起業家が子どもと向き合う時間を作るためにも機能するはずです。そう考えれば、M&A経営は社会をよりよくするための方策になり得るのではないでしょうか。
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