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今回の成約事例では、事業譲渡による選択と集中で起業時の思いを実現させたオンラインサービス事業者と、M&Aを企業規模拡大のための合理的でポジティブな戦略とする企業の素晴らしい出会いを紹介します。入江テック株式会社の入江氏はひとり社長として複数の事業を運営してきましたが、ひとつのサービスに専念したいと考え、M&Aサクシードを通して事業譲渡企業を探しました。そこで出会ったのが、M&A経営によって会社の成長スピードを加速させてきたIT会社の株式会社SICシステムでした。出会いから引き継ぎまでのすべてをオンラインで済ませた契約には、どんなストーリーがあったのでしょうか。入江テック株式会社 代表取締役 入江 慎吾 氏と株式会社SICシステム 代表取締役社長 倉石 晃壮 氏に話を聞きます。(2021年6月公開)
サービスの選択と集中のために、M&Aで事業譲渡
――今回はひとつのサービスに専念するための事業譲渡ですね。
入江テック 入江 僕が開発した見積書・請求書管理のオンラインサービス「CLOUD PAPER」をSICシステム様にお譲りしました。もともと「自分のサービスを作りたい」という思いがあって、10年前にフリーランスとして起業しました。自分ひとりで運営しているため、資金面を考慮して業務のうち半々ほどの割合で受託開発も行っていました。しかし長い間そのような状態が続き、なかなか自社サービスに専念することができませんでした。
2年ほど前から自社サービスのひとつである「MENTA」というマッチングサイトが軌道に乗り、そのサービスに集中したいと考えるようになりました。複数の事業をひとりでやっているとサポートやバージョンアップなどでマインドシェアを取られるため、その部分をすっきりさせたかったからです。ようやく起業当初に思い描いた「自分のサービス」に専念できる状況になったことで、「CLOUD PAPER」の譲渡先を探すことにしたのです。
ちなみに、その別のサービスは、もともと1人で運営していたのですが、人的パワーの限界があり、別の企業に事業譲渡をした後、引き続き私が運営しています。というのも、ユーザー数が増えるなど自社サービスが大きくなり、ひとりで対応することができなくなったためです。広報、マーケティングなども必要になったのですが、それらは個人レベルの領域ではなかったのです。M&Aは、僕が抱えていたビジネスの課題を解決する最も近道だと思います。
――入江様が事業譲渡を考える過程で、M&Aサクシードを通じSICシステム様と出会ったわけですね。
SICシステム 倉石 私たちはSICグループとして、2011年前後から規模拡大に向けてM&A経営を積極的に行ってきました。これまで今回の件も含め6件M&A経験があります。IT業界は今、技術者不足が深刻なため、社員の採用が大変困難な状況にあります。特に中途採用でその傾向は顕著です。しかもひとりずつ採用するには相当の時間とコストがかかります。それらを勘案すると、会社をまるごとグループ内に取り込むことの方が、会社の成長スピードを早めることにつながると考えています。
今回の入江テック様とのM&Aは事業譲渡での譲り受けです。企業向けの業務システムの開発・運用を手がける私たちはこれまで、企業様からオーダーメイドという形でシステム開発を数多く受託させていただいておりました。一方、事業の多様化を進める上で、数年前から自社開発製品販売にも取り組んできました。そのラインアップを増やしていく中で、既にある事業を譲り受けする方がメリットは大きいと判断しました。お客様が予めついていることや、すぐにサービスを広げることができるという点で生産性が高いからです。
「豊富な案件数」のM&Aサクシードは可能性を広げる
――M&Aサクシードを使おうと考えた理由を教えてください。
倉石 M&A経営を積極化する中で、譲渡を検討する案件の候補先を増やすことが急務となりました。M&Aサクシードに注目したのは何よりも「豊富な案件数」です。仲介会社と比べると圧倒的な譲渡案件数があり、選択肢が非常に広がりました。
入江 ネットで「事業譲渡」でキーワード検索するとトップにくるのがM&Aサクシードでした。そこですぐに登録しました。すると翌日には早くもファーストコンタクトがありました。1週間もかからずにSICシステム様と話が始まり、瞬く間に契約に至りました。譲渡企業の場合、登録は無料ですし、譲り受け企業様からの連絡を待つだけです。M&Aに対する精神的な障壁はほぼありませんでした。
――交渉はどのような流れで行われたのですか?
入江 サービスの会員数や引き継ぎのサポートなどについて、約1カ月間、Zoomで何度かやりとりをし、すべてオンライン上で完結しました。対面はありませんでした。
――すべてオンラインとは驚きです。
入江 そうですか? 日頃からオンラインサービスを提供しており、慣れているため、特に違和感はありませんでした。
倉石 資産や負債の問題、社員の引き継ぎといった事項があれば、現地に伺っての交渉だったと思いますが、今回はクラウドサービスの事業譲渡なので場所は関係ありませんでした。
――SICシステム様は入江様のサービスのどこに魅力を感じたのですか?
倉石 「CLOUD PAPER」は弊社の既存事業のシステムと似た部分が多く、社内で引き継ぎやすい点が挙げられます。自社商品開発の目標のひとつが毎月課金のサブスク型サービスだったのですが、それも備えていて希望通りの譲り受けになりました。
――複数の譲り受け候補企業がある中、入江様はなぜSIC様を選ばれたのですか?
入江 やはり信頼感ですね。IT系以外の企業様も興味を示してくれました。しかし、サービスの内容を理解できることや専門のエンジニアがいることを重視して、SIC様にお願いすることにしました。
――3カ月前からサービスを引き継がれました。その後の進捗はいかがでしょうか。
倉石 売り上げベースですぐに1割以上アップしています。大きな問題もなく予想以上の推移です。これまでPRされていなかったこともあり、今後より積極的に営業などの対外活動を行えば、売り上げはさらに伸びていくはずです。
DXの時代、異業種へのM&Aは企業成長の鍵になる
――SIC様は今後、異業種にもM&Aを行う予定だとお聞きしています。
倉石 M&Aが日本で広まっている背景のひとつは中小企業の後継者不足です。後継者がいないために、事業が順調でも会社をたたまざるをえない状況があります。その点でM&Aには大きなチャンスがあると思います。同業種でも異業種でも、ゼロから始めるよりビジネスのハードルは大幅に下がるからです。
最近、DX(デジタルトランスフォーメーション/デジタル技術による業務やビジネスモデルの変革)という言葉が広まっています。社会のデジタル化が進んでいくなかで、お客様からの要求に応えるだけでは、IT業界であっても取り残されてしまいます。お客様の業務改善を自主提案できるような体制を作ることが必要です。
異業種に参画する意味として大きいのは、「IT×異業種」によって生まれる新たなサービスの提供です。そのためにはITだけではない他の業種にも精通していなければなりません。「IT×異業種」によって、私たちはお客様の問題解決を図ることができ、お客様もIT部門を持つことが強みになるはずです。
――今後、入江様のような「思いを実現するためのM&A」が増えそうです。
入江 いくつかのサービスを立ち上げたものの、自分ではすべてを伸ばしきれないと感じ始めた時、M&Aは有効な手段になると思います。その時に大切なのは、事業について「自分がどうしたいか」ですね。やりたいことにしぼって他を譲渡すれば、目的が明確になるのではないでしょうか。
倉石 経営者の高齢化や後継者不在という問題を抱えた会社は、なるべく早めにM&Aを検討された方がいいと思います。譲り受けする企業の市場も整ってきていますので、契約が成立しやすいだけでなく、その後の成長も見込めます。自分の作った会社や事業の発展性を考えた時に、M&Aは有力な選択肢になりうるはずです。