M&Aによって起業すべき理由【M&Aのメリットとデメリット】
- 記事監修: 前田 樹 (公認会計士)
M&Aは起業の手段としても活用できます。M&Aを用いて起業すると、起業にかかる時間を短縮できるなどのメリットを得られます。M&Aによって起業すべき理由・メリット、デメリットをわかりやすく解説します。
近年、働き方改革の流れなどがあり、起業や副業をする人が増えてきました。
そのような状況の中で、M&Aを活用した起業も増えてきています。
M&Aによる企業が増えている背景について解説していきます。
現在、日本は少子高齢化が進んでいます。
それは中小企業においても同様で経営者の高齢化が進んでいます。
これまで日本の会社では、親族内承継することで事業承継することが一般的でした。
しかし、少子高齢化が進んだ現在は経営者の子供も少なく、後継者が見つからないというケースが増えています。
また、経営者地震の価値観も変わってきており、子供に自分と同じ思いをさせたくないなどの考え方の変化や親の会社を引き継ぐことが当たり前ではなく、異なる仕事を選ぶことも増えてきました。
これらの状況の変化により、親族内で承継することは減少し、経営者は後継者不足に悩みを抱えるというケースが増えてきています。
廃業という選択肢もありますが、廃業するにも費用が必要となるため、M&Aをうまく活用するということも理解されるようになってきました。
また、近年、インターネットなどを活用したM&Aマッチングサイトが台頭してきています。
これまでM&Aといえば証券会社などの金融機関や仲介会社が取り扱うことが一般的でした。
しかし、これらの会社が取り扱っているのは規模が大きいものが大半を占めていました。
そのため、個人に対して紹介することは稀なことでほとんど紹介はありませんでした。
そんな中、近年はマッチングサイトが台頭し、個人でもM&Aが身近になりました。
マッチングサイトでは、個人が経営している小規模な会社から中規模の会社を中心に取り扱われており、個人でも会社の売買が可能となりました。
そして、これらのサイトを使ってM&Aを行い、起業するということも増えてきました。
M&A仲介会社も最近の流れに合わせ、個人向けの案件も取り扱うようになっており、M&Aによる企業では幅広いものから、選ぶことができるでしょう。
2019年に厚生労働省から働き方改革が発表され、長時間労働の是正や柔軟な働き方ができるよう個々の事情に応じた働き方ができるように改革が進められています。
働き方改革により柔軟な働き方が認められるようになった一方で、これまで日本では当たり前だった終身雇用の前提が崩れかけています。
これまでは企業に属していれば安心だったのですが、その前提が変わってきており、終身雇用を前提としないジョブ型雇用にも注目が集まってきています。
そんな状況なので、会社員でいることがリスクと考えるサラリーマンが増えてきました。
サラリーマンは副業により本業以外にもつながりを持ち、また、外でも通用する力をつけることを考えるようになってきています。
その中で起業をするサラリーマンもいて、それらのサラリーマンはリスクを下げたいと考え、M&Aにより独立する機会を求めるサラリーマンも出てきました。
M&Aによる起業のメリットについて解説していきます。
M&Aを用いて起業すると短期間で起業することができます。
自分で一から起業した場合、いろいろ準備をする必要があり、時間がかかってしまいます。
しかし、M&Aにより事業を開始した場合には、すでに事業が始まっているものを引き継ぐので短期間で事業を開始することができます。
また、事業を一からスタートすると事業がうまくいくかわかりません。
しかし、事業がうまくいっている会社をM&Aして起業をすれば、一からスタートする場合よりもリスクを下げてスタートすることができます。
一から起業すると取引先の関係構築からスタートしなければいけませんが、事業を展開している会社を取得すれば既存の取引先があるため、取引先を見つけるという手間がかかりません。
また、事業を一からスタートすれば必要に応じて従業員を探す必要がありますが、M&Aであれば、すでに働いている従業員もいて新たに従業員を探す手間がかかりません。
また、一から事業を開始すると登記や登録など事業を開始するにあたり必要な手続きがありますが、これらも不要になります。
M&Aをすることでそのような手間をお金で買うことができるのです。
また、M&Aによる起業では事業で必要な許認可を引き継ぐことができます。
一方で、一から事業を開始した場合には許認可などを新たに申請して取得する必要があります。
そして、これらの申請は確実に通るとは限りません。
また、一から申請をした場合、漏れなく申請ができない可能性がありますが、現時点で事業を展開していれば必要な許認可が取得できているはずなので、そういった面でもリスクを下げた状態でスタートすることができます。
一から事業を開始した場合には事業の不透明さから、金融機関から資金を調達することは難しくなります。
将来の計画を提出しても、それらの説明の根拠として弱く、資金をなかなか出してもらえません。
一方で、M&Aによればすでに事業がスタートしており、ある程度先の見通しも立っています。
見通しが立っているのでお金を貸す金融機関は回収の見通しも立てることができ、資金も貸しやすくなります。結果、資金調達もやりやすいのです。
M&Aを前提にした起業の場合ですが、その場合は必要に応じて事業や会社の取捨選択を行い、損切りや利益の獲得を実現することができます。
複数の事業や会社を展開している場合になりますが、必要な事業と必要ではない事業を分類して整理して売却することで損切りや利益獲得をすることができるのです。
これは起業をすれば可能となることですが、本業の収入の減少に対して備えることができます。
本業以外に複数の収入を持つことでリスクヘッジをすることができるのです。
本業の収入が減ったとしてもその他の副業で稼ぎがあれば、収入の減少をカバーできる可能性があり、収入の減少に対してリスクヘッジできます。
もちろん本業以外の副業が赤字であれば、キャッシュアウトが生じてしまうのでリスクヘッジにはなりませんが、上記の前提、つまりは複数の収入があるのであれば本業の収入減に対してのリスクヘッジになるのです。
M&Aによる起業のデメリットについて解説していきます。
M&Aにより会社を取得した場合には、想定していない債務なども引き継いでしまうことがあります。
会社を取得する場合、会社の全てを引き継ぐことになります。
そのため、帳簿上に計上されているものや契約は当然ながら引き継ぎます。
一方で、会社の全てを引き継ぐことになるため、帳簿に計上されていない債務なども引き継ぐ可能性があります。
意図せず、簿外債務などを引き継いでしまうことで想定外の損失を被ってしまう可能性があります。
簿外債務など想定外の債務などのリスクを感知しているときは、事業譲渡などスキームの変更を検討してリスクを低減しましょう。
従業員や取引先の関係を引き継ぐことは可能なのですが、一方で引き継いだとしても従業員や取引先との関係性を引き継ぐわけではないため、関係構築には時間がかかります。
また、従業員などは引き継ぐことになりますが、それが自分の思う従業員たちかはわかりません。
想定している組織とは異なる人員体制となっていることもあり、それらを修正していくには時間がかかってしまいます。
事前に従業員などに対して詳細な説明、また丁寧な説明をすることで理解してもらい、以前の経営者との関係性を維持できるよう準備をしておきましょう。
それまで事業がうまくいったとしても、M&Aで引き継いだ後そのままうまくいくとは限りません。
経営方針の変化により取引先や従業員などの取り組み方の変化、事業環境の変化などにより、周辺環境が変わり事業の状況は変わる可能性があります。
引き継ぐ前はうまくいっていたとしても、微妙な変化が事業の変化をもたらしてしまい、状況が悪化してしまうこともあります。
経営者が変わる以前と同じ環境で事業ができるよう、事前に対策をしておきましょう。
M&Aにより起業をした場合、自分で思っているよりも事業範囲が広く多額の費用が生じてしまう可能性があります。
また、規模も想定しているよりも大きな規模である場合、他の人の助けを借りながら進めないとできない可能性もあります。
また、M&Aで買収する場合に買収金額が想定よりも高くなってしまうことも起こり得ます。
もちろんそれだけの価値があって買収金額を払うということになるのですが、そうなると当然ながら一から起業するよりも多額の費用がかかってしまいます。
そこは一から起業する場合との比較により、金額の妥当性は決まるので事前の検討は慎重にしましょう。
効率性の高い運営をしたいのであれば、ある程度出来上がった会社を買うよりも一から起業して自分で事業規模を組み立てる方がいい可能性もあります。
これらは他のデメリットとメリットを比較し、一からやる方がいいのか、M&Aでやる方がいいのか検討しましょう。
では、具体的なM&Aによる起業の方法を紹介していきます。
先述しましたが、個人が起業したいと考えることが増えてきて、それに合わせて規模の小さいM&Aも活発になってきました。
手軽にM&Aができるということもあり、M&Aのマッチングサイトが台頭してきました。
M&Aマッチングサイトでは規模の小さい会社も取り扱われ、気軽に探すことができます。
探している業種、場所、金額規模などの条件を入れるとそれに合致した案件が結果として出てきて、興味があれば連絡するという形で進めることができ、先方からの連絡を待つという流れとなります。
M&Aマッチングサイトを利用することにより、手軽にM&Aが可能となり起業することができるようになったのです。
個人の取引が活発化してきたことで、小型の案件を取り扱わないと競争力が失われます。
そのため、M&A仲介会社でも中小規模の案件の需要の高まりに合わせ取り扱う仲介会社も増えてきました。
取り扱う仲介会社が増加した結果、取扱件数も増え、中小規模の案件市場は活発になってきました。
以前は仲介会社では主に大規模の案件がメインでしたが、中小規模の案件も取り扱うようになったので、個人でM&Aによる起業を考えた場合にはM&A仲介会社でも相談できます。
M&Aは専門知識が必要となるので仲介会社など専門知識や経験豊富な会社に相談や依頼することでリスクを下げることができます。
ただし、仲介会社の場合、成功報酬型になっており、買収金額によっては報酬金額が多額になってしまうので、仲介会社に依頼する場合には報酬体系に気をつけましょう。
M&Aによる起業のポイントについて解説していきます。
M&Aによる起業では、下記3つのポイントを押さえましょう。
M&Aによる起業ですが、自分の強みを活かせる業種や規模の会社を選びましょう。
いくら魅力的な会社だとしても自分の知識がなければ、その会社をうまく経営することができません。
また、自分がやりたい、あるいは興味がある業種でなければ経営も継続してできません。
せっかく自分で起業したいと思ってやろうとするのであれば、自分の強みや興味がある業種でなければ起業する意味がありません。
また、規模についても自分でコントロール範囲に抑えなければ、会社のコントロールをすることができません。
その結果、失敗する可能性が高まってしまいます。
M&Aをする場合にはいかにリスクを抑えることが重要になります。
リスクを抑え可能性が高まる案件に投資して起業しましょう。
規模の話にも近い話ですが、金額が高すぎる買収は避けましょう。
金額が高い、イコール魅力の多い会社で成功する可能性が高まりますが、その一方で失敗した場合の損失額は大きくなります。
上記の自分の強みが活かせるような会社であれば、金額が高くても成功させる可能性は高めることができるのですが、そのような会社でない限り、買収金額はできる限り抑えた方がいいでしょう。
一般的な金額感はM&Aの世界では決まっています。
金額感については専門家などに相談や依頼をして確認をしてもらう方がいいでしょう。
買収する際の金額もそうですが、M&Aにおける知識は多岐に渡るため、各場面場面において専門家を活用しなければリスクを抑えることができません。
個人とのやり取りで決まる小規模な会社であったとしても、契約書や交渉は必要となります。
契約書は弁護士などに見てもらうことでリスクを下げることができるので、必要に応じて依頼をした方がいいでしょう。
また、相手探しや相手を探した後の交渉などはM&Aの総合的な知識が必要となります。
それらにはマッチングサイト活用している会社や仲介会社などをうまく活用して進めていく方がいいでしょう。
そのほか、規模によってはデューデリジェンスと呼ばれる企業調査が行われます。
法務や財務税務、システムなど必要に応じてリスクを低減させるために実施しますが、この際に登場するのも各分野の専門家となります。
いずれにしてもM&Aを行う場面においては専門知識や経験が必要になるので必要に応じて専門家を活用しましょう。
ここまでM&Aによる起業について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
M&Aと聞くと少しハードルが高まりますが、ここまで見てきた通り、M&Aをうまく活かせば一から事業をスタートさせるよりもリスクを抑えてスタートさせることができます。
また、M&Aを活用することで一から築き上げる時間や手間を削減することができます。
これらがM&Aによる起業の大きなメリットで一から起業するよりも時間やリスクをお金で買うということになります。
一方で、M&Aの場合、起業の見えない価値に投資をするという部分もあります。
そのため、金額が高くなってしまい、回収できないぐらいの投資額になってしまう可能性もあります。
金額や交渉などM&Aにおいては専門家をうまく活用しなければ失敗しやすくなるため、注意しましょう。
(執筆者:公認会計士 前田 樹 大手監査法人、監査法人系のFAS、事業会社で会計監査からM&Aまで幅広く経験。FASではデューデリジェンス、バリュエーションを中心にM&A業務に従事、事業会社では案件のコーディネートからPMIを経験。)
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