M&Aの統括部署は限られた人数で構成され、経営陣と連携してM&Aの相手先選定などの業務を行います。またM&Aでは、法務や経理の担当部署も必要です。公認会計士が、体制構築のポイントなどを解説します。
M&Aで構築すべき部署の種類
M&Aを進めるにあたっては専門とする部署が必要となります。
まずは構築すべき部署について解説していきます。
M&Aの統括部署
M&Aの統括部署はまさにM&Aを専門としている部署となります。
M&Aの統括部署は相手先の選定、交渉フェーズの推進、PMIの取りまとめなど中心となってM&Aを推進することになります。
M&Aを結構な頻度で実行する会社であれば専門組織として設置されていることもありますが、頻度が少ない会社であればM&A実行時に組成されて進められることが一般的です。
M&Aは取り扱う情報も機密情報が多く、限られた人数で進められ、経営陣と密に連携して進められます。
M&A統括部署は必要に応じて他部署と連携しつつ、経営陣の意向を踏まえながら、先方との交渉などを遂行していきます。
案件が進み始めたら各部署の担当者を限定して集め、進めていくことになりますが、よほどの大きな案件でない限りは社内でも10名程度の少人数で構成され、進めることになります。

M&Aとは?目的・手法・メリット・流れを解説【図解でわかる】
M&A(エムアンドエー)とは、Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略で、「会社あるいは経営権の取得」を意味します。今回は、M&Aの意味・種類・目的・メリット・基本的な流れ・税金・ […]
経営企画部署
経営企画部署は全社戦略や事業計画などを策定する部署ですが、M&Aの要否を考えることも経営企画の役割となります。
全社の観点でM&Aの実行の判断を行います。
市場の分析や競合の分析などから自社に必要な販路や資源、要員などを検討します。
M&Aを進めるにあたっては経営企画がM&A戦略の策定などを行い、M&Aの目的を明確にしていきます。
M&Aが頻繁に行われない会社であれば、経営企画がM&Aの統括部署まで担っていることもあります。
M&A統括部署と同様に経営陣の意向を踏まえながら戦略を策定してM&Aの実行をサポートしていきます。
PMI担当部署(事業推進部署)
PMIとはM&Aの実行フェーズの後に行われる経営統合フェーズで、ポスト・マージャー・インテグレーションの略となります。
買い手にとって経営統合フェーズは今後の事業展開において重要であるため、M&Aが成功するのかはPMIにかかっていると言っても過言ではありません。
PMI担当部署はそのPMIを推進していく部署で、経営方針の統合、企業風土の統合や事業の統合などを推進していくことになります。
M&Aでは異なる会社同士が統合されていくことになるため、従業員同士の摩擦なども生じてしまう可能性もありますが、その辺りもうまく統合して事業がうまく推進できるように進めるのがPMI担当部署になります。
PMIがうまくいき、事業が推進できればシナジー効果も発揮することもでき、企業の成長につなげることができます。

PMI(買収後の経営統合作業)とは?手法や重要性、事例を解説
M&Aにおいて効果を早期に得るためには、M&Aの当事者同士の戦略、販売体制など有機的に機能させるPMIが重要であるといわれています。 PMIの概要、プロセス、成功させるポイント、PMIの成功・失敗事例を解 […]
法務部署
法務部署はM&Aにおいては契約書の作成や法務デューデリジェンス等の業務を担当することになります。
M&Aにおいては会社法や労働契約、特許などさまざまな場面において法律が影響してきます。
そのため、M&Aにおいて法務部署が入ることは必須で外部の弁護士も活用しながら進めていくことになります。
M&Aに限らず、契約書は相手との取り決めを定めていくことになります。
そのため、契約書の内容に不備などがあれば、M&Aの実行後に影響が出てきてしまう可能性もあるので留意して進めていく必要があります。
また、交渉後も必要に応じて独禁法の対応やPMIの対応などもしていくことになります。

M&Aにおける法務の概要 関係する法律や法務手続きを徹底解説
M&Aの法務では、会社法や金融商品取引法など、さまざまな法律の規定を確認する必要があります。今回は、M&Aに関係する法律や、M&Aのプロセスで必要となる法務手続きをくわしく解説します。(公認会計士 […]

法務デューデリジェンス(法務DD)とは?目的、実務の流れ、費用
法務デューデリジェンスは、買収対象企業に関する法的・労務的なリスクを洗い出す目的で行います。具体的には、訴訟・紛争や資産・負債などを調査します。公認会計士が法務DDの目的や内容、流れ、費用、実務に役立つ本を紹介します。 […]
経理・財務部署
M&Aにおいては経理や財務部署も重要な役割を果たしていくことになります。
M&Aを実行すると相手企業の実績が自社に影響することになります。
事前に実施されるデューデリジェンスで相手の財務状況などを調査することになりますが、自社の会計処理との違いなどを確認しておくことでM&Aの影響を把握しておきます。
また、M&Aにおいてはスキームの違いにより、税務などの影響も出てきます。
相手企業やスキームによって税金の負担が変わってくるので自社に適したスキームを判断することが必須となってきます。
税務は影響する金額も大きくなる場合もあるので留意が必要となります。

M&Aの税務|節税できる要件や税制改正を税理士が徹底解説
M&Aの税務は、手法や適格要件などによって異なります。専門知識を要する税務は、M&Aをスムーズに進める上で非常に重要です。税理士がM&Aの税務手続きや適格要件、税務リスクについてくわしく解説します […]

M&A実務の手順・内容を徹底解説【実務担当者や経営者必見】
M&A実務には法務・税務・財務面での高度な知識が必要です。経営者の方も最低限の実務知識は知っておく必要があります。公認会計士が、M&A実務の流れや内容、実務を学ぶ上でおすすめの本を詳しく解説します。(公認 […]
外部の組織・専門家に依頼することも重要
M&Aにおいては専門的な知識や経験が必須となるので必要に応じて外部の組織や専門家に依頼することになります。
M&Aを失敗すると影響が大きく、ポイントで外部の組織や専門家に依頼することが重要となります。
依頼先となる組織・専門家の種類
依頼先となる組織や専門家について紹介していきます。
M&Aアドバイザリー会社
M&Aアドバイザリー会社はM&A戦略の策定からクロージングフェーズまでの一連の流れのサポートを行なってくれる専門家となります。
買い手あるいは売り手の片方と契約を締結して依頼者の利益の最大化を目指していくことになります。
M&Aの目的や依頼者の利益の最大化などの達成にコミットしてM&Aを進めてくれるので、依頼者の目的は達成しやすくなりますが、依頼者側の利益を最大化するため、交渉などが長期化する可能性もあります。

M&Aアドバイザリーとは?業務内容、手数料、仲介会社との違い
M&Aアドバイザリーとは、M&Aの専門知識を持ち、M&Aによる利益最大化の為に助言を行う業態を指します。今回はM&Aアドバイザリーの業務内容、成約時に支払う手数料、M&A仲介会社と […]
M&A仲介会社
M&A仲介会社もM&Aアドバイザリー会社と同様でM&Aの戦略策定からクロージングフェーズまでの一連のサポートを行なってくれる専門家です。
M&Aアドバイザリー会社は売り手あるいは買い手のどちらか片方と契約して依頼者の利益を最大化して進めていくことになりますが、M&A仲介会社は売り手と買い手の間に入ってM&Aの実現に向けて進めていくことになります。
M&A仲介会社が実行した場合、M&Aが早期に成立しやすくなる反面、どちらかの利益が阻害される可能性はゼロではありません。
なお、M&A仲介会社は買い手と売り手の両方から手数料を受け取るため、それぞれの手数料の負担が軽くなるというメリットもあります。

M&A仲介とFAの違いや手数料、選定方法を図解で解説
M&Aの仲介とは、M&Aアドバイザーが売り手と買い手の間に立って、中立的な立場でM&Aの成立をサポートすることです。FAの違いや仲介会社を選ぶポイントをくわしく解説します。 目次M&A仲介とFA( […]
公認会計士
公認会計士は、会計や財務などの分野における専門家です。
M&Aにおいて相手の業績がM&Aの取引価格に影響します。
過去の業績から将来の業績を予測して、事業計画が策定されることになり、事業計画をもとに企業価値が算定されます。
過去の業績が適切に評価できなければ、事業計画の予測にブレが生じてしまい、事業計画を達成できません。
そのため、会計や財務などの専門家である公認会計士にデューデリジェンスやバリュエーションを依頼することで適正な企業価値を算定することができます。
また、PMIにおいても公認会計士は活躍する場があります。
経営統合において経理などのバックオフィス系の業務効率化はもちろんですが、公認会計士は監査で内部統制の構築支援などの知識があるため、組織の統合や事業の統合などの業務についても依頼することができるのです。

M&Aにおける公認会計士の役割・業務【現役会計士が徹底解説】
M&Aで公認会計士は、企業価値評価と財務DDで重要な役割を担います。財務・会計分野の業務は、M&Aの成功を左右する重要なものです。現役の公認会計士が、M&Aにおける役割や業務内容をくわしく解説しま […]
税理士
税理士は、税務分野における専門家です。
M&Aにおいては相手企業の税務の申告状況ももちろんですが、スキームによっては収めるべき税金が変わってくるため、M&Aにおける税金は重要となります。
過去の申告状況などを調査することで納税漏れなどがないかを確認します。
税務リスクがある場合には、金額の交渉において材料となり、価格に反映されることになります。
また、スキームにおいては自社が連結納税を実施しているか、相手企業に繰越欠損金があるかなどによってとるべきスキームが変わってきます。
採用したスキームによって得られる効果が変わり、繰越欠損金が引き継げないなどデメリットが生じてしまうため、専門家の知見を生かしてスキーム検討を行っていくことになります。

M&Aで税理士が担う役割・報酬相場【税理士が徹底解説】
M&Aにおいて税理士は、デューデリジェンスやバリュエーションなどの役割を担います。今回の記事では、税理士がM&Aにおける税理士の役割や依頼するメリット、報酬相場をくわしく解説します。 目次M&Aに […]
弁護士
弁護士は法務分野における専門家です。
M&Aにおいて契約書はもちろんですが、契約書に至るまでの意向表明書、基本合意書のチェック行います。
また、買収対象となった会社の法務の状況や労務の状況などを見るのも弁護士に依頼して進めることになります。
M&Aにおいては実行後に与える影響を事前に把握しておくことは重要で事前にわかっていることは対応していく必要があります。
労務などは特に事前に把握することで買収完了までに対応してもらうなどしていきます。
そのほか、業界が同じ会社同士のM&Aであれば独禁法の対応なども実施してもらうことになります。

M&Aの依頼先とは?仲介会社や税理士に相談するメリットを解説
M&Aの依頼先には、仲介会社や税理士、金融機関などがあります。依頼先ごとに、相談するメリットや得意とする業務は異なります。各依頼先の特徴やM&Aの依頼にかかる手数料、おすすめの依頼先などを紹介します。 目 […]

M&Aにおける弁護士の役割とは?業務内容や費用相場も徹底解説
M&Aでは、シビアな法的判断が必要となり、弁護士の専門的な知識や交渉力がものを言う局面が多々あります。弁護士がM&Aで果たす役割や業務の内容、弁護士に依頼するメリットや費用相場などを詳しく解説します。(執 […]
外部組織・専門家に依頼するメリット
M&Aにおいてはここまでみてきた通り、財務や税務、法務など幅広い知識や経験がないと失敗してしまう可能性が高まってしまいます。
社内に知見がたまっていれば問題ないのですが、全てが揃っていることはほとんどないので外部の組織や専門家に依頼して不足分を補足することで失敗する確率を下げた方がいいでしょう。
また、情報の取り扱いなどは厳しく、社内で関わる人が増えると情報の漏洩リスクも高まります。
そのため、外部の専門家などに依頼することで情報漏洩のリスクなども下げて進める方がいいでしょう。

M&Aにおける専門家の種類、選ぶポイントを公認会計士が解説
M&Aには専門知識が必要であるため、様々な専門家からのサポートが必要です。専門家には、公認会計士や仲介事業者などの種類があります。M&Aにおける専門家の重要性や種類、選び方をくわしく解説します。(公認会計 […]
M&Aの部署を構築するポイント
M&Aの専門部署を構築するにあたってのポイントを買い手企業と売り手企業のそれぞれの観点から解説していきます。
買い手企業
買い手企業においてポイントとなるのが、実行フェーズとPMIフェーズとなります。
実行フェーズにおいてはデューデリジェンスや交渉などを行なっていきます。
外部専門家を活用しながら、社内と連携し先方と交渉を進めていくことになりますが、体制構築ができていない場合、必要な情報が社内に入ってこず連携もできない状況となり、案件を進めることができません。
進められたとしても時間がかかり、先方の意向に合わせた条件となり失敗してしまう可能性が高まります。
また、PMIフェーズにおいてはシナジー効果の発揮や経営統合をすることでM&Aを成功に導いていくフェーズとなります。
PMIで体制が構築できていない場合、先方からの不信感なども高まり、先方の従業員などが退職してしまう可能性も出てきます。
その結果、シナジー効果も発揮できず、M&Aが失敗に終わってしまう可能性が高まります。

買収とは?M&Aとの違い・メリット・手法・事例・手続きを解説
買収とは、他社の事業または会社の経営権を取得することを指します。買収では、既存事業の拡大や新規事業への進出などを迅速に実現できます。買収を成功させるには、デューデリジェンスやPMIの徹底が重要です。今回は買収のメリット、 […]
売り手企業
売り手企業においてポイントとなるのが、実行フェーズとなります。
買い手企業からするとデューデリジェンスは重要な実施項目となるのですが、それに対して売り手企業が対応できなければ不信感が生じてしまいます。
そのため、実行フェーズ、特にデューデリジェンスにおいては体制を構築しておき、真摯に対応していく必要があります。
売り手企業においては実行フェーズが重要ですが、PMIも重要になってきます。
会社の中でもキーマンとなる人に中心になってもらい進めることで、将来的な成長にもつなげていくことになります。
キーマンをしっかり押さえることで他の従業員などが抜ける可能性を下げ、失敗しないようにつなげていく必要があります。

会社売却のメリット・デメリット 相場や事例、従業員の処遇も解説
会社売却の方法、手続きの流れ、相場の計算方法、株式譲渡と事業譲渡の場合の違いを分かりやすく解説します。また、会社売却が従業員・経営者に与える影響も解説します。会社売却を行いたい経営者様は必見です。 目次会社売却とは?会社 […]
まとめ
ここまでM&Aにおいて必要な組織体制についてみてきましたが、いかがでしたでしょうか。
M&Aは専門知識や経験が必要なため、社内の人材だけではうまく体制の構築ができないケースもあります。
そのため、社内だけではなく、外部の専門家などもうまく活用しながら進めることで成功に導いていくことが鉄則となります。
足りないものを外部で補い体制を構築し、成功に導いていきましょう。

M&Aの人材確保・育成が難しい理由、必要な経験を会計士が解説
買収を行う企業が増えていることや、事業承継の活発化などを理由に、M&A実務を担う人材の確保が活発化しています。M&A人材の確保が難しい理由や求められる知識・経験などを公認会計士がくわしく解説します。 目次 […]
(執筆者:公認会計士 前田 樹 大手監査法人、監査法人系のFAS、事業会社で会計監査からM&Aまで幅広く経験。FASではデューデリジェンス、バリュエーションを中心にM&A業務に従事、事業会社では案件のコーディネートからPMIを経験。)
M&A・事業承継のご相談ならM&Aサクシード
M&A・事業承継のご相談ならM&Aマッチングサイト「M&Aサクシード」にご相談ください。M&Aサクシードが選ばれる4つの特徴をご紹介いたします。
M&Aサクシードが選ばれる4つの特徴
- 完全成功報酬制
→M&Aが成約するまで報酬はいただきません。 - スピード成約
→最短37日、半年以内の成約が57%(2022年実績) - 「ビズリーチ」を運営する東証グロース市場グループ企業が運営
- プラットフォームだから譲渡企業様に直接オファーを送れます
M&Aサクシードは、成約するまで無料の「完全成功報酬制」のM&Aマッチングサイトです。
M&Aマッチングサイトだから、スピード感のあるM&Aを実現しています。同業種、同エリアのマッチングはもちろん、異業種やエリアの違う成約も。
さらに、知識・経験が豊富な専任担当者が相談から成約に至るまで担当いたします。まずはご登録ください。