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クリニックM&A・医院承継の動向とメリット、相場、成功事例

  • 法務監修: 相良 義勝 (京都大学文学部卒 / 専業ライター)

医師の高齢化や後継者不在問題、地域的な医療システム再編の動きなどを背景として、クリニックのM&Aが活発化しています。クリニックのM&Aの動向、メリット、近年の事例、売却価格相場をくわしく解説します。

クリニック M&A 動向

目次
  1. クリニックM&Aの動向とメリット
  2. クリニックのM&A事例
  3. クリニックM&Aの相場
  4. まとめ

クリニックM&Aの動向とメリット

クリニックM&Aの背景と動向

経営者高齢化・後継者不在問題と第三者への医院承継

クリニックに従事する医師(開設者・代表者含む)の平均年齢は近年上昇傾向にあります(下図)。

クリニックM&A 背景 動向

図:診療所に従事する医師数(年齢別)と平均年齢
出典:令和2年医師統計結果の概要(厚生労働省)

また、2017年の後継者不在率(調査時点で後継者が決まっていないと回答したクリニックの割合)は、有床診療所で79.3%、無床診療所で89.3%となっています。
これは同時期における全業種平均の不在率66.5%よりもかなり高い数値です。[1]

少子高齢化や家業継承文化の衰退により親族内での医院承継が円滑に行われなくなってきており、贈与税・相続税や個人保証の負担のため承継が断念されるケースも少なくありません。

その結果、近年では第三者への医院承継を実施・検討する動きが広まっています。
日本医師会も医業の第三者承継に対する支援充実の必要性を訴え、民間企業との連携により売り手と買い手のマッチングを支援する事業などを行っています。[2]

国による医療提供体制改革推進と医療機関の組織再編

高齢化と生産年齢人口の減少が進行するなか、国は社会保障費の適正配分を基本指針とする制度改革を進めています。

その柱のひとつに地域レベルでの医療提供体制改革の推進があります。
医療機関同士の組織再編合併、分割、持分譲渡、事業譲渡など)や他法人との提携・協働を通して地域的なレベルで医療提供体制を最適化し、病床の有効利用や人員の適正配置などを実現して医療サービスの効率化・質向上を図ることが目標とされています。[3]

こうした改革は医療機関の後継者不在問題の解消ともつながっており、経営規模を問わず多種多様な医療機関によるM&Aが今後一般化していくことが予想されます。

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クリニックM&Aのメリット

売り手側のメリット

後継者不在問題を抱えたクリニックにとっては、M&Aが事業承継を実現するための主要な手段となります。
現オーナーにとっては譲渡益の獲得と個人保証解消というメリットがあり、治療中の患者や地域住民への医療サービスの継続、スタッフの雇用維持という社会的責任も果たすことができます。

院長を含め現体制のままで大規模な医療法人にクリニックを譲渡し、同法人の一部として診療を続けるというケースもあります。
メリットとしては、経営基盤・財務基盤の安定化、積極的な設備投資やグループ内連携を通した医療提供体制拡充、などが挙げられます。

逆に、医療法人が一部のクリニックを切り離して経営のスリム化・最適化を図るためにM&Aを利用することもできます。
他の法人に譲渡するケースと、開業・新法人設立を行う個人に譲渡するケースがあります。

買い手側のメリット

買い手側にとってのM&Aのメリットは「時間を買える」という点に集約されます。

医療法人が新規事業を一から立ち上げた場合、事業を軌道に乗せて既存事業とのシナジー(相乗効果)を実現するまでに長い時間がかかります。
個人が開業医としてクリニックを新規開設する場合も同様のことが言えます。

すでに事業として成り立っているクリニックをM&Aで譲り受けたほうが、はるかに迅速に目的を実現することができます。
具体的な目的としては以下のようなものが考えられます。

  • 医師や診療科目の拡充、科目横断的に疾患をカバーできる体制の構築
  • グループ内の既存病院・クリニックとの連携を通した地域的な医療提供体制の構築・再編
  • 病床拡充(とくに基準病床数制度[4]に基づき増床が制限されている地域において)
  • 施設・スタッフ・患者・取引先や診療体制ノウハウ・認知度の引き継ぎによる迅速な開業
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[1]医業承継の現状と課題(日医総研)
[2]医業の第三者承継に関する日医の考え(日本医師会)
[3]医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究報告書(厚生労働省)
[4]基準病床数制度(厚生労働省)

クリニックのM&A事例

クリニック M&A 事例

【クリニック×病院・クリニック】ベテル泌尿器科クリニックが徳洲会へ事業譲渡

譲渡企業の概要

ベテル泌尿器科クリニック:札幌市北区にある泌尿器科の有床診療所(11床)[5]

譲り受け企業の概要

徳洲会:全国に計340施設の病院・クリニック・介護老人保健施設・訪問看護ステーション・介護福祉関係施設を展開する医療法人グループ[6]

M&Aの目的・背景

譲渡企業・譲り受け企業:不明

M&Aの手法・成約

  • 実行時期:2022年3月
  • 手法:事業譲渡
  • 結果:ベテル泌尿器科が徳洲会に事業を譲渡し、院長含め基本的に現体制のままで徳洲会グループの診療所として診療を開始[7]
  • 譲渡金額:不明
M&A・事業承継
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【クリニック×個人】廣仁会が昭和皮膚科クリニックを現院長に承継

譲渡企業の概要

廣仁会:北海道と宮城県で皮膚科を中心とした専門クリニック12施設と1研究所を展開する医療法人[8]

譲り受け企業(個人)の概要

廣仁会に属する昭和皮膚科クリニックの院長[9]

M&Aの目的・背景

譲り受け企業(個人):医療法人からの独立

M&Aの手法・成約

  • 実行時期:2021年5月
  • 手法:不明
  • 結果:廣仁会が昭和皮膚科クリニック院長に同クリニックの事業を承継[9]
  • 譲渡金額:不明

【クリニック×クリニック】きゅう眼科医院が豊栄会に事業を承継

譲渡企業の概要

きゅう眼科医院:静岡市で緑内障・白内障・網膜硝子体疾患・ロービジョンを中心に最新設備による診療を行う眼科医院[10]

譲り受け企業の概要

豊栄会:埼玉・東京で複数の眼科クリニックを展開する医療法人[11]

M&Aの目的・背景

譲り受け企業:医療の高度化に対応し、最先端・最高水準の医療を提供するため[12]

M&Aの手法・成約

  • 実行時期:2020年1月
  • 手法:不明
  • 結果:豊栄会がきゅう眼科医院の事業を承継
  • 譲渡金額:不明

【クリニック×病院】田中内科クリニックが真生会に事業を承継

譲渡企業の概要

田中内科クリニック(現 真生会高岡クリニック):富山県高岡市にある内科・消化器科・呼吸器科クリニック[13]

譲り受け企業の概要

真生会:富山県で総合病院や歯科クリニックなどを展開する医療法人[14]

M&Aの目的・背景

譲渡企業・譲り受け企業:不明

M&Aの手法・成約

  • 実行時期:2019年1月
  • 手法:不明
  • 結果:真生会が田中内科クリニックの事業を承継し、真生会富山病院の医師が同院院長に就任[15]
  • 譲渡金額:不明
M&A・事業承継
歯科医院売却の方法や流れ、価格相場、注意点をくわしく解説

歯科医院の売却価格相場(居抜き)は、数百万円から2,000万円程度です。ただし、運営主体(個人と医療法人)や立地等の条件で実際の売却額は変動します。売却方法や流れ、成功させるポイントを徹底解説します。(執筆者:京都大学文 […]

【クリニック×IT×IT】天太会とアルム、エヌアイデイが業務・資本提携

提携企業の概要

天太会:アルムとの業務・資本提携により最先端ITサービスを取り入れたクリニック・健診センターを展開する医療法人[16]

アルム:医療・介護向けモバイルICTツール開発などの事業を展開[16]

エヌアイデイ:ITソリューションやソフトウェア開発、ITインフラ構築などの事業を展開[17]

M&Aの目的・背景

天太会とアルムが培ってきた医療系事業ノウハウとエヌアイデイのITソリューション技術を掛けあわせることで、医療データに基づくAIソリューションの開発や、未病領域における保健指導サービスの提供、公的研究開発プロジェクトへの参加などの事業展開を図る[16]

M&Aの手法・成約

  • 実行時期:2019年5月
  • 手法:業務・資本提携
  • 結果:天太会とアルム、エヌアイデイが業務・資本提携を締結
  • 譲渡金額:不明
M&A・事業承継
【2021年最新版】IT業界のM&A事例56選

IT業界における厳選した56例のM&Aについて、「2021年の最新事例」や「システム開発分野」などのジャンルに分けて解説します。 事例では売り手・買い手企業の特徴やM&Aの手法、売買価格を紹介します。(中 […]

M&A・事業承継
M&A成功事例40選 大企業・中小企業・業界別|2021年版

今回は大企業・中小企業別、業界別に厳選したM&A事例40選を紹介します。国内・海外の大企業事例から中小企業事例まで、譲渡・譲り受け企業の概要、M&Aの目的・M&A手法、成約に至るまでを解説します。 […]

[5]施設・設備紹介(ベテル泌尿器科クリニック)
[6]施設情報(徳洲会)
[7]3月からの診療体制(ベテル泌尿器科クリニック)
[8]法人概要・沿革(廣仁会 )
[9]昭和皮フ科クリニック事業承継(廣仁会)
[10]医院紹介(きゅう眼科医院)
[11]HOME(豊栄会)
[12]きゅう眼科医院承継(豊栄会)
[13]診療のご案内(真生会高岡クリニック)
[14]沿革(真生会富山病院)
[15]田中内科クリニック承継(真生会)
[16]アルム及び天太会との業務・資本提携(NID )
[17]サービス・ソリューション(NID)

クリニックM&Aの相場

クリニック 売却 相場

M&A取引価格の決まり方

M&Aにおいては、取引される事業・法人の価値を特別な方法で評価し、その結果に基づいて条件交渉を行って取引価格を決定します。

この評価プロセスバリュエーションと呼ばれ、大きく分けると以下の3つのアプローチがあります。

①インカムアプローチ:事業の収益性を直接的に予測して評価

②マーケットアプローチ:市場による評価(株価など)や、M&A専門機関が把握している過去のM&A取引価格をベースにして評価

③コストアプローチ:純資産をベースにして評価

通例、比較的大規模な医療法人のM&Aでは①、個人クリニックなどの小規模なM&Aでは③が利用されます。
医療機関専門のM&A仲介会社では、過去の取引データをもとに価値を評価する方法(②)を用いることがあります。

①のアプローチで最も代表的な評価手法はDCF法です。DCF法では、事業計画に基づいて将来のキャッシュフローを具体的に予測し、それをもとにファイナンス理論を用いて現在の価値を割り出します。

③のアプローチには時価純資産法や年倍法があります。

時価純資産法では、資産と負債を時価評価して差し引きした額(時価純資産=時価資産-時価負債)を事業の価値と見なします。
貸借対照表の純資産(簿価)をそのまま用いるよりも事業の実態に近づけることができます。

ただし、純資産は事業の過去から現在までの結果を表す数値であり、今後の事業活動から生まれる価値(将来的な収益性)は含んでいません。

年倍法では、事業・法人の価値を「時価純資産+直近の利益の数年分」として評価します。
「直近の利益の数年分」は現状の利益をもとに将来の収益性を大ざっぱに見積もったもので、収益の安定性・成長性への評価が高いほど年数が大きくなります。
一般的には「3~5年」が相場とされます。

M&A・事業承継
M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは【図解で解説】

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クリニックのM&A取引価格相場

クリニックのバリュエーションを左右する主な要因をまとめると以下のようになります。

 

評価を高める要因

評価を下げる要因

純資産

  • 自己所有の土地・建物の時価が高い
  • 施設・設備の時価が高い
  • 負債(金融機関からの借入金や設備のリース残債など)が多い
  • 未計上の負債(未払い残業代や適正に計上していない退職給付引当金など)がある

収益性・将来性

  • 多数の患者を引き継げる
  • 立地がよい
  • 知名度が高い
  • 優秀な医師・スタッフがおり、確実に継続雇用が望める
  • 評価を高める要因と逆のケース
  • 患者やスタッフなどとのトラブルがあり、将来的に裁判で損害賠償を課されたりクリニックの評判が損なわれたりする恐れがある

事業引継ぎ

  • 買い手による事業引継ぎが容易
  • 買い手による事業引継ぎが困難

事業引継ぎの容易さ・困難さは、院長が1人で診療にあたっているクリニックの事業承継でとくに問題になりやすいポイントです。そうしたクリニックは院長1人の判断で運営される部分が大半で、患者の多くは院長でクリニックを選んでいます。
そのため、院長抜きではこれまでの事業の形が成り立ちません。

たとえ現時点では利益が出ていて、現院長のまま診療を続ければ将来的にも高い収益が期待できるとしても、現院長抜きでクリニックの価値を考えた場合には、収益性への評価は大幅に低下せざるを得ません。

こうしたケースでは、年倍法による収益性の評価において利益にかける年数が1年未満となることも少なくありません。
極端な場合、収益性の価値がゼロで、純資産分の価値しかないと判断されることもありえます。

収益性の評価を高めるためには、現院長が譲渡後すぐに引退せずに当面の間は診療にあたり、患者の引き継ぎなどをサポートするという方法があります。

事業承継においてはクリニックの名称も問題となります。
院名が院長の個人名を含んでいる場合、M&A後に院名を変更する必要がありますが、名称変更はクリニックの認知度に影響したり、患者の離反を招いたりする恐れがあります。

事業承継までに時間の余裕がある場合には、承継準備として個人名を含まない院名にあらかじめ変更しておき、新名称が地域に十分広まるのを待ってからM&Aを行うことで、そうした問題を避けることができます。

M&A・事業承継
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まとめ

クリニックのM&Aは買い手にとっても売り手にとっても積極的な意義とメリットのある手段です。
クリニック経営者の高齢化や後継者不在問題、医療機関再編・経営効率化の動きは中長期的に継続するものと見られ、クリニックによるM&Aは今後ますます活発化することが予想されます。

(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)