M&AにおけるTSA(Transition Service Agreement)は、直訳すると「移行期間中のサービス提供に関する契約」という意味です。今回はTSAの意味、契約のタイミングをわかりやすく解説します。
M&Aの契約の手順の中で重要な契約のひとつであり、かつ最終段階で締結する契約です。この契約は、買収後の手続き期間中に発生するサービスについて、「売り手がこれまで行ってきた業務サービスを引き続き利用する場合の一時的な契約」とイメージすると実際に行動が起こしやすくなります。
M&Aの特性上、「契約を締結すればそれで完了」ではありません。システムの統合や組織再編など合併により発生するすべての統合作業が契約成立後から開始します。もちろん契約前に組織再編やシステム統合について計画していますが、実際に作業に取りかかるのは契約締結後です。そのため契約締結後から合併作業完了までの期間に発生する業務に関する一時的な契約、わかりやすく言えば「責任の所在」を明確にしなければなりません。この取り決めがTSAです。
例えば親会社がある子会社のみをM&Aで買収した場合や企業のある一部分を事業譲渡としてM&Aを実施した場合、その子会社や事業がそれぞれ単独のシステムではなく親会社や企業単位で利用していた場合、M&A後引き続き利用するには「許可」が必要です。この「許可」にあたるのがTSAです。
Transition(遷移) Service Agreemen(サービス契約)の頭文字をとったものです。直訳すると「移行期間中のサービス提供に関わる契約」という意味になります。「企業の売買」という言う意味で売買契約と表現されることもあります。
実務的なM&Aの流れで考えると、売り手側と買い手側の双方が最終の契約を締結する前にある程度同時進行で合併の段取りを始めます。ただしどうしても最終契約を締結するまでに統合できない業務もあります。特にバックオフィス系の業務は、双方の企業にも取引先があるためオープンにできないこともあります。そのような業務はM&Aを対外的に公表してから進めるため、売買契約後の業務として内容を明らかにしなければなりません。M&Aはお互いの企業が「WIN-WIN」の関係でなければ円満に完了できないため、どちらかに不利益が生じるようでは円満契約とは呼べないのです。
この不利益を発生させないために、契約締結後のサービス移管期間中の契約をTSAといいます。TSAを締結することで、M&A後に「勝手にシステム等を利用し続けていると訴えられないようにする」また「顧客(取引先)に不利益を与えないよう業務を継続する」ことを保証します。
M&Aの一連の契約交渉後に行うのがTSAの一般的なタイミングです。買い手企業は合併しようとしている企業が「どの程度の価値があるのか」を知るためにデューデリジェンスを実施します。このときに、移行期間中に実施する業務を選定しリストアップします。このリストにあがってきた業務に対してTSAすることで、業務移管を円滑に行うだけでなくリスクヘッジにもなります。
実際には、最終的な契約締結の段階で一緒にTSA契約を締結します。ここで締結できなければM&A後の業務継続に支障をきたすケースがあります。最終フェーズで締結できるようデューデリジェンスと並行して行うことが理想です。最終フェーズで着手し始めるとなると、実際の業務に支障が出る可能性があります。
最近のグループ経営の傾向でもありますが、バックオフィス業務をシェアードサービスに依存しているケースも珍しくありません。その場合、名義変更等の手続きがM&Aの契約締結と同時進行できないという実務上の手順があります。またグローバルな人材確保の観点からシェアードサービスを利用しているケースもあり、優秀な人材をそのまま活用するためにM&A後も移行期間の間の猶予を設け、TSAの対象業務として契約します。
例えば譲渡対象であるA部門だけでは専門知識を有する人材を確保できず同じ企業内のB部門にあるシステムを利用している、または人材を供給してもらっているという状況だと仮定します。この場合、M&Aで売買するものが「部門」であるためこのままではB部門の人材やシステムを勝手に利用できなくなります。これを補填するのがTSAです。TSA契約を設定し一定期間B部門の人材やシステムをそのまま利用できるようにしておきます。
顧客にニーズにあわせながらコストの削減をしているというのは一般的です。サプライチェーンと似ていますが、顧客にニーズに合わせて「計画・実行・管理」をしています。経営的視点から管理しているのがロジスティックスです。需要と供給のバランスをはかっている部門ですから、M&A後も一定期間TSAの対象として業務を行うのが望ましいでしょう。
例えば、顧客に合わせて出荷のタイミングと出荷量を調整していたとすれば、この管理が崩れることで限界利益が大きく変動するケースがあります。需要過多、供給過多などがそれに該当します。そのような事態に陥らないためにもTSAの契約対象にすることをおすすめします。
グループ企業の特徴の1つに、「仕入れ・調達・物流」を一貫して行っているケースがあります。この場合、一括でまとめて仕入れを行うことで仕入れ原価を抑え、調達部門を統一することでコストを削減しています。
例えばM&A後に違う手段を取り入れるにせよ、その方法に移管するまでに時間がかかるケースがあります。この場合、仕入れをやめたり調達をやめたりといったことはできません。もちろんそのまま継続するケースもありますが、その場合には統合する時間が必要です。このような領域もTSAの対象にしておくとM&A後も安全に業務がすすめられます。
M&Aの手順は大きく分けて「交渉前・交渉中・交渉後」の3つに分けられます。最終契約はM&A交渉後に行われるもので、TSAはここに該当します。
最終契約は、デューデリジェンスで企業の状態も把握しM&Aに関する詳細条件を決定した後に締結される「最終譲渡契約書」を意味します。ここではM&Aの対象となる企業や事業の決定、それに伴う譲渡価格、各種取り決め(TSA)の取り決めを実施します。
企業の売買であれば「株式の譲渡」なので「株式譲渡契約」の締結、部門など一部事業を譲渡するのであれば「事業譲渡契約」を締結するのがこのタイミングです。どちらの契約になるかは、M&Aの内容により異なります。
自社でできない業務を外注する契約です。受託側は業務受託契約を締結します。M&Aの場合は業務受委託となり両方が発生することもめずらしくありません。M&Aの交渉段階の契約はTSAの対象となっている業務の「委託契約」になります。
例えば、合併後にバックオフィス系の業務を買い手側がそのまま引き継ぎたい(もしくは引き継がなければ業務がまわらない)という場合、業務受委託契約を締結します。このケースは珍しいものではなく、グループ企業の親会社との契約関係によってはよくあるTSAです。
M&Aは譲渡企業と譲受企業の間に仲介会社が入ります。この仲介会社は金融機関であったりコンサルティング会社だったりと特定業種に限定されていません。譲渡企業も譲受企業もまずM&Aの仲介会社を見つけることが前提条件です。
先にも触れましたがM&Aの流れは3つに分類できそれぞれ「準備フェーズ・交渉フェーズ・最終契約フェーズ」となります。TSAはこの中の「最終契約フェーズ」で取り交わします。ここでは株式譲渡の場合を例に流れを説明します。
会社を売りたい譲渡企業と会社を買いたい譲受企業は、仲介会社にそれぞれ問い合わせを入れます。簡単に表現すると「譲渡企業→仲介会社←譲受企業」というイメージです。このイメージが準備フェーズです。譲渡企業はこのときに、秘密保持契約とアドバイザリー契約を締結し企業価値評価を実施し企業概要書を作成します。売りに出す企業の価値を定めるのもこの準備フェーズです。ここで締結する契約書は次の3つが主なものであり、その他企業概要書の作成を行います。
最終目的が「M&Aの達成」であることを目的としています。開示者から得た情報を第三者に公開しないこと、M&Aの目的以外に利用しないこと、違反した場合の損害賠償について、契約期間などが明記されます。譲渡企業と仲介会社で締結します。M&Aにおいて当事者間の情報が先に外部に漏れてしまうと最終的な契約合意に結びつかないことがあります。いつ同業他社の妨害が入るとも限りません。そのためこの契約は、M&Aを完了させるための初歩的で最も重要な契約といえます。
「業務委託契約書」のことです。M&Aに係る業務を譲渡企業に代わり仲介会社が行うことが記載されています。譲渡企業と譲受企業のそれぞれに実際にM&Aをすすめる代理人を立てる場合の契約です。ここで契約を締結するとM&Aに関する全般的な疑問について回答・助言・提案がうけられます。M&Aは企業が独自に対象企業を見つけることは難しく、仲介会社のように情報を収集している「情報源」が必要です。仲介会社も秘密保持契約があるため、その情報源を契約していない企業に提供することはありません。
譲渡企業が特定されないよう匿名で要約書を作成する契約です。業種や企業規模、譲渡理由、企業の特徴で客観的に判断できるようにしています。企業名が分かると肝心な企業内容でM&Aが進めにくくなることを防止するためです。
譲渡企業の詳細が記載されえいます。作成目的は、M&Aの仲介会社が譲受企業に譲渡企業の情報を公表する目的で作成します。譲受企業にとっては譲渡企業の情報を得られる重要な資料となります。ここでは、譲渡企業が所有している資産をすべてオープンにします。企業の本来業務としての価値が仮に低くても、所有している不動産の価値により企業評価が上がる可能性があります。例えば譲受企業側が、その不動産が収益物件として活用できるとM&A仲介会社が予測できる場合には、この部分を高く評価します。
次に交渉フェーズで行うことは、この段階での最終目的となるのは「トップ会談と基本合意」です。譲渡会社が行動するのはこの2点が主であり、譲受会社が秘密保持契約や譲渡会社の企業概要書を確認し仲介会社とアドバイザリー契約を締結します。譲渡企業の情報が揃ってから譲受企業が動き出すというイメージです。ここで行う契約は次の3つです。(内容は先に説明したものと同じです)
ここでは譲受企業と仲介会社間での秘密保持契約を締結します。
事業概要や企業情報・所持している不動産・組織内容や役員個性・直近3期の決算書・主要取引先などを確認します。
ここでは仲介会社と譲受企業間での契約になります。
交渉フェーズで基本合意に至れば、デューデリジェンス、最終合意、最終契約の締結(ここでTSAも行う)、ディスクロージャーとなります。デューデリジェンスは大体2週間程度で完結します。このタイミングでTSAの対象を洗い出しておくと最終契約の時にスムーズにTSA契約も進みます。ここで行う契約は1つ、後は面談と合意等になります。
譲渡企業と譲受企業のビジネスに関する意識、企業概要書により発生した疑問点などを解消するための面談です。譲渡企業はこのときに、「将来どのような事業をしたいのか、そのために現状どうしているのか」ということを説明する場にもなります。M&Aにより従業員をそのまま引き継いで雇用する場合、ここにブレが生じると譲渡側の従業員の継続雇用が難しくなります。
譲渡価格や取引形態、今後のM&Aのスケジュールを確認します。また譲受企業が譲渡企業と独占的に交渉できる「独占交渉権」が発生します。独占交渉権が発生すると、この段階で企業の買収は決定していませんが、譲受企業側は、ある程度の買収意思を固めておく必要があります。
事業・財務・人事のほか、システムなど譲渡会社の特性を把握するためにさまざまな調査をおこないます。ここで調査した内容が最終契約の時に同時に行うTSA契約の内容につながります。
デューデリジェンスの内容をもとに、買収条件の最終確認をします。ここに至るまでに、企業価値より買収価格はある程度めどがついているケースがほとんどですが、この合意をもとに最終契約の地決をするため、契約書の締結とほぼ同時に行います。企業規模にもよりますがこの段階での最終合意は意思確認程度の場合も少なくありません。
基本合意を「確認書」と位置付ければ、最終契約の締結は譲渡価格による譲渡決定です。ここで再封契約書を締結すると、実際に株式等を利用した実際の売買実務を進めていきます。同時にTSA契約がある場合には、その契約が進行していきます。
株主などの利害関係者に経営実績、財務・業務状況を公開します。
一般的にM&Aは準備から完結まで1年程度の時間が必要とみておくのが良いでしょう。しかし企業規模によっては1年もかからず数カ月で完結するケースもあります。この1年程度という期間はTSAを含む期間です。企業規模が大きくなり、移行期間がかなりかかるという場合には1年で完結しないこともあります。
場合によってはクロージング監査や譲渡価格の修正を実施するケースもあります。クロージング監査とは、クロージング日の財務諸表に基づいてデューデリジェンスを行うことです。その結果、当初譲渡価格よりも変更がある場合はここで最終調整します。譲受企業は「少しでも安く買いたい」という希望から、買収価格を安く見積もる傾向にあり譲渡企業は「少しでも高く売りたい」という希望から高く見積もる傾向があります。その均衡を図るラストチャンスの場となります。
最終契約で締結した契約の実行フェーズになります。買収側企業は売却側企業の株主から株式を譲り受けます。対価は現金もしくは買収側企業の株式等で支払われます。
最終契約からTSAを実施し、移行期間中のTSAが完了すると本来の意味でのM&Aは完結です。
M&Aの中でも最終フェーズであるTSAについては初めて知った方も多いのではないでしょうか。M&Aはクロージングで全てが完了する訳ではなく、そこから譲渡、譲受側共に経営統合後のプロセスを経て、成功します。そのためにも、移行期間中にやることを明文化し、最終契約や業務委託契約という形で委任することが、スムーズな経営統合のポイントの一つとなります。
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