親族外承継とは、親族以外の役員・従業員や社外人材に事業承継することです。親族内承継と比べて、後継者の選択肢が多いことがメリットです。親族外承継の方法やデメリット、事例を詳しく解説します。(公認会計士 西田綱一 監修)
親族外承継とは、親族以外の人物に事業を引き継がせることです。
事業承継の方法は、親族外承継と子供や兄弟といった親族に事業を承継する親族内承継に分けられます。
また、親族外承継は「社内の役員・従業員への承継」と「社外人材への承継」に分けられます。
さらに前者は社内の役員や従業員が経営者に昇格する内部昇格とMBO・EBOに、後者は社外から経営者を招く外部招へいと企業の合併・買収を意味するM&Aに分けられます。
これらについては、後ほど説明します。
2017年版中小企業白書によると、親族内承継では、経営者交代前の経営者年齢が高く、交代後の経営者年齢がそれより低くなり、交代による経営者が若返る傾向があり、親族外承継では、おおむね同世代間での経営者交代が多いとされています。
2017年版中小企業白書によると、2011年から2015年までの事業承継については、親族外承継が親族内承継の割合を超えており、事業承継の内、約55%[1]が親族外承継です。
内部昇格は、株式はオーナーなどが保有しつつ、社内の人材を後継者とする方法です。
親族内だけでなく、会社の内外から広く候補者を求めることができる等のメリットがあります。
一方で親族内承継の場合以上に、後継者候補が経営への強い意志を有していることが重要となりますが、社内に適任者がいない可能性も小さくありません。
取引先の企業や金融機関から人を招くようなケースです。
社内に基盤がない者が後継者になることは、従業員等の反発が予想されるので慎重に選定しなければならないと言えます。
MBO・EBOはそれぞれManegment Buy Out・Employee Buy Outの略です。
MBOは経営者が、EBOは従業員が主体となり自社株式・事業用資産等の譲渡を受ける手法です。
以下の図は、MBOの一般的なスキームです。
特に長期間会社に関わっている経営者・従業員に事業を承継する場合は、経営の一体性を保ちやすいというメリットがあります。
しかし、後継者候補に株式取得等の資金力が無い場合が多いのが難点です。
株式譲渡や事業譲渡等により事業承継を行う方法です。
オーナーは会社売却の利益を得ることができること、経営責任の重圧から解放されること、個人保証から解放されるケースが多いことなどのメリットがあります。
さらに、親族や社内に適任者がいないために廃業するケースと比較し、広く候補者を外部に求めることができ、従業員の雇用を守ることができることやサプライチェーンを安定させられる点も大きなメリットです。
2019年度版中小企業白書によると、廃業した場合、36.2%[2]が100万円以上[2]の費用をかけていますが、そのような費用も不要です。
親族内に、経営の資質と意欲を併せ持つ後継者候補がいるとは限りません。
それと比較すると後継者の選択肢が多いことは大きなメリットです。
親族外承継では血縁関係ではなく、能力や意欲で後継者を選定することが可能です。
特に内部昇格やMBO・EBOの場合は経営理念・方針、組織文化を引き継ぎやすいと言えます。
自社株式の買取りには多額の資金が必要となるケースが少なくないですが、後継者が十分な資金を持っていない場合も多いです。
2019年度版中小企業白書によると、アンケートの結果、後継者候補はいるが、承継を拒否しているとの回答のうち、経営者保証が理由であると回答している割合が60%弱[2]を占めており、経営者保証が円滑な事業承継の阻害要因の一つになっていると言えます。
株式については、後継者の経営に配慮し一定程度後継者に集中させることが必要ですが、親族内株主が自分自身の議決権比率が下がるのを嫌がり、反感を買う可能性があります。
事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。[3]
「遺留分」とは、民法上、最低限保障されている相続人の取り分です。
遺留分に関する民法の特例制度を活用すると、後継者及び現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、除外合意と固定合意をすることができます。
除外合意と固定合意の両方を組み合わせることも可能です。[4]
出典:遺留分に関する民法特例のポイント(meti.go.jp)の画像を一部加工
[3]非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(nta.go.jp)
[4]遺留分に関する民法特例のポイント(meti.go.jp)
2019年版中小企業白書によると、意識的な後継者教育、特に教育に時間を要すると考えられる取組ほど、後継者のパフォーマンス向上につながりやすいとされています。
意識的な後継者教育を行うためには、十分な時間が必要であり、早めの決断が肝要だと言えるでしょう。
親族外承継は、親族内承継と比べ、事業関係者に理解してもらいにくいケースが少なくないため粘り強く対応する必要があります。
また親族外承継においては特に顧客・取引先への挨拶回りなどの信用を得るための努力がプラスに働く場合があります。
買い手にとって、M&Aは経営判断に基づき事業を拡大するための1つの合理的な手法です。
経営能力の高い第三者に事業を承継させることで、事業の存続・成長を実現できます。
ウシオ工産:鋼製の建築用建具等の製造業
丸加ホールディングス:港湾運送事業、製缶・機械部品加工業の持株会社
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業拡大
日向商運:原乳、タイヤ、肥料、雑貨、医薬品などの中長距離配送
富士運輸:大型トラックによる長距離輸送
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:売上・市場シェア拡大
ENCOM:ITシステム開発
アイティエルホールディングス:IT企業(子会社10社を有する)
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業拡大
ここまで親族外承継について詳しく解説してきました。
事例なども挙げながら説明したので、しっかりと理解できたという方もいらっしゃることでしょう。
親族外承継にもメリットがあるため、M&Aも含めて選択肢として考えていただければと思います。
(執筆者:公認会計士 西田綱一 慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、一般企業で経理関連業務を行い、公認会計士登録を行う。その後、都内大手監査法人に入所し会計監査などに従事。これまでの経験を活かし、現在は独立している。)
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