親族外承継とは、親族以外の役員・従業員や社外人材に事業承継することです。親族内承継と比べて、後継者の選択肢が多いことがメリットです。親族外承継の方法やデメリット、事例を詳しく解説します。(公認会計士 西田綱一 監修)
事業承継の手法である「親族外承継」とは
親族外承継の意味
親族外承継とは、親族以外の人物に事業を引き継がせることです。
事業承継の方法は、親族外承継と子供や兄弟といった親族に事業を承継する親族内承継に分けられます。
また、親族外承継は「社内の役員・従業員への承継」と「社外人材への承継」に分けられます。
さらに前者は社内の役員や従業員が経営者に昇格する内部昇格とMBO・EBOに、後者は社外から経営者を招く外部招へいと企業の合併・買収を意味するM&Aに分けられます。
これらについては、後ほど説明します。

事業承継(事業継承)とは?税制や補助金、方法、税金【図解で解説】
事業承継(事業継承)とは、会社の経営権を後継者に引き継ぐことです。事業承継の方法は親族内承継、社内承継、M&Aの3種類です。事業承継を行う理由、方法ごとのメリット・デメリット、流れ、税金、税制や補助金などの支援策 […]
親族内承継との違い
2017年版中小企業白書によると、親族内承継では、経営者交代前の経営者年齢が高く、交代後の経営者年齢がそれより低くなり、交代による経営者が若返る傾向があり、親族外承継では、おおむね同世代間での経営者交代が多いとされています。

親族内承継とは?メリット、デメリット、割合、税金【徹底解説】
親族内承継とは、子供や兄弟などの親族に事業を承継する方法です。一方で、親族以外に事業承継する方法を親族外承継と呼びます。関係者からの理解を得やすい点が親族内承継のメリットです。親族内承継の意味や割合、方法、税金を公認会計 […]
親族外承継の割合
2017年版中小企業白書によると、2011年から2015年までの事業承継については、親族外承継が親族内承継の割合を超えており、事業承継の内、約55%[1]が親族外承継です。

2020年最新のM&A件数、コロナ禍以降の推移を振り返る
この記事では2020年9月までのM&A成約件数や譲渡金額の推移を紹介します。2019年に譲渡金額の大きかったM&Aランキングや、自社の事業売却を検討する会社の経営者が、コロナ禍で下した決断も紹介します。レ […]

後継者がいない経営者に残された4つの選択肢と対策を徹底解説
後継者がいないことを理由に廃業する中小企業は多いです。後継者がいない企業が取り得る4つの選択肢について、メリットとデメリットをくわしく解説します。また、後継者不足の状況を解決するポイントも説明します。(公認会計士監修記事 […]
親族外承継の方法
経営のみを承継させる方法
内部昇格
内部昇格は、株式はオーナーなどが保有しつつ、社内の人材を後継者とする方法です。
親族内だけでなく、会社の内外から広く候補者を求めることができる等のメリットがあります。
一方で親族内承継の場合以上に、後継者候補が経営への強い意志を有していることが重要となりますが、社内に適任者がいない可能性も小さくありません。

従業員承継とは|方法、メリット・デメリット、流れ、成功のポイント
従業員承継とは、社内の従業員等に事業を引き継ぐ方法です。後継者候補の選択肢が多い点などのメリットがあります。公認会計士が従業員承継の方法や流れ、デメリット、株価の算定方法を詳しく解説します。 目次従業員承継とは従業員承継 […]
外部招へい
取引先の企業や金融機関から人を招くようなケースです。
社内に基盤がない者が後継者になることは、従業員等の反発が予想されるので慎重に選定しなければならないと言えます。
自社の株式を承継させる方法
MBO・EBO
MBO・EBOはそれぞれManegment Buy Out・Employee Buy Outの略です。
MBOは経営者が、EBOは従業員が主体となり自社株式・事業用資産等の譲渡を受ける手法です。
以下の図は、MBOの一般的なスキームです。
特に長期間会社に関わっている経営者・従業員に事業を承継する場合は、経営の一体性を保ちやすいというメリットがあります。
しかし、後継者候補に株式取得等の資金力が無い場合が多いのが難点です。

M&AとMBOの違い、各手法のメリットや事例をくわしく解説
M&AとMBOの違いは、買い手とメリットにあります。M&Aは新しい方法で経営を行える点、MBOは既存の知見を経営に活かせる点が利点です。M&AとMBOの違い、TOBやEBO等の手法を徹底解説します […]
M&A(第三者への株式譲渡)
株式譲渡や事業譲渡等により事業承継を行う方法です。
オーナーは会社売却の利益を得ることができること、経営責任の重圧から解放されること、個人保証から解放されるケースが多いことなどのメリットがあります。
さらに、親族や社内に適任者がいないために廃業するケースと比較し、広く候補者を外部に求めることができ、従業員の雇用を守ることができることやサプライチェーンを安定させられる点も大きなメリットです。
2019年度版中小企業白書によると、廃業した場合、36.2%[2]が100万円以上[2]の費用をかけていますが、そのような費用も不要です。

M&Aとは?目的・手法・メリット・流れを解説【図解でわかる】
M&A(エムアンドエー)とは、Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略で、「会社あるいは経営権の取得」を意味します。今回は、M&Aの意味・種類・目的・メリット・基本的な流れ・税金・ […]

会社売却のメリット・デメリット 相場や事例、従業員の処遇も解説
会社売却の方法、手続きの流れ、相場の計算方法、株式譲渡と事業譲渡の場合の違いを分かりやすく解説します。また、会社売却が従業員・経営者に与える影響も解説します。会社売却を行いたい経営者様は必見です。 目次会社売却とは?会社 […]
親族外承継のメリット
親族内承継(相続・贈与)と比べて、後継者の選択肢が多い
親族内に、経営の資質と意欲を併せ持つ後継者候補がいるとは限りません。
それと比較すると後継者の選択肢が多いことは大きなメリットです。
能力や意欲で後継者を選定できる
親族外承継では血縁関係ではなく、能力や意欲で後継者を選定することが可能です。
経営理念・方針、組織文化を引き継ぎやすい
特に内部昇格やMBO・EBOの場合は経営理念・方針、組織文化を引き継ぎやすいと言えます。
親族外承継のデメリット
後継者に自社株式を買い取るだけの資金が必要
自社株式の買取りには多額の資金が必要となるケースが少なくないですが、後継者が十分な資金を持っていない場合も多いです。
個人保証の引き継ぎをめぐって問題が生じる可能性がある
2019年度版中小企業白書によると、アンケートの結果、後継者候補はいるが、承継を拒否しているとの回答のうち、経営者保証が理由であると回答している割合が60%弱[2]を占めており、経営者保証が円滑な事業承継の阻害要因の一つになっていると言えます。
株式の譲渡をめぐって、親族内の株主から反感を買う可能性がある
株式については、後継者の経営に配慮し一定程度後継者に集中させることが必要ですが、親族内株主が自分自身の議決権比率が下がるのを嫌がり、反感を買う可能性があります。

会社売却が株主に与える影響とは?株主が行う手続きも詳しく解説
会社売却(株式譲渡)で株主は、保有する株式を買い手企業に譲渡します。会社売却が株主に与える影響やメリット、株主が行う手続き、税金を徹底解説します。また、事業譲渡が株主に与える影響も説明します。 目次会社売却(株式譲渡)が […]

M&Aのメリット・デメリットを買い手・売り手ごとに徹底解説
M&Aをする最大のメリットは時間を買えることです。買い手は新規事業や既存事業の拡大にかかる時間を買えます。売り手は投資回収・現金化の時間を短くできます。今回はM&Aのメリット・デメリットを解説します。 目 […]
親族外承継に役立つ制度
事業承継税制
事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。[3]

事業承継税制とは?猶予・免除要件やデメリットを税理士が解説
事業承継税制とは、後継者が承継した自社株式に関して、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。後継者の負担を軽減できる点がメリットです。要件や特例措置の概要、手続き、デメリットを徹底解説します。 目次事業承継税制と […]

M&Aの税務|節税できる要件や税制改正を税理士が徹底解説
M&Aの税務は、手法や適格要件などによって異なります。専門知識を要する税務は、M&Aをスムーズに進める上で非常に重要です。税理士がM&Aの税務手続きや適格要件、税務リスクについてくわしく解説します […]
遺留分に関する民法の特例
「遺留分」とは、民法上、最低限保障されている相続人の取り分です。
遺留分に関する民法の特例制度を活用すると、後継者及び現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、除外合意と固定合意をすることができます。
- 除外合意:遺留分算定基礎財産から除外する合意のこと。後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなる。
- 固定合意:遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定する合意のこと。自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者の経営努力により株式価値が増加しても、相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなる。
除外合意と固定合意の両方を組み合わせることも可能です。[4]
出典:遺留分に関する民法特例のポイント(meti.go.jp)の画像を一部加工

M&Aにおける法務の概要 関係する法律や法務手続きを徹底解説
M&Aの法務では、会社法や金融商品取引法など、さまざまな法律の規定を確認する必要があります。今回は、M&Aに関係する法律や、M&Aのプロセスで必要となる法務手続きをくわしく解説します。(公認会計士 […]
[3]非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(nta.go.jp)
[4]遺留分に関する民法特例のポイント(meti.go.jp)
親族外承継の成功可能性を高めるポイント
後継者確保・育成の期間を確保する
2019年版中小企業白書によると、意識的な後継者教育、特に教育に時間を要すると考えられる取組ほど、後継者のパフォーマンス向上につながりやすいとされています。
意識的な後継者教育を行うためには、十分な時間が必要であり、早めの決断が肝要だと言えるでしょう。
他の従業員や顧客、取引先等の関係者から理解を得る
親族外承継は、親族内承継と比べ、事業関係者に理解してもらいにくいケースが少なくないため粘り強く対応する必要があります。
また親族外承継においては特に顧客・取引先への挨拶回りなどの信用を得るための努力がプラスに働く場合があります。
M&Aによって事業の存続・成長を実現できる第三者に承継させる
買い手にとって、M&Aは経営判断に基づき事業を拡大するための1つの合理的な手法です。
経営能力の高い第三者に事業を承継させることで、事業の存続・成長を実現できます。

M&Aと事業承継の違いは?自社に合う方法を選ぶポイントも解説
近年、日本で増加傾向にある事業承継問題。後継者不在による廃業を避けるための手段のひとつがM&Aです。今回は、事業承継問題の解決策としてのM&Aの方法・メリット・デメリットをわかりやすく解説します。 目次M […]
M&Aによる親族外承継の事例3選
【製造×製造】ウシオ工産による丸加ホールディングスへの株式譲渡
譲渡企業の概要
ウシオ工産:鋼製の建築用建具等の製造業
譲り受け企業の概要
丸加ホールディングス:港湾運送事業、製缶・機械部品加工業の持株会社
M&Aの目的・背景
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業拡大
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2022年(公表)
- 手法:株式譲渡
- 結果:M&Aによって、親族内に後継者が不在でも事業承継できた。また、ウシオ工産の従業員全員の継続雇用がなされた。

ニッチな事業を集めて成長する「M&A経営」。後継者不在の地元企業を救った若手経営者
欧米の中小企業に比べ、小規模の会社の割合が高いのが日本の特徴です。技術やサービスは優れているのに、競争力が弱いと言われるゆえんでもあります。そういった中小企業の弱点を補う役目を果たしているのがM&Aです。営業ルー […]

製造業のM&A・売却動向や最新事例、価格相場を徹底解説
製造業のM&Aは、主に大手企業への傘下入りやIT化を目的に行われます。今回の記事では、製造業のM&A動向や最新・有名事例、メリット、相場、成功させるポイントをわかりやすく解説します。(中小企業診断士 鈴木 […]
【運送×運送】日向商運による富士運輸への株式譲渡
譲渡企業の概要
日向商運:原乳、タイヤ、肥料、雑貨、医薬品などの中長距離配送
譲り受け企業の概要
富士運輸:大型トラックによる長距離輸送
M&Aの目的・背景
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:売上・市場シェア拡大
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2021年7月
- 手法:株式譲渡
- 結果:M&Aによって、社内に後継者が不在でも事業承継できた。また日向商運の従業員の雇用及び荷主との取引の継続がなされた。さらにシナジーが発揮され、日向商運の宮崎県から首都圏に運送した復路の運賃について、これまでより約10~15%高くなった。他にもコストシナジーが発揮された。

運送業界の「2024年問題」を乗り越える 選択肢としての第三者承継
宮崎県で40台トラックを保有し、地域密着で運営を続けてきた有限会社日向商運は、「M&Aサクシード」を通じて、全国に108拠点、トラック2,350台以上保有する物流グループであるフジトランスポート株式会社(旧・富士 […]

運送業の売却相場はどのくらい?M&A事例や仲介会社も紹介
事業譲渡における運送業の売却相場は、「事業資産+事業利益の2〜5年分」です。そんな運送業の売却には、経営基盤の強化や事業承継の実現などのメリットがあります。今回は、運送業の現状、売却相場の出し方、事例を詳しく解説します。 […]
【IT×IT】ENCOMによるアイティエルホールディングスへの株式譲渡
譲渡企業の概要
ENCOM:ITシステム開発
譲り受け企業の概要
アイティエルホールディングス:IT企業(子会社10社を有する)
M&Aの目的・背景
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業拡大
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2020年(公表)
- 手法:株式譲渡
- 結果:M&Aによって、事業承継に適任な候補者が周りに不在であったが、事業承継できた。グループ会社としてENCOMは従業員の雇用を維持でき、また、自治権を持ちながら広島県企業として存続できることになった。

M&A成功事例40選 大企業・中小企業・業界別|2021年版
今回は大企業・中小企業別、業界別に厳選したM&A事例40選を紹介します。国内・海外の大企業事例から中小企業事例まで、譲渡・譲り受け企業の概要、M&Aの目的・M&A手法、成約に至るまでを解説します。 […]
まとめ
ここまで親族外承継について詳しく解説してきました。
事例なども挙げながら説明したので、しっかりと理解できたという方もいらっしゃることでしょう。
親族外承継にもメリットがあるため、M&Aも含めて選択肢として考えていただければと思います。
(執筆者:公認会計士 西田綱一 慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、一般企業で経理関連業務を行い、公認会計士登録を行う。その後、都内大手監査法人に入所し会計監査などに従事。これまでの経験を活かし、現在は独立している。)
M&A・事業承継のご相談ならM&Aサクシード
M&A・事業承継のご相談ならM&Aマッチングサイト「M&Aサクシード」にご相談ください。M&Aサクシードが選ばれる4つの特徴をご紹介いたします。
M&Aサクシードが選ばれる4つの特徴
- 完全成功報酬制
→M&Aが成約するまで報酬はいただきません。 - スピード成約
→最短37日、半年以内の成約が57%(2022年実績) - 「ビズリーチ」を運営する東証グロース市場グループ企業が運営
- プラットフォームだから買い手の反応もご自身でわかる
M&Aサクシードは、成約するまで無料の「完全成功報酬制」のM&Aマッチングサイトです。
M&Aマッチングサイトだから、スピード感のある会社売却を実現しています。同業種、同エリアのマッチングはもちろん、異業種やエリアの違う驚きのオファーも。
さらに、知識・経験が豊富な専任担当者が相談から成約に至るまで伴走します。ご相談も無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。