内装工事業の売却・M&A動向、メリット、事例
- 執筆者: 相良 義勝 (京都大学文学部卒 / 専業ライター)
内装工事業界ではコロナ禍による事業不安定化や後継者難などを解決する手段としてM&A(会社・事業の売却)を活用する動きが広まっています。内装工事業の現状と売却動向、メリット、最新事例を詳しく解説します。
内装工事の完成工事高は2008年後半に発生したリーマンショックにより大幅に落ち込みましたが、その後順調に回復し、2018年にはリーマンショック以前を超える水準に達しました(下図)。
こうした流れは建設業全体で見られる傾向です。
図:内装工事の完成工事高(百万円)
出典:建設工事施工統計調査 第2表 業種別完成工事高(e-Stat)
しかし、2017年頃からゼネコンの利益率の増加が鈍化し、2019年には減少に転じています。
建築資材価格の高止まりや人手不足による労務費上昇などが要因と見られます。[1]
内装工事の完成工事高が2019年に顕著な前年割れとなっているのは、こうしたゼネコンの動向や同年に行われた消費税引き上げなどの影響によるものと思われます。
2020年から続くコロナ禍の影響は建設業にも及んでおり、零細・小規模企業を中心にコロナ禍を理由とする経営破綻が数多く発生しています。[2]
コロナ禍の影響は業種により差があり、内装工事業ではマイナスの影響を受けている企業が多くを占めます。
通常であれば安定した工事需要を見込める飲食店・商業施設・宿泊施設などがコロナ禍で大きな打撃を受けたことが原因のひとつと考えられます。
こうした状況のなか、業態転換を検討する内装工事会社が少なくありません。[3]
建設業全体で若年入職者の減少と人材の高齢化が進行し、人材確保と技能承継が大きな課題となっています。[4]
2019年度の建設業構造実態調査では、内装工事業者の73.4%が人材不足を経営上の課題としてあげています。[5]
また、業種を問わず後継者難を抱えた中小企業が多く、2021年の後継者不在率は全国・全業種平均で61.5%にのぼります。
後継者不在を理由として廃業に至る例も少なくありません。[6]
なかでも建設業は後継者不在率が高く、職別工事業(内装工事業など、設備工事業以外の専門工事業)の不在率は70%程度となっています。
[1]2019年3月期決算上場ゼネコン57社 業績動向調査(東京商工リサーチ)
[2]建設業のコロナ関連破たん、ジワリと増勢をたどる(東京商工リサーチ)
[3]建設業の景気動向(2)(帝国データバンク)
[4]建設業及び建設工事従事者の現状(国土交通省)
[5]2019年度建設業構造実態調査(経営上の課題)(e-Stat)
[6]全国企業「後継者不在率」動向調査(2021 年)(帝国データバンク)
内装工事業の売却(会社株式の譲渡による他社グループ傘下入りや内装工事事業の譲渡)には、以下のようなメリットがあります。
実際に以下のような買い手との組み合わせによるM&Aが活発に行われています。
買い手側のニーズを把握したうえで、M&Aの目的や企業体質などの面で相性がよく、高いシナジー(相乗効果)が期待できる相手とのマッチングを図ることが売却を成功させる大きな鍵です。
買い手 | 買い手側の目的 |
---|---|
同業者や関連性のある建設事業を展開する企業 |
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リフォームなどの施工部門を有する不動産開発・管理会社 |
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建材・什器などのメーカー・販売会社(内装工事会社にとってサプライチェーンの上流にあたる企業) |
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ウエタニ:主に関西エリアにおいて商業施設や宝飾・高級時計などのブランド店舗を主要顧客として内装工事・家具什器製造事業を展開
AJキャピタル:あおぞら銀行と日本アジア投資が共同設立したファンド運営会社で、企業価値10億円未満を投資ターゲットとする事業承継ファンドなどを運営(ウエタニ創業オーナー引退に伴う事業承継を支援するため2019年5月に同社の全株式を譲受し、内部管理体制の構築・資金調達アドバイス・顧客紹介などを通した成長支援を実行)[7]
山元:全国の百貨店を中心とした商業施設・ブランド店舗向けの什器レンタル・販売事業などを展開[7]
譲渡企業:全国規模の営業基盤・サービス提供力を有する企業への承継による認知度向上・事業成長
譲り受け企業:営業基盤の強化[7]
三栄社:神奈川・千葉・秋田に拠点を置き、合板・建築資材販売や内装工事などの事業を展開[8]
JKホールディングス:建材卸売・小売、合板製造・木材加工、住宅設計・施工・販売、外装工事などの事業を展開する企業グループの持株会社[9]
譲り受け企業:小売セグメントの拠点拡充[8]
シコー:商業施設の内装工事監理業務を強みとする内装工事会社[10]
東宝ファシリティーズ:ビルの総合マネジメント事業(清掃、設備管理、警備、改修・設備導入・入退去工事など)、賃貸物件管理代行・施設運営代行事業などを展開[11]
譲渡企業・譲り受け企業:建設関連事業の業容拡大、技術力・営業力の強化[10]
芝産業:首都圏を含む関東地区において、大手飲食チェーンを主要顧客として店舗内装の設計・施工・監理事業を展開[12]
ヨシックスホールディングス:「や台ずし」を中核ブランドとする飲食チェーン運営事業、店舗内装などの健装事業、コーポレートベンチャーキャピタル事業を展開する企業グループの持株会社[12]
譲り受け企業:飲食チェーンのスピーディー・低コスト出店戦略を支える建装事業の強化、グループ外顧客との取引拡大[12]
HSクリエイティブ:大阪で飲食・商事・不動産事業を営む阪急産業の子会社で、内装工事業を展開[13]
東洋工藝社:名古屋市を本拠地として大型施設・マンションなどの内装工事業を展開[13]
譲渡企業: 地場の顧客との取引継続、従業員の雇用継続
譲り受け企業:友好的M&Aによる事業拡大[13]
コナン住建:建築資材販売・内外装工事などの事業を展開[14]
ヤマタホールディングス:注文住宅、不動産売買、カフェ・レンタルスペース運営、アパレル・雑貨・家具販売などの事業を展開するヤマタグループの持株会社[15]
譲り受け企業:少子高齢化により新築住宅着工数が減少していくことが予測されるなか、建築資材の仕入れ力強化と施工力の確保を通してリフォーム事業の拡大を図る[14]
築柴:近畿圏を地盤として、商業・宿泊施設や住宅などを対象とした木造専門建築造作・内装工事業、特殊合板・特注家具類の製造・施工事業を展開[16]
内外テクノス:ゼネコン大手・大林組の建設系子会社として、伝統建築なども含む広範な建築物を対象とした内外装工事業を展開し、近年ではグループ外ゼネコンからの下請工事や元請工事も強化[16]
譲り受け企業:グループの建設事業の業容拡大、木造・木質化建築分野の強化[16]
コミュニケーション開発:オフィス向けネットワーク工事・電話工事・内装工事や携帯基地局設置工事などの事業を展開[17]
サンフロンティア不動産:不動産再生・収益化事業、賃貸仲介・ビルメンテナンス・資産コンサルティングなどの不動産サービス事業、ホテル開発・運営事業、地方創生事業などを展開[18]
譲渡企業:サンフロンティア不動産のオフィスビル関連事業各部門との連携による事業伸張・技術力向上
譲り受け企業:内装・通信インフラ・5G基地局設置工事の内製化によるサービス付加価値向上、ワンストップ提供体制強化[17]
イズミ装美:東京都を中心に賃貸物件の内装リフォーム工事、共用部工事、退去時立会・清算業務などの事業を展開[19]
ハウスパートナーホールディングス:千葉県を中心に不動産管理・仲介事業を展開するハウスパートナーグループの持株会社[19]
譲渡企業:ハウスパートナーグループのノウハウ・委託先ネットワークの活用によるサービス向上
譲り受け企業:人的リソース・業務ノウハウの拡充、展開エリア・顧客基盤の強化[19]
アイエムテック:広島市に本社を置きマンションやオフィスビルを主な対象とする内装工事業を展開[20]
OCHIホールディングス:建材・住宅設備機器、空調・冷熱機器、家庭用品・繊維商品などの卸売事業、工務店・住宅会社向け建材加工事業、商業施設建設・公共事業の工事業、産業資材販売事業を展開[21]
譲り受け企業:中国地区における事業拡大、建材卸売事業・加工事業とアイエムテックの工事業の連携によるグループシナジー強化[20]
ランドウィック:大型商業施設を主な対象とする断熱・内装工事業を展開[23]
旭有機材:配管機材・各種産業向け樹脂製品の製造、配管設計・製作・施工などの事業を展開[24]
譲り受け企業:ランドウィックの断熱施工技術を取り込み、樹脂製品のひとつである発泡断熱システムのさらなる進化と施工サービス提供体制強化を図る[23]
澄川工務店:東京都多摩市地域で内装工事を主体とする事業を展開[26]
エー・ディー・デザインビルド:個人富裕層向け収益不動産ビジネスを展開するエー・ディー・ワークスグループの一員として、収益不動産の建物診断・長期修繕計画・コンサルティング・工事施工などの事業を展開[27]
譲り受け企業:グループの建設部門の事業規模拡大、施工能力向上[26]
ササオジーエス:独自のカラーマネジメントと最先端技術を駆使したグラフィック・ディスプレイ・内装の製作、展示会・店舗・商業施設・文化空間の空間設計・内装工事などの事業を展開[28]
日本創発グループ:印刷技術をベースとしてデジタルコンテンツ事業、セールスプロモーション事業、オリジナルグッズ製造・OEM事業などの総合的なクリエイティブサービスを展開する企業グループの持株会社[29]
譲り受け企業:大判加工・施工体制の拡充、増加が見込まれるサインディスプレイ需要に対する対応力強化[30]
[7]ウエタニの⼭元への承継について(日本アジア投資)
[8]三栄社の取得に関するお知らせ(JKホールディングス)
[9]グループ紹介(JKホールディングス)
[10]連結子会社による株式取得に関するお知らせ(東宝)
[11]事業紹介(東宝ファシリティーズ)
[12]芝産業株式会社の株式取得に関するお知らせ(ヨシックスホールディングス)
[13]阪急産業子会社の内装工事会社をM&Aにて取得(東洋工藝社)
[14]コナン住建の株式取得に関するお知らせ(ヤマタホールディングス)
[15]事業内容(ヤマタホールディングス)
[16]築柴の株式取得に関するお知らせ(内外テクノス)
[17]コミュニケーション開発の株式取得に関するお知らせ(サンフロンティア不動産)
[18]事業紹介(サンフロンティア不動産)
[19]ハウスパートナーホールディングスによるイズミ装美の買収について(CLSAキャピタルパートナーズ)
[20]アイエムテックの株式取得に関するお知らせ(OCHIホールディングス)
[21]グループ事業(OCHIホールディングス)
[22]2021年3月期有価証券報告書(OCHIホールディングス)
[23]ランドウィックの株式取得のお知らせ(旭有機材)
[24]製品・ソリューション(旭有機材)
[25]沿革(旭有機材)
[26]当社グループ企業による株式の取得のお知らせ(エー・ディー・ワークス)
[27]トップページ(エー・ディー・デザインビルド)
[28]業務内容(ササオジーエス)
[29]グループ事業紹介(日本創発グループ)
[30]ササオジーエスの株式取得に関するお知らせ(日本創発グループ)
内装工事業は近年成長基調にありましたが、ゼネコンの成長鈍化やコロナ禍の影響で先行きが不透明な状況となり、業態転換を模索する企業も少なからず現れています。
M&Aは事業基盤安定化や業態転換、事業承継などを実現する手段として有効であり、今後の内装工事業にとって欠かすことのできない事業戦略のひとつと言えるでしょう。
(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)
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