事業承継をわかりやすく解説|種類・成功のポイント・流れ・事例
- 法務監修: 西田 綱一 (公認会計士)
事業承継とは、現経営者が事業を後継者に引き継ぐことです。中小企業のあいだでは、経営者の高齢化に伴い、後継者不在が深刻化しています。事業承継の方法や流れ、M&Aによる第三者承継の成功事例をわかりやすく解説します。
事業承継とは現経営者が事業を後継者に引き継ぐことです。
経営権、資産・負債、ヒトなど事業に関わるあらゆるものが事業承継の対象です。
しかし昨今後継者がいない後継者問題が大きな課題となっています。
平成26年経済センサス-基礎調査によると、中小企業は日本の企業数の約99%(小規模事業者は約85%)、従業員数の約70%(小規模事業者は約24%)を占めています。[1]
日本全体において、いかに中小企業が重要な存在かを示す数字です。
参考:事業承継ガイドライン (中小企業庁)をもとに弊社作成
また企業の経営の担い手の年齢について見てみると、59歳以下の経営の担い手は、1992年から2017年にかけて約45%減少しています。他方、60歳以上の経営の担い手は、同じ期間に約25%増加しています。
2017年時点では、60歳以上の経営の担い手の数は59歳以下を上回っています。[2]
そして経営者が60 代の企業のうち、約半数の企業が後継者不在です。
また、2 割強の企業が事業承継について考えていない状況です。[3]
出典(以下特段記載がなければ同様):中小企業経営者のための事業承継対策 (中小機構)
これらの状況から考えて、後継者問題を解決するための事業承継の円滑化に向けた取組は経営者、国・自治体等、すべての当事者にとって喫緊の課題です。
[1]事業承継ガイドライン (中小企業庁)
[2]2019年度版中小企業白書 (中小企業庁)
[3]中小企業経営者のための事業承継対策 (中小機構)
親族内承継とは子供や兄弟等の親族に事業を承継する方法です。
親族外承継とは親族以外に事業を承継する方法です。
M&Aは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称です。
M&Aによる第三者承継は中小企業の事業を、M&Aの手法により、社外の第三者である後継者が引き継ぐことです。
| メリット | デメリット | 留意点 |
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親族内承継 |
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親族外承継 |
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M&Aによる第三者承継 |
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参考:中小企業経営者のための事業承継対策 (中小機構)をもとに弊社作成
業績には問題がないのに後継者問題が原因で廃業してしまう企業が存在します。
そのような企業がやむを得ない廃業に至ることなく、円滑な事業承継を実現するためには、早期に事業承継の計画を立てる必要があります。
そして、後継者の確保を含む準備への着手が不可欠です。
後継者の育成期間も含めると、事業承継の準備には約5年~10年必要です。
平均引退年齢が70歳前後であることを踏まえると、60歳頃には事業承継に向けた準備に着手したいところです。[1]
事業承継においては、先代経営者から後継者に対し、株式や事業用資産を贈与・相続により移転する方法が一般に用いられています。この場合、贈与税・相続税の負担が発生します。
しかし事業承継直後の後継者には資金力が不足していることが少なくありません。
場合によっては会社財産が後継者の納税資金に充てられるケースがあります。
この場合、事業承継直後の会社に多額の資金負担が生じることとなります。
これは事業承継の大きな障害となりえます。
この理由から資金・税金の対策を徹底する必要があります。
なお、税金対策としては「事業承継税制」が役立ちます。
事業承継税制の概要は以下のとおりです。
中小企業の多くは、事業承継についての専門知識を有していません。
仮に事業承継に関心があるとしても、具体的にどう行動すれば良いか分からず、結局そのまま事業承継を断念してしまうケースがあります。
事業承継についての専門知識を有する支援機関は、そのような中小企業の意思決定やその後の諸手続の段階において適正にサポートする必要があります。
また事業承継の当事者にとっては専門家からのサポートの最大限の活用が大きなポイントです。
経営状況と事業承継の課題を把握します。
経営状況の把握にあたっては、下記の取組等が有効です。
事業承継の課題の把握では以下の取組等が求められます。
次に事業承継に向けた企業価値の磨き上げを実施します。
下記の取組等が有用です。
親族内承継等では、事業承継計画を策定します。
今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討や事業承継の時期等を盛り込んだ事業の方向性を検討し、事業承継計画書を作成します。
一方で、M&Aによる第三者承継では、M&Aの相手(買い手)とのマッチングを実施します。
把握された課題を解消しつつ、事業承継計画やM&A手続き等に沿って資産の移転や経営権の移譲を実行します。
事業承継を終えたら、円滑な会社経営の実現と、事業のさらなる成長や発展を目指せるような取り組みを実施する必要があります。
親族内承継等では、後継者が持つ新たな視点による事業の見直しが必要です。
具体的には、先代経営者が培ってきた既存事業を活かしつつ、新しい分野の開拓等の施策が有効です。
一方でM&Aによる第三者承継では、PMIと呼ばれる手続きを実施します。
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後の一定期間内に行う経営統合作業のことです。
日向商運:原乳、タイヤ、肥料、雑貨、医薬品などの中長距離配送
フジトランスポート:大型トラックによる長距離輸送
トラック保有台数:グループ総数2,350台(2021年7月)
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:売上・市場シェア拡大
石川総研:低温調理器「チャーシューメーカー三つ星くん」の製造販売事業など
大和精工:機械製品組み立て・自動車部品機械加工
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業拡大のため
西商店:石油製品販売事業
SAKAEホールディングス:石油製品販売事業・自動車整備事業・新車・中古車販売事業等
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業成長のため
ここまで事業承継について説明しました。
図や実例を用いて説明を行ったため、しっかりとイメージできた方もいらっしゃることでしょう。
実際に事業承継に当たる際は出典としてリンクを示した公的機関のホームページもご参照ください。
今回の記事が皆様の事業承継に対する理解を深めるきっかけになれば幸いです。
(執筆者:公認会計士 西田綱一 慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、一般企業で経理関連業務を行い、公認会計士登録を行う。その後、都内大手監査法人に入所し会計監査などに従事。これまでの経験を活かし、現在は独立している。)