- 静岡県
- 大阪府
- 製造業
「ものづくり大国日本」を支えてきた地域の中小製造業ですが、経営者の高齢化や後継者不在など、資金調達だけでは解決できない局面を迎えています。しかしここ数年の流れを見ると、中堅・中小製造業のM&Aは増加傾向にあり、M&Aが状況をドラマチックに変化させる効果をもたらしていることがわかります。今回紹介するのは、製造業のメッカである東大阪の中堅企業と、アイディアで勝負してきた社員4名の小規模企業との、ものづくりの未来に向けたタッグです。大和精工株式会社 代表取締役社長 池田 圭宏 氏と株式会社石川総研 代表取締役 石川 雄策 氏、妻の悦子 氏に話を聞きます。(2021年12月公開)
M&Aサクシードと日本政策金融公庫、2つの強力なバックアップ
――会社の事業概要を教えてください。
大和精工 池田 1934年、大阪市でものづくり企業として創業しました。現在の売上げは約160億円、社員数は約400名です。国内の工場の他にフィリピンや中国など海外にも展開しています。事業の内訳ですが、売上げの約半分が自動車のエンジン等機能部品の機械加工、40%が農業、建設機械の組立です。残りの10%が省力化機器で、その主な製品である業務用自動炊飯器機「ライスロボ」は高い国内シェアを誇ります。
石川総研 石川(雄) 父親が起こした鉄工所から数えて約60年になります。現在の社員は4名、売上げは約4,000万円です。かつてはクーラーを中心に、大手家電メーカーの生産ラインの立ち上げや機械の製作を行っていましたが、冷夏などで経営的に安定しない場面も多く、10年ほど前に鉄工所を清算し、オリジナルの製造装置を製作する石川総研に業態転換しました。低温調理器「チャーシューメーカー三つ星くん」の製造販売事業と解繊機(紙や木の繊維を切らずに微粉砕する機械)を手がけています。「三つ星くん」は全国の人気ラーメン店で採用されるまでに育ちました。特化した製品や技術がないとローカルでは生き残っていけません。
――石川総研様は、なぜ事業譲渡を考えるようになったのでしょうか?
石川(悦) 私たち夫婦はともに70代で、2人の娘は会社を継ぐ意思はありません。事業を承継する人も見つからないので、実は廃業することも選択肢にしていました。「三つ星くん」と解繊機の二刀流をこなすには、担当する人材もなく厳しい状況でした。
日本政策金融公庫の担当者が「このまま廃業させてしまうのはもったいないですね」と心配してくれ、何度となく相談に乗ってくれていました。コロナ禍でのんびりもしていられない中、M&Aの存在を知らされ、併せてM&Aサクシードを紹介してくれたのです。
製造業を取り巻く時代の急変。新たな領域を拓くための「M&A経営」
――石川総研様の何に魅力を感じられて、M&Aを決めたのでしょうか?
池田 脱炭素という時代の流れで、自動車のエンジン関連事業は縮小のフェーズに入っていきます。その減少分を取り戻しさらにプラスに変えていくために、「M&A経営」を選択肢に置いていました。
当初は大手のM&A仲介会社に探してもらっていました。その時点では「可能性を探る」というレベルで、明確なターゲットは絞り込めていなかったこともあり、具体的な企業像を把握してもらっていなかったので、紹介された案件はどれもピンと来ませんでした。M&A仲介会社はピンポイントでの提案が中心になり、イエスかノーになってしまいがちです。そこで、こちらのニーズが定まっていない中、いろいろ探してみたいと考えていました。
そんな時、試しにM&Aサクシードを見てみたところ、いろいろな譲渡案件が掲載されていて、自分で見ることができ「これはいい」と、すぐに会員登録しました。そこで目に留まったのが石川総研様の「三つ星くん」です。低温調理器について調べると、ユニークな製品であることがわかってきました。当社の定番商品である「ライスロボ」は、実は街の発明家がうちにアイデアを持ち込んでできたものでした。人間が行う作業を簡単にする省力化機械は作ってきましたが、誰がやっても結果が決まっている省力化機械とは異なり、使い手の工夫次第で付加価値をつけられる製品を扱ったことはありません。厨房機械の製品群を増やしつつ新たな領域に挑戦できると感じ、すぐにM&Aサクシードで石川総研様に問い合わせをしました。
――「三つ星くん」はどういう発想で生まれたのですか?
石川(雄) 静岡県伊豆市で「イズシカ問屋」というジビエ・鹿肉のプロジェクトが立ち上がったのですが、生肉は低温熟成で処理することになり、それに対応したのが「三つ星くん」でした。ただそれだけでは数台で終わってしまう。どうしたら販売台数を増やせるかの試行錯誤で、ラーメン屋さんのチャーシューへの拡張にたどり着きました。
「譲り受けて損はない」。目に見えない付加価値に将来性を見出す
――今回の事業譲渡では、設備は譲渡せず、商標権、製造販売権、既存取引先、図面などのいわゆる「アイディア」が譲渡対象でした。
池田 M&Aでアイディアを譲り受けるのは、製造機械関連ではそんなに珍しい話ではありません。
石川(雄) 大和精工様は譲り受け候補企業の3社目でした。初めの2社は帳簿的な評価だけでしたのであまり気乗りしませんでした。しかし大和精工様は目に見えない価値と将来性も評価してくださり、「三つ星くん」をもっと大きくしてくれるのではと期待が持てました。
いくつかの部署の方ともやり取りをさせていただきました。多面的にうちをみてくださり、積極的に対応してくれました。組織として信頼が持てましたし、何よりも皆さんの人情味に惹かれました。大阪人ならではのお笑い混じりの会話に、いつの間にか心地よく巻き込まれていたんですね(笑)。心意気が素晴らしくて、ぜひお任せしたいと考えるようになりました。
池田 お話しする中で、ご夫妻が「三つ星くん」に大変愛着を持たれていることが伝わってきました。「自分の子どもを嫁入りさせる」――そんな親心が感じられ、私たちが譲り受けた後でも、ずっと「三つ星くん」に関わっていただけそうだと思いました。機械を買ってバラせば、同じものを作ることはできるでしょう。しかし、それではものづくりの背後にあるノウハウや可能性を見つけることは無理です。目に見えない付加価値を譲渡金額に含み入れるべきだと判断しました。商人的な言い方になりますが、「譲り受けて損はない」と思えたのです。
不安を解消する、M&Aサクシードのサポート
――M&Aサクシードのサポート体制はいかがでしたか?
石川(悦) M&Aは当然初めてです。右も左も分からず、周りに相談できる人もいない。ウチのような小さな会社にお付き合いしてくれるのかと不安だったのですが、M&Aサクシードの担当者は、どんなことでも細かく優しく応じてくれました。エントリー後、譲り受け企業の一覧が日々更新されるのを見て、「こんなにたくさんの企業が興味をもってくれるんだ」とびっくりしました。交渉が開始されてからも「次はこうしたらいい」「あれからどうなりましたか?」とずっと寄り添ってくれて・・・のんびりしていられないほどでした(笑)。そのおかげで短い時間で成立まで行けたのだと思います。
石川(雄) 自分で自分の会社の評価額を出すのは難しいんですよ。相場など知らないですから。でもM&Aサクシードのスタッフは本当に丁寧に教えてくれました。
石川(悦) 日本政策金融公庫の方からもアドバイスをいただきました。M&Aサクシードと日本政策金融公庫の両方の計算の仕方を聞くことができ、セカンドオピニオンになりました。
――小規模企業の場合、情報のリソースがないことがM&Aを躊躇させているように感じます。
石川(悦) 人脈に頼っていると情報は入ってきません。M&Aサクシードは譲り受け企業の範囲が非常に広く、人的余裕がなく人づてがない場合でも、会社情報がいつも見られるようになっています。ネットが苦手な方は直接、M&Aサクシードに電話で問い合わせてもいいし、日本政策金融公庫に相談してもいいのではないでしょうか。
池田 広く情報を得られるという意味では、M&AサクシードはM&Aの全体的なトレンドを手軽に見られるところがいいですね。興味がある会社とのやりとりは基本的にメールです。いきなりお会いすることはないので、断る際も心理的な負担が少ない。ある意味、敷居は低いので、まずはエントリーすることをおすすめします。
M&Aは「個性的な技術」を残す大きなチャンス
――各地で中小の製造業が困難な局面にあります。
石川(悦) 日本のものづくりが絶滅危惧種のように廃れていくという光景を今、目の当たりにしています。職人たちが工夫し努力して積み重ねてきた個性的な技術を残して欲しい。諦める前に新しい企業と巡り合って欲しい。お互いのよいところを補い合えば、必ず事業は発展します。出会いの場であるM&Aサクシードを利用する会社が増えることを願っています。
――東大阪はものづくりのメッカとして知られています。M&A経営は日本のものづくりをどう活性化させるでしょうか。
池田 製造業はつまるところ人です。ものづくり主体の中堅・中小企業は人材集めに苦労をしています。技術者不足で、技術の伝承に不安があることは否めません。しかも大企業との人材獲得競争も避けられない。M&Aはその状況を変える有効な手立てになるはずです。技術も人も、M&Aで解決できる場面は多いと思います。私たちのような規模の会社は、後継者のいない小規模の会社をもっともっとお助けしていかなければならない立場です。「M&A経営」を積極的に行うことで、ものづくりの未来を明るくしていきたいですね。