太陽光発電業界のM&A動向・事例15選
- 記事監修: 相良 義勝 (京都大学文学部卒 / 専業ライター)
太陽光発電の新規開発には停滞感があり、既設太陽光発電所・太陽光発電事業を対象とするM&Aの動きが活発化しています。太陽光発電業界の現状とM&A動向、近年のM&A事例をくわしく解説します。
太陽光発電システムで発電した電力の売買方法には、国の定めた価格制度(FITなど)に基づく方式と、一般市場での取引(卸電力取引所を介した取引、電力会社との相対取引)があります。
現在の再生可能エネルギー取引は、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)による売買が基本となっています。
FITの認定を受けた太陽光発電事業者は、一定期間、市場価格よりも高額な固定価格で発電した電力を電力会社に販売できます。 [1]
出力規模が比較的小さい発電施設については国が価格(1kWh当たりの電力調達価格)を定め、一定規模以上のものについては入札により価格が決定されます。
電力会社は余分な調達コストを拠出することになりますが、このコストは電気使用者が使用量に応じて支払う「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」によりまかなわれます。
FIT制度により太陽光発電導入のリスクが下がり、ある程度安定した運営が保証されることで太陽光発電導入が推進されるというメリットがある一方で、再エネ賦課金の負担増大という問題が生じています。
また、FIT価格は年々低下しており[2]、事業用太陽光のFIT認定量も大幅に減少しています(図1)。
図1:事業用太陽光発電FIT認定量
出典:太陽光発電の現状と自立化・主力化に向けた課題(経済産業省)
FITは再生可能エネルギーの導入促進を目的とした制度で、電力市場からは切り離されています。
将来的には再生可能エネルギー市場がFITから自立し、一般の電力市場に統合されることが目指されており、それを踏まえて2022年4月から市場連動型の価格制度であるFIPが導入されます。[3]
FIPでは卸電力取引所での取引や電力会社との相対取引により電力を売買することになりますが、売買価格は市場価格に一定の補助額が上乗せされた額となります。
FITの売電価格が下落していることなどから、企業の間では価格制度外の取引を模索する動きが広まっています。
価格制度外取引の手法として注目されているものにPPA(Power Purchase Agreement)があります。
PPAとは、発電事業者と電力購入者の間の合意に基づき、一定期間、一定の価格条件で電力の売買を行う契約方式です。
PPAを用いれば、発電事業者・電力購入者は発電・電力調達に関するキャッシュフローを中長期的に固定できるため、事業の安定化につながります。
PPAにはオンサイトPPAとオフサイトPPAがあります。
オンサイトPPAでは、発電事業者が費用を負担して電力購入者の敷地内に発電設備を設置し、運転・維持管理を行い、PPA契約に基づいて電力購入者に電力を供給するとともに、余った電力は電力会社に販売します。[4]
オフサイトPPAでは、電力購入者の敷地ではなく外部(オフサイト)に発電設備を設置し、一般の電力系統を介して購入者に電力を供給します。
オンサイトPPAよりも大規模な電源開発・電力調達を行いやすいのがメリットです。[5]
今後はFIT・FIPによる取引とPPAなどの制度外での取引の動きが絡み合い、太陽光電力取引市場が複雑化していくことが予想されます。
近年の住宅用太陽光導入件数はピーク時(2012年7月~2013年)と比較して半減しています(図2)。
新築住宅の着工件数が減少傾向にあることから、住宅用太陽光の導入件数は今後さらに減少していく可能性があります。[6]
図2:住宅用太陽光(10kW未満)導入件数
出典:太陽光発電の現状と自立化・主力化に向けた課題(経済産業省)
事業用太陽光発電も新規導入は停滞している状況です。
2012年以降事業用太陽光発電の新規導入(稼働開始)が進み、2014年度には新規導入発電容量が8.4GWとなりましたが、その後下落し、近年は5GW程度で横ばいに推移しています。
近年の新規導入量の大半はFIT認定済み発電施設が未稼働設備の稼働を開始したことによるものであり、事業用太陽光発電事業そのものの新規開発は停滞気味です。
アンケート調査でも、発電事業者の新規開発意欲が低迷していることが示されています。[6]
ただし、太陽光発電の導入ポテンシャルは依然として大きいと考えられ、今後の展開が期待されます。[7]
太陽光発電にかかるコストは2014年以降大幅に低減したものの、世界平均に比べて日本の太陽光発電コストはまだ高い状況です。
また、近年はコスト低減スピードが鈍化しています。[2]
FIT制度のもとでは電力の需給管理は送配電事業者が担っているケースが大半ですが、太陽光電力取引がFITからFIP、さらには一般市場へと移行すれば、発電事業者や小売事業者も需給管理を行うことが必要になります。
小規模な事業者が需給管理を行うことは困難であるため、分散する発電所や蓄電池を集約・管理するエネルギーアグリゲーション関連ビジネスの重要度が高まると予想されます。
国もアグリゲーションビジネス活性化の推進に乗り出しています。[8]
[1]固定価格買取制度等ガイドブック2021年度版(経済産業省)
[2]再エネの現状と調達価格等算定委員会論点案(経済産業省)
[3]FIP 制度の開始に向けて経済産業省)
[4]初期投資0での自家消費型太陽光発電設備導入(環境省)
[5]オフサイトコーポレートPPA(環境省)
[6]太陽光発電の現状と自立化・主力化に向けた課題(経済産業省)
[7]エネルギー市場動向2021(野村総合研究所)
[8]アグリゲーションビジネス活性化(経済産業省)
FITの売電価格が年々下落していることや、太陽光発電の新規導入・コスト低減の推移に停滞感があることから、発電事業者や投資家などの間では発電所新設の代わりに稼働済み発電設備・発電事業の取得を検討する動きが広まっています。
太陽光発電所の自社保有件数を増大させることは太陽光発電事業拡大の基本戦略のひとつでもあります。
矢野経済研究所の調査によると、既設太陽光発電所の売買市場(セカンダリー市場)は急速に成長しており、買い手側の需要が上回って売り手市場の様相を呈しています。[9]
M&Aによって太陽光発電事業を取得しようとする動きも活発です。
太陽光・再生可能エネルギー専業企業や、電力会社(大手・新電力)、太陽光発電ビジネスも手がける不動産開発会社などが、PPAやアグリゲーションの事業化なども念頭に置きつつ、太陽光発電関連企業の買収を進めています。
買収ではなく資本業務提携という形で協業展開を図る例もあります。
ノンコア事業・新規事業として太陽光発電事業を手がけてきた企業のなかには、コロナ禍による主力事業圧迫などを受け、経営資源の選択と集中のために太陽光発電事業を売却する動きも見られます。
太陽光発電関連企業と異業種企業によるM&Aも少なくありません。
以下のような例が代表的です。
SARL Ciel et Terre International:水上太陽光発電施設の開発・販売・設置・メンテナンスを主力事業とするフランス企業で、日本ではCiel Terre Japanを通して事業を展開[10]
東京センチュリー:総合リース・レンタル、ファイナンス、海外進出支援、ITソリューションなどの事業を手がけ、京セラとの共同出資により設立した子会社を通して太陽光売電事業を展開[11]
譲渡企業・譲り受け企業:2015年の資本業務提携締結以来の協業関係を拡大し、FIT・FIPやPPAなどを活用しつつ水上太陽光発電ビジネスの共同展開を図る[10]
日本ライフサポート:個人住宅向け太陽光発電関連システムの販売・施工、産業用太陽光発電事業、電力卸売事業などを展開[12]
WWB:総合的なグリーンエネルギー事業を展開するAbalanceグループの一員として、太陽光発電システム関連製品の企画・製造・輸出入・販売・施工などのサービスをワンストップで提供[12]
譲り受け企業:産業用太陽光発電分野での事業伸張、バリューチェーン拡充によるソリューションサービス提供体制構築[12]
Plus one percent:東日本を中心に太陽光発電システムの開発・販売・保守管理事業などを展開[14]
フィット:四国・西日本エリアを中心に、個人投資家などに向けた小規模太陽光発電所・土地のセット商品販売事業、太陽光パネル付きスマートホーム販売事業などを展開[15]
譲り受け企業:東日本における統合的な事業拠点の確立、部材調達・販売網の共有による運営効率化[14]
オランジュ:半導体検査装置事業などを手がけるウインテストの子会社で、太陽光発電システムの運転管理・保守点検(O&M)事業を展開[17]
エネプライム:低圧太陽光発電システムの販売・施工・メンテナンス、小型風力発電システムの販売・施工などの事業を展開[18]
譲渡企業:親会社ウインテストによる選択と集中(FIT売電単価下落やコロナ禍での営業活動制約により業績が低下したO&M事業を切り離し、半導体検査装置事業へ経営資源を集中)[17]
カンパニオソーラー:自社保有太陽光発電所による売電事業などを展開[19]
バローズ:総合的なグリーンエネルギー事業を手がけるAbalanceグループの一員として、太陽光発電所の設計・建設・運営・コンサルティング、太陽光発電関連機器の企画・設計・設置・販売・メンテナンスの事業を展開[19]
譲り受け企業:太陽光発電所の自社保有化(ストック型ビジネスモデルへのシフト)の更なる推進[19]
サンエイエコホーム:太陽光発電設備を中心とする再生可能エネルギー発電システムの設計・施工・販売・維持管理事業を展開[20]
ダイキアクシス:水処理を中心とする環境機器の開発事業、水回りを中心とする住宅機器卸売事業、再生可能エネルギー事業(小型風力発電・太陽光発電・廃油再利用バイオディーゼル燃料)などを展開[21]
譲り受け企業:再生可能エネルギーの複合的・効率的利用の推進、再生可能エネルギーに関するソリューションのワンストップ提供体制構築[20]
ACAクリーンエナジー(現レーベンクリーンエナジー[22]):小規模太陽光発電施設開発事業を全国で展開し、近年ではオンサイト型・オフサイト型PPAなどの非FITビジネスモデル構築を推進[23]
タカラレーベン:マンションや戸建て住宅の開発・企画・販売、ホテル運営、メガソーラー発電所開発などの事業を展開[24]
譲り受け企業:再生可能エネルギー発電・供給事業のさらなる拡大[23]
[10]シエル・テールグループとの協業拡⼤(東京センチュリー)
[11]サービス紹介(東京センチュリー)
[12]当社連結子会社における事業譲受(Abalance)
[13]2022年6月期第2四半期報告書(Abalance)
[14]Plus one percent の株式取得(フィット)
[15]サービス一覧(フィット)
[16]第14期第2四半期報告書(フィット)
[17]2021年12月期 第3四半期報告書(ウインテスト)
[18]事業内容(エネプライム)
[19]カンパニオソーラーの株式取得(Abalance)
[20]サンエイエコホームの株式取得(ダイキアクシス)
[21]事業紹介(ダイキアクシス)
[22]沿革(タカラレーベン)
[23]ACAクリーンエナジーの株式取得(タカラレーベン)
[24]事業内容(タカラレーベン)
日本太陽光発電:太陽光発電システムの設計・施工・運用・保守・管理の一括請負事業を展開[25]
シーラホールディングス:投資用マンションを中心とした不動産開発事業を展開するシーラグループの持株会社[25]
譲り受け企業:不動産開発と組み合わせたエネルギー事業の新規展開、太陽光発電施設の投資商品化[25]
MIRAI-LABO:太陽光路面発電、リユースEVバッテリー、バッテリー無瞬断切替、省エネ照明などの技術を軸に、パートナー企業との協働により自律型エネルギーインフラなどの環境プラットフォームを構築[26]
やまびこ:小型屋外作業機械、農業用管理機械、一般産業用機械の製造・販売事業を展開[27]
譲渡企業・譲り受け企業:MIRAI-LABOの自律型エネルギーインフラとやまびこの発電機の組み合わせによる全天候型・耐災害自律エネルギーシステムの開発・事業化と、MIRAI-LABOのリユースEVバッテリーの活用による屋外作業機械用移動型充電バッテリーシステムの開発・事業化[26]
チェンジ・ザ・ワールド:営農型太陽光発電所の開発事業、Webサイト・スマホアプリを通して太陽光発電所に1ワット単位で投資できるサービス「CHANGE」の事業などを展開[28]
メディカルネット:歯科医療情報ポータルサイト運営、歯科クリニック経営支援などの事業を展開[29]
TEAM ENERGY:脱炭素・サステナビリティ関連企業を初めとする多業種グループ企業の共同体的経営管理事業を展開[30]
GCストーリー:看板・販促・再生可能エネルギー関連施工事業と介護事業を展開[31]
RYOENG:再生可能エネルギー発電と排水・汚泥処理の事業を展開[32]
譲渡企業:プロダクト開発強化・事業連携強化・人材採用などのための資金調達
本郷工業:建築土木工事、太陽光・蓄電池の設置、太陽光発電用モジュール・架台の開発・製造などの事業を展開[33]
関西みらい2号投資事業組合:りそなキャピタルと関西みらい銀行が事業引継ぎ支援を目的として共同設立したファンド[33]
譲渡企業:後継者への事業承継の円滑化、持続的な事業発展[33]
四つ葉電力:歯科医院・歯科技工所を主要顧客として診療用品通信販売や電力販売の事業を手がける歯愛メディカルの子会社で、電力小売、新電力立ち上げ支援などの事業を展開[34]
新潟県民電力:歯愛メディカルの子会社で、新潟県内において地域最安値を掲げて一般家庭・法人向け電力供給事業を展開[34]
Loop:電力小売、屋根置き太陽光発電システムの設置・PPA、発電所の設計・建設・保守、太陽光を初めとした再生可能エネルギーの電源開発・発電所買取などの事業を展開[35]
譲渡企業:2021年初頭からの寒波と発電燃料不足により卸電力価格が急騰し、新電力事業の環境が不透明化するなか、親会社および譲渡企業2社の経営資源最適化を図るために譲渡を決定[34]
七つ森ふもと舞茸(旧農事組合法人麓上舞茸生産組合):宮城県黒川郡で舞茸を初めとする農産物の生産・販売事業を展開[37]
プロジェクトウサミ:太陽光発電システム機器・オール電化システム機器の販売・施工、エコ住宅リフォームなどの事業を展開[38]
譲渡企業:後継者不在問題の解消、事業のさらなる発展
譲り受け企業:営農型太陽光発電やスマート農業への進出[37]
ネクステムズ:沖縄県宮古島地域を中心に、太陽光発電システム・蓄電池・エコキュートなどの機器販売事業と、再生可能エネルギーのアグリゲーション事業を展開[39]
沖縄電力:沖縄地域において発電・電力小売・送配電事業を展開[40]
譲り受け企業:ネクステムズのアグリゲーション事業の知見・実績を活用しつつ、電力事業において再生可能エネルギーの主力化を図る[39]
RYOENG:産業廃棄物の脱水・固液分離を行う高圧真空脱水装置の開発事業、高含水バイオマスの再生エンジニアリング事業、バイオマスボイラーによる熱利用事業などを展開[41]
会津太陽光発電(現RYOENG[32]):太陽光発電を初めとする再生可能エネルギー発電装置の販売・施工事業などを展開[41]
譲渡企業・譲り受け企業:環境・温暖化対策関連事業での協業[41]
[25]日本太陽光発電の全株式取得(シーラ)
[26]やまびことの資本業務提携(MIRAI-LABO)
[27]事業紹介(やまびこ)
[28]総額2億円の資金調達(チェンジ・ザ・ワールド)
[29]企業情報(メディカルネット)
[30]コンセプト(TEAM ENERGY)
[31]事業案内(GCストーリー)
[32]事業拡大に伴う社名変更(RYOENG)
[33]本郷工業への投資実行(りそなキャピタル)
[34]非連結子会社2社の異動(歯愛メディカル)
[35]サービス(Looop)
[36]沿革(Looop)
[37]農業法人のM&A案件成約(七十七銀行)
[38]サービス内容(プロジェクトウサミ)
[39]ネクステムズへの出資(沖縄電力)
[40]会社概要(沖縄電力)
[41]RYOENGの完全子会社化(会津太陽光発電)
太陽光発電業界においては、FIT価格の下落や発電施設新規導入・コスト低減の鈍化などを背景として、既存の発電所・発電事業をM&Aで取得する動きや、同業者・異業種企業との提携により新事業創出を図る動きが広まっています。
こうした動きは今後ますます活発化するものと予想されます。
(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)
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