デイサービス売却・M&Aの動向やメリット、相場、最新事例
- 記事監修: 相良 義勝 (京都大学文学部卒 / 専業ライター)
介護報酬改定などの影響で経営環境が悪化するなか、デイサービス業界では経営戦略としての事業売却が注目されています。デイサービス業界の現況や売却・M&Aのメリット、動向、相場、近年の事例を徹底解説します。
デイサービス(通所介護)とは、日帰りの介護・機能訓練サービスを提供する事業を指します。
通例は利用者を送迎するサービスが含まれます。
2021年現在の介護保険制度においては、デイサービスは都道府県・政令市・中核市が管轄するものと市区町村が管轄するものに分けられ、以下のように細分されています。[1]
管轄 | 名称 | 類型・規模要件 |
---|---|---|
都道府県など | 通所介護 | 通常規模型 月間延べ利用者数300超~750人 |
大規模型Ⅰ 月間延べ利用者数900人以内 | ||
大規模型Ⅱ 月間延べ利用者数900人超 | ||
市区町村 | 地域密着型通所介護 | 利用定員18人以下 |
認知症対応型通所介護 | 単独型 | |
併設型(特別養護老人ホーム・病院などに併設の事業所で実施) | ||
共用型(認知症対応型共同生活介護事業所などの食堂・共同生活室を使用して実施) |
認知症対応型通所介護は認知症専門のデイサービスで、それ以外は認知症患者を含めた一般の要介護者を対象としています。
福祉医療機構が貸付先の介護事業所を対象に実施した調査によると、2019年度の通所介護事業者の内訳は以下のようになっています。
図1:2019年度 通所介護事業規模別施設数・構成割合(上は一般要介護者向け、下は認知症対応型)
出所:2019年度通所介護事業所の経営状況について(福祉医療機構)
デイサービス事業所の利益率(サービス活動増減差額比率)は以下のように全体的に下降気味で推移しています。
図2:2013~2019年度 通所介護のサービス活動増減差額比率の推移(平均)
出所:2020 年度介護・福祉施設の経営状況(速報)(福祉医療機構)
経常赤字の割合もかなり高いものとなっており、とくに小・中規模事業者の経営状況の厳しさが見て取れます(下表は2019年度)。 [2]
事業者区分 | 経常赤字割合(%) |
---|---|
地域密着型 | 41.8 |
通常規模型 | 39.2 |
大規模型(Ⅰ) | 21.0 |
大規模型(Ⅱ) | 22.1 |
認知症対応単独型 | 31.3 |
認知症対応併設型 | 27.3 |
2020年にはコロナ禍の影響で利用率が落ち込み、通常規模~大規模の事業者で利益率が大幅に低下しました。[3]
近年の介護報酬改定は全般的に切り詰めの方向に流れていると言えますが、2015年度改訂はとくにデイサービスにとって厳しい内容となり、その後の改訂で部分的にプラス方向の見直しがあったものの、逆風と言える状況が続いています。
この流れが利益率の推移に大きく影響しています。
介護報酬における各種加算の算定率は概して大規模事業者のほうが高く、事業規模が大きくなるにつれて効率的な経営が成り立ちやすくなることが見て取れます。[2]
近年の厳しい経営状況を反映し、倒産を余儀なくされるデイサービス事業者も少なくありません。
老人福祉・介護事業全体の年間倒産件数は近年100件を超える水準で推移しており、2020年にはコロナ禍の影響もあり118件と過去最多を更新しました。
小・零細事業者の倒産が大半を占めます。
自主的な休廃業・解散も数多く見られます。[4]
2020年の倒産118件のうち38件(32.2%)を通所介護・短期入所介護事業が占めており、大手企業との利用者獲得競争により疲弊するなかで、コロナ禍が追い打ちとなった事業者が多かったとみられます。
介護業界全体で人手不足が常態となっており、離職率も全産業の平均よりやや高くなっています。
人手不足の理由として採用の困難さや人材獲得競争の厳しさ、他産業に比べて労働条件が低いことなどをあげる企業が多く、規模の小さい事業所ほど離職率(とくに1年未満の離職率)が高い傾向があります。[5]
こうした状況に対し、国は介護報酬における介護職員処遇改善加算の強化を初めとする人材確保推進政策を打ち出していますが、十分なサポートとは言えず、人材問題はデイサービス事業者にとって今後も大きな課題であり続けるでしょう。
介護報酬が切り詰められる流れのなか、デイサービス事業者には経営の効率化が求められており、ITによる管理を導入・拡充することが緊急の課題となっています。
人材不足問題の解消、人材の待遇改善、サービスの高度化・差別化を図る上でも、ITシステムやロボット・AIの活用体制強化が急務と言えます。
また、国は社会福祉政策において「地域包括ケアシステム」の推進を重点項目のひとつとして掲げており、地域の医療福祉関係機関・専門家とのシームレスな(切れ目のない)連携が、今後のデイサービス業にとって重要な課題となります。
令和3年度の介護報酬改定においても、科学的介護情報システム(LIFE、旧CHASE・VISIT)へのデータ提供とフィードバックを通した経営改善や、ITを活用した外部との連携などに対して評価区分が新設されています。[6]
[1]通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護(厚生労働省)
[2]2019年度通所介護事業所の経営状況について(福祉医療機構)
[3]2020 年度介護・福祉施設の経営状況(速報)(福祉医療機構)
[4]2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況(東京商工リサーチ)
[5]介護人材の確保・介護現場の革新(厚生労働省)
[6]令和3年度介護報酬改定の主な事項について(厚生労働省)
介護人材の獲得やITによる経営効率化、外部との連携などは大規模事業者のほうが容易です。
小規模事業者にとってはIT導入などの設備投資の負担は重く、導入の費用対効果も小さくなる傾向があります。
したがって、デイサービス業においては事業所の大規模化が競争を勝ち抜くための大きなポイントとなりますが、業界の大半を占める中小規模の事業者が自社努力で規模を拡大していくことは容易とは言えません。
より現実的な戦略として、大手事業者・企業に事業所を売却し、グループの一員として事業成長を図るという選択肢があります。
スタッフや利用者にとっても、雇用・サービスの安定化・高度化というメリットがあります。
実際に、デイサービスや複合介護施設を全国展開する大手事業者や介護事業への新規参入を図る企業がデイサービス事業者を買収する事例は数多く存在します。
経営不振や後継者不在などの理由でデイサービス事業からの撤退や一部の事業所の廃止を検討しているような場合にも、M&Aは有用な選択肢となります。
一般的に、廃業・解散するよりもM&Aで売却したほうが、より多くの資金を手元に回収でき、雇用や介護サービスの維持という社会的責任を果たすことができる可能性が高まります。
倒産のケースでも、全事業のなかに買い手のつく事業が含まれていれば、それを売却することによりダメージを軽減することが可能です。
M&Aにおいては、企業の価値を一定の合理的な方式で評価し、それに基づいて交渉相手を選定したり価格交渉を進めたりするのが一般的です。
企業価値の算出手法には様々な種類がありますが、「時価純資産+営業権」を企業価値と見なすのが最も基本的な考え方です。
時価純資産は貸借対照表上の資産・負債項目を時価で評価し直し、差し引きしたものです。
現在保有している財産やこれまでの事業で蓄積された価値を表します。
営業権はのれんとも呼ばれ、事業から今後生み出される価値(将来的・潜在的な収益力)の大きさを表します。
営業権を合理的に評価するには、詳細な事業計画をもとに実現可能性・リスクを加味しながら収益性を予測したり、将来の価値を現在の価値に読み直したりする作業が必要で、非常に専門的な知識が求められます。
簡便な考え方として、営業権を現在の営業利益(サービス活動増減差額)から大ざっぱに見積もる手法(年倍法)があります。
あまり合理的な手法とは言えませんが、専門家でなくても金額のイメージがつかみやすいのが利点で、中小規模法人や個人事業の売買でしばしば利用されます。
年倍法では「企業価値=時価純資産+直近年度の営業利益×3~5」とします。
「3~5」という係数はあくまで一般的な目安の数値で、業種などにより相場が異なります。
成長産業で、投資が集中しているような業種ほど係数の相場が高くなる傾向があります。
デイサービス業界は今後も厳しい経営環境が続くと予想され、事業の特性上売却先も限られることから、平均的にはあまり高い係数は期待できないでしょう。
ただし、デイサービスの需要そのものは低いわけではなく、デイサービスを大きな規模で運営したり、他の介護福祉サービスと組み合わせて運営したりする方向では成長が期待できる分野です。
売却を検討する際に売り手としても経営統合後の事業展開をイメージし、成長が期待できるような売却先を選ぶことで、売却価格を高めることができます。
サンライフケア:愛知県常滑市でデイサービス事業を展開[7]
アルト:岐阜市4か所、常滑市1か所の通所施設においてデイサービスと居宅支援(ケアプラン作成)を中心とした事業を展開[7]
譲り受け企業:常滑市の事業所を拡充し、地域内でのサービス品質の向上・均一化、運営効率化を図る[7]
MACHIKO:兵庫県宝塚市でデイサービスや貸画廊・貸展示場、各種教室、イベント開催などの事業を展開[8]
ポラリス:自立支援特化型のデイサービスを全国展開[8]
譲り受け企業:主力エリアのひとつである宝塚市における事業拡大[8]
まんまる(現ヨウコーキャッスル三鷹):東京都三鷹市でデイサービスと介護付き有料老人ホームを運営[9]
揚工舎:有料老人ホーム、デイサービス、訪問介護、介護資格教育、介護人材紹介・派遣などの事業を展開[9]
譲り受け企業:東京近郊での事業拠点拡充[9]
シダー:介護付き有料老人ホーム、デイサービス、訪問看護などの事業を全国展開[11]
滋賀県内で新たにデイサービス事業を計画(詳細非公表)[12]
譲渡企業:中長期的な事業展開や管理コスト・収益性の観点から事業売却を決定
譲り受け企業:デイサービス事業への参入[12]
パナソニック エイジフリー:介護事業、サービス付き高齢者住宅事業、介護ショップ事業、介護用品・設備の開発・販売事業を展開[13]
ユニマット リタイアメント・コミュニティ:配食サービスなども含めた包括的な介護サービス事業(全国約320拠点)を初めとして、飲食事業、ホテル事業、フィットネス事業、不動産賃貸事業、有料職業紹介事業などを展開[13]
譲り受け企業:地域を包括するワンストップサービス提供体制の拡充[13]
幸房:広島市でデイサービス、訪問介護、サービス付き高齢者住宅の事業を展開[14]
元気な介護:訪問介護・通所介護を初めとした総合的な介護事業、障害福祉サービス事業、高齢者向け住宅事業などを展開[15]
譲り受け企業:介護サービスの拡充、地域包括ケアへの対応力向上[14]
舞浜倶楽部:デイサービスや介護付き有料老人ホームの事業を展開[16]
グッドタイムリビング:ITや多職種人材を活用した介護付き有料老人ホーム・住宅型老人ホーム・高齢者向け賃貸住宅事業を展開[16]
譲渡企業:介護業界の人材不足が深刻化するなかで、譲り受け企業の経営資源を活用してIT導入・人材活用の推進を図る[16]
幸和ライフゼーション:車いすオーダーメイド、福祉用具レンタル、デイサービスの事業を展開[17](2019年に介護福祉用具製造・販売の幸和製作所の子会社となり、パムックから現社名に変更)[18]
ポラリス:自立支援特化型のデイサービスを全国展開[17]
譲渡企業:主要事業への経営資源集中
譲り受け企業:デイサービス事業の拡大[17]
QLCプロデュース:直営・フランチャイズを合わせて全国163事業所で自立支援デイサービスを展開 [19]
出光興産:石油を初めとする各種エネルギーの開発・供給事業、化学製品・高機能素材の製造・販売事業などを展開[20]
譲り受け企業:国内石油需要の減少が続くなか、系列特約販売店網の強みを活かした新規事業開発の一環として、介護事業への進出を図る[19]
株式会社恵の会、有限会社恵の会:大分市を中心に26事業所でデイサービス、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅の事業を展開[21]
日本エルダリーケアサービス:首都圏を中心に122事業所で訪問介護、居宅介護支援、デイサービスの事業を展開[22]
ソラスト:医療事務を初めとした医療関連業務受託、介護事業所運営、保育園運営、医療事務専門教育などの事業を展開[23]
譲り受け企業:2030年までに介護サービス対象エリアを現在の3倍にあたる300エリアに拡大するとともに、各エリアにおいて介護サービスの全種類を網羅する地域トータルケア・ワンストップサービス体制の構築を図る戦略の一環[21][22]
ライフケア:愛知県で住宅型有料老人ホーム、居宅介護支援、訪問看護、通所介護などの事業を展開[26]
ハピネライフ一光:三重県で居住系介護施設28施設の運営を中心とした介護事業を展開[26]
譲り受け企業:ヘルスケア事業の規模拡大[26]
トップラン:家庭用医療機器・美容機器・還元浄水器の開発製造販売業、デイサービスなどの介護事業、輸出入事業を展開[28]
テノ.サポート:女性の全ライフステージをサポートする事業を展開するテノ.グループの一員として、受託保育や幼稚園・保育所への人材派遣、認可外保育園運営などの事業を展開[28]
譲り受け企業:女性のライフステージに関わる重要な要素のひとつである介護分野への新規参入を図る[28]
[7]当社連結子会社における事業譲受に関するお知らせ(メイホーホールディングス)
[8]事業譲渡に関するお知らせ(ポラリス)
[9]まんまるの株式の取得に関するお知らせ(揚工舎)
[10]ヨウコーキャッスル三鷹オープン(揚工舎)
[11]サービス紹介(シダー)
[12]営業権の譲渡に関するお知らせ (シダー)
[13]パナソニック エイジフリーから6施設を事業譲受(ユニマット リタイアメント・コミュニティ)
[14]幸房の子会社化に関するお知らせ(元気な介護)
[15]事業内容(元気な介護)
[16]舞浜倶楽部の株式取得に関するお知らせ(グッドタイムリビング)
[17]会社分割による事業承継に関するお知らせ(ポラリス)
[18]株式の取得に関するお知らせ(幸和製作所)
[19]QLCプロデュース株式会社の株式譲渡契約を締結(出光興産)
[20]事業概要(出光興産)
[21]恵の会の株式の取得に関するお知らせ(ソラスト)
[22]日本エルダリーケアサービスの株式の取得に関するお知らせ(ソラスト)
[23]事業・サービス(ソラスト)
[24]2019年度有価証券報告書(ソラスト)
[25]2020年度有価証券報告書(ソラスト)
[26]連結子会社によるライフケアの株式取得に関するお知らせ(メディカル一光グループ)
[27]沿革(メディカル一光グループ)
[28]当社連結子会社による事業譲受に関するお知らせ (テノ.ホールディングス)
介護報酬切り詰めや人材不足などの影響によりデイサービス業界の競争は激化しており、倒産・廃業にいたる例も少なくありません。
業界の多数を占める中小規模事業者にとっては、大規模経営・複合経営事業への参画を視野に入れつつ、成長戦略として事業売却を検討することが今後ますます重要となるでしょう。
(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)
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