廃業の相談先には、商工会や金融機関などがあります。廃業には費用がかかるなどのデメリットがあるため、M&Aによる事業承継がおすすめです。各相談先の特徴やM&Aで事業承継を実現した事例を徹底解説します。(公認会計士 西田綱一 監修)
商工会議所・商工会・中小企業団体中央会・商店街振興組合連合会等の商工団体は地域の商工業の振興に向けた取組を行う組織です。
地域の中小企業の最も身近な相談窓口です。
中小企業に向けられた公的な支援制度の詳細を最も熟知した支援機関の1つです。
商工団体の経営指導員等の職員は経営等について一般的な相談を受けるケースが多いです。
廃業の相談も可能です。
都道府県等中小企業支援センターは中小企業者の多様な課題に対して専門的な解決策を提供しています。
地域中小企業支援センター、都道府県等中小企業支援センター及び中小企業・ベンチャー総合支援センターの3類型の中小企業支援センターを中心とする支援体制です。
窓口相談・専門家派遣・事業可能性評価・情報提供等の事業を実施しています。
廃業の相談にも乗ってもらえます。
また中小企業庁は事業承継・引継ぎ補助金に関する事業も行っています。
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継を契機として新しい取り組み等を行う中小企業等及び、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業等を支援する制度です。
事業承継・引継時の金銭に問題を抱えている場合等には、この補助金の利用が大きな手助けとなります。
よろず支援拠点は中小企業・小規模事業者のために国が設置した無料の経営相談窓口です。
よろず支援拠点の相談対応件数は年々増加しており、 令和2年度は432,640件[1]の相談に乗っています。
廃業の相談にも乗っています。
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置する公的相談窓口です。
親族内への承継も、第三者への引継ぎも、相談対応しています。
後継者不在であるため廃業を考えている方は、こちらに相談すると良いでしょう。
金融機関は与信先である顧客の詳細な財務情報等を保有しており、顧客にとって経営相談等も行う身近な支援機関です。
特に地方において重要なネットワークを有する存在です。
廃業の相談にも乗ってもらえます。
経営者が廃業の意思決定を行うには様々なポイントを検討しなければなりません。
しかし経営者が単独で検討してもなかなか具体的な検討が進まないケースが多いです。
また専門的な知見を有しない中で検討を続ければ誤った判断を行うおそれもあります。
普段から経営判断についてまずは顧問の税理士やコンサルタントなどに相談している方は、廃業についても相談するのが実情に合っています。
廃業ではなく本当は別の道があると良いと考えている経営者でも、自社の事業を譲り受けてくれるような第三者はいないだろうと考えて、そもそもM&Aを検討しようとすらせずにそのまま廃業してしまうケースが多いです。
しかし買い手企業の経営者が売り手企業の経営者でも気付いていなかったような事業の価値を高く評価し、M&Aの成約に至るケースもあります。
仮に事業が小規模であったり赤字や債務超過であったりしても、買い手が事業の価値を認めて譲り受けたいと申し出るケースがありえますので、廃業検討中の経営者はその事実を認識しましょう。
廃業ではなく本当は別の道があると良いと考えている別の道を探している経営者は、自分自身にとっては自明であるが故に気付きにくい魅力を発掘する意味で、M&Aの仲介業者・マッチングサイトへ相談しましょう。
法人の解散登記・清算人の選任登記・法人の清算結了登記にはそれぞれ登録免許税が30,000円・9,000円・2,000円かかります。[2][3]
また官報公告の掲載費用には約32,300~39,500円かかります。[4]
さらに手続きを専門家に頼めば数十万円程度の専門家報酬が別途かかります。
多額の費用は廃業の大きなデメリットです。
廃業は明日したいと思ってすぐにできるものではありません。
例えば廃業では官報公告を行いますがその労力や期間も見込んでおかなければなりません。
当然ですが廃業すれば経営者としての地位を失います。
仮に地域の中核企業と言われる規模の企業が廃業した場合、多くの従業員の雇用が失われ地域のサプライチェーンにも大きな穴が生じるおそれがあります。
従業員や顧客に迷惑がかかるのは廃業の大きなデメリットです。
[2]株式会社解散及び清算人選任登記申請書(法務省)
[3]株式会社清算結了登記申請書(法務省)
[4]官報公告掲載料金(全国官報販売協同組合)
中小企業は事業承継に当たり後継者候補を経営者の親族内から選定し、親族内に不在であれば自社の役員や従業員の中から選定しようとするのが一般的です。
親族に承継する方法を親族内承継、従業員に承継する方法を従業員承継と言います。
後継者不在の中小企業が対策を講じずに廃業すると多くの関係者の混乱を招きます。
地域経済にも悪影響を生じさせるおそれがあります。
また廃業によって優良な経営資源が活用されないまま喪失されてしまうと日本経済の発展にとっても大きな損失となりえます。
このような中小企業の事業をM&Aにより社外の第三者が引き継ぐケースは増加しており、M&Aも中小企業にとって事業承継の手法の1つとの認識が広がっています。
日向商運:原乳、タイヤ、肥料、雑貨、医薬品などの中長距離配送
富士運輸(現:フジトランスポート):大型トラックによる長距離輸送
トラック保有台数:グループ総数2,350台(2021年7月)
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:売上・市場シェア拡大
ウシオ工産:鋼製の建築用建具等の製造業
丸加ホールディングス:港湾運送事業、製缶・機械部品加工業の持株会社
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業拡大
結果:M&Aによって親族内に後継者が不在でも事業承継できた。またウシオ工産の従業員全員の継続雇用がなされた。
ここまで廃業したい時の相談先について説明しました。
相談先を具体的に7つ紹介し事例を挙げ、注意点や廃業を避ける方法についても説明したため、よくイメージできた方もいらっしゃるでしょう。
廃業について検討する際は、M&Aなど事業を継続する方法も含めて、今回の記事を参考にしてください。
(執筆者:公認会計士 西田綱一 慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、一般企業で経理関連業務を行い、公認会計士登録を行う。その後、都内大手監査法人に入所し会計監査などに従事。これまでの経験を活かし、現在は独立している。)