社会福祉法人のM&Aでは、厚生労働省の「合併・事業譲渡等マニュアル」[1]が参考となります。公認会計士が、社会福祉法人の概要や合併・事業譲渡のメリット、手続きを徹底解説します。また、障害者福祉サービス事業の概要やM&A事例も紹介します。
社会福祉法人とは
出典:社会福祉法人の概要(厚生労働省)をもとに作成
目的
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的としています。[2]
一方、法人として最も一般的な株式会社は事業を目的としているものの、その内容は自由です。
設立手続
社会福祉法人は、所轄庁による設立認可により設立されます。[3]
一方、株式会社の設立は登記によります。[4]
非営利性
社会福祉法人は非営利的組織です。
つまり、法人設立時の寄附者に持分はなく、期末などに剰余金の配当もありません。
解散時の残余財産は社会福祉法人その他学校法人、公益財団法人などの社会福祉事業を行う者又は国庫に帰属します。[5]
一方、株式会社には営利性があります。
株式会社は法人設立時に出資者の持ち分(株式)があります。[6]
また期末などに、剰余金の配当があります。[7]
解散時の残余財産は、出資者に配分されます。[8]

会社の解散手続きや清算の流れ、期間、費用を税理士が徹底解説
経営者の中には、会社の解散(廃業)を検討しているがどうすればいいかわからないという人も多いのではないでしょうか。今回は、会社の解散・清算手続きの流れや期間、費用をくわしく解説します。(公認会計士・税理士 河野 雅人 監修 […]
社会福祉法人の福祉サービス
社会福祉法人は公益性を持つ法人として、以下のサービスを提供します。
- 社会生活上の困難を抱えている人に対して、日常生活の支援を含む福祉サービス
- 過疎地など、他の団体(株式会社など)の参入が見込まれない地域で福祉サービス
社会福祉法人は、他の法人が担うことを期待できない、制度や市場原理では満たされないニーズに対して、福祉サービスの提供が期待されています。
[2]社会福祉法22条
[3]社会福祉法31条
[4]会社法49条
[5]社会福祉法47条
[6]会社法25条
[7]会社法453条
[8]会社法504条
障害者福祉サービスとは
障害者福祉サービスの定義
障害者自立支援法に基づき障害者等に提供されるサービスは以下の2つに大別されます。
- 障害福祉サービス:障害者ごとの障害の程度や配慮すべき事項(社会活動・保護者・居住の状態等)を考慮して、個別に支給決定がなされるサービス
- 地域生活支援事業:自治体(市町村)の創意工夫により、利用者の状況に応じて柔軟に実施できるサービス
このうち「障害福祉サービス」は、介護の支援を受ける場合は「介護給付」、訓練等の支援を受ける場合は「訓練等給付」と位置づけられ、それぞれ、その利用プロセスも異なります。[9]
障害者福祉サービスの市場規模・課題
市場規模
日本の障害者数は、身体障害者436万人、知的障害者109万4千人、精神障害者419万3千人と推計されています。
複数の障害をお持ちの方もいますので、単純な合計で正確な割合が出るわけではありませんが、人口の約7.6%が何らかの障害を抱えていることになります。
国民健康保険団体連合会へ支払いを委託する自立支援給付の支給データをもとに算出すると、障害者福祉サービスの利用者数は、2008年2月が45万人、2021年2月が91万5千人となっています。
つまり、この13年間で約2倍になっていることが分かります。
出典:障害福祉分野に係る事業分野別指針(中小企業庁)を基に弊社作成
障害福祉等関係予算も年々増加し、2006年の約4,900億円から2021年には約1兆7000億円まで増え、この15年間で3.0倍以上に増加する見込みです。
また、障害福祉職員数も2006年の約50万人から2021年には約100万人に増加しています。[10]
課題
昨今障害者等に対するサービスのニーズが高まる中、必要なサービスを効率的かつ持続的に提供するために、人材育成や職場環境の整備により質の高い人材を継続的に確保しつつ、サービスの質と生産性を向上させることが不可欠です。
具体的には以下のような課題が存在します。
- 事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成:障害福祉事業においては、対人サービスを担う障害福祉職員の能力向上・キャリア形成の実現・専門性の確保が重要です。スタッフ一人ひとりの専門性を考慮し、それをベースにした人材育成・人事管理の仕組みの確立に取り組む必要があります。
- 組織の活力の向上による人材の有効活用:今後拡大が予想される障害福祉サービスのニーズに対応するため、障害福祉職員の確保と有効活用が重要です。
障害福祉の職場環境を改善し、障害福祉職員の離職率を下げ、モチベーションを上げるなど組織の活力を高め、障害福祉職員の能力の有効活用が必要です。
現在、障害福祉職員の平均賃金は、全業種の平均賃金よりも概して低く、勤続年数も短い傾向にあることも大きな課題です。
- 財務内容分析の結果の活用:事業収入の大半は障害者福祉サービス等報酬によるものですが、財務状況の分析は他の事業分野と同様に重要です。財務諸表等に基づく収益性などの数値指標による定量的な分析と人材などの経営資源による定性的な分析が必要です。
- 商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用:障害福祉事業では利用者と事業者の契約に基づいてサービスが提供されるため、他の分野と同様に、需要や同業者の動向等の情報を収集しての活用が必要です。
また、法令改正や障害福祉サービス等報酬改定の動向についても情報を収集し、活用すべきです。
- 経営能率の向上のためのデジタル技術の活用:障害福祉事業では、サービスを提供するために必要な最低限の人員や設備が都道府県や市町村の条例で定められてはいるものの、障害福祉職員の確保は容易ではありません。投入できる人材の幅は限られている状況です。
ICT(情報通信技術)の活用により、サービスの質と生産性を向上させる必要があります。
- 経営資源の組合せ:経営資源を十分に活用するために、総務・経理・人事などの部門の共有化、居宅介護等における移動時間等の効率化等の実施が必要です。
障害者福祉サービスの倒産件数
2020年の障害者福祉事業の倒産は20件と、新型コロナ支援効果で抑制されました。[11]
出典:2020年「障害者福祉事業」倒産と休廃業・解散調査(東京商工リサーチ)を基に弊社作成
[9]障害福祉サービスの内容(厚生労働省)
[10]障害福祉分野に係る事業分野別指針(中小企業庁)
[11]2020年「障害者福祉事業」倒産と休廃業・解散調査(東京商工リサーチ)
社会福祉法人・障害者福祉サービスのM&Aスキーム
合併
2つ以上の法人が、契約によって1つの法人に統合することを合併といいます。
障害福祉サービスを営む株式会社同士が合併するケースもありますが、社会福祉法に規定されている合併は、社会福祉法人間のみで認められています。
- 吸収合併:社会福祉法人が他の社会福祉法人とする合併のうち、合併によって消滅する社会福祉法人の権利義務の全部を合併後存続する社会福祉法人に承継させるもののこと[12]
- 新設合併:2以上の社会福祉法人がする合併で、合併によって消滅する社会福祉法人の権利義務の全部を合併によって設立する新しい社会福祉法人に承継させるもののこと[13]
法律は社会福祉法人等を取り巡る関係を、権利と義務に分解して規定し、規律しています。

合併の意味とは?種類・メリット・手続き・有名な事例を解説
合併とは、複数の会社を1つの会社に統合するM&A手法です。どの会社が消滅会社の権利義務を引き継ぐかによって、新設合併と吸収合併に分かれます。今回は合併の種類・メリット・デメリット・手続きの流れ・最新事例を解説しま […]
事業譲渡
事業譲渡とは、特定の事業を継続していくため、当該事業に関する組織的な財産を他の法人に譲渡することです。
譲渡されるものは、土地・建物などの単なる物質的な財産だけではなく、事業に必要な有形的・無形的な財産のすべてです。
株式会社は事業の全部の譲渡が可能です。
一方、社会福祉法人は行っている社会福祉事業の一部の譲渡が可能ですが、事業の全部の譲渡はできないと考えられます。

事業譲渡とは?メリット・手続き・流れ【図解で分かる】
事業譲渡とは、会社がある事業の全部または一部を譲渡することをいいます。企業全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選べるのが特徴です。M&Aの代表的な手法のひとつです。この記事では、事業譲渡の意義、株 […]
株式譲渡
株式譲渡は、株式会社の支配権を取得する、もしくは経営に参画するために、株式会社の株主が保有する株式の全部又は一部を取得する取引のことです。障害福祉サービスを営む株式会社のM&Aに利用されます。

株式譲渡とは?メリット・手続き・契約・税金を税理士が解説
株式譲渡とは、売却会社の株主が持つ株式を、買収会社に譲渡し、会社を売買する方法です。 中小企業のM&Aの多くは株式譲渡によって行われています。 株式譲渡のメリット・デメリット、手続き、契約書、かかる税金・価値算定 […]
経営権の取得
社会福祉法人等を買収しなくても、経営権を取得すれば、社会福祉法人等のM&Aを実施したのと同じ効果が得られます。
社会福祉法人の意思決定機関である理事会の決議は、3分の2以上の決定が必要となります。[14]
理事を押さえる事ができれば、合併や事業譲渡を実施するより、コストを減らすことが可能となります。
[12]社会福祉法49条
[13]社会福祉法第54条の5
[14]社会福祉法45条の14の4項

M&Aスキーム(手法)の種類・特徴・メリット・税金を図で解説
M&Aのスキーム(手法)には多くの種類があります。目的にあわせた方法を選ぶことで、利益を最大化することができます。今回は各スキームごとの特徴・メリット・デメリット・かかる税金・成功事例を解説します。(中小企業診断 […]
厚生労働省の「合併・事業譲渡等マニュアル」とは
2020年9月11日に厚生労働省は、社会福祉法人の合併や事業譲渡等の手続きや留意点などを整理する観点から、「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」を策定しました。
事業展開のうち、合併と事業譲渡等は、社会福祉法に定められた手続きなどを実施する必要があることから、厚生労働省はその手続きや法令等について記載し、実施におけるポイントと留意点を「合併・事業譲渡等マニュアル」として、まとめています。
所管行政庁の担当者による、合併や事業譲渡等を検討あるいは指導する際に「合併・事業譲渡等マニュアル」を参照した上での、実務的な対応を実施する際の手引きとしての活用が想定されています。

中小M&Aガイドラインの概要、ポイントをわかりやすく解説
中小M&Aガイドラインは、経済産業省が2020年3月に発表したガイドラインであり、M&Aの実施に役立つ情報がまとめられています。中小M&Aガイドラインについて、趣旨・目的・概要などを説明します。( […]
合併による社会福祉法人・障害者福祉サービスのM&A
合併で得られる効果(メリット)
経営基盤の強化、事業効率化
複数の社会福祉法人等が一体となり、本部機能や財務基盤が強化されることにより、事業の安定性と継続性が高まり、積極的な設備投資(設備の増強など)の実施が可能となると考えられます。
また、スケールメリットによって、資材調達などに関するコストの削減が可能となると考えられます。
サービスの質向上、組織活性化
合併相手の社会福祉法人等が持つ人材・ノウハウ・設備などの資源を活用すれば、サービスの質の向上が考えられます。
また、これまでにない新たな種別の社会福祉法人等と合併した場合には、提供するサービスの幅が広がることが考えられます。
人材育成の実現
社会福祉法人同士の合併によって、新たな知識・技能・経験を持った職員を確保できます。
また、職員間の人事交流が促進されれば、各職員のスキル拡大・向上がなされると考えられます。
社会福祉法人等の規模拡大で、M&Aの前より教育にコストをかけることが可能になり、外部講師招へいや外部研修への参加機会の確保など、充実した教育機会を得られることが考えられます。
合併によるM&Aの主な手続き・流れ
出典:合併・事業譲渡等マニュアル(厚生労働省) 22ページ
障害者福祉サービスは株式会社・一般社団法人・NPO法人により提供されるケースもありますが、以下この節では一番代表的な社会福祉法人の合併を例に取り、説明します。
合意形成
合意形成にあたり、相手方の社会福祉法人と秘密保持契約を結びます。
秘密保持契約の締結について、各社会福祉法人の理事会などで承認します。
また合併する社会福祉法人間で事前に協議し、合併に向けた合意形成を図ります。
合併契約を締結する前段階で、重要な条件面での基本的な合意に関する「基本合意書」などを作成し、双方の法人間で合意を取り交わします。
役員等の検討
評議員・理事・監事・会計監査人について、検討します。
各役員の諸条件は以下のとおりです。
出典:合併・事業譲渡等マニュアル(厚生労働省) 29ページ
合併契約書の作成
合併内容に関して双方の合意が得られれば、合併契約書を作成します。
各法人内の理事会などで合併契約(案)を検討し、承認します。
合併内容について完全に合意したら、合併契約の手続きに移行します。
合併する社会福祉法人は、合併契約を締結しなければなりません。[15]
また、評議員会の承認を受けなければなりません。[16]
合併契約に関する書類の備置きおよび閲覧等
まず、吸収合併契約に関する書類の備置きおよび閲覧などから説明します。
吸収合併で消滅する社会福祉法人についての事前開示として、合併契約について決議を取る評議員会の日の2週間前の日から、吸収合併の登記の日まで、事前開示事項を記載又は記録した書面又は電磁的記録をその社会福祉法人の中心の事務所に備え置きます。[17]
また、吸収合併で消滅する社会福祉法人の評議員及び債権者は、その社会福祉法人に対して、その社会福祉法人の業務時間内ならいつでも、事前開示事項を記載又は記録された書面又は電磁的記録の閲覧などを請求できるため、吸収合併で消滅する社会福祉法人はこれらについて対応する必要があります。[18]
吸収合併で存続する社会福祉法人の事前開示として、合併契約について決議を取る評議員会の日の2週間前の日から、吸収合併の登記日の6か月後まで、事前開示事項を記載又は記録した書面又は電磁的記録をその社会福祉法人の中心の事務所に備え置きます。[19]
また、吸収合併で存続する社会福祉法人の評議員及び債権者は、吸収合併で存続する社会福祉法人に対して、その社会福祉法人の業務時間内ならいつでも、事前開示事項を記載又は記録された合併契約に関する書面又は電磁的記録の閲覧等を請求できるため、吸収合併で存続する社会福祉法人はこれらについて対応する必要があります。[20]
次に、新設合併契約に関する書類の備置きおよび閲覧などについて説明します。
新設合併で消滅する社会福祉法人についての事前開示として、新設合併契約について決議を取る評議員会の日の2週間前から、合併の登記の日まで、事前開示事項を記載又は記録した書面又は電磁的記録をその主たる事務所に備え置きます。[21]
また、新設合併で消滅する社会福祉法人の評議員及び債権者は、新設合併で消滅する社会福祉法人に対して、その業務時間内は、いつでも、事前開示事項を記載又は記録された書面又は電磁的記録の閲覧などを請求できるため、新設合併で消滅する社会福祉法人はこれらについて対応する必要があります。[22]
評議員会における合併契約の承認
評議員会における合併契約の承認について、まずは吸収合併から説明します。
社会福祉法人が吸収合併を実施するには、以下が必要になります。
- 吸収合併で消滅する社会福祉法人の合併契約について、評議員会の決議によって承認を受けること[23]
- 吸収合併で存続する社会福祉法人の合併契約について、評議員会の決議によって承認を受けること[24]
次に、新設合併の評議員会における合併契約の承認について説明します。
社会福祉法人が新設合併を実施するには、以下が必要になります。
- 新設合併で消滅する自身以外の社会福祉法人が、新設合併契約について評議員会にて決議する。[25]
- 新設合併で消滅する社会福祉法人が、新設合併契約について評議員会にて決議する。[25]
法人所轄庁の認可
社会福祉法人が吸収合併を実施する場合は、所轄庁へ合併認可を申請しなければなりません。[26]
申請の項目は以下のとおりです。
出典:合併・事業譲渡等マニュアル(厚生労働省) 43ページ
また社会福祉法人が新設合併を実施する場合も、所轄庁へ合併認可を申請しなければなりません。[27]
申請の項目は以下のとおりです。
出典:合併・事業譲渡等マニュアル(厚生労働省) 97ページ
債権者保護手続き
まずは吸収合併に関する債権者保護手続きについて説明します。
吸収合併で消滅する社会福祉法人、吸収合併で存続する社会福祉法人のそれぞれで、公告や個別の債権者への催告にあたって必要となる貸借対照表の要旨を作成します。
また、吸収合併で消滅する社会福祉法人、吸収合併で存続する社会福祉法人のそれぞれで、異議があれば一定の期間内に異議を述べることができる旨などを、債権者に対して、官報で公告します。
そして、吸収合併で消滅する社会福祉法人、吸収合併で存続する社会福祉法人それぞれで、判明している債権者に対しては、個別に催告します。[28]
もしも、公告及び催告を受けて債権者が異議を述べたときは、弁済するか、相当の担保を提供するか、債権者に弁済を受けさせることを目的として、信託会社又は信託業務を営む金融機関に相当の財産を信託します。(当該債権者を害するおそれがないときはこれらを実施する必要はありません)[29]
定めた期間内に債権者が異議を述べなかった場合は、債権者は合併を承認したものとみなされます。[30]
次に新設合併に関する債権者保護手続きについて説明します。
新設合併で消滅する社会福祉法人において、公告や個別の債権者への催告にあたって必要となる貸借対照表の要旨を作成します。
また、新設合併消滅社会福祉法人において、異議があれば一定の期間内に異議を述べることができる旨などを、債権者に対して、官報で公告します。
そして新設合併で消滅する社会福祉法人において、判明している債権者に対しては、個別に催告します。[31]
もしも、公告及び催告を受けて債権者が異議を述べたときは、弁済するか、相当の担保を提供するか、債権者に弁済を受けさせることを目的として、信託会社又は信託業務を営む金融機関に相当の財産を信託します。(当該債権者を害するおそれがないときはこれらを実施する必要はありません。)[32]
定めた期間内に債権者が異議を述べなかった場合は、債権者は合併を承認したものとみなされます。[33]
登記手続き
まずは、吸収合併に関する登記について説明します。
吸収合併で存続する社会福祉法人は、合併に必要な手続きが終了したときから2週間以内に、中心となる事務所の所在地において、管轄の法務局登記所へ変更の登記を申請します。
また、吸収合併で消滅する社会福祉法人は、吸収合併で存続する社会福祉法人を代表する人が、吸収合併で存続する社会福祉法人の中心となる事務所を管轄する法務局を経由して、合併の登記の申請と同時に解散登記を実施します。[34]
次に、新設合併に関する登記について説明します。
新設合併で設立される社会福祉法人は、合併に必要な手続きが終了したときから2週間以内に、中心となる事務所の所在地において、管轄の法務局登記所へ設立の登記を申請します。
また、新設合併で消滅する社会福祉法人は、新設合併で設立される社会福祉法人を代表する人が、新設合併で設立される社会福祉法人の中心となる事務所を管轄する法務局を経由して、合併の登記の申請と同時に解散登記を実施します。[35]

M&Aにおける法務の概要 関係する法律や法務手続きを徹底解説
M&Aの法務では、会社法や金融商品取引法など、さまざまな法律の規定を確認する必要があります。今回は、M&Aに関係する法律や、M&Aのプロセスで必要となる法務手続きをくわしく解説します。(公認会計士 […]
事後開示、書面等の備置き・閲覧
まずは吸収合併で存続する社会福祉法人の事後開示事項について、説明します。
吸収合併で存続する社会福祉法人は、吸収合併の登記の日遅滞なく、登記の日から6か月間、事後開示事項を記載又は記録した書面又は電磁的記録を中心となる事務所に備え置きます。[36]
また、吸収合併で存続する社会福祉法人の評議員及び債権者は、吸収合併で存続する社会福祉法人に対して、業務時間内はいつでも、事後開示事項を記載し又は記録した書面又は電磁的記録の閲覧等を請求できるため、吸収合併で存続する社会福祉法人は請求に対し対応する必要があります。[37]
次に、新設合併で設立される社会福祉法人の事後開示事項について、説明します。
新設合併で設立される社会福祉法人は、新設合併の登記の後遅滞なく、6か月間、事後開示事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその主たる事務所に備え置きます。[38]
新設合併で設立される社会福祉法人の評議員及び債権者は、新設合併で設立される社会福祉法人に対して、新設合併で設立される社会福祉法人の業務時間内はいつでも、事後開示事項を記載又は記録した書面又は電磁的記録の閲覧等を請求できるため、新設合併で設立される社会福祉法人は請求に対し対応する必要があります。[39]

M&Aの流れ・進め方 検討~クロージングまで【図解でわかる】
M&Aの全体的な手続きの流れを売り手・買い手両方の視点で見ていきます。事前準備・検討段階~クロージング・最終契約、経営統合後に必要な業務まで全ての流れを解説します。 目次M&Aの全体的な流れ検討・準備フェ […]
[15]社会福祉法48条
[16]社会福祉法52条、54条の2、54条の8
[17]社会福祉法51条
[18]社会福祉法51条2項
[19]社会福祉法54条
[20]社会福祉法54条2項
[21]社会福祉法54条の7
[22]社会福祉法第54条の7の2項
[23]社会福祉法52条
[24]社会福祉法54条の2
[25]社会福祉法54条の8
[26]社会福祉法50条3項
[27]社会福祉法54条の6の2項
[28]社会福祉法53条、54条の3
[29]社会福祉法53条3項、54条の3の3項
[30]社会福祉法53条2項、54条の3の2項
[31]社会福祉法54条の9
[32]社会福祉法54条の9の3項
[33]社会福祉法54条の9の2項
[34]社会福祉法50条,組合等登記令8条
[35]社会福祉法34条、54条の6 組合等登記令8条
[36]社会福祉法54条の4、54条の4の2項
[37]社会福祉法54条の4の3項
[38]社会福祉法54条の11、54条の11の2項
[39]社会福祉法54条の11の3項
事業譲渡による社会福祉法人・障害者福祉サービスのM&A
事業譲渡で得られる効果(メリット)
合併で得られる効果
事業譲渡で得られる効果として、合併と同じ以下の効果が得られます。
- 経営基盤の強化
- 事業効率化
- サービスの質の向上
- 組織活性化
- 人材育成の実現
社会福祉事業の継続
事業継続が困難になっている社会福祉事業は、事業譲渡により、事業継続の可能性が広がります。
事業拡大・拡充にかかる負担の軽減
他の社会福祉法人・障害者福祉サービスから事業を譲り受けることにより、即戦力の資源を活用できます。
社会福祉法人等を新設する場合よりも、迅速な事業展開や、事業化までの負担の軽減、事業の拡大・拡充が図れます。

M&Aのメリット・デメリットを買い手・売り手ごとに徹底解説
M&Aをする最大のメリットは時間を買えることです。買い手は新規事業や既存事業の拡大にかかる時間を買えます。売り手は投資回収・現金化の時間を短くできます。今回はM&Aのメリット・デメリットを解説します。 目 […]
事業譲渡によるM&Aの主な手続き・流れ
以下この節では社会福祉法人を例に取り、説明します。
事前調査
譲受法人は譲渡される事業の現状を調査し、譲受の可否や譲受の条件を検討します。

M&Aで実施する調査とは?デューデリジェンスの内容も徹底解説
M&Aでは、デューデリジェンスなどの調査を行い、売り手企業が抱えるリスクを入念に調査し、価格算定や契約に反映することが重要です。公認会計士が、M&Aで行う調査の種類や項目、ポイントを解説します。(公認会計 […]
事業譲渡の契約
事業譲渡等の条件や内容が確定的になれば、事業譲渡契約書を作成し、契約締結します。
事業にかかる各種申請の実施
譲渡法人は、譲渡事業の基本財産に関する財産処分の申請を所轄庁に行います。[40]
また、譲渡事業に対して国および都道府県から補助金交付を受けている場合、譲渡法人は財産処分の申請を所轄庁に行います。
譲渡法人は、譲渡事業について施設の廃止申請を所轄庁に行い、譲受法人は、譲り受けた事業について施設の設置申請を所轄庁に行います。[41]
定款変更
事業を譲渡する法人では、譲渡事業について、「事業の廃止および基本財産の処分」を評議員会で決議します。[42]
事業を譲受する法人では、譲り受ける事業について、「事業および基本財産の追加」を評議員会で決議します。[42]
定款変更申請(譲渡側、譲受側):所轄庁へ定款変更を申請します。[43]
資産や負債等の移転手続きの実施
事業譲渡等の対象となる財産において、基本財産の所有権移転を目的とした契約を締結するのが一般的です。
事業譲渡等の対象となる財産において、基本財産以外の譲渡について、各資産の現状および現品の有無を把握し、移転の要否を定めた上で、契約を取り交わすのが理想的です。
[40]社会福祉法人定款例29条,社会福祉法施行規則3条
[41]社会福祉法62条、64条
[42]社会福祉法45条の36
[43]社会福祉法施行規則3条
社会福祉法人・障害者福祉サービスによるM&Aの注意点
「法人外への対価性のない支出」とならないように対価を設定する
社会福祉法人において、法人外への対価性のない支出は認められていません。[44]
事業譲渡等の支払対価との関係で以下の点について留意する必要があります。
- 譲渡側:自法人における譲渡事業の価値を見積り、少なくともその価値以上の受取対価でなければ、法人外への資金流出に該当すると考えられる。
- 譲受側:自法人における譲受事業の価値を見積り、少なくともその価値以下の支払対価でなければ、法人外への資金流出に該当すると考えられる。
単に国庫補助金を返還しないための無償譲渡など、事業の価値を適切に見積らずに取引すると、法人外流出の可能性があることに特に注意する必要があります。
財産処分や許認可の取得に関して、入念に行政機関との調整を図る
社会福祉法人の事業譲渡は、所轄庁の承認、独立行政法人福祉医療機構又は民間金融機関の借入債務にかかる各種手続など、行わなければいけないことも多いと考えられます。
このため、所轄庁などへの事前の相談・協議は手続きと並行して進めていくことが重要です。
また、社会福祉法人の事業譲渡においては、譲渡元である法人における施設の廃止手続きだけではなく、譲渡先における施設の認可・指定などの手続きのスムーズな実施も求められます。
所轄庁と同時に、事業所管行政庁にも事前相談を進めていくことが必要となります。
職員や利用者に対して事前説明を行う
事業譲渡においては、利用者や利用者家族と再契約する必要があります。
また、譲渡法人から譲受法人へ職員を転籍させる場合、既存の労働条件を維持したまま移籍するのが原則となります。[45]
労働条件を変更する際には、転籍後の労働条件を記載した同意書を提示し、同意をとっておく必要があります。
有資格者やサービスの利用者数、施設の立地などを確認する
障害福祉サービス事業の運営にあたっては、サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者などについて人員配置基準が定められています。
M&Aを実施する際には、有資格者の数を把握し、契約内容をよく吟味する必要があります。
また収益性を判断するために利用者数の把握も重要です。
買収直後から得られる収益等の予測が可能となり、中長期的な経営計画の策定も行いやすくなります。
近隣の潜在顧客も調査しておくとよいでしょう。
障害福祉サービス事業所の立地も確認する必要があります。
場所によっては、障害者の方にも安心してご利用いただけるよう、シャトルバスが必要な場合があります。
事前に所在地を把握しておけばスムーズに準備できます。
デューデリジェンスを徹底し、M&Aにともなうリスクを把握する
一般的な業界のM&Aと同様に徹底的なデューデリジェンスの実施が重要です。
障害福祉サービスのM&Aでは有資格者や法定の人員配置について考慮する必要があります。
一般的な金融や法律に関するデューデリジェンスだけでなく、障害福祉に関するデューデリジェンスを実施する必要があります。

M&Aのリスク|買い手・売り手のリスクや対処法を解説
M&Aのリスクを事前に認識することで、トラブルや損失を回避しやすくなります。M&Aで注意すべきリスクの種類やリスクマネジメント手法などについて、公認会計士が具体的な事例を交えてわかりやすく解説します。(公 […]
[44]「社会福祉法人が経営する社会福祉施設における運営費の運用及び指導について」H16.3.22 局長通知
[45]事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(H28 厚生労働省告示第318 号
障害者福祉サービス・介護のM&A事例4選
【障害者福祉サービス×障害者福祉サービス】ひらいルミナルとヒーライトねっとのM&A
譲渡企業の概要
ヒーライトねっと:障害福祉サービス等の提供
譲り受け企業の概要
ひらいルミナル:障害福祉サービス等の提供
M&Aの目的・背景
ひらいルミナルにてまとめて障害福祉サービス等の事業を提供するため
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2021年4月
- 手法:事業譲渡
- 結果:ひらいルミナルがすべての障害福祉サービス等を提供できるようになった。またヒーライトねっとも継続し、制度に縛られない柔軟な福祉・地域活動や地域貢献活動等を提供する予定。[46]
【障害者福祉サービス×障害者福祉サービス】閑谷福祉会と浜っ子のM&A
譲渡企業の概要
浜っ子:障害福祉サービス等の提供
譲り受け企業の概要
閑谷福祉会:障害福祉サービス等の提供
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2021年12月
- 手法:事業譲渡
- 結果:閑谷福祉会は譲り受けた障害福祉サービス事業(共同生活援助、生活介護、就労継続支援B型、居宅介護等)を従来通り継続して提供している。[47]
【デイサービス等×障害者福祉サービス】土屋による4団体の事業譲渡・子会社化
譲渡企業の概要
農業生産法人・B型就労支援事業者・グループホーム事業者・デイサービス事業者
譲り受け企業の概要
土屋:全国約40都道府県において、重度障害者に対する24時間体制の訪問介護事業
M&Aの目的・背景
訪問介護事業だけでなく、福祉の総合商社化を実施するため
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2021年12月(公開)
- 手法:事業譲渡・子会社化
- 結果:土屋は重度訪問介護などのさまざまな事業を展開しているが、当該M&Aにより、これら既存事業とは異なる成長局面を描いていけるとしている[48]

デイサービス売却・M&Aの動向やメリット、相場、最新事例
介護報酬改定などの影響で経営環境が悪化するなか、デイサービス業界では経営戦略としての事業売却が注目されています。デイサービス業界の現況や売却・M&Aのメリット、動向、相場、近年の事例を徹底解説します。 目次デイサ […]
【医療機器×障害者福祉サービス】朝日インテックによるフィカスの子会社化
譲渡企業の概要
フィカス:障害福祉サービス事業[49]
譲り受け企業の概要
朝日インテック:医療機器の開発・製造・販売等[50]
M&Aの目的・背景
朝日インテックがグループ全社で障害のある方々の安定雇用に取り組むことにより、医療のみならず、障害者福祉の面からもより一層の社会貢献ができるため
M&Aの手法・成約
- 実行時期:2018年7月
- 手法:株式譲渡
- 結果:朝日インテックはフィカスの株式を100%取得し、完全子会社化がなされた[49]

M&A成功事例40選 大企業・中小企業・業界別|2021年版
今回は大企業・中小企業別、業界別に厳選したM&A事例40選を紹介します。国内・海外の大企業事例から中小企業事例まで、譲渡・譲り受け企業の概要、M&Aの目的・M&A手法、成約に至るまでを解説します。 […]
[46]事業譲受(ひらいルミナル)
[47]事業譲受(閑谷福祉会)
[48]重度障害者介護事業の土屋が、新たに4団体の事業譲渡・子会社化 (prtimes)
[49]フィカスの株式の取得(子会社化) (ひらいルミナル)
[50]会社概要(朝日インテック)
まとめ
ここまで、社会福祉法人のM&Aについて、合併・事業譲渡等のスキーム別に解説し、障害福祉についても説明しました。
社会福祉法人のM&Aのスキームには、合併・事業譲渡・経営権の取得があり、それぞれにメリット・手続きが異なります。
また、社会福祉法人によるM&Aの注意点についても合わせて触れました。
社会福祉法人のスキームを選択する際には、スキームごとのメリット・手続きなどを把握した上で、総合的な判断が重要です。
今回の記事が皆様のM&Aに関する知識を深めるきっかけとなれば幸いです。
(執筆者:公認会計士 西田綱一 慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、一般企業で経理関連業務を行い、公認会計士登録を行う。その後、都内大手監査法人に入所し会計監査などに従事。これまでの経験を活かし、現在は独立している。)
M&A・事業承継のご相談ならM&Aサクシード
M&Aのご相談ならM&Aマッチングサイト「M&Aサクシード」にご相談ください。M&Aサクシードが選ばれる4つの特徴をご紹介いたします。
M&Aサクシードが選ばれる4つの特徴
- 経営者層に選ばれるサービス
→審査された法人企業のみが利用
→利用者(譲受希望)の約7割が経営層 - “オンライン”だからこその マッチング数→最短37日、半年以内の成約が57%(2022年実績)
→毎月約1,300通のオファー実績 - 圧倒的なスピード
→M&A成約まで最短37日 - 「ビズリーチ」を運営する東証グロース市場グループ企業が運営
M&Aサクシードは、成約するまで無料の「完全成功報酬制」のM&Aマッチングサイトです。
知識・経験が豊富な専任担当者が相談から成約に至るまで伴走します。譲渡・譲受いずれもご相談も無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。