M&Aによるハッピーリタイアには、創業者利益を獲得できるメリットなどがあります。ハッピーリタイアの意味やM&Aのメリット、M&Aによるハッピーリタイアを成功させるポイント、事例をくわしく解説します。(公認会計士 西田綱一 監修)
一般的に、ハッピーリタイアとは、豊かな老後資金を確保した上で、悠々自適な引退生活へと入っていくことを意味します。
最近、このハッピーリタイアを目的としたM&Aが増えているとされています。
東京商工リサーチによると、2020年の「休廃業・解散」は4万9,698件(前年比14.6%増)に達し、2000年に調査を開始して以来、最多になりました。[1]
2020年「休廃業・解散企業」動向調査( 東京商工リサーチ)をもとに作成
政府などによるコロナ禍の支援策の実行により2020年の「企業倒産」は7,773件であり前年比7.2%減少したものの、中長期的な事業の持続可能性の改善には直結せず、休廃業を回避できなかったと考えられます。[1]
2020年の事業承継を目的としたM&Aの内、公表されているものの件数は600件程度です。
2010年の140件程度に比べて、大幅に増加しています。
一方、非上場企業同士等のM&Aは公表されていません。
そのため、非公表のものも含めた事業承継を目的としたM&Aの件数を正確に知ることは難しいのが実情です。
ただし、2020年の事業承継を目的としたM&Aは、公表されているものと非公表のものを合わせて、年間約4,000件程度だと推測する見方が存在します。
事業承継を目的としたM&Aの件数は、以前より増えていると言うことができるでしょう。
親族内承継は現経営者の子供をはじめとした親族に事業を承継させる方法です。
一般的に、他の方法と比べて、企業内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと、後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能であること、相続等により財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営が一体となるような承継が期待できること等のメリットがあります。
一方、親族内に経営の資質と意欲を併せ持つ後継者候補がいるとは限らないことや相続人が複数いる場合、後継者の決定・経営権の集中が難しいことがデメリットです。
親族外承継の内、役員・従業員承継は親族以外の役員・従業員に事業を承継する方法です。
経営者としての能力のある人材を見極めて承継できること、社内で長期間働いてきた役員・従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいことがメリットです。
一方デメリットとして、親族内承継の場合以上に、後継者候補が経営への強い意志を有していることがポイントですが、そういった適任者がいないおそれがあることや、後継者候補に株式取得等の資金力が無い場合が多いこと、個人債務保証の引き継ぎ等に問題が多いことが挙げられます。
親族外承継の内、M&Aは株式譲渡や事業譲渡等により承継を行う方法です。
親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができる等のメリットがあります。
詳しくは後述します。
デメリットとしては、希望の条件(従業員の雇用、価格等)を満たす買い手を見つけるのが困難であることや経営の一体性を保つのが困難であることが挙げられます。
どの手法を用いるにしても、事業承継の流れをしっかりと押さえる必要があります。
M&Aは、M&A対象企業の経営者がそれまでの努力により築き上げてきた事業の価値を、社外の第三者である譲り受け企業が評価して認めることで初めて実現することです。
そのため、M&A対象企業の経営者にとって誇らしいことであると言えます。
そしてその対価としてハッピーリタイアに十分な金額の現金を一括で受け取れるという創業者利益を獲得できる可能性があります。
事業承継問題の行き詰まりなどによって廃業の危機に直面している中小企業が、既存取引先・地域の同業種・隣接業種企業とのM&Aによって、事業や雇用の継続を実現しているケースは日本中で多くみられます。
M&A対象企業の雇用維持は、地域活力の維持にもつながります。
地域経済の源泉は、その多くが中小企業によるものであり、中小企業による雇用から成り立っているともいえるからです。
非上場企業においては、オーナーが個人保証を金融機関やリース会社に差し入れているケースが多いです。
こういった場合は、売り手から買い手に、M&Aの後速やかに個人保証を外すことを求めることも少なくありません。
それに買い手がどのように応じるかは交渉の論点ですが、通常、M&A対象企業のオーナーが引退する場合は、買い手としてはその個人保証を外すよう対応することになります。
2020年度において、経営者保証の提供状況として、借入の全部に経営者保証を提供している割合は44%、借入の一部に経営者保証を提供している割合は36%でした。[3]
会社を設立し、人を雇い、市場を知り、技術を開発し…、とゼロから事業を育てていくのは非常に時間がかかります。
買い手にとっては、既に存在する企業を買収すれば、一気に市場へのアクセスが可能になります。
特に先行する競合先が既に利益を出しているような市場では、ゼロから始めて追いつくのは容易なことではありません。
このような時間短縮を目的としたM&Aの結果として、会社や事業の成長が加速する可能性があります。
アーリーリタイアを実現できると、まとまった時間が取れるため、仕事を理由にこれまでできていなかった趣味などに時間を充てることができます。
M&Aをより早期に検討し実現することにより、M&Aの後に手元に残る金額が多くなるケースがあります。
また、事業全体としては継続できなくとも、例えば利益計上できている優良店舗の一部事業のみを早期に譲り渡すこと等で事業の一部を継続させることができるケースもあります。
一方で、決断が遅れれば遅れるほどM&Aの選択肢は狭まる傾向にあります。
会社の業績が良いタイミングで会社を売却することも非常に重要です。
業績が良くない場合には、資金繰りが尽きてしまい身動きを取れなくなるケースも見られるので、早期の判断が求められることに注意が必要です。
実際、判断が遅れた結果、廃業費用すら捻出できない状況に陥るケースもあります。
M&A対象企業の経営者は、引退後のビジョンを含む希望条件を事前によく考えておく必要があります。例えば、当面は事業に関わり続けたいのか、別の事業に進出したいのか、それとも社会貢献活動や余暇を楽しむといった全く別のことを行いたいのか等です。
ハッピーリタイア後にどのような過ごし方をするかは、本人のその後の人生にとって非常に重要な要素です。
仲介会社は、売り手・買い手の双方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関です。
またマッチングサイトは、売り手・買い手がインターネット上のシステムに登録することで、主にマッチングをはじめとするM&Aの手続を低コストで行うことができる支援ツールです。
無料で登録できるものが相当数あり、マッチングのために支援機関に相当額の手数料を支払う資力のない小規模な事業者であっても、M&Aの可能性が大きく広がったと評価されています。
M&Aの成功のためには、特に実績豊富な仲介会社やマッチングサイトを利用してM&Aを進めることが重要です。
最後に、M&Aサクシードで成約したM&Aの事例を3例紹介します。
ハッピーリタイアを検討している方はぜひ参考にしてください。
アサヒメディケア:介護施設・病院向け離床センサーの製造・販売
長野テクトロン:入力装置・表示パネル専門メーカー、医療関連事業なども展開
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:新規事業の開始
桐のかほり 咲楽:高級温泉旅館(4室定員9名)を運営
小野写真館:フォトスタジオ事業、ブライダル事業、成人振袖事業などを運営
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業拡大のため
東航:陸路の運送業
TRUTH LOGISTICS:海上・航空輸送、通関ロジスティクスサービス
譲渡企業:後継者不在
譲り受け企業:事業拡大のため
ここまでハッピーリタイアのためのM&Aについて説明してきました。
手法・メリット・成功のためのポイント・実際の事例を挙げたため、しっかりとイメージできた方もいらっしゃることでしょう。
ハッピーリタイアのためのM&Aを実行する際は、早いタイミングで決断し、準備を進めることが特に重要です。
(執筆者:公認会計士 西田綱一 慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、一般企業で経理関連業務を行い、公認会計士登録を行う。その後、都内大手監査法人に入所し会計監査などに従事。これまでの経験を活かし、現在は独立している。)