エグジットにおける優先株を用いた利益分配の仕組み【具体例付き】
- 法務監修: yokoyoko777 (公認会計士)
M&Aによるエグジットでは、優先株の設計によって起業家が手に入れる金額は変動します。エグジットにおける優先株の概要や種類、優先株を用いるメリットとデメリットについて、具体的な例を用いてわかりやすく解説します。
優先株式とは普通株式に比べて優先的な権利をもつ株式です。
反対に普通株式と比較して劣後的な権利しかもたない株式を劣後株式と呼びます。
優先株式はスタートアップが資金調達を行う際によく利用されています。
優先株式の主な種類は以下のとおり[1]です。
普通株式と比べて魅力的な権利を付すことで、株式の魅力を高め、投資家を集めやすくすることができます。
参加型とは残余財産分配時(M&A時も含まれることが一般的です)に、普通株主に先立ち優先配当を受け取り、それでも残余財産が残った場合にその金額を普通株主と優先株主に分配する方式のことです。
優先株主は残余財産の優先分配に加えて、残りの残高の分配についても「参加」できることから参加型と呼ばれています。
キャップ付き参加型とは、参加型と同様に優先配当後の残余財産分配に、普通株主と同様に優先株主も「参加」できますが、その分配金額にキャップ(上限)が付されている方式のことです。
キャップは優先分配とその後の分配を合わせてキャップを付けるようにします。
非参加型とは残余財産分配時に、普通株主より前に優先配当を受け取るのみで完了する方式のことです。
優先分配が終わった後の分配は「参加できない」ことから非参加型と呼ばれており、残りの分配金は普通株主のみで分配することになります。
優先株で投資後、対象会社がM&Aされた場合、普通株で投資した場合と比較して、多くの売却益を得ることができます。
投資額の1倍や2倍といった優先配当を設定しておけば、投資時よりも安いバリュエーションで買収された時であっても、売却損にはならず投資額を回収することができます。
一方、優先株で投資したとしてもM&Aされなければ優先株のメリットを享受することができず、優先株とする分、高いバリュエーションになってしまう点がデメリットです。
起業家の視点では、優先株を用いた資金調達を行うと普通株よりも高いバリュエーションを設定できる可能性が高いため、その分、自身の持株比率を高く保つことができる点がメリットです。
ただし、M&Aの際は優先株主が優先してM&Aの売却代金が分配されるため、起業家の取り分が少なくなる点がデメリットです。
バリュエーションが低すぎる場合には、売却益がほとんどなくなってしまうケースも起こり得ます。
投資家から普通株式による出資を受け、持株比率の割合は起業家70%、投資家30%になっているケースを考えます。
この会社が10億円で買収された場合、持株比率の割合で買収資金が分配されますので、起業家に7億円、投資家に3億円が分配されます。起業家と投資家において特段の差異は生じません。
上記と同じ持株比率とし、投資家は参加型の優先株で出資していたケースを考えます。
投資家は1億円で出資しており、投資額の1倍の優先分配を受けられるとします(参加型・1倍)。
10億円で買収された場合の起業家と投資家の利益分配は以下のように計算されます。
普通株式を用いるケースに比べて、起業家は分配額が7,000万円減っており、投資家は7,000万円増加していることが分かります。
優先株主で出資できた分、投資家はより多くの利益を獲得することができますが、起業家のエグジット金額は減少してしまいます。
同様の例で、非参加型のケースで、優先分配は投資額1億円の2倍の金額を受けられるとします(非参加型・2倍)。
10億円で買収された場合の起業家と投資家の利益分配は以下のように計算されます。
普通株を用いるケースに比べて、起業家は分配額が1億円増加しており、投資家は1億円減少しています。
非参加型の場合、高いバリュエーションでエグジットできた場合であっても、事前に設定した優先分配の倍率でしか売却することができません。
そのため、最低限の金額だけ投資回収できれば良いと考えた時でないと投資家は非参加型の形式で出資することはありません。
スタートアップへの投資は一般的にリスクが高いと見込まれるため、非参加型はリスクとリターンが合わないことが多く実務上あまり見ることはありません。
優先分配の金額を投資額の何倍に設計するかで、最終的な分配金額は変わってきます。
利益分配を投資額の2倍と設定した場合、最初に優先分配で投資額の2倍のエグジットを行うことができます。
更に分配金が残っていれば、そこから起業家と投資家で分配することができるため、最終的な投資回収は投資額の2倍超とすることができます。
優先株による出資を受けた後にエグジットした場合、基本的には普通株のケースよりも起業家が受け取れる金額は減少します。
出資を受ける際は高いバリュエーションにすることができる点はメリットですが、将来のエグジットのシミュレーションも行い、慎重に検討することが重要です。
(執筆者プロフィール:公認会計士試験に合格後、大手監査法人にて監査業務やコンサルティング業務に従事。その後、経営コンサルティング会社などを経て、現在は事業会社におけるM&A実務を行っている。日々、投資やM&Aに関するノウハウを発信中。)