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近年、M&A においてSDGsやESGを重視する企業が増加傾向にあります。今回の成功事例では、環境事業における社会的課題の解決を重視し、再生可能エネルギー事業を行う会社が、農業資材の販売会社を譲り受け、グループインするまでを紹介します。高い信用力や技術力を持ちながら、IT化への取り組みが進まない中小企業にとって、M&Aはその空白部分をスピーディに埋めてくれるだけでなく、新たな事業領域拡大のチャンスそのものとなっているのです。譲り受けをした株式会社Returnable(リターナブル)代表取締役 池田俊道氏に話を聞きます。
農業分野がカギを握る循環型社会の実現
――リターナブル様の業務内容を教えてください。
リターナブル 池田 「廃棄物のない社会へ」を経営理念とし、2021年にこのビジョンのもとに環境問題を仕組みで解決する会社「リターナブル」を創業しました。社名が表すように、環境問題の解決につながる優れた技術や資産を保有しているがなかなか事業化できない中小企業をサポートして、不足する「ヒト・モノ・カネ」を供給し、ビジネスを仕組化することで、「社会に利益=Return」を「able=還元出来る」を目指し、社会的課題の解決に取り組んでおります。現在は、廃タイヤチップからバイオマス燃料を精製する再生可能エネルギー事業をメインに行っています。
――今回、M&Aでグループ入りした譲渡企業様の主業務は農業資材の販売・供給です。なぜ「農業」だったのでしょうか?
池田 環境事業への取組みという視点において農業は避けて通れない分野と考えております。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、世界の温暖化ガスを直接排出する割合では農業・林業など土地を利用する活動由来が24%に上るとされております。また、最も業務の効率化が遅れている分野も農業分野です。ここに、ITの力を使えば、環境問題だけでなく、減少する農業人口への対策、食料自給率の向上、技術継承などの課題の多くが改善の方向に向かいます。我々が、農業分野に取り組む意義はとても大きいと考えております。
一方、農業分野の事業成長を考えた場合、IT、IoT技術などで付加価値をつけることが可能であると考えています。タイムリーな在庫確認やオンライン上での売買など、様々な場面でスピードを上げることができます。遅れている農業分野のスマート化ですが、逆に言えば改良できる余地がたくさんあるということです。
――そこで今回の譲渡企業様にオファーされたのですね。
池田 資料を見た瞬間、非常にいい会社だとわかりました。そのひとつが社歴60年の伝統です。社歴(企業文化)というものは一朝一夕に出来るものではありません。長年培ってきた信頼と実績の上に成り立つものです。被買収会社は、ここがしっかりと築けており、ブランド力があると感じました。ブランド力(信用力)と言うものは、時間(年月)を要するもので、お金では買えません。
メイン事業は、農業用パイプハウス、温室軽量鉄骨ハウス、及び農業資材の販売・供給です。お客様は主に農業法人様やJA(農協)様です。売上げ、利益ともに堅調なのですが、いかんせんIT化が進んでいませんでした。いまだに発注はファックスを中心として行なわれており、企業ホームページもありません。今後の業務効率化を考えると、今のままの体制では難しい状態でした。
社歴が長く、地元での評判も良く、顧客の信頼を勝ち取っている事は強みでした。しかし、IT化への対応が進んでいない状況であり、今後更なるICTやAIなどを活用した次世代農業(スマート農業)への対応を考えると不安を感じました。
リターナブルにはITリテラシーの高い社員が多く存在しており、人的資源を確保する能力、事業運営力、そして資金力があります。今回の協業で、譲渡企業の農業への知見や技術と私たちの力とが組み合わされば、必ず「1+1=3」以上の結果をもたらすと確信しています。
M&Aで、中小企業の高い技術力を埋もらせない
――池田様はこれまでに金融機関で中小企業向けの投資に関わっていらっしゃいました。そこから見えてきたことがありますか?
池田 日本には、素晴らしい技術や社歴をお持ちの中小企業がたくさんあります。しかし、一方で後継者がいない、技術を伝承する人がいない等のために、事業存続を悩まれている経営者も数多くいると聞いております。事業を持続可能な状態にするには、「人・モノ・金」の全てが揃っていないと難しいものです。残念ながら中小企業はそのどれかが足りない場合が多い。私たちは足りないピースを埋めて、さらに進化させるお手伝いをしたいと考えています。優れた技術を持つ中小企業の悩みを解決したい。リターナブルの創業にはそんな思いもあります。
いま当社のメイン事業となっている廃タイヤチップの精製事業ですが、これも元々はある中小企業が持つ技術でした。しかし、事業化するための資源(人、モノ、お金)が揃っていませんでした。そこで事業業務提携を通じて、リターナブルがその部分を補って事業化に導いたのです。
「譲り受けた後の将来像」――交渉で最も伝えたかったこと
――譲渡企業様がM&Aサクシードに掲載後、18社が譲り受けに手をあげました。
池田 当社は社歴も浅いですし、規模的にも大きくはありません。被買収会社から選んでもらうにはハンデがあるだろうと考えました。「弊社のアドバンテージや魅力は何だろう?」ということを自問自答しました。
「一緒に仕事をするなかで何ができるか」、「ステークホルダー(従業員、お客様、地域社会、取引先)にとって、どのようなメリットがあるか」を具体的に伝えました。
一つの事例としては、ITの力を使い業務スピードを上げる。タイムリーな在庫確認やオンラインでのプラットフォーム化を図る。そういったビジネスの効率化のほかに、農業を取り巻く環境の変化についてもご説明しました。食糧自給率を上げなければいけないこと、地方の人材不足・・・。私たちは「農業+情報」で問題を一つひとつ解決していきたいと、一生懸命お伝えしました。
もちろん譲り受けの金額は重要なファクターです。しかしお金という一過性のものよりも、譲り受けた後のことの方がより重要だと思います。その点を評価していただけたように感じています。
――交渉において意識したことを教えてください。
池田 誠実に事実を話すことでしょうね。それは常に心がけていました。例えば、「譲り受け後は処遇も含めて高待遇を用意しています」など、できない約束はしません。それ以外は私の人間性を買っていただくしかありません。
約束した「社名はずっと守ります」
――2023年4月末にグループイン、すでに改革は始まっていますね。
池田 グループ入りしていただいた後、すぐに取り掛かったのが、ドメインの取得、ホームページ制作です。ホームページがなければ、顧客のみならず業界内の認知度も上げられません。「スマート農業、始めます!」と宣言したところで、ホームページも無い会社では、誰も信じないでしょう。目に見える形で業務改革の進捗をスピーディに表現することで、周囲の意識も変わってくるはずです。そして何よりも社員自身が変わっていくのです。
ホームページに合わせて、新しいロゴを入れた名刺も作りました。全員がメールアドレスを持つのは初めてのことです。
――譲渡企業様の社名はそのまま残されました。
池田 譲り受けた企業のアイデンティティやこれまでの歴史を否定することは一切しません。従業員からは不安な顔で、「うちの会社名はカタカナになるのでしょうか?」と聞かれましたが、「伝統あるA社という社名はずっと守ります」とはっきり伝えました。その時のホッとされた顔を見て、互いの中の目に見えない緊張がほぐれたように思いました。
――IT化が始まっている今、社員の反応は?
池田 最初はIT化に対しても警戒感がありました。理解してもらうために私も足繁く長野に通いました。すると逆に社員の方から「メールやホームページをもっと利用しようよ」という意見が出てくるようになってきました。当初、ロゴもメールアドレスも載ってなかった名刺も、社員から「『創業60周年』というマークも入れて欲しい」と要望されました。新しい挑戦に前向きな雰囲気が出始めています。
「M&Aサクシードは一生懸命に汗をかいてくれる」
――M&Aサクシードの良さはどんな点に感じられましたか?
池田 M&Aサクシードさんほど一生懸命に伴走してくれるM&A仲介会社を、私は他に知りません。「社員全員、上から下まで徹底している」と感じます。M&Aで最も重要なのは「ポストM&A」です。2つの会社が一緒になっていかに好業績を上げ、社員が幸せになっているか。それがM&Aサービスの本当の評価にもつながります。
一般的なM&A仲介会社は、譲渡金額の多寡によって、サービス(態度)が変わってきます。普通はそんな事はあってはならないのですが、仲介手数料は譲渡金額に連動している為に、その様な事象が起こります。しかし、M&Aサクシードさんは得られる金額の多寡によって、立ち振る舞いを変えたりはしませんでした。「大丈夫です。そんなことは気にしなくていいですから。それは私たちの仕事なので」と言ってくれる会社なんてなかなかありません。さらに言えば、M&Aサクシードさんは着手金や中間金なしの「完全成功報酬制」です。無料で始められるので、心理的ハードルが低いのも大きな魅力です。
――SDGsを加速させるための「M&A経営」の方向性を教えてください
池田 環境事業という広い領域――農業やエネルギー、水処理――に注目しています。いま、実際にその分野で事業を起こされている会社様もいらっしゃると思います。事業化するには投資も人もいるし、マーケティングや商品戦略など数々の要素が必要です。そこで壁を感じ、進捗が止まっている会社様と、私たちが協業できればと考えています。今の時代、スピード感が求められます。環境技術を事業化(具体化)したいという点で成長をお考えの会社様とは、ぜひお話をさせていただきたいですね。
M&Aサクシード 担当者コメント
髙口 啓介(シニアコンサルタント)
株式会社Returnable様は、「廃棄物のない社会へ」というビジョンのもと、再生可能エネルギー事業を軸に、ソリューション事業、ESG投資事業等を展開されていらっしゃり感銘を受けました。ESG投資事業では、世の中の素晴らしい技術を持たれていて、歴史がある中小企業様の事業承継を検討されており、この度、後継者が不在という問題に直面しているA社様と出会われ、譲り受けされました。今後の両社の更なる発展を願っております。
担当者プロフィール
2017年、福岡大学を卒業後、SMBC日興証券株式会社へ入社。首都圏の支店にて中小企業オーナーや医師などへの資産運用のコンサルティング業務に従事。 2019年株式会社ビズリーチに入社し、「ビズリーチ・サクシード」(現「M&Aサクシード」)に参画