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事業承継した会社のその後を追う「『その後』のストーリー」。M&Aサクシードを通じて出会ったタッグが、どんな素晴らしい物語を紡ぎ出したのかを紹介します。今回のサクセスストーリーでは、介護事業者同士の素晴らしいプロセスと結果を報告します。2021年4月に株式会社ミストラルサービスのグループ入りしたのは、横浜で20年にわたり事業を続けてきた有限会社ステップコーポレーションです。地域で絶大な信頼を得てきたステップコーポレーションですが、創業者の想いをミストラルサービスが後押しすることで、既存の従業員の安心と「1年半で2倍の売上げ」というビジネスとしての成功を導くことができました。株式会社ミストラルサービス 代表取締役社長 渡辺 哲也 氏に話を聞きます。(2023年2月公開)
参考:前回の成功事例インタビューはこちら
1年半で売上げ倍増! 想いの共有からすべてが始まった
――両社が一緒になって1年半が経ちました。どんな成果があったでしょうか?
ミストラルサービス 渡辺 ステップコーポレーションの創業社長 日高 淳さんの想いであった「訪問看護 エル」の立ち上げにすぐに着手し、2021年11月に開設しました。ケアマネジメント、訪問介護、訪問看護の地域連携が強化され、地域に貢献できたと自負しています。企業理念の一部に「仕事を通して社会に貢献」と謳っています。有言実行できたことは大変うれしく感じています。
――売上げにも大きく反映しましたね。
渡辺 一緒になる前のステップコーポレーションの年商は8,000万円でしたが、「既存事業+訪問看護エル+ケアマネージャーの参加」で、グループ入り前の売上と比較して195%になりました。この1年半で売上げを2倍近く伸ばすことができました。予想より1年前倒しの結果で、私自身も驚いています。日高さんが「訪問介護エルを出すよ」と周囲に話してくださったことで、立ち上がりがスピーディだったことが大きかったですね。M&Aは足し算ではなく、掛け算的な効果があると思います。
――想いが一致したことからすべてが始まりました。
渡辺 日高さんとは「どうしたい」が最初から合致していました。新しい体制では、日高さんの意図を最大限に汲むことに配慮しました。日高さんと交わした2つの約束は訪問看護と介護サービス併設のシニア住宅。これまでの日高さんの功績や地域への貢献などをリスペクトしてきたので、すぐに「いいよ」と答えることができました。
――従業員の方々の福利厚生改善にも着手したそうですね。
渡辺 「将来安心手当」として「確定拠出年金」の積み立てを開始し、福利厚生を手厚くしました。グループ会社では既に導入し大変好評でしたので、財源を確保してステップコーポレーションでもすぐに始めました。今後も働く人が安心して仕事に向い合えるように、一つひとつ改善していくつもりです。
――シニア住宅の進捗はいかがですか?
渡辺 この1年で世の中を巡る状況が大きく変化しました。原油高や金利上昇、そして土地の取得といったことがありますので、焦らずに進めています。もちろん目標としては変わりません。
地域で信頼されてきた譲渡事業者のバックアップに徹する
――両社の役割分担について教えてください。
渡辺 創業者である日高さんには以前と変わらずにプレイングマネージャーを続けていただいています。お金の面や最終的な決断は私がやるようにしています。日高さんが20年培ってきたことは何よりの財産です。私が黒子になって支えることで現場が生きると思っています。
――一緒になってよかったこと、喜びを感じることを教えてください。
渡辺 日高さんには以前にも増して感謝の日々です。しゃべるだけで元気をもらえるような人は、そう多くいません。人生の先輩であり、この業界の先輩としてもすごく尊敬できる。後に続く人材育成にも熱心で、グループ会社の仲間にリモートだけでなく、直接の講習や指導をしてくれています。
日高さんはテレビ出演したことがあったり、教本の教師になっていたりすることを従業員に事前に紹介して、「研修を楽しみにしていてね」と話すと、みんな、とても楽しみにしてくれるほどです。
事業面では、横浜の地に拠点ができたことでM&Aの幅が広がりました。グループの地理的構成ですが、ミストラルサービスが関西圏で、私はグループ会社のひとつVivantグループのある相模原にいることが多い。横浜という大都市にステップコーポレーションがあることで、横浜市を含む神奈川県の譲渡検討中の案件のお話を多くいただくようになりました。当グループは地域密着を重視する観点から、日高さんに地域の特色やこの地域のつながりなどについて直接アドバイスをもらえるので、躊躇せずに検討できるようになりました。今も現在進行形で案件が進んでいます。
――大変だったことがあれば教えてください。
渡辺 私は大変と思わないタイプなんです(笑)。「仲間の数だけチャンスがある」と前向きに考えています。
――M&Aの成功以降、渡辺様も日高様も経営者仲間から「どうやればうまくいくの?」「私たちどうしたらいいの?」と、質問攻めにあったそうですね。
渡辺 M&Aをポジティブに捉えている側面と将来への不安の二つがあると思います。私もお話しする機会をいただいたのですが、「従業員を大切にしてブランドを守る」私たちのような良好な関係もあることをお伝えしました。
増加する介護事業案件。「M&Aサクシードは整理して伝えてくれるので助かります」(渡辺様)
――会社運営では「口に出して言葉にすることが大事だ」と以前、おっしゃっていました。今はどんな言葉を従業員に伝えていますか?
渡辺 2023年の年頭の抱負として伝えたのは、「心をひとつにつなげよう」です。こういう時代だからこそ、グループ会社の壁をとっぱらって難局を乗り越えよう。コロナや戦争などで人々が分断されています。しかしその状態でいいことはひとつもない。グループ経営も同じです。
――ステップコーポレーションで働いてきた従業員の皆様のビフォーアフターを教えてください。
渡辺 やっぱり最初は不安がたくさんあったようです。しかし日高さんがいつも通りに側にいることで、大きく人間関係が変わらなかったことが安心を生んでいます。労働環境的には、スマホでの業務管理などデジタル化を図りましたので、働きやすくなったと思います。
――今一度、M&Aサクシードの使い勝手や期待していることを教えてください。
渡辺 以前と変わらず情報はしっかり届きますし、こちらの要望にすぐに対応して改善してくれるのは助かりますね。希望の条件を登録すると、相応の情報が的確に来ます。国の方針で小規模事業者はより大きな事業者と組むことが推奨されています。そのため最近、数多くの介護関連の譲渡案件が掲載されていますが、その交通整理をして情報提供してくれるので助かっています。M&A成功事例ページで私の発言を伝えてくれることも、業界を知ってもらうことにつながりますし、よいPRにもなっています。
――2022年7月には、M&Aサクシードを通じて、株式会社ぴーぷる様(従業員数約30名)が新たにグループインしました。
渡辺 神奈川県相模原市の隣町で運営していること、介護への想いも一致したことでシナジー効果があると判断しました。この地域で長くやっていて、もし会社がなくなってしまうと、利用者様も働く人も困ってしまうという点も考慮しました。おかげさまでPMI(統合プロセス)は順調です。
積み重ねてきた「皆様に必要とされる№1」。目標は近い将来の上場
――これまで実施したM&Aは5社です。渡辺様は「M&A経営」にとって何が大切かをよく理解されていると思います。
渡辺 私が心がけているのは、譲渡企業の皆さんととにかく対話をすること、そして急がないこと。例えば一般の転職を考えてみても、最初の3〜6カ月は力を発揮できないことは普通にあります。すぐに環境に馴染むことは難しいのです。だから仮に助走期間中に成績が落ちても、私は責任を問いません。それは私の方で担えばいいのです。そのことをメンバーにしっかり伝えて、安心してもらうように心がけています。異文化同士の人が交わるので、そこは丁寧にやったほうがいいと思うのです。
――介護系のM&Aをうまく進めるコツはありますか?
渡辺 まず、譲渡企業のコンプライアンスがきちんとしているかどうか。デューデリジェンス(譲渡企業調査)だけでは出てこないものがあります。制度ビジネスなので、適切な書類の整理もして初めて報酬がもらえることを最初の研修で伝えています。それと大切なのは「心のコップ」を整えること。話を受け入れてもらうためには順序があります。情理の「情」から始めて、それから「理」につなげる。まずは、「情」として、ケアマネージャーや地域との連携をして初めて報酬がもらえることを確認して、その後、「理」である戦術のところで利用者様が喜ぶやり方を伝えるようにしています。
グループに入ってもらった後、なかなか「壁」を崩せない会社がありました。当初、私が事業所を訪れても、なかなか挨拶してくれない。しかし根気よく自分の想いを伝えて、改善をし続けました。すると1年後にがらりと雰囲気が変わったんです。「社長が言ったことはウソじゃなかった」。皆笑顔で積極的に挨拶に来てくれるようになりました。うれしかったですね。「これがM&Aの醍醐味なんだ」としみじみ思いました。
――現在チャレンジされていることや今後の展望を教えてください。
渡辺 ステップが活動する横浜の地で、年商5億~10億円規模まで行きたいと考えています。それを叶えるためにも、新規出店やM&Aによって、私たちにない、あるいは必要な業態とご一緒することが必要不可欠と考えています。規模だけでなく、地域に必要とされる事業者でありたい。その意味でも地域からも高齢者からも働く仲間からも「皆様に必要とされる№1」を目指していきます。グループ全体では、年商が23億円に届くところまで来ました。近い将来の上場が目標です。そのためのグループ体制や組織力の強化を着実に進めていきます。