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高齢化社会の到来により、市場としての介護業界は拡大を続けています。しかしながら、介護施設という観点では、人手不足や機材・設備等の費用負担が、地域の小規模事業者を困難な状況に追い込んでいます。2020年の介護事業者の倒産件数は過去最多となる一方、介護関連のM&A件数は過去最高となったことがそれを証明しています。介護業界はある程度まで固定化されており、今後の新規参入が難しい分野だとも言われています。そのため、同業者間のM&Aが大きな意味を持つことになります。今回紹介するのは、関東と関西で介護事業を展開する株式会社ミストラルサービスと、横浜エリアで長年、地域貢献をしてきた有限会社ステップコーポレーションとのタッグです(最初のやりとりから4カ月で成約)。「地域」や「人」が基本となる介護事業で、互いの夢を実現させるための最善策として選んだのが、同業者間のM&Aでした。株式会社ミストラルサービス 代表取締役社長 渡辺 哲也 氏と、有限会社ステップコーポレーション 代表 日高 淳 氏に話を聞きます。(2021年11月公開)
スタイルを変えずに事業を継続したい
――会社の事業概要を教えてください。
ミストラルサービス 渡辺 24年前に京都府でミストラルサービス(以下、ミストラル)はスタートしました。地域密着で、主にデイサービスや訪問介護・訪問看護、グループホームを運営しています。6年前にはフランスベッドから通所介護事業を承継し、持分会社になりました。3年前には、私が代表を務める株式会社Vivantグループ(神奈川県)と資本提携し、私がミストラルの方も代表取締役に就きました。グループ規模は、売上げが約20億円、事業所は関西エリアと関東エリアを中心に、フランチャイズを含め約50カ所になります。
ステップコーポレーション 日高 2000年に介護保険が始まった時、高齢化社会の役に立ちたいと思い、介護事業のステップコーポレーション(以下、ステップ)を立ち上げました。訪問介護とケアマネージャーのふたつを軸に、今年で21年目になります。手探りのなかで一人での起業でしたので、最初は大変苦労しました。いろいろな人の支えがあってここまで来ることができました。経営状況ですが、最盛期には従業員が約40名、売り上げは1億円ほどありました。現在はスタッフが約25名、売上げは7,000〜8,000万円です。自分の見える範囲内で着実に運営してきました。
――両社がM&Aを検討することになった背景は?
日高 私自身が60歳を超え、今後に対する不安がありました。不安は事業立ち上げ当初から常につきまとっていましたが、コロナ禍でそれはさらに増しました。国の考えや制度上の変化もあり、このまま続けるのは難しいと判断しました。引退するという選択肢もありましたが、「従業員が困らないように」「利用者様にも迷惑をかけないように」と、このスタイルで維持したいと税理士に相談していたところ、その解決策として、会社が良い状態での事業譲渡を考えるようになり、ジャパンM&Aソリューション株式会社様(以下、ジャパンM&Aソリューション)に相談しました。
渡辺 「地域にしっかりと密着し、地域で一番信頼される」。これが私たちの理念のひとつです。M&A経営で重視しているのは、規模感よりも地域に根付いた事業者様と成長していくことです。ビジネスという点では、売上げが1,000億円もある超大手には敵いません。地域の実情にあった展開や企業再生が私たちの特長だと考えています。東京・神奈川・大阪・京都の4エリアに力点を置く中、ステップ様と出会ったのです。
――M&Aサクシードに掲載されたステップ様に数多くの企業が注目しました。
渡辺 M&Aサクシードで公開されてすぐにコンタクトを取りました。まずは横浜というエリアに注目しました。ステップ様の売上げ規模はさほど大きくはありませんが、財務内容は良かった。きっと私たち以外にも多くの会社が手を挙げたと思います。
日高 ジャパンM&Aソリューションの柴田桂介さんにお願いして進めたところ、24社からオファーがあり、4社と面談しました。
渡辺 面談ですぐに日高様の人柄に惹かれ「ぜひ一緒にやりたい!」と申し出ました。日高様は医師会や地域の人々とコミュニケーションをとり、福祉と医療のパイプ役として様々な場面で発言されてきました。自社のためだけでなく介護業界をなんとかしたいという信念から、社外活動を積極的にこなされるバイタリティにも敬服しています。「この人、一体いつ寝ているのだろう?」と心配してしまうほどです。だからこそ、私もなんとか力になりたいと思ったのです。
M&Aで大切なのは想いをすべて伝えること
――譲渡する側はM&Aは初めての体験となります。不安はありませんでしたか?
日高 不安と期待が半々でした。でも渡辺様とお話をしてその気持ちが晴れました。「仲間を大切にして欲しい」「今のスタイルをいじらないで欲しい」「将来は介護看護が一体化したシニアハウスを運営したい」・・・。私の希望を素直にぶつけたところ、「一緒に考えていきましょう」と言ってくれました。
渡辺 介護は人に依存する業界です。気持ちの部分が最も大事です。会社が一緒になるというのはいわば結婚ですから、土足で入っていくと拒絶されるだけです。会社間の異文化交流はM&Aよりも神経を使うところと言ってもいいでしょう。ミストラルが正しくて、ステップ様もそれに合わせなければならないとは考えていません。互いにブラッシュアップしてグループとして成長したい。日高様にも今、グループ全社員に向けて知見や想いをZoomで講演してもらうことをお願いしています。
――「M&A経営」では「上も下もない」とおっしゃっていますね。
渡辺 私自身、ミストラルと資本提携をしてグループインした側の人間です。除外される可能性があったのに、グループ全体の社長に抜擢されました。譲渡、譲り受けの双方の気持ちがわかっていることが、私が「M&A経営」(M&Aを経営に取り入れること)をする上での基本になっています。もうひとつのポイントは企業の規模感ですね。地域密着では、自ずとサイズが決まってきます。
「M&Aサクシードは情報の質が高い」
――M&Aサクシードを利用されて良かった点は?
渡辺 M&Aサクシードはまず、レスポンスがいい。情報の質が高く、最新動向も押さえています。特にありがたいのは、気になる業種で充実した情報が届くことです。週単位もあるし、1カ月のまとめもあります。角度を変えた案内があることで、見落としていた案件もフォローアップできます。
ユーザーインターフェイスの点では、画面も見やすいし操作も簡単です。様々なM&A関連の会社とお付き合いしているため、案件の良し悪しはわかりますが、その点でもM&Aサクシードはしっかりしている。信頼できる案件を掲載していると思います。営業対応も万全で、改善して欲しいと伝えるとすぐに行動に移してくれます。お付き合いするなかで、紳士的な印象を持ちました。
――契約締結後すぐに新たな目標を実現させましたね。
渡辺 日高様とは「まずは訪問看護が欲しいよね」という点で一致していました。一緒になってすぐその計画に着手しました。私がいつも言っているのは「夢に日付を入れよう」ということ。思い描いている目標を口に出すんです。そして2021年11月1日に新しく事業所を開設することになりました。次はこれからの時代の箱であるシニアハウスやシェアハウスです。横浜は所得の高い住民も多いので、人生を自分らしく楽しみたい人に向けた施設を作る予定です。そこに、看護、ケアマネ、介護を入れる。日高様の長年の地域への貢献から、すでに地主様からも場所の申し出があり、3年後には開設できると思います。ビジョンの共有は大事です。一緒だと「思えば夢は叶う」のです。大手とは違った発想でステップを成長させていきたいですね。将来を見越して、日高様には「100歳まであと35年あるよ」と伝えています(笑)。
「今の状況を変えて成長する」きっかけとしてのM&A
――介護業界全体は伸びていますが、地域事業者は厳しい経営状態に直面しています。事業譲渡で悩まれている経営者も多いと思います。
日高 譲渡して最も強く感じているのは「相談できる相手がいる」という安堵です。これまでは良くも悪くも自分一人で判断しなければいけませんでしたが、今は的確なアドバイスをもらえる環境になりました。それだけではなく、「大丈夫だよ」「いっぱい寝てね」と気遣いをもらったりしています。そんな言葉に、これまで経験したことのない新鮮さを覚えています。M&Aという言葉に恐れを抱く方もいらっしゃるかもしれません。しかし一緒になって見つけたのは、M&Aの中に「今の状況を変えて成長する」という新しい意味です。
渡辺 今後も介護業界は伸びていくでしょう。世代交代も始まっています。当社は引き続き、グループインしてくださる会社様を積極的に探していきます。事業譲渡によって会社の歴史が消え去るのではと心配される方にお伝えしたいのは、M&Aは新たな成長へのきっかけだということです。私たちはグループインしてくださった会社様とともに考え、成長していくことを最大の目標としています。その中で人が育ち夢を持てる場所を醸成していきます。