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事業承継した会社のその後を追う「『その後』のストーリー」。M&Aサクシードを通じて出会ったタッグが、どんな素晴らしい物語を紡ぎ出したのかを紹介します。今回のサクセスストーリーでは、2021年2月にM&Aを機に物流大手のフジトランスポート株式会社のフジグループに入った埼玉県の関東トラック整備株式会社を紹介します。M&A以前は大手企業の小型車整備を主業務にしていた関東トラック整備ですが、グループの内製化に伴って大型車整備にビジネスモデルを転換。数量をこなす小型車の業務から台数の少ない大型車に特化できたことで、数字の改善だけでなく、社員のモチベーションを引き出すことにもつながりました。M&Aから1年半で、売上げを1.4倍にまで伸ばすことに成功したのです。フジグループ本社の取締役/車輌整備部部長であり、譲り受けた後に関東トラック整備代表取締役社長にも就任した髙奥 一秀 氏に話を聞きます。(2023年1月公開)
参考:前回の成功事例インタビューはこちら
売上げが1.4倍に! グループ会社の整備に特化して効率化
――M&Aから1年半で売上げが1.4倍に伸長したそうですね。
関東トラック整備 高奥 M&A以前は大手運輸会社が所有する小型車の整備がメインだったものを、大型トラックを主体とした事業へと転換しました。同じ台数なら、当然大型の方が効率を図れます。その結果、1億3千万円から1億8千万円に売上げを伸ばすことができました。地域に貢献することを重視しているので、近隣のお客様については継続してお付き合いさせていただいています。
数量をこなす業務から台数の少ない大型車に特化できるので、社員も喜んでくれています。業務の幅も広がりました。また、関東エリアの車輌の中で、冷凍車がかなりの割合を占めているので、冷凍車の整備もできるように冷凍機修理・販売会社との提携なども進めました。売上げが順調に推移しているので、次は利益を追求して社員へ還元することを目標にしています。社員にも頑張って利益が出れば還元することもと伝えています。
――高奥様はフジグループ本社の取締役/車輌整備部部長として、全国の整備部門(整備士100名超)を統括されています。
高奥 今回のM&Aの目的のひとつはフジグループの業務の効率化でした。全国での拠点展開を進めるなかで、トラックの増加に対応して整備工場が必要になります。グループではコスト削減につながる内製化を進めてきました。
目先のコスト削減ではなく、中長期の視野をもった経営への転換
――事業承継後、会社の収益についてどんな考えで臨まれたのでしょうか?
高奥 規模の小さな会社・工場は、効率化というとコスト削減のみに走りがちです。中長期の成長のための設備投資に目も向けるのが難しいケースが多くあるようです。しかし、設備投資して働きやすい環境づくりを行うことが先決だと思います。確かにお金はかかりますが、半年〜1年先には、様々な課題は改善できているはずです。一緒に働く中で、社員は将来への投資の意味を実感したと思います。
――どんな設備投資をされたのですか?
高奥 特に手間のかかる仕事への対応です。例えばひとつの工具で使い回すのではなく、特殊なねじ回しなど専用の整備工具を導入しました。エンジンオイルは、フジグループ全体で利用している国内最高級に変えました。値は張るのですが、オイル交換の回数を減らせるだけでなく、トラックの故障も少なくなりました。細かいことですが、ひとつひとつ工数を減らしています。
整備には、認証工場と指定工場の2つがあります。認証工場では分解整備はできますが、陸運局にその都度、合格印をもらうためにトラックを持ち込まなければならないため時間も手間もかかります。しかし指定工場になれば、車検証の交付のみでOKとなり、持ち込みが不要になります。いまのところ関東トラックは認証工場ですが、近々、設備投資をして指定工場を目指す予定です。そうすれば浮いた時間で他の仕事もできます。
――グループでの資産の共有化もシナジー効果として表れていますね。
高奥 以前は業務間のやりとりを紙ベースで行っていたようですが、承継後はデータを一元管理する方向で進めてきました。適用できる場面では、グループのインフラをどんどん使っています。
本社の車輌整備部門では、これまで車両の整備管理システムを運用してきたのですが、経理まで含めた業務全体をカバーできるシステムを構築中です。完成すれば、グループの整備会社・部門をひとつのチームとして全国一元管理ができるようになります。
現場での説得力を生んだ、確かな技術力の伝授
――PMI(統合プロセス)のなかで特に意識したことは?
高奥 M&Aという言葉自体で、社員が緊張して萎縮しまうことがあります。それをどうやって解いていくか? そのために、私と一緒に働いてきたグループ本社の者(整備工場での経験あり)を現場に入れました。改善点を指摘しながら、ともに汗を流しました。横にいる人が「こうすればよくなる」と実技指導するので、社員が自然とこちらを向くようになってきました。私一人だけだとそんなにうまくはいかなかったでしょうね。グループとの関係がよく機能したと思います。社員からはグループの将来性と組織力を学ぶことでモチベーションにつながるという声も聞いています。
――技術者同士の接点はやはり技術力なんですね。
高奥 M&Aにおいて現場サイドを統合するためには、技術向上の実際を見せることが大事です。現場で指揮をした統括部長は整備だけでなく販売の経験もあり、私の言いたいことを以心伝心で実行してくれています。
社員にモチベーションを与えた、第2工場の新設計画
――経営者としての心構えを教えてください。
高奥 「社員に夢を持たせる」。社員が喜んで笑顔で進んでもらえる会社づくりを心がけています。経営において変わることのない私の信念です。現状を維持し続けるのではなく、借金をしながらでも次のステップへと進めていきたい。
その夢のひとつが、新しい工場を建てることです。トラックボディの整備業務のための第2工場です。現状では外部に委託しているため、時間とコストがかかっています。私は以前トラックボディ会社に在籍していたので、経験があり、面白い展開ができると思います。
社員には「会社の規模も2倍になるよ」とイメージを添えて伝えています。冷凍関連の業務へと幅を広げたことで、会社が大きくなることの喜びをすでに社員は実感したはずです。具体的な構想を語り刺激を与えることで、モチベーションを上げていきたいですね。
――社内の雰囲気を盛り上げるために、日常のコミュニケーションだけでなく特別な催しもされているとか。
高奥 休憩室で一緒に馬鹿話もしたりしています(笑)。バーベキューも何度かやりました。社員の家族や取引先の業者さんにも参加してもらいました。やはりM&Aとなると家族や関係者も不安な部分があったと思うんです。そんな気持ちを払拭してもらうためにも、現場を見せたかったんです。
安心を生む「M&A経営」で得た経験値
――フジグループ様は以前から「M&A経営」を行ってきました。
高奥 M&Aサクシード経由の今回の株式譲渡では、契約も統合も問題なくスムーズに進めることができました。これまでM&Aで学んだことが役に立ったと思います。譲り受ける際に、譲り受ける私側は譲渡企業のオーナーさんにどう説明するか、オーナーさん側には在籍する社員にどう説明してもらえるか。それが重要です。「もし情報が足りなければ、私も説明に加わりますよ」と伝えますが、関係が構築されていない段階でのコミュニケーションは案外難しいものです。例えば雇用や給与などは社員が非常に気にするところです。そういうデリケートな部分は、オーナーさんとしっかり話を詰めておくことが重要です。
――グループではDXを推進していますね。
高奥 全員にiPadやスマホを支給しているので、誰かがうまいやり方を見つけたら、全国にいるグループの整備士100名超にすぐに情報を共有できるようになっています。コミュニケーションツールを使って、現場の動画を送ったり、コメント入れもできます。上司に報告することが目的ではありません。誰でもが自由に閲覧できます。専門技術者同士のキャッチボールも活発ですが、そのやり方を他の整備工場の社員も真似しながら広がっています。リアルな交流では、工場長が本社に集まり意見交換会もしています。そうやって「みんなで上を目指していこうよ!」という気運が高まっていくのだと思います。
――社員の方々は全員残られているのですか?
高奥 少し年配の方が一人辞められましたが、新しく、整備経験がある人が1人入ったため、人数は同じになりました。来年も専門学校からの新卒採用で1名が加わる予定です。さらに整備士を増やしたく、関東や東北の専門学校を回って、採用活動を強化しています。
M&Aで物流業界の「2024年問題」を乗り越える
――物流業界が直面する「2024年問題」にどう対応されますか?
高奥 人材集めが大変になることは間違いありません。業界に興味を持ってくれても、工場の現場を見て辞退されてしまうということもあります。見た目も大事だと痛感しています。私自身もM&Aの交渉の際に工場の清潔具合をチェックするのですが、汚い場合はやはり気乗りしません。先頃M&Aで成約した工場は、床の塗装や事務所の清掃そして改築まで行い、労働環境を整えました。採用のためにもきれいな職場を作っていかなければなりません。
――フジグループ様の車輌整備部門として、今後のM&Aの方向性を教えてください。
高奥 全国各地に拠点を増やしており、グループの車輌は増加していますので、すぐにでも対応できる整備工場を全国ネットで内製化する必要があります。その目的に向かって4〜5名体制の工場を補完していきたい。整備拠点の拡大のためにM&Aを積極的に行っていくつもりです。