事業承継・M&Aプラットフォーム M&Aサクシード

JPX 東証上場

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近づく「2025年問題」。手遅れになる前に、M&Aで困難な状況を打開した中小製造企業

  • 譲渡
    株式会社太田工業所
    事業概要:金属加工・鉄道車輌、建設機械のパイプ部品等製造
    本社所在地:愛知県
    従業員数:17名
    売上高:2億2,000万円
    譲渡理由:後継者不在
    株式譲渡
    譲り受け
    三陽工業株式会社
    事業概要:自動車・二輪車部品製造、一般人材派遣
    本社所在地:兵庫県
    従業員数:約1,400名
    売上高:66億6,000万円
    譲り受け理由:事業拡大のため
  • 愛知県
  • 兵庫県
  • 製造業
  • 人材派遣

日本の高度成長を支えた中小製造業。一線で活躍した経営者の高齢化や職人のリタイア、後継ぎの不在などにより、資本金規模が小さい企業はその数を減らしています。団塊世代800万人全員が75歳以上になる「2025年問題」を前に、手遅れにならないような対応が経営者にはのぞまれています。愛知県豊明市で鉄道車両部品製造を行う株式会社太田工業所は後継者不在で、難しい経営状況に陥りました。それを解決したのが、「ニッポンのものづくりにわたしたちの力を」をスローガンに掲げる三陽工業株式会社との、M&Aサクシードでの出会いでした。三陽工業は「ものづくり×派遣」というビジネスモデルで、ここ10年で売上げや社員数が10倍を超えるという成長企業。これまでのM&Aでは、グループ入りした会社を経営と人材の両面で強くしてきました。今回の譲り受けでも太田工業所の社員と経営者の雇用を維持、さらに今後は三陽工業から人材も投入する予定といいます。譲渡企業の期待を超えたM&A。その成功までのストーリーを株式会社太田工業所 取締役(前代表取締役)竹中 克明 氏と三陽工業株式会社 代表取締役 井上 直之 氏にうかがいました。(2022年9月掲載)

M&Aで職人技を継承し強くする

――太田工業所様はニッチ領域で高い技術力が評価されてきました。

太田工業所 竹中 ステンレスや鉄のベンディング(曲げ)加工を中心に行っています。一般で目につくものとして、電車の手すりなど丸いパイプを使った製品があります。社員数は17名、昨年の売上げは約2億2,000万円です。愛知県豊明市で1953年に創業し、私は3代目のオーナーでした。

――鉄道車両メーカーなどの大手企業との直接取引が多いことが、ビジネスの強みになっています。

大手の車両メーカー様と安定した取引を続けてきました。パイプに特化していることや参入障壁の高い業界であるため、ライバルが少ないという特徴があります。独自のノウハウや職人の技術力で差別化してきました。

――三陽工業様はここ10年で売上げや社員数が10倍を超えました。「ものづくり×派遣」というビジネスモデルで飛躍的に成長しています。

三陽工業 井上
 研磨を主軸とした製造業と正社員の製造派遣事業で規模を拡大してきました。現在の社員数は1,400名、売上げは66億6,000万円、27の製造派遣のための営業拠点と10カ所の製造拠点を持つに至りました。成長の主な要因は「やったことがないことをやってみよう」という企業精神にあると考えています。それを愚直なまでに続けてきました。

弊社のビジョンは「日本の製造現場を元気にする」。何よりも働く仲間の人生が豊かになることを重視しており、派遣形態で働く仲間全ても正社員採用です。

――成長のひとつの要因が「M&A経営」ですね。

井上
 日本経済が抱える事業承継者不足と人材不足を解決すべく、「M&A経営」に力を入れてきました。今回の譲り受けもその視点から臨みました。豊田市には三陽工業の営業拠点があります。太田工業所のある豊明市と近く、会社を譲り受けるだけでなく、モチベーションの高い社員を送り込み、技能承継問題も克服します。製造業を強くすることと人材派遣の相乗効果が見込めるのです。

中小経営者ひとりの頑張りではどうにもならない時代、選んだのがM&A

――譲渡しようと考えた背景やなぜこのタイミングだったのかを教えてください。

竹中 親族内承継を考えていたのですが、後継者候補が体調を崩し、すぐに復帰することが難しい状況になってしまいました。そこにきて社員の退職も続き、60歳を目前に、事業をどうやって続けていくかを悩んでいました。その解決策としてM&Aで第三者承継(全株式譲渡)を検討することにしたのです。

――社員の退職が続いたのはなぜですか?

竹中
 腕のある職人ほど引き抜きや転職の話がひっきりなしにあります。現場をまとめていた後継候補の不在期間に、立て続けに複数名が大手の引き抜きにあってしまったんです。

経験を継承しようにも、職人になりたい人を集めるのは難しい。せっかく育てた若手が2、3年で転職してしまうこともありました。社員に会社に残ってもらうにはどうしたらいいのか? コミュニケーションもよくわからないし、どこに頼ればいいのか情報もありません。いろいろと悩むうちに浮かんだのが、社員教育や人材獲得にノウハウのある規模の大きな企業と一緒になるという選択でした。

――中小企業の持つ問題点を全身で受け止められていたような状態だったのですね。

竹中
 今までは「自分一人で何もかもやって」という形でもしのげました。ひらめきに頼っているところも大きかった。しかし、DXなど時代の動きについていけなくなっていました。「良いものをつくる」だけでは立ち行かない状況を迎えていたのです。

――70年余の歴史のある会社です。会社を譲渡する決断は容易ではなかったと思います。

竹中
 もし廃業したらお客様に大変な迷惑をかけてしまう。うちにしかできない独自の製造ノウハウがたくさんあるからです。そして一緒に頑張ってくれている社員の雇用を守らなければならない。そのふたつを考えると、どんなことがあっても廃業するわけにはいかない。悩み抜いて出した答えがM&Aでした。

譲り受けの決め手は社長の人柄。会社には経営者のエッセンスが入っている

――井上様はM&Aサクシードに太田工業所様の情報が掲載されてすぐに連絡されました。

井上 太田工業所が抱えていた課題のひとつに研磨能力のさらなる向上がありました。それは私たちの創業以来の得意分野です。所在地がうちの営業所から近いという立地条件も整っています。「ものづくり×派遣」という三陽工業の強みを存分に活かせる。期待感を持って太田工業所に向かいました。

しかしグループ入りしていただく一番の決め手は竹中さんの人柄でした。初めてお会いした時に、竹中さんの事業に対する真剣さや事業継続への想いが伝わってきました。そういう経営者がやってきた会社には、そのエッセンスが入っています。「ぜひご一緒させていただきたい」と即答しました。

――三陽工業様から交渉リクエストが来たとき、どんな感情を抱かれましたか?

竹中
 三陽工業のホームページをすぐにチェックしました。製造業に特化した派遣事業を行っていることと、従業員の定着率が90%超と驚異的に高いことに目が止まりました。しかもバフ研磨(ステンレスなどの表面を仕上げるために行う研磨方法の一種)もやられている。「まさに私の悩みを解決してくれる会社だ!」と膝を打つ想いでした。

井上 M&Aの話が進行しているなかで、竹中さんに明石の本社工場を見ていただきました。M&Aの経過を伝えるわけにはいかないので、社員は誰も竹中さんと弊社の関係性を知りません。つまり社員の日常をお見せしたわけです。そのいつも通りをすごく褒めていただきました。どこに出しても恥ずかしくない社員と自負していますが、そこを感じていただけて本当にうれしかったです。

竹中 若者から年配の方まで皆が力を合わせてやっていらっしゃる。大変な仕事なのにもかかわらず、楽しそうで一生懸命。同業だからわかるのですが、「すごい!」と驚きました。

外注だった案件もグループ内で対応。すぐに現れたメリット

――三陽工業様へのグループ入りを、社員はどう受け止めたのでしょうか?

竹中 誰にも伝えていなかったので、皆驚いていました。でも三陽工業から来られた木下新社長と井上社長の人柄に触れ、すぐに社員にも安心感が広がりました。かつてなく前向きな雰囲気に溢れています。私も取締役として引き続きものづくりの現場に立ちます。会社存続の悩みから解放され、社員とともに力を合わせていくつもりです。

――早速、グループとしてのメリットが出ているそうですね。

井上
 三陽工業のお客様が太田工業所にご訪問されるなど、今後の取引に繋がる可能性も見えてきています。一方、太田工業所でも、外注案件をグループ会社に回しています。これまでであれば、「うちはちょっとできないなぁ」という仕事もこなせるようになりました。

竹中 うち1社で仕事を受けた場合、弊社が得意なベンディング(曲げ)加工以外の工程を外部に頼んでそれをまた違う外部に持っていって溶接して、研磨して・・・と、納期もコストもかさんでしまうところ、グループ内で解決できる。すごくありがたいですね。

ニッポンのものづくりにわたしたちの力を

――「日本の製造現場を元気にする」ために必要な視点は何でしょうか。

井上
 この先、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」が待ち受けています。人材不足がより深刻になる。日本の製造業を活性化するためには、働く一人ひとりの幸せを追求することしかありません。そのためにM&Aはもっと求められるはずです。

竹中 「社会貢献」が製造業である太田工業所のスタート地点なんだと思います。電車という社会インフラに関わっていることに、社員も私もすごくやりがいを感じています。うちで作った手すりが付いている車両に社員と一緒に乗ると、そのまわりに集まってきて、あれこれ言いはじめるんです。皆、本当にものづくりが好きなんです。電車好きも多いです。

――譲渡を検討している中小企業経営者様に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

竹中 世の中にいろいろな情報が飛び交いすぎて、何をどうすればいいかわからなくなっている経営者もいらっしゃるでしょう。一方で自分一人の力でやろうとしても無理がある。人材を育てるにも、小さい会社にはその余力がありません。M&Aでグループ入りするメリットのひとつは「優秀なリーダーや職人がそこにいる」ということです。

井上 戦争やコロナ、追い風があったり向かい風があったり――。日本経済は今、乱気流の中にあります。そんな世の中で勝ち残るには、やったことがないことをやってみることです。過去を偏重すると決断は鈍くなります。未来に重きを置いてみませんか。「日本の製造現場を元気にする」を掲げて以降、私たちはその新たなビジョンに一つひとつの行動や思考を紐づけています。「製造業×派遣」という掛け算によって、乱気流の日本を乗り切る。私たちと想いやビジョンを共有できる仲間をこれからも探していきます。

参考情報:三陽工業様がM&Aサクシードで公募した記事はこちらです。公募とは、譲り受け企業様の社名や事業への想いを確認した上で、譲渡を募集するプロジェクトです。公募記事では、三陽工業様の事業概要の詳細が紹介されています(公募期間:2021年6月~9月)